逆転偉人裁判   作:筑前国屋文左衛門

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ユダヤ人であれば人に非ず

カンッ!!

 

 

サイバンチョウ「それでは、早速一人目の被告人に入廷して頂きましょう。」

 

 

 

被告人入廷中・・・

 

 

 

 

 

ヒコクニン「被告人とは何だ!被告人とは!!一般市民の・・・・ましてやアーリア人でもない黄色い猿の分際で、偉大なるドイツ第三帝国総統であるこの私を、貴様らは罪人扱いするのかっ!!」

 

 

マヨイ「名前を言わなくても、台詞から誰か分かった気がする・・・・」

 

 

サイバンチョウ「映えある一人目の被告人は、ドイツ史上最悪最低の指導者、アドルフ・ヒトラーです」

 

 

ヒトラー「最悪最低とは何だ!!」

 

 

ミツルギ「被告人、静かにしたまえ。神聖なる裁判の場で、これ以上騒ぐのであれば、退廷させるぞ」

 

 

ヒトラー「ぐっ・・・・!!」

 

 

マヨイ「ボロクソに言われてるね・・・・」

 

 

ナルホド「やったことがやったことだからね・・・・。実際ドイツでヒトラー賞賛したら犯罪だし」

 

 

マヨイ「そうなんだ・・・・」

 

 

ミツルギ「コホン、では罪状は私が読み上げよう。

被告人は、『ホロコースト』という名のもとでユダヤ人の大虐殺を行った。その数は53万とも、400万とも、或いは600万とも言われている。

虐殺に用いられた方法は、強制労働、銃殺、ガス殺、或いは人体実験等多岐に渡る。

特に人体実験に関しては非人道的な実験が為され、多くの死者を出した。

被告人、これについて嘘偽りはないな?」

 

 

ヒトラー「うむ。だが、具体的な数については把握していない」

 

 

ミツルギ「その点については致し方ない。ドイツが戦後に発表した数値、アメリカの研究機関の発表の数値、こうれらはどれも食い違っている。

なにより、当時を知る人物が殆どいないからな。^」

 

 

ナルホド「・・・・御剣検事、話が少々ずれるが、この被告人は地獄から半ば無理やり引っ張って来たんだろう?」

 

 

ミツルギ「それが何か?」

 

 

ナルホド「だったらその当時を知る人を、地獄や天国から証人として呼んだらどうなんだ・・・・?」

 

 

ミツルギ「…………」

 

 

サイバンチョウ「それはもっともですな」

 

 

ヒトラー「うむ、私もそう思う」

 

 

ミツルギ「『待った!!』

・・・・か、数の問題ではない!!要するに統計も正確に取れないほどユダヤ人を虐殺していたということだ!」

 

 

マヨイ「逃げたね、ミツルギ検事」

 

 

ミツルギ「逃げてない!!」

 

 

サイバンチョウ「まあまあまあ、ミツルギ検事。落ち着いてください」

 

 

ミツルギ「コホン、失礼した。

このように被告人は統計も怪しくなるほどの虐殺を行った。

そもそも、この虐殺には一体何の意味があったのか。

これはユダヤ人に対する差別に他ならない。民族の差別は人道的、或いは法的にも違法である。

これほどの所業で許される点があるとは思えんが・・・・」

 

 

ナルホド「『異議あり!!』

確かに被告人の虐殺行為は、人道的にも法的にも許されたものではありません。

しかし、動機が差別だけというわけではありません」

 

 

ヒトラー「その通りだ!弁護士よ、頼むぞ!」

 

 

ナルホド「お任せください!

被告人の叔母は、ユダヤ人で度々虐められていました。また、被告人は、それ以外にもユダヤ人に虐げられた経験が幾度もあります。

ユダヤ人の虐殺は、その復讐の面もあります」

 

 

ミツルギ「『異議あり!!』

ふっ…素人かお前は。

傷害や殺人の動機として、復讐は法律上認められていない!

