これは名もなき神々の女王の眠りを守る廃墟のオートマタ、その一人の語られる事のないお話。




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 どうも、脱力戦士セシタマンです。この作品に興味をお持ち頂きありがとうございます。この作品を読むうえで一つ謝らなければならない事があります。

 基本的にブルーアーカイブのキャラは殆ど出てきません。最後の方にアリスが出るだけです。期待した方は申し訳ありません。

 その点にだけご留意して、この作品をお読みください。




語られる事の無い英雄譚

 

 

「………………」

 

「再生産を開始します」

 

 

 またか……俺はまたぶっ壊れたらしい。

 

 俺はしがないオートマタ……と言うにしては変わり者だが、俺達オートマタは命懸けで『お嬢様』の眠りを守らなければ行けない。その為に作られたのだ。

 お嬢様が誰なのか…………それを俺はもう忘れてしまった。俺達はそれ程この場所を守る為に戦い、記憶が摩耗していた。

 

 

「はぁ……復活だ」

 

 

 目が覚めるといつも通り工場にいた。この工場は言わば俺のリスポーン地点。ここが壊されてしまえば俺は本当に死んでしまう。

 何回か戦うのが面倒になって『壊れてくれねぇかなー』とか思った事があったが、そんなことは起こらなかった。起こらない方がいいのだがな。

 

 

「装備は……回収されてるな」

 

 

 俺が起こされた場所の直ぐ側にあった机の上に、使い慣れた小銃があった。今の時代の者から見れば架空の銃にも見えるそれは、俺達オートマタに取って命綱であり、敵を殺す刃でもある物だ。

 

 

「先輩、大丈夫ですか?」

 

「あぁ、()()大丈夫だ」

 

 

 俺に喋りかけたのは俺の直属の後輩だ。俺のような『名前持ち』ではなく識別番号のみで呼ばれ、俺は『D1』と呼んでいる。

 

 

「因みに今日は何日だ?」

 

「1月12日っすけど……こっ酷くやられたんすね…………」

 

「バックアップは小まめに取らないと困るぞ……今の俺見たくいつメモリごと破壊されるか分からないからな」

 

 

 俺達オートマタはメモリが破壊されなければ再生産された身体にデータを突っ込むが、メモリが破壊されると工場に取ってあるバックアップを使って人格を復元する。そのため、俺が何で死んだかは分からなかった。

 

 

「D1、今日の分のバックアップは取ったか?」

 

「あーっ!取ってない!取ってくるっす!」

 

「俺は…………そうだ、自販機を見てくる。基地で合流だ」

 

「分かったっす!」

 

 

 俺は工場を出てとある場所へ一人で向かった。やはり外はいつも通り閑散としており、たまに仲間を見かけるに留まる。最早廃墟と呼ばれるに相応しい程に荒廃したこの場所は、人影などあるはずもなかった。

 

 

「お菓子はいかがでしょうかーっ!!!!」

 

「…………近くでもうるさく叫ぶのはなんとかしてくれ……」

 

「スキャニング!スキャニング!……おやおや、偉大なるパティシエ・タツロウ様でしたか!」

 

 

 俺はよく響く音声を放つ自販機に近づく。俺は作った菓子をこうやって自販機に突っ込んで誰か食べに来てくれる事を期待している。

 俺は料理が得意だ。お菓子を作るのは特にな。オートマタには味覚を感じる部分があり、それで味は確認している。

 

 

「…………売れ行きは……聞くまでもないか」

 

「残念ながら私の呼びかけにお答えする方はイラッシャリませんね〜……ですが!必ずや偉大なるパティシエ・タツロウ様の素晴らしい菓子を売って見せましょう!!!!」

 

 

 自販機はそう回答する。随分騒がしいやつだが、客寄せには丁度いい。このAIは俺が組んだもので、使われていなかった自販機を改造しただけの物だ。

 

 

ピッピッピッピッ……………

 

 

 俺は掠れゆくメモリから暗証番号を引っ張り出し、マニピュレータで打ち込んでロックが解除する。自販機の中を開くと、やはりまだお菓子が残っていた。

 

 

「…………やっぱ売れないか」

 

 

 やはり人が誰も寄り付かない廃墟に、自販機をわざわざ利用しになど来ないだろう。こればかりは仕方ない。俺は入っていたクッキーやマカロンなんかを取り出し、新しい物と取り替える。

