HELLSING×Bloodborne   作:椛―もみじ

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長らくお待たせしました。




第24話

 

 

ロンドン市街。

華やかだったネオンは砕け散り、街は炎と悲鳴、そして硝煙に包まれていた。

ナチスの軍服を着たミレニアムの兵士たちが、哄笑を上げながら市民を蹂躙している。

彼らの瞳は赤く血走り、口元からは異様に発達した牙が覗き、その身体は部分的に剛毛に覆われていた。

 

「ヒャハハハハハ!! 燃やせ! 殺せェ!」

「血だァ! 新鮮な血だ!!」

 

逃げ惑う人々を追い詰め、一人の兵士が鋭い爪を振り上げた、その時。

カツン……。

炎照らされる路地の真ん中に、一人の男が立ち塞がった。

古びた狩装束。顔の半分を覆うマスク。そして、三角羽根帽子。

その右手には、奇妙に折り畳まれた無骨な鉄の塊(ノコギリ鉈)が握られている。

 

「……あァ?」

兵士たちが足を止め、訝しげにその男を見る。

「なんだテメェは! 逃げ遅れたブリティッシュかァ!?」

「構わん、撃ち殺せ!!」

 

十数丁のアサルトライフルが一斉に火を噴く。

ドドドドドドドドッ!!

 

鉛の雨が男を捉える寸前。

狩人は懐から、青白く光る骨を取り出した。

『古い狩人の遺骨』

かつて夢を知った狩人の遺骸から放たれる、神秘の術。

 

フゥン……ッ!

風を切るような異音と共に、狩人の足元に青白い光が纏わりつく。

そして、彼の姿が「ブレた」。

 

「なッ!?」

銃弾は空を切り、背後の壁を穿つだけ。

男はそこにいなかった。

否、「加速(ステップ)」したのだ。人間の動体視力を完全に置き去りにする、次元を超えた神速の移動。

 

「どこだァ!?」

「上だァァッ!!」

 

月を背にして跳躍した狩人が、両手持ちの巨大な槌、『教会の石槌』を振り下ろす。

ドッガァァァァァァンッ!!!

アスファルトがクレーター状に陥没し、密集していた兵士三人が、悲鳴を上げる間もなく肉のパンケーキと化した。

 

「ひィッ!? なんだコイツはァ!!」

「撃て! 撃てェェ!!」

 

狩人は石槌から銀の剣を引き抜き、瞬動する。

青白い軌跡を残しながら、銃弾を紙一重のステップですり抜け、兵士の懐へ潜り込む。

 

ザシュッ!!

銀の剣が吸血鬼の首を刎ねる。

返り血を浴びる暇もなく、狩人は背中の大剣、『ルドウイークの聖剣』と合体させ、巨大な両手剣へと変形させる。

ガチャンッ!

 

身体を一気に捻り、横薙ぎの一閃。

特大の刃が、頑強な獣化兵の胴体をボディーアーマーごと三体まとめて両断する。

 

「バカなッ! 獣の力を持つ俺たちが、ただの剣でッ!?」

「ただの剣ではない」

狩人は冷徹に告げる。

「貴様らのような穢れた獣を殺すためだけに作られた、断罪の刃だ」

 

狩人は聖剣をしまい、今度は懐から円盤状の機械を取り出す。

ジャキィィィンッ!!

起動音と共に、巨大なノコギリの歯が回転を始める。

『回転ノコギリ』

 

「な……ヒィィッ!?」

「害虫駆除だ」

 

ギュイィィィィィンッ!!!!

