ジョジョドラ   作:夏のレモン

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21話 今後について

 

小林宅のキッチンに、メイドが一人。

 

心地よいリズムで包丁が食材を刻み、分厚い肉に火が通り、肉汁が溢れ出ている。

 

「〜〜♪」

 

トールは上機嫌だった。

 

とても、上機嫌だった。

 

「………?」

 

そんな様子を見て、テレビを観ていたイルルが不思議そうに首を傾げる。

 

「なんだ?今日はやけに機嫌がいいな?」

 

「小林、今日帰ってくるの早い。さっき連絡来た」

 

イルルの疑問に、リビングで宿題をしていたカンナが顔を上げずに答える。

 

「トール様、嬉し過ぎて封印された一品を作ってる」

 

「封印……?ああ、尻尾か」

 

これまで何度も挑戦してきた、ドラゴンの尻尾焼き。

 

皿に出される度に小林は拒絶してきたが、今度こそ食べてもらえるかもしれない。

 

そんな事を思いながら、トールは嬉々として己が尻尾を切り落としたのだった。

 

「今日のは一味違いますよ。改良に改良を重ね、私の尻尾はあらゆる疲れを吹き飛ばすのです!!」

 

キッチンからひょっこりと顔を出して自信満々な様子を見せるトール。

 

「いいなぁ、それ。小林喜ぶんじゃないか?」

 

「喜ばない」

 

「なんで?」

 

「きっと道徳的に嫌がる。授業で習った」

 

「んん? ドウトクってなんだ?」

 

「道徳は学校の授業の一つ。物語を読んでみんなで感想を言い合う」

 

「それとトールの尻尾焼きに何の関係があるんだ?」

 

「……たぶん良くない、かも?」

 

「なんでだ……?よく分からないぞ」

 

「………道徳ってなんだろ?」

 

二人揃って首を傾げた、その時だった。

 

ガチャッ。

 

玄関の鍵が開く音。

 

「あ、帰ってきた」

 

カンナが玄関の方を見る。トールは料理の手を止めてキッチンを出る。

 

「おかえりなさ〜いっ♡ 小林さ〜んっ♡」

 

るんるん、と玄関へ駆けていくトール。

 

扉が開く。

 

「おかえりなさいっ! トールにします? お風呂でトールにします? 夕飯はトールにします? そ・れ・と・も……トールですかぁ?♡」

 

トールは身体をくねらせながら満面の笑みを浮かべる。

 

しかし、その笑顔の先にいたのは──

 

エルマだった。

 

「………」

 

「………」

 

次の瞬間、トールから笑顔が消えた。

 

「キサマァッ!!今日トイウ今日ハ滅ボシテクレルゾッ!!」

 

炎を纏い、鬼の形相で鋭い爪を剥き出しにするトール。

 

「な、なにぃ!? とうとう本性を表したなトールッ!!いいだろう!! 勝負だっ!!」

 

対するエルマも、負けじと愛用武器である矛を構えた。

 

「やめなさい」

 

そして、後から入ってきた小林が二人の間に割って入ると、途端に諍いは収まる。いつもの流れであった。

 

しかし、爪は収めても不満は収まらないトールは、本気で嫌そうに小林に耳打ちする。

 

「小林さぁん……なんでエルマなんか連れて来たんですかぁ?」

 

「なんかって何だ!」

 

当たり前のように聞こえていたエルマが頬を膨らませる。

 

「すみません……夜分に押しかけてしまって」

 

小林の後ろから、申し訳なさそうに東条が顔を出した。

 

「東条さん……?」

 

東条の姿を見て、なんとなく把握したトールは諦めたようにため息を吐いた。

 

「もう、小林さん。お客さんを招くのなら事前に言ってくださいよ」

 

そう言いながら、膝を付いてさっと東条へスリッパを差し出すトール。

 

「どうぞ、東条さん。せっかくですし、夕飯などいかがですか?」

 

「あ、いえ、お構いなく。用件を済ませたらすぐ帰るので……」

 

そんな自然なやり取りをしてる二人について行けず、エルマだけが取り残される。

 

「お、おい! 私と対応が違いすぎやしないか!?」

 

「さ、上がってください」

 

「無視かぁぁ!!」

 

不満を訴えるエルマを無視して、トールはリビングへ戻る。

 

「お、なんだなんだぁ。今日は大勢いるな?」

 

「エルマ様、ジョースケ。こんばんは」

 

「お二人とも、こんばんは」

 