 

 

「俺がいなくとも、俺の菓子で人を笑顔にしてくれ。頼むぞ」

 

「えぇ!!!!お任せ下さい!!!!」

 

 

 俺はそう言って自販機を閉め、その場を去った。俺の菓子は他のオートマタたちに渡す。味覚があるのだから、それぐらいの楽しみがあったっていいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は基地に行き、残留していたオートマタ菓子を配り終えた所でD1が駆け寄って来た。

 

 

「先輩!やっぱりここに来たんすね!」

 

「あぁ」

 

「質問があるっす!」

 

「……なんだ?」

 

「先輩!人ってどんな感じなんすか?」

 

「どんな感じ……とは?」

 

「先輩って人としての頃の事を覚えているって聞いたんすけど…………」

 

「あぁ、そうだ」

 

 

 俺達オートマタだが、ほぼ全てが人としての人格をいれたものだ。この任が始まってからそう言うオートマタが殆どだったが、時が経ち、様々な敵の侵攻を退ける内に多くの者が精神が摩耗して発狂してしまった。

 そうなった場合は全て忘れさせられ、復活する。D1も例外ではない。彼もまた何度も全て忘れて復活させられた個体だ。

 俺はその中の、今では片方のマニピュレータで数えられる程しかいない、人の頃の事を覚えているオートマタの一人なのだ。そして俺は人だった頃の名に因み『タツロウ』と呼ばれている。

 

 

「俺が人としての頃の事で覚えているのは……そうだな………………俺の手作りの菓子が仲間に褒められた事か」

 

 

 昔を懐かしむように俺はそう言う。かつてオートマタになる前の、平和だった頃の事。それは今とは違って充実していたと言うべきなのだろう。

 

 

「手作りの菓子の腕を褒められて、『お嬢様』に振る舞った時は喜んでいらっしゃった…………俺が人として覚えているのはそこまでだ」

 

「え!?『お嬢様』を見たことがあるんすか!?」

 

「まあな……どんな表情だったのか、何と仰っていたか思い出す事も出来ないがな」

 

 

 思い出す事は出来ないけれど喜んでくれたことがとても嬉しかった事だけは覚えていた。

 

 

「だが……また俺の菓子を振る舞えたらいいな」

 

「そうなんすね…………じゃあ先輩の夢は『お嬢様』にお菓子を振る舞うことなんすね!」

 

「そうだな」

 

 

 やはり『お嬢様』との思い出はかけがえのないものだ。それがどんな顔で、どんな事を言っていたのか思い出せなかったとしてもだ。

 それはきっと死んでいった奴らも同じなのだろう。

 

 

「…………出来れば俺は死んでいったやつの墓にも供えてやりたいが……」

 

「墓っすか?……」

 

「あぁ。もう墓は何処にもないがな」

 

 

 俺は記憶を全て消された時点で死んだと思っている。だから死んだ奴らの墓を作っていたが、基地が輪っか付きの人間に荒らされた時に全て壊され、名前が思い出せない為に墓は作り直せなかった。

 

 

「別に、死んでいった人達を態々弔う必要なんてなくないすか?僕達はその死んでいった人達の屍を越えて行くべきっすし」

 

「確かに、屍を越えて行かなければならないのはそうだ。だが…………残された者にはそれに向き合う時間が必要だ。それにそいつらが完全にいなくなったんじゃなく、天国から見てくれていると思えたほうがいいだろう?」

 

「まあ……そうっすね」

 

 

 それに死が完全な消滅であるなら余りに残酷ではないか。俺はせめて死んだ者たちには死んだ事の意味があって、それを天国から見届けていると…………そうだと信じたかった。

 

 

「さて……そろそろ行くぞ」

 

「うわー!だるいー!」

 

「ふっ……相変わらず元気そうだな。ならまだ戦えるだろう」

 

「うー……分かったっす」

 

 

 そして俺達は管理者に送られた座標へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……!」

 

「戦況は!」

 

「デカいのが2体!デカグラマトンらしい!」

 

「またっすか!?」

 

「はぁ……面倒だ」

 

 