狩人が回転ノコギリを突き出し、突進する。

触れた兵士たちの肉が削り取られ、骨が砕け、凄まじい血飛沫が夜の街に噴き上がる。

「ギィヤアアアアアッ!!」

「助け……ギャバァッ!!」

 

装甲車を盾にしようとした数名の兵士ごと、分厚い鉄板と肉体をまとめてミンチに変える。

だが、降下してきた獣化兵の数はまだ多い。路地の奥から、およそ50匹近い群れが、血の匂いに惹かれて津波のように押し寄せてくる。

 

「ヒィィッ! バケモノだ! こいつバケモノだァ!!」

「怯むな! 撃て! 食い殺せェ!!」

 

狩人は回転ノコギリの刃を振り払い、虚空のインベントリへ収める。

次に彼が取り出したのは、巨大な鉄の炉を先端に据えた無骨な鈍器、『爆発金槌』。

かつて異端の工房「火薬庫」が愛した、爆炎と粉砕のロマン兵器。

 

狩人はカチリ、と金槌の撃鉄を起こす。

そして、周囲の崩れ落ちたビルから燃え盛る「ロンドンの業火」の中へ、金槌の先端を無造作に突っ込んだ。

 

ボウッ!!

炉の中に炎が吸い込まれ、爆発金槌が赤々と、怒りのように発火する。

 

「……燃えろ」

 

狩人が地を蹴る。

『古い狩人の遺骨』の効力はまだ続いている。青白い残像を引き摺りながら、50匹の獣の群れの中央へ瞬動。

 

「なっ──!?」

 

ドゴォォォォォォォォンッ!!!!

炎を纏った強撃がアスファルトに叩きつけられる。

打撃の衝撃と共に、金槌の炉に圧縮されていた火薬と炎がドーム状に大爆発を起こす。

 

「アッギヤァァァァァァッ!!」

爆風と業火が路地裏を舐め回し、十数体の兵士が炭化し、あるいは手足を吹き飛ばされて宙を舞う。

「火だ! 火がァァ!!」

獣特有の「炎への根源的な恐怖」が、ミレニアムの兵士たちの理性を焼き切っていく。

再生能力すら追いつかない圧倒的な熱量。

 

「ひ、ひぃぃ……ッ!」

残った二十数名の兵士たちは、武器を投げ捨てて後ずさっていた。

彼らは自分たちが「狩る側」だと思っていた。だが今、目の前にいるのは、彼らなど足元にも及ばない純然たる「狩人」。

 

狩人は爆発金槌を捨てる。

そして右腕に装着したのは、複雑なシリンダーと極太の鉄杭を備えた特攻兵器。

火薬庫の最高傑作、『パイルハンマー』。

 

ガチャンッ!

狩人は左手でシリンダーを引き絞り、鉄杭をロック状態にする。

 

「……逃がさん」

狩人は周囲の炎を背に受け、その熱をパイルハンマーの機構に吸わせるように構えた。

カチ、カチ、カチ……と、内部の火薬が限界まで圧縮される不吉な音が響く。それと共に狩人は屍を踏みつけ、血塗れの石畳を踏みしめて歩み寄る。

 

「く、来るなァァァッ!!」

「撃て! 撃て撃て撃てェ!!」

 

恐怖に駆られた兵士たちが乱射する中、狩人は深く腰を落とす。

最大溜め。

遺骨の青い光が足元で弾け、狩人の姿が掻き消えた。

 

ゼロ距離。

兵士たちの目の前に、死の杭が迫る。

 

 

ズガァァァァァァァァァァンッ!!!!

 

 

圧縮された火薬が一気に解放され、極太の鉄杭が音速で射出される。

その威力は、単なる物理的破壊に留まらない。

杭から放たれた衝撃波と爆炎が、路地裏の空間そのものをトンネル状に吹き飛ばした。

 

「──ッ!!?」

悲鳴すら上がらない。

直線線上にいた二十数名の獣化兵たちは、上半身が文字通り「蒸発」し、血の霧となってロンドンの夜風に消えた。

背後にあった煉瓦造りのビルごと、巨大な風穴が開いている。

 

シュー……と、熱を帯びたパイルハンマーから白煙が立ち上る。

狩人はゆっくりと立ち上がり、カシャッ、と排莢(リロード)の動作を行った。

 

静寂。

路地裏を埋め尽くしていたおよそ50匹のミレニアム兵士たちは、ただの挽肉と消し炭に変わり果てていた。

狩り尽くしたのだ。たった一人で、数分足らずの間に。

 

狩人はマントについた灰を払い、静かに息を吐いた。

そしてHELLSING本部へと駆けて行った。

 

そんな中、血と屍と化した市街を、猛スピードで駆け抜ける漆黒のベントレーがあった。

運転席にはウォルター。後部座席には、窓から身を乗り出すインテグラの姿。

 

「オオオォォォッ!!」

狩人の討ち漏らし、あるいは別の区画から溢れてきた獣化兵が、車に向かって飛びかかってくる。

 

「邪魔だッ!!」

インテグラが手にした大型拳銃の引き金を引く。

バァンッ!!