リビングで過ごしていたイルルとカンナが反応する。

 

「どうしたんだ?なんかあったのか?それとも遊びに来たのかぁ?」

 

「!! ジョースケ、ゲームやる?」

 

遊びという言葉に反応したカンナは、すぐさまゲーム機を起動させる。

 

「ダメですよ、カンナ。もうすぐ夕飯です」

 

ピシリと注意しつつ、トールはキッチンへと戻っていく

 

——その直後だ。

 

「あああああ!?!?」

 

キッチンから、大きな声が響いた。

 

「え?!トールが悲鳴上げたのか!?」

 

「うそっ」

 

「トール!?どうしたの!?」

 

とんでもない出来事に、全員が慌ててキッチンへ入った。

 

すると、

 

『ガチュガチュガチュガチュッ!!』

 

白いネズミ、アルジャーノンがステーキへ顔を突っ込み、信じられない速度で肉を食い散らかしていた。

 

「やめなさい下等生物!!それは小林さんのために焼いた尻尾です!!」

 

「トール?」

 

また焼いたのかと非難する小林の視線に気付かず、トールは声を荒げる。

 

「このネズミっ!!ギタギタにしてエルマの晩ごはんにしてやりますよっ!!」

 

「え!?私のために作ってくれるのか!?」

 

ちょっと嬉しそうにするエルマを完全に無視して、トールは目にも止まらない速さで飛びかかった。

 

バチン、とアルジャーノンを潰すように叩かれる手。

 

しかし、トールが手を開くと、そこにネズミの姿はなく、代わりに紙がそこにあった。

 

【不味い】

 

「……」

 

呆然と手元を見ていたトール。そして——

 

グシャアッ!!

 

万力で紙が潰された。

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!!!!!」

 

「お、落ち着けトール!?ここでドラゴンになるのは不味い!!不味いぞッ!!」

 

「退避っ!退避ーッ!!」

 

 

「で、どういうことなのか説明はあるんですよね?」

 

「はい……本当に申し訳ありません」

 

「なぜ私まで……」

 

正座する東条とエルマの前には、冷静になったトールが同じく正座で対面している。

 

周囲では小林達がことの成り行きを見守っていた。

 

「東条さん」

 

「……はい」

 

トールに促された東条は、手のひらをトールに向ける。

 

「「「「「?」」」」」

 

それを見ていた周囲が不思議に思っていたその時、東条の手のひらの上に白いネズミが()()()()()()()()()

 

「え、あれ、んん??」

 

「な、何これ……」

 

「認識阻害……いや、違う……」

 

「最初からそこにいた——のに忘れてた?」

 

全員が困惑から立ち直ったところで、東条は改めて紹介する。

 

「こいつはアルジャーノンと言います。記憶を失う前の僕を知ってる、スタンド使いです」

 

東条の言葉に、信じられないと言わんばかりにアルジャーノンに視線が集まる。

 

もしそれが本当であるならば、これまで謎だった東条の過去が分かるかも知れない。

 

だが、それに対し、アルジャーノンは興味なさそうに欠伸をし、更には丸くなって寝ようとしていた。

 

「………ほんとに?」

 

カンナは思わず口に出してしまう。

無理もない。たった今、不思議な現象に出くわしたばかりだというのに、目の前にいるのがあまりに普通のネズミ過ぎた。

 

「まあ、スタンド使いではあるんでしょうけど、所詮はネズミです。大した知能もないでしょうし、期待は出来ませんね」

 

バカにしたように告げるトール。すると、アルジャーノンは顔を上げ、東条の手のひらから消えた。

 

「——イッタァァアアア!?!?」

 

飛び上がるトール。メイド服からはみ出ている尻尾の先にアルジャーノンが齧り付いていた。

 

「この下等生物——イタタタタッ!!!」

 

「ああっ、ダメですトールさん!!下手にプライドを刺激すると噛み付いてきますよ!?」

 

「早く言ってあげて」

 

それから、東条がアルジャーノンを、小林がトールを宥める。

 

「ふーっ!!ふーっ!!」

 

「チュウッ!!」

 

睨みあう両者。小林と東条はそれぞれ相手を撫でて落ち着かせる。

 

「どーどー、落ち着いてトール」

 

「なんでそう気が荒いんだ、アル」

 

ようやく話が出来る程度には両者が冷静になったところで、東条は一つ息を吐き、ゆっくりと顔を上げた。

 

「……では、話します」

 

東条は、自分に起きた出来事を順を追って話し始めた。

 