これだけで、ユダヤ人の虐殺の正当化することは出来ない。」

 

 

ナルホド「『異議あり!!』

本人の復讐だけではありません。

そもそも、ユダヤ人の差別・迫害したのはナチスだけではありません」

 

 

ミツルギ「なんだと?」

 

 

ナルホド「かつて、中世のヨーロッパでペストが流行した時期がありました。その時に、真っ先に感染元を疑われて処刑されたのは

ユダヤ人だったのです。

つまり、以前から差別が存在していた訳です。そして、その差別は20世紀になっても続き、旧ソ連も一部で虐殺を行っています。

被告人だけが、差別をネタに虐殺を行ったことを非難されることは、あまりにも不当ではないでしょうか!?」

 

 

ミツルギ「うぐっ!

ま・・・・『待った!!』

だが、被告人は残酷な方法で・・・・」

 

 

ナルホド「ミツルギ検事、ペスト大流行当時の処刑方法を知っていますか?

火刑(かけい)、イワユル火炙りの刑です。まだギロチンはこのときありません。

これは、十分残酷な処刑方法ではありませんか?」

 

 

ミツルギ「・・・・た、確かに残酷なものではある。

いや、寧ろ銃殺やガス殺よりも残酷かもしれない」

 

 

ヒトラー「良いぞ、弁護士!そのまま私を無罪にまでするんだ!!」

 

 

ナルホド「(駄目だ、この人全く反省してないな…。いくら何でも無罪は無理だろ・・・・)」

 

 

マヨイ「ナルホド君、あたしだんだんあの人に腹が立ってきた。

もうここで弁護やめていいんじゃないかな?」

 

 

ナルホド「そ、そういう訳にもいかないよ・・・・」

 

 

サイバンチョウ「なるほど、確かに周りが皆差別をするなかで、被告人だけが攻められるのが不当、というのにも一理ありますな・・・・」

 

 

ミツルギ「『待った!!』

ナルホド、キサマは一つ見逃していることがある。」

 

 

ナルホド「なんだと?」

 

 

ミツルギ「確かに、被告人以外にも多くの人がユダヤ人を差別している。

そこは認めよう。

しかし、被告人はその差別を利用したのだ。

周りはユダヤ人を差別する風潮にあった。その中で、ユダヤ人の虐殺を公約に掲げた政党があればどうなると思う?

結果は見えている。当然ながら当選するわけだ。

そうだろう、被告人?」

 

 

ナルホド「あっ!」

 

 

ヒトラー「だから何だと言うのだ」

 

 

ミツルギ「被告人がもし、国の命令で虐殺を行っていたのであれば、一人だけ非難を浴びるのは不当と言えたかもしれない。

だが、被告人は寧ろ指導する側にいた。

つまり、誰よりも率先して差別を推し進めていたということだ!」

 

 

ヒトラー「ぐっ!!」

 

 

ミツルギ「この件について、被告人が責められることは決して不当ではない!」

 

 

ナルホド「『異議あり!!』

し、しかし!被告人以外にも差別を指導した人は大勢・・・・」

 

 

ミツルギ「ナルホド、他人もやっていたから自分だけが責められるのはおかしい、という理論は分からないでもないが、いささか説得力が足らないのではないか?

しかも一番の問題は、被告人がそれを率先してやっていたのだ」

 

 

ナルホド「うっ・・・・」

 

 

サイバンチョウ「私も先程、一理あるとは言いましたが、正直なところ被告人の行為が正しかったとは思えません」

 

 

ナルホド「・・・・・・・・・」

 

 

ヒトラー「お!おい弁護士!何か・・・・何か言い返さないか!!」

 

 

サイバンチョウ「どうやら反論する余地がなくなったようですな。それではこれより判決を言い渡します。

なお、この裁判では被告人の行動が正しかったと判断した場合は、無罪。

そうでない場合は有罪と表現します。

では、改めて被告人に判決を言い渡します」

 

 

 

 

 

 

 

『有罪』

 

 

 

 

 

ヒトラー「なんだとぉぉ!!!!??」

 

 

ミツルギ「まあ、当然の結果だな」

 

 

マヨイ「ナルホド君、良くやったと思うよ。これ・・・・・逆転にはあまりに厳しいもん」

 

