禪院の王庫   作:ナムルパス

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しばらくは、総司と真依は幕間で登場します


幕間 世界の底で

砂嵐が、地平を削っていた。

 

風は容赦なく、細かな砂粒が肌を打つ。

視界は白く濁り、数十メートル先すら定かではない。

 

それでも、総司は歩みを止めなかった。

 

外套の裾が煽られ、

その下で、微かに金属が触れ合う音がする。

 

王庫に収められた呪具ではない。

現地調達の、使い捨てに近い道具。

 

(……この辺りで間違いない)

 

地形。

風の流れ。

呪力の澱み。

 

どれもが、同じ一点を指していた。

 

総司は足を止め、地面に視線を落とす。

 

砂に覆われた何もない場所。

だが、呪力の“重さ”だけが違う。

 

(埋めた、というより……捨てたか)

 

大切に保管されたものではない。

役目を終え、放置された兵器。

 

「……掘るか」

 

呟きは、風に掻き消えた。

 

次の瞬間、呪力が走る。

 

地面が内側から崩れ、

砂と土が、まるで水のように流れ落ちていく。

 

派手さはない。

爆ぜる音もない。

 

壊すのではなく、道を作る。

 

数分後、地下に眠っていた構造物が姿を現す。

 

石造りの回廊。

装飾は乏しく、実用一点張り。

 

(……古いな)

 

少なくとも数百年。

だが、呪力の残滓だけは、妙に新しい。

 

祈りの場ではない。

墓でもない。

 

(量産拠点、か)

 

総司は、慎重に中へ入る。

 

床に刻まれた符。

壁に埋め込まれた呪符。

 

どれも、現代基準では歪だ。

 

精度が低い。

だが、その分、殺意だけは露骨。

 

(人を守る発想が、最初からない)

 

解除はしない。

破壊もしない。

 

ただ、踏まない位置を選び、

呪力の流れを避けて進む。

 

奥へ行くほど、空気が重くなる。

 

やがて、回廊は小さな空間に行き着いた。

 

中央に、石の台座。

その上に、短剣が一本。

 

刃渡りは短い。

装飾は皆無。

 

だが――

触れなくても、重さが分かる。

 

(……1級か)

 

総司は、短剣を手に取る。

 

瞬間。

 

視界が、僅かに歪んだ。

 

血の匂い。

叫び声。

恐怖。

 

守るためではない。

勝つためでもない。

 

ただ、奪うためだけの殺し。

 

「……くだらない」

 

感想は、それだけだった。

 

短剣を、虚空へ放る。

 

次の瞬間、

空間が“開く”。

 

目に見えないはずの王庫が、

確かに、そこに在る。

 

短剣は、吸い込まれるように消えた。

 

――収納、完了。

 

総司は、軽く息を吐く。

 

(これで、一つ)

 

王庫は、空ではない。

だが、満ちてもいない。

 

世界には、まだ無数にある。

 

価値のある呪具。

管理されず、

封じられず、

いつか誰かを殺す“力”。

 

それらを、放置する理由はない。

 

「……次は」

 

総司は、砂嵐の向こうを見る。

 

「ヨーロッパ、か」

 

呪霊よりも、

呪具の方が厄介な土地。

 

だが、問題はない。

 

彼にとっては、どこも同じだ。

 

同じ頃。

 

遠く日本では、

一人の少年が、呪いと共に歩き始めていた。

 

その存在を、総司は知らない。

 

知る必要も、ない。

 

今はまだ――

道が、交わる段階ではない。

 

世界は、広い。

そして、底は深い。

 

総司は、再び歩き出した。

 




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