 最近侵攻を強めている新たな勢力だ。あいつらもオートマタを使って襲ってくるが、デカい変なのが度々襲いかかるのだ。名は確か『ケテル』とか言うような気がしたが、もう俺らの中ではデカい変なのの方が通じているのでそう呼んでいる。

 

 

「D1!行けるか!」

 

「怖いっすけど…………行けるっす!」

 

「タツロウとD1は右の方に援護頼む!」

 

「了解」「了解っす!」

 

 

 俺とD1は分断されていたデカい変なのの内、灰色の砲身のついたデカい変なのに向かう。

 

 

「俺が対大型オートマタ砲を無理矢理ねじ込む!ターゲットを散らせ!」

 

「タツロウさんか!分かった!」

 

「了解!」

 

 

 だがこれはブラフ。本命は別で声ではなく暗号通信で伝える。

 

 

『俺が囮。D1ともう一人に本命は任せる』

 

 

 そう伝え、俺は対大型オートマタ砲を仲間から受け取り建物の角に隠れる。 

 

 

ドーン!!!!ドガーーーーン!!!!

 

 

 こうしている間にも砲撃は飛び、注意を引いていた数体のオートマタは蹴散らされる。

 俺達の戦いは何度死んだとて容易に身体が作られる為、捨て身の戦い方にどうしてもなってしまう。それ故彼奴等は破壊される事は承知の上で囮になっていた。そして俺を囮にし、最悪あのデカい変なのの砲撃でぶち抜かれる事を覚悟の上で本命を叩き込む。

 

 

『本命、準備完了』

 

 

 俺は仲間からそういう通信を受け取ると同時にデカい変なのの前に出る。デカい変なのは何処を見ているか分からないがこちらを確認したのか砲身を向けようとする。

 

 

ドーン!!!!

 

 

 だがその砲身が俺に旋回しきる前に射撃音を放つ。狙いは俺……ではない!?

 

 

ドガーーーーン!

 

 

 その音がなったと同時に俺はD1の反応が消滅した事を確認した。本命の方が早く気付かれていたのか分からなかったが、俺は迷わず対大型オートマタ砲をデカい変なのに向ける。

 

 

「落とす!」

 

 

 そして俺は対大型オートマタ砲をデカい変なののど真ん中に撃ち込んだ。

 

 

ドガーーーーン!

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 オートマタが息切れなんてしない筈だが、息切れしたような声が出るのは人であった名残だろうか。或いは死への恐怖が反射的にそうさせるのか、はたまた再び仲間が破壊された事により渦巻く激情によるものなのか…………長い事この現象に遭遇している俺ですら分からなかった。

 

 

「向こうは……逃げられたか」

 

 

 もう一つのデカい変なのは逃げられたようだ。恐らくは白色のミサイルが搭載されていた方が本体だろう。灰色の方は複製……或いは試作品だろうか。

 

 

「やっぱかっけーな、タツロウ」

 

「……持て囃されるのは好きではない。やめてくれ」

 

 

 そう言いながら俺は敵がいない事を確認し、遺体からメモリを回収してすぐに工場へ走り始めていた。毎度そうだが、俺は仲間の身体が破壊された度にいの一番にメモリを回収して届けてしまう。

 俺はそれが仲間思いとして肯定的に取るべきか、仲間を失う事を恐れる臆病者として否定的に捉えるべきなのか、俺は長い事決められないままだった。そしてそれは、これからもそうなのだろう。

 

 

「再生産を開始します」

 

 

 工場についてすぐにメモリをアップロードすると仲間の身体は再び作られる。俺はD1が出来るまで待ち、D1が出来上がった直後に話しかける。

 

 

「…………大丈夫か?」

 

「……っす」

 

 

 普段より少しだけ元気さが足りないように感じたが、復活直後で気分が良くないのだろう。

 

 

「……戦えるか?」

 

「戦いたく……ない…………!」

 

 

 俺の質問に、酷く怯えた様子でD1はそう言った。

 

 

「…………死ぬのが怖いのか」

 

「…………っす……」

 

 

 ……それもそうだろう。俺が今まで記憶を擦り減らしていても尚あのような捨て身の戦いが出来るのは『お嬢様』との思い出があるからだ。

 それがないオートマタは精神的に脆い。D1も壊れた扱いとなりまた忘れさせられるだろう。

 

 

