僕と君の恋はダービー   作:フラペチーノ

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始まり
プロローグ


『速い、速い! 最終直線に入って、後続をぐんぐんと引き離す!』

 

 天候、晴れ。馬バ、良バ場。

 

『これが無敗三冠の実力か! 他のウマ娘に影すらも踏ませようとしません!』

 

 中山レース場。距離──2500m。

 

『ゴールッ!!! 大歓声です!!! レース場から、彼女を祝う声が聞こえてきます!』

 

 冬の透き通った蒼空の下で、ボクは一つの歴史にゲートを閉じた。

 

『ここ、有マ記念に……いえ! このウマ娘のレースの歴史に新たな伝説が刻まれることになりました!!!』

 

 ボクにとって、この有マ記念はトゥインクルシリーズ引退レース。

 そのせいもあるのか、レース場全体からボクの名前を叫ぶ声が聞こえてくる。

 そんなみんなに応えるように、ボクは天へと一本指を掲げて堂々と胸を張った。

 

『ありがとう……それしか言葉が出てきません! 夢を見せてくれてありがとうと!』

 

 ねぇ、トレーナー。ボクたち、最強になれたよね? 

 

『皆さん、トウカイテイオーに盛大な拍手を!!!』

 

 ボクは、トウカイテイオー。

 無敗クラシック三冠を取って、この有マ記念で勝利した。

 

「最強は、ボクだぁぁぁ!!!」

 

 自他共に認める、最強のウマ娘だ。

 

~~~~~~~~

「お疲れ様、テイオー」

 

 ボクたちの集大成のレースから、二つの蹄鉄を置いた後。

 その後に開催された引退レースのウイニングライブを踊って、歌って、ファンサして。

 今日持てる全部を出しきったボクを控室で出迎えてくれたのは、優しいトレーナーの笑顔と感極まって漏れ出した言葉だった。

 

「テイオー……今まで、本当にありがとうな」

 

「……何さ、別にお別れって訳じゃないんだよ。大げさだって」

 

「それでもだ。ここまで、夢を見させてくれて。叶えてくれて、ありがとうテイオー」

 

 確かに、ボクたちの夢の舞台での活躍は今日で幕を閉じた。

 でも走るのをやめるってわけではないし、今後も別のレースには出走する。

 これからもトレーナーとは一緒にいるものだと思ってたから、変に最後ってことを強調されるとボクだって寂しくなってしまう。

 そんなしんみりした空気は、ボクたちには似合わない。

 だからこそボクは視線を向けながら、トレーナーに答えが分かってることを訊ねてしまうんだ。

 

「うへへ……くるしゅうないぞ! ボクの活躍、ちゃーんと目に焼き付けてくれた?」

 

「……あぁ。一生忘れられないぞ。テイオーの輝きはな」

 

「だよね! ボクが、トレーナーの一番なんだからね!」

 

 トレーナー。

 ボクのことをずっと支えてくれた、最強で最高の相棒。

 そして──ボクの最愛の人。

 ボクとトレーナーの出会いからここまでの三年間の話を語ると、時間がいくらあっても足りない。

 それだけボクの中でトレーナーは、すっごい大切な人なんだ。

 例えるならば……そうだなぁ……。人生のパートナーと言っても、過言じゃないくらいに。

 

「……ふわぁ。……なんか、本当に今日は疲れたや」

 

 そんな百点満点の回答をしてくれたトレーナーを見て心は跳ね上がっていたけれど、身体の方はやっぱり疲れていたみたいで。

 今までのアドレナリンが切れたせいか、疲れと眠気がぎゅうっと押し付けるように襲い掛かってきた。

 ふらふらとする足をなんとか運んで近くの椅子に座ると、視界も段々と白く狭くなっていってしまう。

 あぁこれは寝ちゃうなって思った瞬間、ボクの体をそっと支えてくれる彼の姿が見えた。

 

「……ありがと」

 

「おやすみ、テイオー」

 

「……おやすみ、トレーナー」

 

 まるでお姫様みたいに大切に抱きかかえられたボクは、トレーナーに完全に体を預ける。

 ぽかぽかと暖かいこのひと時をもっと堪能する為に、ボクはトレーナーの腕の中でゆっくりと眠りにつくのであった。

 

