仮面ライダーアルタ   作:ボルメテウスさん

118 / 118
まだ見ない未来へ

時は流れて一年が経った。

 

アパートの玄関を開けると、台所から味噌汁の匂いが漂ってきた。懐かしいような新しいような、それでいて当たり前のようになった匂い。

 

「おかえりなさい、結城くん」

 

つる子先輩がエプロン姿で振り返った。湯気の向こうに眼鏡の奥の赤紫色の瞳。髪は後ろで一つに結ばれ長い三つ編みが揺れている。

 

「ただいま戻りました」

 

俺は靴を脱ぎリビングへ入る。机の上には勉強机の代わりに並んだ二人分の資料とノートパソコン。あかつき号の調査記録。木野雅人の調査報告書。それらが日常の風景に溶け込んでいる。

 

あの日から一年。戦いが終わった後、俺たちは少しの間距離を測っていた。互いに何を感じていたのか、言葉にするには時間がかかった。だが、ある日俺は気づいた。この日常を守りたい。つる子先輩と共にいるこの時間を、これからも続けていきたい。それが俺の戦う理由だったのだと。

 

「今日はどうでした?大学」

 

「平和ですよ。授業もレポートも。アンノウンの気配もありません」

 

「よかったです。平和で何よりです」

 

つる子先輩は味噌汁を椀に注ぎながら言った。その仕草が当たり前のようになっている。一年前には想像もできなかった光景だ。

 

「結城くん、今日のお夕飯はカレーにしました。カレーの国の歴史を調べていて、本格的なスパイスを使いたくなったのです」

 

「また新しいことを調べたんですね」

 

「ええ。食文化も文化人類学の重要な分野ですもの」

 

彼女は誇らしげに言った。その姿を見て、俺は胸の奥が温かくなる。

 

戦いが終わったあの日、俺は告白した。自分がどうしたいのか、どう生きたいのか。言葉にするのは難しかった。だが、つる子先輩は待ってくれた。俺が言葉を選ぶまで。

 

「先輩と一緒にいたいです」

 

それだけだった。だがそれで十分だった。彼女は微笑んで頷いた。

 

それから一年。俺たちは一緒に暮らしている。狭いアパートの二階。家具も本棚も本で溢れている。つる子先輩は大学院へ進み、俺は大学四年生になった。来年は卒業だ。卒業後のことはまだ決めていない。だが、一つだけ決めていることがある。

 

「結城くん」

 

つる子先輩がカレーの皿を並べながら、ふと思い出したように言った。

 

「来月、国立国会図書館に行きませんか。木野雅人さんの資料を改めて確認したいのです」

 

「ああ、あの約束ですね」

 

一年前、戦いの前に交わした約束。卒業後も一緒に調査を続けるという約束。それは果たされた。つる子先輩が卒業した後も、俺たちは月に一度は図書館へ通い、資料を調べ続けている。

 

「はい。あの時の約束です」

 

つる子先輩は、少し照れたように微笑んだ。

 

「博覧強記の力、まだまだ足りませんけど。結城くんと一緒なら、どこまでも調べられそうです」

 

「俺もです。先輩がいたから、ここまで来られた」

 

俺は、自分の手を見た。人間の手。傷跡は残っている。だが、震えてはいない。

 

「結城くん」

 

「はい」

 

「あなたの力のこと、まだ答えは出ていませんよね」

 

つる子先輩の声は穏やかだった。責めるような響きではない。ただ、事実を確認するように。

 

「はい。アギトの力もアマダムの力も、まだ全部は分かっていません。でも」

 

俺は窓の外を見た。夕暮れの街。街灯が点き始め人々が家路につく姿が見える。平和な光景。

 

「いつか答えを見つけたいです。その時も、隣にいてくれますか」

 

「もちろんですわ」

 

つる子先輩は即答した。

 

「不束者ですが、最善を尽くします」

 

その言葉に、俺は少しだけ笑った。

 

「ありがとうございます」

 

カレーを一口食べる。スパイスが舌を刺激する。新しい味。だが心地よい。

 

こうした日常を守りたい。

 

戦いが終わっても、力を持っていても、それが変わらない。つる子先輩と一緒にいるこの時間を守りたい。それが俺の答えだ。

 

そしていつか、この力の答えを見つける。光と闇。アギトとクウガ。それらが何を意味するのか。俺自身が何者なのか。その答えを探し続ける。

 

「結城くん、おかわりは?」

 

「はい。お願いします」

 

つる子先輩が皿にカレーを注いでくれる。その手を見ながら、俺は思った。

 

これからも、この日常を続けていこう。答えが見つかるまで。そしてその先も。




これにて『仮面ライダーアルタ』は完結となります。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

クウガとアギト。二つの力が一人の人間に宿ったら、どのような仮面ライダーになるのか。その発想から始まった本作ですが、書き進めるうちに、結城が何のために戦い、戦いの後にどのような人生を選ぶのかも、大切な部分になっていきました。

力を使わなければ守れない。けれど、使えば自分自身が変わってしまうかもしれない。そんな迷いを抱えた結城が最後に帰り着いたのは、つる子先輩と食卓を囲む暮らしでした。

卒業後も一緒に調査を続けるという約束。そして一年後、二人分の資料が並ぶ部屋で交わす「おかえり」と「ただいま」。結城が戦いの中で守ろうとしていたものを、最後はこうした場面で描きたいと考えていました。

アギトの種も、アマダムの欠片も、すべての謎が解けたわけではありません。それでも、これから誰と生き、何を大切にしていきたいのか。結城は自分なりの答えを見つけられたと思います。残された謎を二人で調べていく時間も、これからの人生の一部なのでしょう。

連載中、読んでくださった皆様、感想やご指摘を寄せてくださった皆様に、改めて感謝いたします。設定や描写を見直す機会をいただき、物語を最後まで進める支えになりました。

結城の戦いは、ここで一区切りです。
けれど、つる子先輩との暮らしも、二人の調査も続いていきます。

『仮面ライダーアルタ』を最後まで見届けてくださり、ありがとうございました。

そして、次回作もお楽しみ二次創作!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【完結】黒いガンダムの宇宙世紀(作者:いずりょう)(原作:ガンダム)

U.C.0070、地球。▼三歳のレン・イズミは、前世で三十五年間を生きた記憶を取り戻す。自分が生まれたのは、人類が宇宙へ進出した未来――宇宙世紀。▼そして九年後には、ジオン公国と地球連邦による一年戦争が始まる。▼レンは原作はある程度知っている。▼ジオン軍のモビルスーツ コロニー落とし サイド7への襲撃▼アムロ・レイがガンダムへ乗り、ホワイトベースの戦いが始ま…


総合評価:1821/評価:7.03/完結:103話/更新日時:2026年08月17日(月) 18:00 小説情報

日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです(作者:ken4005)(原作:MARVEL)

▼クウガとアベンジャーズのクロスです。▼マーベルは完全ににわかです。▼原作を Avengers から MARVEL に変えました。▼短編から連載に変えました。▼謝罪0906▼作品を読み直した所、時系列に誤りがありました。▼黒雄が2010年4月から2014年3月までの四年間高校に在籍していたことになっています。そこで、明記はしませんが、未確認生命体関係で高校を…


総合評価:10675/評価:8.22/連載:112話/更新日時:2026年10月25日(日) 00:42 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>