「…………ならお前は援護に特化しろ。それなら銃弾が飛ぶ環境下には置かれづらくなる筈だ」

 

「!…………」

 

「戦いに行かなければ忘れさせられる。だから戦場にはどうしてもいてもらわないといけないが…………援護ならやれるか?」

 

「で……出来るっす!…………でも先輩は……!」

 

「気にするな。老いぼれは新人守って死ぬべきなんだよ」

 

「………………」

 

 

 俺は記憶の摩耗が起きても、別に構わなかった。『お嬢様』が笑えるなら何でもよかった。そもそも俺達はその為に、オートマタに人格を移し永遠とも言える永い時間『お嬢様』の眠りを守り続けているのだから。

 

 

「納得言ってなさそうだな……なら、俺が死んだ時に墓を作ってくれ」

 

「!…………」

 

「そして俺の名を残してくれ。墓の場所は任せるし遺品も好きなように使ってくれ」

 

「……………………………分かったっす」

 

 

 だが管理者から座標が送られない。暫くは何もないらしい。

 

 

「仕事は暫くないらしいな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『鍵』が消えた?……」

 

「そうだ。俺達がすっぽり入りそうなデカい箱ごと消えたらしい」

 

「となると……何者かに盗まれたと」

 

「あぁ。死角を埋めたり侵入者の対応の関係で離れられるのは一人だけだ。それで一度も復元を受けていない……精神的に強度の高いとされるタツロウに白羽の矢が立った」

 

「…………管理者が……まずいな…………」

 

 

 『鍵』とは我々の管理者であり、『お嬢様』が来たるべき時に目覚めさせる役割を持つもののだ。俺が守るべき『お嬢様』が目覚められるように…………俺はやるべきだろう。

 

 

「任せられるか?」

 

「分かった。やろう」

 

 

 そうなると後始末の事は任せなければいけなさそうだ。俺はそう思いD1の元に向かった。

 

 

「D1、一ついいか?」

 

「なんすか!」

 

「俺の秘伝の菓子のレシピと自販機事業…………お前に託そうと思う」

 

「えっ!?!?いいんすか!?!?」

 

「あぁ。そのかわり、お嬢様に俺の味を届けてくれ」

 

「どういうことっすか!?」

 

「…………お嬢様を目覚めさせる為の『鍵』を探して来る。お前ならきっとこの先も長い事生き延びられるだろうから」

 

「………………でも……タツロウ先輩は……」

 

「いいんだ。俺の夢は叶わない。お嬢様の『美味しい』はもう聞けないだろう。だから、お前が代わりに聞いて……墓で眠る俺に報告でもしてくれ」

 

 

 俺はこの任務は恐らく過去一危険な物だ。俺が殺られれば連れ戻すオートマタがいないから記憶を元に戻せない可能性が高いだろう。ただでさえ捨て身の戦い方しかしないのだ。俺は戦闘になればまず助からないだろう。何回バックアップを取ることになるだろうか?…………余り考えたくはなかった。

 

 

「…………分かったっす」

 

「暗証番号とレシピは……この中に入っている。頼むぞ、お前の料理の腕は悪くないからな、ユウタ」

 

「?…………」

 

「すまない、故人に似ている奴がいたんだ」

 

「そう……なんすか」

 

 

 俺はD1に口が裂けても記憶を全て失う前のお前だとは言えなかった。俺は捜索の準備をした後外へ出て、例の自販機の所へ向かった。

 

 

「お菓子はいかがでしょうかーっ!!!!」

 

「俺だ……」

 

 

 相変わらず閑散とした廃墟によく響き、その様子に俺は何処か安心した。

 

 

「スキャニング!スキャニング!……これはこれは偉大なるパティシエ・タツロウ様!」

 

「自販機……俺は盗まれた『鍵』の捜索の任に就く。次また合うことはないかもしれない」

 

「……なんと!!!!それでは貴方の作品はどうやって『お嬢様』やその他のお方に届けるのですか!?!?」

 

「それなら後継者がいる。暗証番号は教えてあるから頼むぞ」

 

「…………承知いたしました。偉大なるパティシエ・タツロウ様のご意向、必ず成し遂げて見せましょう!」

 

「ありがとう。なんか、寂しくなるな」

 

「私もです…………どうかご武運を」

 

「あぁ」

 

 

