藍染は無事、死神になれるのか?
観察再開
惣右介の生活改善を始めて早20年弱。
髪型以外はほぼ原作通りの見た目になった。
精神的にもだいぶ成長し、5番隊の隊舎内なら1人で歩けるようになったし、5番隊のみの鍛錬にだって見学、参加する積極性も見せ始めた。
5番隊以外では、それなりの交流がある隊士とは挨拶やちょっとした会話も交わせるようになった。
ほぼ初対面の相手には、相変わらず人見知りを発動して逃げてしまうが。
「…真央霊術院の入学試験目指してやって来たんやけどさぁ…入学せんでも惣右介を正式に死神にでけへん?」
「…方法が無い訳では無いが…今の惣右介には無理だ」
「…どういうこっちゃ?」
「…惣右介が既に座学を全て習得しているのは知っているさ。鬼道だって中級の大半を修得して一部詠唱破棄出来るのもな。だが、肝心の浅打を貸与していただけないんだよ。上層部に事情を説明して交渉はしているが…現時点ではかなり難しいぞ」
「う~…」
「…幾ら座学は既に満点でも、精神面に不安があり過ぎるとさ。現に素振りは兎も角、対面式の鍛錬はまだそこまで出来ないだろ?」
「う~ん…新入り相手は難しいけど、昔から居る中堅以上が相手なら結構イケとる思うで」
「他隊との共同鍛錬は?」
「…付き添い有りの見学なら出来るようなりましたわ」
「そうか…上層部からは真央霊術院に惣右介本人が1人で辿り着き、浅打の貸与願いを受付に出し、無事に浅打を受け取り、総隊長に貸与証明書を提出出来るなら考えなくもないと返答が来た。これが最大の譲歩らしい」
「え、ちょ、それは」
「今の惣右介にはまだ無理だろうな」
5番隊の中なら何処だろうと大丈夫だが、1人で隊舎外に外出となると、他の隊舎にお使いに行くのが精一杯で、それ以外の場所には必ず誰かが付き添わないと、何時、何処でパニックを起こして卒倒或いは逃亡するか解らない。
そんな惣右介が1人で真央霊術院に行くなんて、夢のまた夢も良いところだ。
「…それ以外は?」
「総隊長との二者面談をして、総隊長に見込み有りと判断していただけたら浅打の貸与を考えなくも無いだとよ」
「…他は?」
「…惣右介を死神にと推薦する死神達からの嘆願書を規定量を超えて提出だな。そっちはどうだ?」
「…ウチの隊は全員署名してくれたんやけど…他の隊がなぁ…もうちょい時間かかるやろな」
「そうか…後は他の入学志望者と同じく試験を合格して入学、卒業認定を貰うまで学院で学べ…と」
「せやからまだ1人に出来ない言うてるやんかぁ…しかも総隊長と二者面談て…何ちゅう難題を…やっぱ、嘆願書しか無いかぁ…」
「現時点ではそうなるな。俺の方でも交渉は続けるさ。で…話は変わるが、今日は午後から買い出しだったよな?悪いがこれも追加で頼むな」
「…せやから…筆と茶葉は良ぇけど、酒と煙草は経費やのうて自費や言うとるやろがい!」
「今月カツカツなんだよぉ~!」
「そんなん知るかボケェ!良ぇ機会や!暫く禁酒と禁煙せぇや!」
「真子の鬼ー!」
隊長の叫びを全無視して隊首室を出た。
「買い出し…ですか?」
「せや、月に一度の当番やからな。今日はウチと要、ギンに門山、太川とで行くで」
「…場所は何処ですか?」
「先月行ったきりやったからなぁ…地図地図っと…この店とこの店後は…此処と此処やな。覚えとるか?」
「…あぁ、確か隊長が段差に足を取られて派手に転んで商品を…それで弁償金を請求されて…」
「せや、その店にも行くで」
「…はい、解りました」
「ん、ほな行こか」
「はい」
原作の体格に近付きつつあるギン、惣右介への気遣いが上手い東仙、惣右介と交流の多い高身長の門山十席と太川十二席、そして私で買い出しを進めていった。
しかし…
「ふ~、あの店でちょい休憩しよか」