法儀済みの純銀弾が、空中に躍り出た獣の眉間を正確に撃ち抜く。

獣は脳髄を撒き散らしながら、車の後方へと弾き飛ばされた。

 

インテグラは熱くなった銃口を下げ、周囲の惨状、そして道に点在する「ミンチにされた肉塊」の跡を見下ろした。

「……随分と派手にやってくれてるみたいだな、狩人(ハンター)

その口元には、頼もしさと、不敵な笑みが浮かんでいた。

 

「急げウォルター! 我々も討たねばならない! 獣どもを!」

「おおせのままに、お嬢様!」

ベントレーのエンジンが咆哮を上げ、ヘルシング本部へと急行する。

 

 

視点は変わり、ミレニアム司令部(飛行船『デウス・エクス・マキナ』ブリッジ)。

 

「インテグラ・ヘルシング、発見!!」

オペレーターの報告が響く。

「ロンドン市内をヘルシング本部方面へと急速移動中!!」

 

「見つけたか!!」

少佐の目が、眼鏡の奥でギラリと光った。

「エーデルハイト隊を前面に押し出し、進路を遮断せよ」

「艦長!! 艦を前衛に押し出せ」

少佐は指揮棒を握りしめ、獰猛に嗤う。

「約束を果たす」

 

そこへ、一人の将校が歩み出る。

右半身にびっしりと呪術的な刺青を刻んだ、長身の女。

大鎌を担ぐ中尉、ゾーリン・ブリッツ。

 

「少佐殿。ゾーリン・ブリッツ、ツェペリン2」

「ヘルシング本部へ出撃致します」

 

「応」

 

ゾーリンが右手を高く掲げる。

「ジーク・ハイル」

少佐も満足げに答える。

「ジーク・ハイル」

 

少佐は振り返り、通信兵に命じた。

「残存したV1改(ミサイル)は何発ある?」

「計9発です」

「全弾、ヘルシング本部へ撃ち込め。ゾーリンの露払いである」

 

ミサイル発射のサイレンが鳴り響く中、少佐は出撃していくゾーリンの背中を見送った。

 

「さあ、どう出るヘルシング。手並を見せてくれ。褐色の狂気が御相手する」

少佐は眼鏡の奥をぎらつかせて言った。

「彼女の幻影……いや、あの『魔眼の光』を、君たちはどう凌ぐかな?」

 

ゾーリンの刺青が、薄気味悪い青紫色の光を帯びて脈打つ。

彼女の能力は、単なる脳内への幻術干渉だけではない。

50年前の地下遺跡探求の折、彼女の脳内に直接刻み込まれた「上位者(アメンドーズ)の視座」。

 

彼女が幻覚の中で対象を「見つめた」時、空中に無数の「不可視の瞳」が顕現する。

そこから放たれるのは、空間そのものを焼き切るようなアメンドーズのレーザー光線。

精神(SAN値)を削るだけでなく、触れれば確実な(切断)をもたらす、回避不能の神秘攻撃。

 

『……見せてあげるわ。本物の悪夢を』

ゾーリンは舌なめずりをし、狂気に満ちた笑いを浮かべた。

 

帝都を焼き尽くす炎の中、九発のV1改ミサイルが、ヘルシング本部へ向かって死の航跡を描こうとしていた。

防衛線に取り残されたセラスと傭兵たち、そして合流を目指す狩人たちの命運は、風前の灯火となろうとしていた。

 

to be continued…

 

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