俺のガンプラが擬人化した。何を言ってるかわか(ry 作:高坂ミチル
今回、結構な急展開だったりします!
「……マスター、下がっていてください」
「目標を補足。これより、捕獲行動に移行する」
「……おいおい、嘘だろ」
乾いた喉から発せられた俺の声が、静まり返った空間に広がり霧散する。
ーーー擬人化ガンプラ。
俺はユニコーンやバンシィの存在をこう呼んでいる。メタリックなガンプラが擬人化し、人の肌を持ち、人の感情を持ち、人の温もりを持つ。それが、擬人化ガンプラ。
いや、わかっていたんだ。少なくとも予想はしていた。擬人化ガンプラは、何もユニコーンやバンシィだけではない、と。
ほかの人達だってガンプラは買ってるんだし、俺が特別な力か何かを持ってない限りは、ガンプラは擬人化なんかしない。だからこそ、俺以外でもガンプラが擬人化しているかもしれない、ということは、少なからずとも予想していた。そして、その予想は見事に当たっていた。……もっとも。
ーーーその擬人化ガンプラが俺を襲う、というのは、流石に予想外であったが。
それは、突然だった。ユニコーンを連れてーーバンシィは家でお留守番をさせているーー買い物に付き合わせたついでに、この世界のことについて色々と教えていた。買いたいものも買えたし、帰って一人で待っているバンシィの機嫌をどうしようかと悩んでいた時、ユニコーンが公園を見つめていたのを見てしまった。
だからこそ俺は、ここでちょっと休憩していこうか、と提案して、遊具に興味津々のユニコーンを見て楽しんでいた。……が、それが間違いであったことに後悔した。
最初から妙な気は感じていた。もう夜がかった夕暮れとはいえ、人が誰もいない。子供も、大人も。ましてやこの公園の周りを、誰も歩いていない。正真正銘、俺とユニコーンの二人しかいなかったのだ。
ーーーそして、『ソレ』は現れた。
肩までかかる、蒼色の髪のセミロング。鋭く、凛としたエメラルドの瞳。非の打ち所のない輪郭。間違いなく美少女。ユニコーンやバンシィにも引けを取らないであろう美少女だ。
それが、今俺たちの目の前にいる、シールドとソードの融合した武器を構えている、彼女。間違いなく擬人化ガンプラ。そして、あの装備……見覚えがある。俺の間違いでなければ、あの装備と容貌は。
「エクシア、か……?」
「む?私を知っているのか?」
「あ、ああいや、まあな。ダブルオー世代は見てなかったから、知識だけの判断だったが……当たりか」
当たりが故に不運。確かエクシアは、近接戦闘がとてつもなく強いはずだ。対してユニコーンは射撃専門。そのユニコーンが戦うとして、無事で済むかどうか……万が一にも、ということも、十分にありえる。
どうする?あいつの雰囲気からして、明らかにこちらに危害を加えるものだし、正直怖い。そりゃそうだ。
ーーー俺は、ただの人間だ。
命懸けの戦いなんて、ましてや人間を超越したもの同士の戦いなんて、怖いに決まっている。ユニコーンの後ろに隠れている今でさえ、怖いのだ。あいつの持っている剣を見るだけで、足が震えるのだ。
「ユニコーン、私の目標はそちらの男だ。こちらに引き渡せば、手荒な真似はしないが」
「……ジョークとして、言ってるんですか、それは。……だとしたら、全然、笑えませんね」
場の空気が、一層張り詰めたものになる。静かだ。自分の心臓の心拍数が聞こえるほどに。これが、殺し合いだとでも言うのか?……いや!