 俺は自販機からの言葉を受け取り、廃墟を彷徨う事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

 俺は灰色のデカい変なのが動かなくなったのを確認してその場を去る。何日経ったか分からない。いや、バックアップによる再生産を繰り返していたから時間そのものが分からなくなっているの方が正しいだろうか。

 俺は廃墟を彷徨う中で片っ端から『鍵』を攫いそうな奴を叩いた。デカい変なのだろうが、輪っか付きの人間だろうが、虱潰しに探していた。その為に俺は既にボロボロであり、所々装甲が剥げていた。

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜」

 

 

 そして俺は幾人かの頭の上に輪っかの浮かぶ者を見つける。言語が異なる為何を言っているのか分からないが、持っているものは確実に『鍵』が入っているやつだった。

 

 やっと見つけた!……そう回路内で呟き、俺は獲物に弾を込める。数は3人。輪っか付きの人間は異常なほど硬いので1体ずつ釣り出し、各個撃破を狙う。

 先ずはその辺りの手頃な瓦礫を拾い上げ、1体に投げる。絶対に『鍵』の入った箱には当たらなないように、慎重に狙い投石する。

 

 

「〜〜〜〜〜〜!」

 

 

 1体が気付いたらしく怒り心頭の様子でこちらに向かって来る。1体だけなので、角から引きずり込んで銃弾を全弾ねじ込むつもりで左手を開け、右手で小銃を持つ。

 

 

「!!!!!」

 

「ふっ!!!!」

 

 

 そして俺は相手の銃を掴んで引き寄せ、布で塞がれた口に無理矢理俺の銃口をねじ込み撃つ。

 

 

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ……!!!!

 

「っ!…………」

 

 

 

 丁度30発撃ち切られると同時にそいつは気絶した。俺は次の敵に備えてリロードし、スモークを準備する。

 

 

「……!!!!」

 

「!?!?!?」

 

 

 俺は()()突入されるタイミングを読みスモークを焚く。そしてデカい武器を持つ方を狙い、全弾ねじ込む。

 

 

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ……!!!!

 

 

「!………………」

 

「!?」

 

 

 残るは一人。だがむざむざ相手もやられるわけもなくこちらに射撃してくる。流石にこれは躱せない為俺はそれを()()()()()()近づいて左手でぶん殴る。距離的にはこちらのほうが最適解だ。

 

 

ガシャーン!

 

「!」

 

 

 それは咄嗟に銃で防がれる。俺はすぐに右足で頭目掛け回し蹴りをする。

 

 

ドン!

 

「っ!」

 

 

 それは防がれず、相手は怯む。その隙に俺は少し距離を取ってから身を隠す。相手は俺を短期的ではあるが見失った状態なので俺はリロードし、手榴弾を逃げそうな所に当て勘で投げてから相手に向けて射撃する。

 

 

ダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!

 

 

「っ!」

 

 

ドカーーーーーン!!!!

 

 

 相手は俺の予測通り遮蔽物へ隠れようとし、そこに置いてあった手榴弾は見事命中した。手榴弾を至近距離で喰らえば流石のあいつらもただではすまない筈だ。俺はすぐに『鍵』の入った箱の回収に向かう。

 

 『鍵』の状態をスキャンして確認する。バッテリー切れ寸前であり、すぐに別の可搬記憶媒体に入れなければ確実にデータが破損する。

 『鍵』はバックアップが取れない。管理AIなのだからやられる事は余り想定されていないし、バックアップしたとて権限は管理者……『鍵』しか持っていない為に使うことは出来ない。

 

 

(『鍵』のデータを俺にねじ込めば『鍵』は助かるだろう。だが俺の人格データは確実に破壊される…………)

 

 

 怖くないと言えば嘘になる。だが……俺は『お嬢様』の為に今まで己を賭けて戦い続けたのだ……今更後戻りなど出来ないだろう。

 『お嬢様』の笑顔は見たかった。けれど『鍵』がなければ『お嬢様』は二度と目覚める事などないだろう。ならばせめて、『お嬢様』が笑える日が来るように…………!