「「「はい(はっ!)」」」
「…っ」
行き着けの茶屋の奥座敷に上がり、真っ青な顔色の惣右介の背中を擦った。
「…はぁ…はぁ…はっ…っ」
「今日は4日振りのお天気やからなぁ」
「予想以上の人通りでしたね」
「…すみ…ま…せ…はっ…はっ…はぁ…」
「何のや。ゆっくり行きましょ。副隊長、これ経費で食べても構へん?」
「…ったく、ギンはちゃっかりしとるなぁ…それ1個だけやで?折角やから、みんなも頼んで良ぇで」
「おぉきに。すんまへ~ん」
「「「ありがとうございます(!)」」」
不特定多数の人が行き交う日中の通りだと、惣右介はどうしても発作を起こしてしまう。
それでも、今日はまだ1度目、それも少し経てば落ち着く軽度の過呼吸だから、やはり確実に耐性は付いて来ている。
…やっぱり焦りは禁物だわ
周囲の目が気になり過ぎる惣右介の観察眼は相当なもので、ほんのちょっとの変化にも過剰に反応するから、これまでに起きた厄介事にもいち早く気付くおかげで助かっている面も多いのだが。
だからこそ、惣右介の将来に大きく関わる事柄には、どうしても慎重にならざるを得ない。
…例え100年以上かかっても、それこそ私が引退しても諦めないけど
その後は発作を起こす事無く、無事に買い出しを終えた。
…これはご褒美を用意しないとね
物とかで吊るのは良くないとは言うけれど、惣右介が苦手克服の為に頑張った日は、必ず何かひとつお願いを聞く事にしている。
だって、人にお願いする事も、頼る事も知らなかったのだから。
「…ご褒美…ですか?…なら、平子さんの作った豆腐の田楽が食べたいです。味噌だれの」
「よっしゃ、腕振るったるで~!」
流動食にもなるからと、具材を変えて白和えを早くから食べさせた影響か、惣右介は原作通り豆腐料理が好きで、その代わりにモソモソした料理、特に固茹での茹で卵は嫌がる傾向にある。
「もぐもぐ…美味しいです。今回のは少し甘めなんですね」
「お、解るか?水飴をちょびっと増やしてみてん」
「はい、先日のも美味しかったですが、この味も好きですね」
「そりゃ良かった~。さて、ウチも…と…うん、我ながら良ぇ出来や」
最近、惣右介は食事の時だけ前髪を上げるようになり、表情が解りやすくなった。
そして何より、味覚が復活したのが嬉しい。
此処に来て数年は何を口にしても反応しなかったのだが、私や要、ギン、そして他の席官とも一緒に食事が出来るようになったある日、酢の物を食べた惣右介が首を傾げ、舌がピリピリすると訴えた。
その後の検査で、味蕾が正常化しつつある事が判明、それを皮切りに、お茶の苦味やお味噌汁の塩味…と、順調に味覚が回復した。
「…僕はやっと、味が解るようになったんですね」
そうはにかんだ惣右介の表情は忘れられない。
それから更に数ヶ月経ったある日、合同訓練中に虚が群れで出現し、取り逃がした2体が住宅街へと逃亡する事件が起きた。
うち1体は直ぐに倒したが、もう1体を完全に見失ってしまった。
「くそっ!一体何処に…!」
「駄目です!霊圧を辿れません!」
「死角を作らんと、必ず4人で行動せや!」
「「「「「了解です!」」」」」
…何で寄りにも寄って、新入りの強化訓練中に来るのよ!?
「…っ!こっちです!」
「惣右介!?」
雑用係として参加している惣右介が、何かに反応して走り出した。
…こういう時の惣右介の感覚は本当に頼りになるわ
「うわぁぁぁぁん!!」
「「っ!!」」
小さな男の子が捜索中の虚に追い掛けられているのを発見した。
「…っ!や、止めろぉぉぉ!」
「惣右介!?」
嘗ての自分と男の子を重ねたのか、惣右介は今まで聞いた事の無い大声を出して瞬歩で虚の目の前に躍り出て、破道の一、衝を連続でぶつけ続け、虚の両目を潰す事に成功した。
ーギャアアア!!