~~~~~~~~

「いや~、ボクのトレーナーさぁ……王子様みたいでかっこよくない?」

 

「その話今日だけで三回目だよ、テイオーちゃん」

 

「あれ、そうだっけ。じゃあトレーナーがボクのことお姫様抱っこで運んだ後に、膝枕してくれたのは」

 

「それは五回目くらいかな」

 

 有マ記念が終わってから、少しだけ月日が過ぎた。

 特に大きな出来事も無くゆるっとごーな生活をしていたボクは、今日もトレセン学園の栗東寮のベッドの上でゴロゴロしていた。

 そんな中で一緒に会話してくれていたのは、同室のウマ娘であるマヤノトップガン。

 彼女もボクに劣らずの凄い天才肌のウマ娘で、G1レースを何回も制覇していたりする。

 初対面の時からすぐに打ち解けて仲良くなったマヤノは、ボクの大切な親友の一人だ。

 ……何故か、凄い呆れたような声を出しながらベッド上で唸ってるけども。

 

「テイオーちゃんの惚気、もう聞き飽きちゃったよ~。なんか進展無いの?」

 

「うぇ~?」

 

「てか、まだ付き合って無いの?」

 

「うぇ!?」

 

 マヤノから直球的なセリフを投げつけられてしまい、思わず変に高い声が出てしまう。

 つ、付き合うって……。トレーナーとすきだっちして、うまぴょいからのうまだっちでうまうまうみゃうみゃ……。

 そ、そんなのボクにはまだ早いっていうか……。

 

「テイオーちゃんが何考えてるのかなんとなく分かっちゃうけど、恋はダービーなんだよ? ちんたらしていると、一着になれないってマヤ思うな」

 

「んぐぐ……」

 

 マヤノのいうことも一理ある。

 ボクがこうしている間にも、トレーナーが誰かにアプローチされてしまっているかもしれない。

 まぁでも! ボクのトレーナーは、ボク一筋だから大丈夫! 

 

「……なんか最近テイオーちゃんのトレーナー、色んな人と仲良くない?」

 

「そんなことないもん! いや、あるかも……」

 

 そう言われて思い返してみたのだが、該当するヒトがぽこぽこと浮かび上がってくる。

 たづなさんにライトハローさん、シュガーライツさん、ソノンエルフィーさんに……。

 あれ、もしかしてまずい? 

 

「んごごごご……」

 

「テイオーちゃんが変なダミ声出してる……」

 

 ボクのトレーナーは「大人」だ。

 良くも悪くも、しっかりとボクのトレーナーを務めてくれている。

 ボクのことを大切に思ってくれているのは間違いないんだけど、それはあくまで「親愛」であって「恋慕」ではない。

 恋はダービーなんてよく言ったものだ。

 いくらG1レースに勝利しても、トレーナーの恋の一着は勝ててないんだから。

 

「……あれっ、トレーナーからメッセージだ」

 

 ボクが溜息をついてしまっていると、ベッドの上に置いてあった携帯からぶーっとバイブ音が鳴り響く。

 画面を確認してみると、そこには丁度話題にしていたボクのトレーナーからの連絡通知。

 ロックを開いて連絡アプリを開くとそこには、今一番楽しみにしていたことについて書かれていた。

 それを見たボクは思わず尻尾をぴんと伸ばして、ベッドから跳ね起きてしまう。

 

「マヤノ、ごめん! ボク、今からちょっと出かけなきゃいけないから!」

 

「はーい、いってらっしゃーい」

 

 部屋着だったパジャマを脱ぎ捨てて、急いでいつものトレセン学園の制服に着替える。

 そしてその勢いのまま寮から飛び出すと、ボクはとある場所へと一直線に向かった。

 目指す場所は、トレーナー室。トレーナーがお仕事をしている、部室のような場所だ。

 ここではボクとトレーナーが一緒に過ごしてきたのもあって、思い入れが深いところにもなっている。

 迷うことなく通いなれた道を通過していき、ノックせずにトレーナー室の扉を一気に開けた。

 

「トレーナー、来たよ!」

 

「早かったな。まぁ、準備は出来ていたけど」

 

 こうしてボクの視界に飛び込んできたのは、テーブルの上に並べられたお菓子とジュース。

 もしレース前にこんなに食べたら、間違いなく怒られると思っちゃうくらいの量。

 だけど、今日はこれが合法的に許される日。

 なんたって、今から始まるのは。

 

「トゥインクルシリーズ、お疲れ様ー!」

 

 ボクとトレーナーだけのお疲れ様会なんだから。

 この会の開催を提案してくれたのは、ボクのトレーナー。

 二人で一緒にお菓子でも食べながらゆっくりしようという、ただそれだけの最高の会。

 みんなでワイワイやるパーティーも好きだけど……こうして二人きりでやるのもいいよね! 