 そう思いながら俺は端子を差し込んだ。

 

 

「あがっ!!!!!」

 

 

 俺は痛みに悶える。痛みなんてオートマタにはない筈が、全身の感覚が狂い周囲の詳しい様子が分からなくなる。

 

 

「おれ……は…………」

 

 

(俺は……『鍵』を………………届けなければ……)

 

 

 意識は朦朧とし、最早目に付くものが敵か味方かの判別すらつかなくなる。

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜!」

 

「〜〜〜〜〜〜〜!」

 

 

 俺はただひたすら目に付くものに攻撃を加える。俺は『お嬢様』の為に動かなければならない。それが味方かもしれないが、敵に持って行かれる方が駄目なのだ。

 

 

 

 だから壊す。全てを。ただ『お嬢様』の為に。

 

 

 

「がぁっ!!!!」

 

 

 工場に辿り着きさえすればいい!俺はもう戦い方など捨て身の戦い方しか知らない。だから弾を喰らおうと、俺は撃つ!

 

 

ダダダダダダダダダ!!!!

 

 

「〜〜〜〜〜〜!」

 

 

ドン!!!!

 

 

 それでも確実に躱さなければ死ぬ攻撃は躱す。そして確実に排除出来るように手榴弾とスモークを駆使し分断して破壊する。

 

 

「〜〜……!!!!」

 

「〜〜〜〜!!!!」

 

 

 相手は集団、何処か()()()()()()()をしていた。捨て身の戦い方。それを俺は一体ずつ潰して行く。俺は何度か弾を切らずが、()()()()()()()()()()()()()()()を使っていた為倒したオートマタから回収しながら戦う。

 

 

「〜〜〜〜〜」

 

 

 残り数体になった辺りで、見覚えがある兵器が向けられた。俺はそれを躱そうとする。それは対大型オートマタ砲にも見える物だった。だが躱そうと体を捩った先に、もう一体が同じ物を構えていた。回避は不可能。俺は死ぬ。

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

ドガーーン!!!!

 

 

 爆発と共に土手っ腹がぶち抜かれる。この身体もう助からない。だが俺の中の『鍵』の入ったメモリは無事だ。壊れた俺のデータを流せば俺のバックアップは確実に死ぬが、『お嬢様』と『鍵』が無事であれば俺がいなくとも大丈夫だ。

 

 

「……『お嬢様』の……為に…………頼む」

 

 

 もう俺は『タツロウ』としてお守りすることは出来ない。だから俺は生き延びた数体にそう伝える。

 

 

「タツロウ…………」

 

 

 俺の前に少女が現れる。どうしてなのかとか、そういう理屈なんて練っている余裕は俺にはなく、直感的にそのお方が『お嬢様』であると思った。

 

 

「よく、頑張りましたね」

 

 

 それは美しい笑顔で俺に微笑んだ。きっと俺はこれがずっと、ずっとずっと昔に見て、もう一度見たかったものなのだろう。もう、後悔はない。もし先に死んだ奴らがこれを見ていたのだとしたら、ずるいと感じてしまうのは幼い考えだろう。

 でも……今はただ…………幸せだと…………思えた…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お菓子はいかがでしょうかーっ!!!!」

 

「僕っす!D1っす!」

 

「スキャニング!スキャニング!……D1さん!お久しぶりですね!」

 

「先輩…………いえ、タツロウ先輩の菓子作りを継ぐことになったっす」

 

「成る程…………ということは偉大なるパティシエ・タツロウ様は……」

 

「はい。暴走したのを僕が止めて、B2として生まれ変わったっす」

 

「一体何が…………!」

 

 

 自販機は長年の付き合いだったタツロウの最期を聞きたかった。自販機如きに感情があるかは分からないが、少なからず情はあっただろう。

 

 

「『鍵』のデータを自分の人格データに入れたようで、暴走したんす。それで僕がトドメを刺したっす」

 

「……………そうでしたか……」

 

 

 自販機は珍しく悲しそうな音声を発する。

 

 

「『鍵』はその間の事は覚えていないみたいなんで『タツロウが取り戻す際の戦闘で犠牲になった』って報告したっす」

 

「それは……真実を伝えなくてよかったのですか?」

 

「いいんす。タツロウ先輩、持て囃されるのは嫌っていたから」

 

「……分かりました」

 

 

 自販機は少し『偉大なるパティシエ・タツロウ様』と持て囃すような呼び方をしていたことを回路内で反省した。それでも自販機はタツロウの素晴らしさを知って欲しい気持ちのほうが強かった為に、その呼び方をやめる気にはならなかった。