「良ぅやった惣右介!」
ザシュッ!!…サァァァァ
しっかりとトドメを刺してから男の子を保護した。
「ありがとう、しにがみのおにいちゃん、おねえちゃん!」
男の子は無事、両親の元へ帰って行った。
後日、今回の件についての報告書と共に規定量を超えた嘆願書を総隊長の元へ、そして真央霊術院へも送った。
そして1ヶ月後、惣右介の真央霊術院を卒業した証明書が贈られ、正式に浅打が授与された。
「…あ、あり…ありが…とぅ…ござ…いま…すっ」
嬉し泣きする惣右介に何人かの隊員が貰い泣きして、授与された本人よりもそっちを宥めるのが大変だった。
「よぉし!今日は無礼講だ!宴の用意するぞ!」
「「「「「はい!」」」」」
宴もたけなわといった時間帯、縁側で私は久し振りにお酒を飲んだ。
そこに梅酒のお湯割りを持った惣右介が来て、一言断りを入れて隣に座った。
お酒に良い思い出が無いからと避けていた惣右介も、此処でお酒の飲み方をみんなに教わり、自身も結構強い事が判明し、取り敢えずお湯割りを少しだけ飲めるようになった。
「…どしたん?」
「平子さんを探してました」
「ウチを?…何や?」
「…お礼が言いたくて」
「お礼?」
「えぇ…僕を助けてくれて、此処に勧誘してくれて、どんな事があっても絶対に見捨てないでくれて…そのおかげで苦痛しか無かった日々から抜け出せました。仲間と友人が出来て、僕は独りではなくなりました。明日が来るのが恐くなくなりました。全部、平子さんのおかげです。ありがとうございます」
「…あ~、何や照れくさい。此処に来てから惣右介はよう頑張った。それが実ぃ結んだだけやで。まぁ、惣右介の気持ちはしっかり受け取っとくわ」
「はい。今の僕の感謝の気持ちが伝わって良かったです」
「…ん?」
…今の?今のって何?
首を傾げる私に苦笑しながら惣右介は言葉を続けた。
「…あの日、おじさんに左手足を折られた挙げ句、捨てられて、途方に暮れていたぼくに鼈甲飴と金平糖、そして大きなおにぎりをくれて、怪我の手当てをしてくれて、足の代わりにと杖を探してくれて、ありがとうございました。おかげで今の僕がいます」
「え?…えぇ!?」
思わぬ告白に混乱する私を可笑しそうに見ながら、惣右介は更に言葉を重ねた。
「ずっと会いたかったんです。あの日、貴女の言った中途半端なお節介のおかげで、ぼくは命を失わずにすみました」
「ちょ、ま、何で!?何時!?」
「…気付いたのは、隊内で雑用を手伝うようになってからです。医務室の清掃を手伝っていた時に、沢野辺八席が負傷した葉山さんを連れて来たのを覚えていますか?」
「あ~…そりゃ、ウチが手当てしたから…あ!」
「あの時、早く治るおまじないをしましたよね?僕はちょうど手当てを受けた彼の後ろにいました。あの姿、寸分違わずあの日見た貴女と重なりました」
「…そうか…あの時の子どもが…なぁ惣右介」
「はい」
「あの時、ウチが中途半端なお節介をした子どもは助かったんかなぁ?」
「はい、間違い無く」
「…さよか…なら良ぇわ、うん。あ、せや!とっときのがあんねん、付きおうてくれるやろ?惣右介」
「…お手柔らかにお願いします」
…ずっと心残りだった
…だからあの日以降、一度差し伸べた手は絶対に放さないと決めた
…まさか、また会えるとは思ってもいなかったけど
…明日は惣右介の死神デビュー初日なんだから、しっかりしなきゃね
…忙しくなるぞ~!