 

「はちみー、おいしー! 久しぶりのはちみーが体に染みるよ……」

 

 かためこいめおおめで注文してくれたはちみーをストローで啜ると、ボクの体内に糖分が染み渡るのを感じてしまう。

 こんなのレース前に飲んだら一発アウト。マックイーンも涙目だ。

 

「今日だけは好きなだけ飲んでいいぞ。ここにある分は、な」

 

「わーい!」

 

 そんな天国のような空間で、ボクはトレーナーと一緒に今までの思い出を語り合っていた。

 最初の出会いから、クラシック三冠レースを制するまで。そして激闘のシニア級のレースを走り、有マ記念を終えて。

 ボクとトレーナーの会話は、とどまることを知らない。好きなだけ話して、飲み食いして……。

 気づくとテーブルの上にはお菓子の残骸が転がり、太陽も沈んでいってしまっていた。

 

「えっ、もうこんな時間?」

 

「そろそろ寮の門限か。今日は、ここまでかな」

 

 時計を見たトレーナーはそう言うと、パーティーの片づけを始めてしまう。

 ボクはそれを見つめながら、尻尾をへにゃりと垂らしてしまっていた。

 足りない。足りているはずなのに、なんだか変な空きがある気がして。

 

「ねぇ、トレーナー……」

 

 本当はワガママになって、トレーナーとずっと一緒にいたい。

 だけどそれを叶えるには、超えるのが難しい壁というものが存在しているのも確かで。

 本当は素直になって、トレーナーに迷惑をかけることがないようにしたい。

 だけどそれを想うには、ボクがトレーナーへ向ける矢印が大きすぎるのも確かで。

 

「どうした、テイオー?」

 

 心が二つある。

 攻めるべきなのか、守りに入るべきなのか。

 きっとどっちを選んでも、トレーナーの「一着」はボクなのだろう。

 だけどそれは、きっと「恋のダービー」の「一着」では無い気がする。

 ボクが何も言えずに固まってしまっていると、トレーナーが優しくふっと微笑んでくれる。

 そしてポケットからとあるチケットのようなものを取り出すと、ボクに手渡してきた。

 

「映画のチケット……?」

 

「違うよ。見てみな」

 

 しっかりと厚紙で作られたような手触りがするそれに書かれた文字を、ボクは確認する気持ちも込めてゆっくりと読み上げる。

 

「トレーナーを、一日好きにしていいチケット……。 えっ!?」

 

「書いてある通りだよ」

 

 理解が一瞬及ばなかった。それくらい、甘美な文言。

 好きにしていいって、本当になんでもしていいの!? 

 

「テイオーにプレゼント渡したかったんだけどな……。何が欲しいのか、分からなくてこういうのにしてみた。買い物になら付き合って、そこでテイオーの好きなもの買えるしな」

 

 そっか。

 トレーナーからすると、ボクがこのチケットを使ったのを見て好きなプレゼントを買ってあげたいと思っているのか。

 それなら「ショッピングに付き合うチケット」とかでいいのに、変な所でトレーナーは抜けている。

 だけどこのチケットはトレーナーが思っている以上に、劇薬でしかない。

 ボクはこれをどう使うのが、一番いいのだろうか。

 尻尾を揺らし、耳を伸ばして、頭を悩ましながらボクは……一つの答えを出した。

 

「ねぇ、トレーナー」

 

 この選択で、ボクはずっと後悔することになるのかもしれない。

 この選択で、ボクはずっと期待することになるのかもしれない。

 

「ボクは、このチケットを──」

 

 提示した「レース」への出走券は、ボクをきっと未来に連れて行ってくれる。




テイオーがチケットを直ぐに使う → https://syosetu.org/novel/400801/2.html
子供テイオー1章へ

テイオーがチケットを大事に取っておく → https://syosetu.org/novel/400801/3.html
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