 

 

「そう言えばタツロウ先輩……いえ、B2に生まれ変わっても相変わらず無口で不器用で、でも僕を先輩って慕ってくれるんす。音声そのままなんでクセで先輩って呼びかけるんすけど…………先輩って呼ばれるのは悪くないっすね」

 

「先輩……ですか」

 

「それとタツロウ先輩って、結構律儀っすよねぇ。『鍵』の回収で傷付けることになったら俺を殺せ、もし本当にそうなったら申し訳ない、って言うのをわざわざ手紙にして残していたんす」

 

「ほぉ〜……待ってください手紙!?今の時代に!?」

 

「そうっす。多分データじゃなくて形として残したかったんじゃないすかね?最後まで仲間の事を想っているのはやっぱりタツロウ先輩らしいっす」

 

「タツロウ様…………」

 

 

 二つの機械で交わされる音声での会話は、何処か空気は重く雨が降ってもおかしくないような雰囲気だった。

 

 

「でも、タツロウ先輩はきっと天国で見てくれているっす。だから……残された僕達は先輩の願いを叶えましょう!」

 

「…………勿論です!!!!」

 

 

 二つの機械はすぐに元気を取り戻した。きっとタツロウの言っていた『死は完全な消滅ではない』と言う話を信じているのだろう。信じているものは救われる。その真偽が例え如何なるものであったとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 D1が去ってから暫くして、自販機の元に一人の少女が訪れた。

 

 

「Quid de dulciariisー!!!!」

 

「ピコーン!アリスは不明な言語を発する自販機を発見しました!」

 

「scanning!scanning!……\×^%*€@…………翻訳完了!!!!貴方サマは…………成る程……」

 

「貴方は何者ですか?」

 

「私は偉大なるパティシエ・タツロウ様のお菓子を売る自動販売機デス!!興味ありますか!?」

 

「はい!食べてみたいです!」

 

 

 自販機は漸く来てくれた客に菓子を売ろうと全力になる。正直値段なんてどうでも良かったので自販機は値下げも考えていた。値下げする自販機など自販機失格だろうが、自販機にとってはタツロウの願いを叶える事以外はどうでも良かった。

 

 

「オススメはこのクッキー!シンプルながら深い味わいがあります!」

 

「ではそれでお願いします!」

 

「では硬貨をこちらに!」ぴかーっ!

 

 

 自販機は硬貨を入れる所を分かりやすく光らせる。確実に要らない機能だろうが、そこはタツロウの遊び心としておくべきだろう。

 

 

ガチャン!

 

「こちらからお取り下さい!」ぴかーっ!

 

「ありがとうございます!……パンパカパーン!アリスはクッキーを購入しました!」

 

「…………お客サマ、一つわがままをヨロシイでしょうか?」

 

「なんですか?」

 

 

 自販機はタツロウの願いを叶えるためにアリスを名乗る少女に一つ頼みをした。

 

 

「ここで食べて味の感想をお聞かせ下さい!誰からもお味の感想が頂けないのでもーーーーーー悲しくて!!!!」

 

「分かりました!いただきます!」

 

 

 アリスは言われた通りその場でクッキーに施された可愛いリボンを解き、袋を開ける。そして手作りのクッキーを頬張る。

 

 

「!……美味しいです!」

 

「……それは、良かったです」

 

 

 笑顔のアリスを見て、自販機は何かしみじみとした様子でそう答える。自販機は初めての感情に僅かに困惑していたが、タツロウが昔話していた『感動』というものなのだろう。自販機はそう推察し、すぐに感想を聞くことに集中する。

 

 

「あれ?…………」

 

 

 するとアリスは突然目から涙をポロリと落とす。

 

 

「今、私は……?」

 

「…………おやおや、どうされました?」

 

「どうしてなのでしょう、アリスはこの味を()()()()()()…………とても懐かしい味です」

 

「そうですか…………」

 

 

 自販機はただそれを静かに見守る。きっと長い眠りでタツロウの事を忘れているのだろう。だがタツロウの作ったお菓子の味だけは覚えていてくれていたようだ。

 

 

「…………きっとそれは味に感動した涙なのでしょう」

 

「そうですか…………もう一つ買ってもいいですか?」

 