藍染惣右介視点
此処に来て20年近くが経つ。
平子さんを始めとする五番隊の皆さんのおかげで、隊舎の中なら何処にでも1人で歩けるようになった。
何百年振りに浴びたお日様はとても暖かくて、平子さんや東仙さんにギン君、そして途中から隊長も参加してのお花見というのを生まれて初めて経験した。
当時は相変わらずお団子やお茶の味が解らなかったけれど、凄く暖かな時間を過ごせたと思う。
その後、食堂で食べられるようになった頃、ついに僕は味を知る事が出来た。
その日以降、違う味がする料理を色々と食べては感想を言う僕に、凄く嬉しそうな表情を浮かべる皆さんとの距離が更に縮まった気がした。
月光浴の時よりも更に時間はかかったけれど、日光浴がてらの散歩も出来るようになった。
五番隊の隊舎以外はやっぱり恐くて、誰かに付き添いをお願いしてしまう日もあるけれど。
そんなある日、僕にとってとても重要な真実が判明する事件が起きた。
沢野辺八席が班長として担当している区域での見回り中、虚と遭遇してしまい同行した新人の葉山さんが先走った結果、負傷して戻って来たのだ。
「…これに懲りたら、班長や先輩の言う事はちゃんと聞き。良ぇな?」
「…はい、すみませんでした沢野辺班長」
「まぁ、今回は初めての見回りだったからな…次からは気を付けてくれれば良い」
「はい!」
「良~し、そんじゃ早う良ぅなるおまじないや」
そう言って平子さんは彼が負傷した左足の傷口を両手で包み込み、見覚えのある光で覆った。
「…っ!?」
…あの時の光だ、間違い無い
…暖かくて、優しい光
沢野辺八席に平子さんの力について尋ねたら、彼女のみが使える治癒術だと教えて貰った。
…あの時のぼくを助けてくれたあの人は、また僕を助けてくれたんだ
…何年かかろうと、絶対に死神になってみせる
…それがきっと今の僕に出来る恩返しだから
その日からより一層、鍛錬や訓練がある度に絶対に見学を願い出て、自分でも出来る内容なら可能な限り参加もした。
買い出しにも付いて行くようになった。
相変わらず、知らない人が多い場所だと呼吸が上手く出来なくなったり、身体が勝手に震え出したりして、皆さんに心配されてしまうけれど。
頑張れば頑張る程、平子さんは勿論、皆さんも心配しつつも応援してくれた。
それが僕にとって何よりの支えで追い風でもあった。
そして、今まで見学しかして来なかった合同訓練に雑用として参加をした。
訓練終了まで後少しのところで突然、虚が群れで出現した。
今回は新人の強化訓練だった為、大半が浮き足立ち、上手く連携出来ずに2体逃してしまった。
それでも、1体は即座に倒したものの、其奴を囮にもう1体が逃げてしまった。
隊員達が右往左往している中、嬉しくないけど長年虚に付き纏われた経験からか、逃げた虚の気配を僅かに感じて、共に行動していた平子さん達に声をかけて駆け出した。
感じるままに駆けた先で逃した虚が男の子を追い掛けている光景を目の当たりにした瞬間、その男の子と嘗てのぼくが重なった。
…あんな思い、誰にもさせたくない!!
気付けば男の子と虚の間に割って入って、鬼道を撃ちまくっていた。
平子さんの斬魄刀一閃で、虚は消滅した。
「良ぉ頑張ったな惣右介…惣右介?お~い!」
「えっ…あ…あ、あれ?」
「良ぉやった、惣右介。おかげで虚を退治出来たわ。お疲れさん」
「あ、えっと…はい」
我に返った時には、男の子を保護して皆さんと合流していた。
その後、ご両親が迎えに来て、満面の笑顔で僕と平子さんにお礼を言って帰って行った。
「…良かった」
それから約1ヶ月後、僕は正式に真央霊術院を卒業した証明書と死神の証である浅打を授与された。
…これでやっと平子さんにお礼が言える
僕が正式に死神になったお祝いの宴の中、平子さんが見当たらないと東仙さんに尋ねたら、縁側に居る筈だと教えてくれて、そこに向かったら枡を片手にボーッと夜空を眺める平子さんが居た。
…ずっと、ずっと言いたかったお礼が漸く言えた
…嘗てのぼくが言いそびれた感謝の気持ちも
そして、平子さんがあの時のぼくをずっと気にしていた事を知った。
…平子さん、あの日の子どもは疾うの昔に救われていましたよ
…そして貴女がくれたこの場所で、これからも一生懸命生きて行きます
…僕と同じく貴女を慕う皆さんと一緒に
平子さんと飲み交わしたお酒は少し辛かったけど、とても美味しかった。
…明日から死神としての初仕事が待っている
…心機一転、頑張ろう
観察記録XXXXXX
漸く平子真子(♀)が嘗ての恩人だと気付いた。
そのまま自分の事を伝える事無く、死神になる為の努力を更に重ねるらしい。
観察記録XXXXXXX
念願の死神と認められた。
平子真子(♀)に自身の正体を漸く告白した。
藍染惣右介が平子真子(♀)だけに執着しない【世界線】となった。
切欠となった平子真子(♀)はあくまで命の恩人として慕い続けていくかと思われる。
明確な居場所を得た藍染の精神状態は、かなり安定している。
取り敢えずIF、これにて終幕。
オリ主1人だけに執着しない藍染を書いてみたくなったのが切欠でした。
ラストは決まっていたのですが、そこに行き着く経緯が中々…凄く悩みました。
上手く書けていたら幸いです。