「……逃げよう、ユニコーン。戦っちゃだめだ」
「……マスター?」
そうだ。戦う必要なんてない。逃げればいいだけだ。あいつより速く、足止めでもなんでもしながら。命懸けの戦いなんてごめんだし、なにより……。
「ユニコーン。お前に、傷付いてほしくない。だから、戦う必要なんてないんだ。逃げよう」
「……マスターが、それを、望むのであれば」
こくりと頷き、俺の意見に同意するユニコーン。ヒソヒソと話をしているため、向こうは怪訝そうな顔をしているが、こちらの話が終わるまで待ってくれるあたり、まだ話のできる相手なのかもしれない。
「作戦タイムは終わりか?」
「ああ。っていうか、なんで待ってくれてたんだ?話してるあいだに攻撃しようとか思わなかったのか?」
「……まあ、こちらにも色々あってな」
エクシアの色々、という言葉が妙に気にかかるが、今は気にしてる場合ではない。時間稼ぎさえやれば、後はユニコーンが何とかしてくれる。それまで粘らないと。
「なぁ、ユニコーンのマスター。お前は、ニュータイプ、と言うものを信じるか?」
「ーーーは?」
そう思っていた矢先に、エクシアは突然言ってきた。ニュータイプ?信じる?何を言っているのかわからないが、向こうがわざわざ時間をかけて言ってくれるんだ。これはチャンス。
「ニュータイプ、だと?アムロ・レイや、カミーユ・ビダン達のことか?」
「いいや、それは人物であって、ニュータイプというものではない。彼らはニュータイプに選ばれただけだ」
「……わからないな。エクシア、お前は何が言いたいんだ?」
「この話は、まあ、所謂私のマスターの話なのだが……そう、ニュータイプはいたんだよ。漫画の中やアニメの中だけの話じゃなく、な」
「……マスター、逃げる準備が整いましーー「待っててくれ、ユニコーン」ーー……マスター?」
もう少し、この話は聞いていた方がいい。そんな気がした俺は、逃げる準備を整えたユニコーンに静止の声を出し、エクシアの話の続きを聞くことにした。
「ニュータイプが、存在する?」
「そう。おかしいと思ったことはないか?何故、自分のガンプラが擬人化したのだろうか、と」
……それは確かに思っていた。友達に話を聞いても、ガンプラが擬人化したなんて話は聞いたことがない。いや、それもそうだ。科学的に説明できないだろう。ただの観賞用無機物が、いきなり人の体を持ち、人の声を持ち、人の感情を持つなんて。
そんな擬人化ガンプラが、何故、俺の元にあるのだろうか、と。その考えに行き着くのは、至極当然のこと。
エクシアは、話を続ける。
「先程も言ったが、この世には、ニュータイプというのは存在する。私のマスターがそうだ。……そして、ユニコーンのマスター。恐らく、お前もな」
「……じゃあ、何か?つまり、ガンプラが擬人化するのは、持ち主がニュータイプだから、と?君はそう言うのか?」
「あくまでも推論さ。だが、現時点ではその推論が一番可能性が高いというだけだ。最も、この推論はマスターの受けおりだがね」
「……」
このエクシアのマスターは、どれだけのことを知っているのだろうか?いや、先程エクシアは推論と言っていた。まだ確証はできていない……?
わからない。わからないことだらけだ。だが、元々わからないことだらけだったガンプラの擬人化現象だ。今更文句は言わない。ただ……、
「なぜ俺を捕獲するんだ?」
「それがマスターの命令だからだ」
「……拒否する、と言ったら?」
「こちらとしても、手荒な真似はしたくないのだが……そちらが拒否するならば、止むを得まい」
交渉の余地はなし、か。正直、エクシアのマスターについてはかなり興味があるが、このまま大人しく捕まるわけにもいかない。俺にはユニコーンもいるし、バンシィだっているのだ。俺が捕まる=彼女達はそのマスターの思いのまま、ということにしたくはない。
「逃げるぞ、ユニーー「遅い」ーーは?」
「……くっ!!」
ユニコーン、と。そう叫ぼうとして、ユニコーンの方を振り向いたが、そこに彼女の姿はなかった。公園の奥にあるジャングルジムまで吹き飛ばされたらしい。咄嗟に出したシールドによってガードができたようだ。
「む、やるな。あれをガードするのか」
……って、いや、いや、いやいやいや。当たり前の事のように呟いてるけど、このエクシア、まさかとは思うが、決して近くないあの距離を一瞬で詰めた挙句、ユニコーンを吹き飛ばしたのか?いくら接近戦が得意と言っても、あんな、まるで瞬間移動じゃないか。
「……さて、ユニコーンに体制を立て直される前に、お前を攫っていくとするか」
「くっ!?」
そうだ、ユニコーンの心配をしている場合じゃない!シールドでガードできたユニコーンより、今の自分の方が遥かに危機的状況にいるのを忘れていた!ユニコーンが距離を離された今、俺は丸腰。まずい、このままじゃ……!!
ーーーそう、諦めかけていた時だった。
「その男の捕獲、待ってもらおうか」
そう言って、突然現れた女の子……いや、『擬人化ガンプラ』は、俺とエクシアの間に割って入ってくると、躊躇いなく右手に持っているビームライフルをエクシアに向けて放った。
「ーーーちっ、新手か」
一度後方に飛び、距離を保つエクシア。その少しの間に、俺の元まで戻ってきたユニコーン。ユニコーンが吹き飛ばされてからここまで、わずか数秒。……これが、擬人化ガンプラ。
ーーーいや、そんなことより。
「ま、さか……」
腰まで長い、煌めく金色の髪。ユニコーンやバンシィにも負けず劣らずの、輪郭。いわゆる美少女。どこまでも澄んでいるかのような、赤い赤いサファイアの瞳。
そして、何よりも目を引くのが、その装備。赤く、紅く。そのシールド、そのビームライフル。俺の、俺の間違いでなければ、彼女は……。
「ーーーシナンジュ……?」
はい、ちょっとだけ謎が解けましたね!キーワードは『ニュータイプ』です!
これからまた更新していこうと思ってます。大変ご迷惑をおかけいたしますが、つきあっていただければ幸いです!
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