数日前からアルジャーノンが接触してきたこと。

 

会社で謎の女――金切レイコに襲われたこと。

 

スタンド能力によって、死ぬ寸前まで追い詰められたこと。

 

そして、アルジャーノンの能力によって窮地を脱したこと。

 

最後に、自分がこの街へ来た理由。

 

「僕は……ディオという男と、『黄金の矢』を探していた、そうです」

 

話を聞き終えた全員は沈黙し、考え込んだ。

 

「ディオ……ですか」

 

トールが呟く。

 

「変わった名前ですね。少なくとも、商店街にはいないでしょう。会ったこともありません」

 

「黄金の矢っていうのも気になるな」

 

イルルが首を傾げる。

 

「スタンド能力を目覚めさせる矢なんて、そんな都合のいい道具があるのか?」

 

「ある、そうですよ。少なくとも、アルジャーノンはそれでスタンド能力に目覚めたそうです」

 

東条は掌のネズミを見る。

 

「そうだ。仗助君を襲った敵――金切レイコ」

 

小林が口を開く。

 

「何か知ってた?」

 

「いえ、なにも。本人も誰かに命令されて動いていただけみたいでした」

 

「そう言えばそいつ、結局どうしたんだ?危ない奴なら私が処理しようか?」

 

イルルの言葉に東条は首を振る。

 

「いえ、もう悪さは出来ないと思います。それにしばらく動けないでしょう。身も心も重傷なので」

 

なんとも言えない表情でアルジャーノンを見つめる東条。対して、アルジャーノンは不遜に鼻を鳴らして見せた。

 

「直接トールに金切レイコの記憶を読み取ってもらうのも手だと思ったけど……時間の無駄で終わりそうだね……」

 

「チュ」

 

小林の言葉に、アルジャーノンも首を縦に振る。

 

「そういえば」

 

イルルが興味深そうにアルジャーノンを覗き込む。

 

「アルジャーノンは仗助のことどこまで知ってるんだ?」

 

東条が視線を向け、紙を差し出す。

 

アルジャーノンは迷いなく書き始めた。

 

【東条仗助】

 

【スタンド使い】

 

【ディオを追っていた】

 

【黄金の矢を探していた】

 

それだけだった。

 

「……それだけ?」

 

イルルが拍子抜けする。

 

【以上】

 

「少なっ!」

 

【仗助はあんまり自分のことを話さなかった】

 

「それで相棒を気取ってるんですか?」

 

トールがバカにするようにクスクスと笑う。アルジャーノンは今にも飛び掛かろうと身構える。

 

「やめなさい、トール」

 

「落ち着け、アル」

 

再度二人が間に入ることで喧嘩を収めた。

 

その横で、カンナは難しいそうな表情で首を捻っている。

 

「これからどうすればいい?ディオって悪い人を探してぶっ飛ばす?」

 

「ドラゴンなら気配とかで分かるけど、ディオってのはただの人だろ?探すってなると骨だぞ。黄金の矢の方が探しやすいんじゃないか?」

 

「いや、確かに矢の方が特徴はあるが、やはり探すとなると困難だ。この街は広いぞ」

 

そこで、全員が沈黙する。知ったところでどうにも出来ない状況だった。

すると、さっきまでアルジャーノンといがみあっていたトールが動く。

 

「東条さん」

 

「はい?」

 

トールは東条を振り返り、真剣な表情で告げる。

 

「記憶、取り戻しましょう」

 

「え?」

 

そう言ってトールは隣の部屋に行ったかと思えば、本やら道具やらをたくさん持って戻ってきた。

 

バンッ!!

 

テーブルに置かれた怪しいそれらを前に、一同は黙っている。

 

「いい機会です。今、私達に出来ることをやりましょう。それが一番の近道です!!」

 

そう言って、パラパラと本を捲るトール。

 

「世界中からあらゆる事例を集めておきました。片っ端から試せばきっと思い出せます。小林さん、そしてカンナ、イルル、ついでにエルマも、そしてここにはいない皆さんにも、全員に協力してもらいますよ!!」

 

「わ、私に出来ることなら……」

 

「頑張ってお手伝いする」

 

「任せろ!!」

 

「ついでは余計だ!!」

 

全員が一致団結したところで、トールは勢いよく東条を指差した。

 

「それでは皆さん!! 東条さん記憶喪失克服大作戦、開始です!!」

 

「「「「「おーーーっ!」」」」」

 

賑やかな声が部屋いっぱいに響いた。

 

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