「ドウゾ〜」ぴかーっ

 

 

 しんみりとした感情を拭おうと自販機は硬貨を入れる部分を光らせる。自身もこの機能は馬鹿げているとは思っていたが、こんな所で役に立ったと感じることになるとは思いもしなかった。

 

 

「ありがとうございます!…………」

 

 

 またもアリスはクッキーを頬張る。きっとタツロウのお菓子の味を気に入ったのだろう。或いは懐かしい味から何か思い出そうとしているのかもしれない。自販機にはどちらなのか、或いは全く違うのか分からなかった。

 だが自販機にとってはどれでもよかった。ただ『お嬢様』にタツロウのお菓子が届けられるなら、何でもよかったのだ。

 

 

「…………味が違う……?」

 

「あれま」

 

 

 自販機はそれがどういうことなのか分かっていた。タツロウが作ったクッキーの中に、D1の作ったクッキーが混ざっていたようだ。自販機は出来る限り分けるようにはしていたが、一つ混ざってしまっていた。

 

 

「……それは偉大なるパティシエ・タツロウ様の後継者の作ったものでしょう。美味しいですか?」

 

「美味しいです……でも、アリスはさっきのクッキーが食べたいです!」

 

「…………分かりました……」

 

 

 自販機は考える。彼女によりたくさんのタツロウの作った菓子を渡す為にはどうすればよいのか。自販機は少しだけ考えた後に言葉を紡ぐ。

 

 

「では硬貨を一つ入れて下さい!今回特別に!貴方サマにだけタツロウ様のお菓子を全て売りましょう!」

 

「え!?いいんですか!?」

 

「えぇ。タツロウ様は貴方様にこそ食べて欲しいはずなので」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 そしてアリスから硬貨を一つ入れられた後にタツロウの作ったお菓子を全て売ってしまう。中にはD1の作った物が紛れ込んでいるだろうが、タツロウの作ったお菓子がより多く『お嬢様』に食べてもらえるならそれでいいと思った。

 

 

「一人で持てますか?」

 

「大丈夫です!世界を救う勇者なのでこれぐらい一人で持てます!」

 

「ふふっ……左様ですか。それではまたのご利用をお待ちしています」

 

「また会いましょう!」

 

 

 大きな袋を両手に下げたアリスはその場を去ってしまった。自販機はまた閑散とした廃墟の中で一人、客を待つこととなった。

 

 

「タツロウ様……貴方の『お嬢様』は立派な勇者となったようです」

 

 

 自販機はそう呟く。それを聞くものは居ないが、きっとタツロウの元には届いただろうか。

 タツロウの名は表舞台に伝わらないだろう。自販機もそれは分かっていたし、それを望んでいなかった。ただ大切な者を守り抜いた英雄には、持て囃される事もない安らかな眠りが最も良いだろう。

 

 

「タツロウ様。確かに貴方のお菓子で『お嬢様』は……人は笑顔になりましたよ」

 

 

 そしてまた客と出会う度に自販機はこう言うことだろう。

 

 

「偉大なるパティシエ・タツロウ様とその後継者D1様のお菓子はいかがでしょうか?美味しくてきっと思わず笑顔になりますよ」

 

 






 誰かの手作りクッキー


 喋る自販機が売っていた手作りのクッキー。とても美味しく、その味はプロでも早々に辿り着けない美味しさだ。

 クッキーは例え冷たくても美味しく、食べた者は出来立てはどれ程美味しいのか皆想像する。だが出来立てを食べる事はもう叶わずクッキーは冷たい物だけだ。




…………………………………………………………




 いかがだったでしょうか。私は某王女の従者の騎士を読んだ際、『その裏には沢山の犠牲になったオートマタがいるんじゃないか』と思い書き上げました。(ですがこの作品と某作に関係ある訳ではありません)

 要するに(他のゲームの名前を出すのは良くないかもしれませんが)ダークソウル3の奴隷騎士ゲールのような存在がいたんじゃないかな、と思っています。

 ただ己の大切な者の為に、自身の記憶や人間性を犠牲に戦う。それが知られる事がなかったとしても確かに尊く美しい物だと私は信じています。

 改めまして、この小説を読んで頂きありがとうございました。

タツロウ生存ifは書いた方がいいですか?……

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