 

ナルホド「僕もそう思ってたよ、正直」

 

 

ヒトラー「こんな判決認められるか!!やり直しだ!!裁判のやり直しを要求する!!」

 

 

サイバンチョウ「・・・・・・・・・。

被告人・・・・いえ、ヒトラー総統。あなたは戦争と虐殺さえなければきっとドイツ史上最高の指導者になっていたでしょう」

 

 

ヒトラー「ん?」

 

 

ナルホド「サイバンチョウ・・・・?」

 

 

サイバンチョウ「第一次世界大戦で敗北によってドイツは凄まじいインフレが起き、国民は貧困にあえいでいました。

しかし、そんな中であなたは立ち上がり、国民を勇気づけ、公共事業を行って見事にインフレを解消しました。

それどころか、わずか10年そこらで世界を相手に戦争できる程の国力をつけさせたのです。

実際、当時のドイツ人の日記には、戦前のヒトラーはよかった、といった主旨の記載があります」

 

 

ヒトラー「・・・・・・・・・・」

 

 

サイバンチョウ「『ハイルヒトラー!』という言葉・・・・日本で例えるなら、『天皇陛下、万歳』に相当する言葉で、国から強制されたイメージがありますが、

恐らく、戦前のドイツ国民は心の底からあなたを讃えていたのではないでしょうか?

そういう意味では、あなたは国民の期待を裏切った、ということでしょう。為政者たるもの、国民を欺き、裏切るようなことがあってはいけません」

 

 

ナルホド「・・・・・・・・」

 

 

サイバンチョウ「良いですかな、被告人。あなたの虐殺や戦争の罪は大変重いですが、一番の罪は、あなたに期待をしていた国民を裏切ったことです。

それを忘れないように」

 

 

ヒトラー「国民の期待を裏切った罪か・・・・うむ、死んでからは考えたことがなかったな。

裁判長、私は」

 

 

サイバンチョウ「それでは、これより被告人が退廷いたします。皆様拍手でお送りください」

 

 

ヒトラー「え?」

 

 

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ヒトラー「スタンディングオベーションではないか!!!

貴様ら、そこまで私が出てってうれしいか!!」

 

 

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ヒトラー「拍手で答えるな!!!」

 

 

カンッ!!

 

 

 

 

被告人退廷中・・・・

 

 

 

 

 

サイバンチョウ「第一回目の偉人裁判、お疲れ様でした。

いかがでしたかな?」

 

 

ナルホド「あまりにもハードル高過ぎません・・・・?僕・・・・」

 

 

ミツルギ「ふん、それを何とかするのが弁護士というものだろう」

 

 

ナルホド「じゃあ、やってみろよ・・・・。絶対無理だから、いくら何でも」

 

 

 

マヨイ「確かにきつかったも思うよ、今回は」

 

 

サイバンチョウ「確かに、今回はナルホド君がかなり不利な立場でしたな。

しかし、経済をよくした面がありながら、何故悪の大王の様に言われるのでしょうな」

 

 

ミツルギ「勿論、残虐であったことも理由の一つだろうが、一番の理由は戦争に負けたからだろう。

アメリカ大頭領のトルーマンは、日本に原爆を落とすことを指示した人物だが、そこまで悪人にはされていない。

一方でギリギリまで開戦を避けようとしていた、東條英機は処刑され、戦後は悪の権化の様に言われている。

『勝てば官軍』という言葉もあるように、歴史は勝者が作るものだからな」

 

 

サイバンチョウ「悲しいものですな」

 

 

ナルホド「でも、そうやって悪人や善人と呼ばれてる人が、本当にそうだったのかを議論するのがこの場でしょう?」

 

 

サイバンチョウ「ナルホド君のいう通りですな。ひとつの見方だけでなく、違った見方をすれば、意外な面もあるかもしれませんしな。

さて、これより15分の休憩に入ります」

 

 

ナルホド「え?・・・・休憩?まさか、このあともどんどん裁いていくんですか?

また、別の日に・・・・とかじゃなくて」

 

 

サイバンチョウ「今日1日だけでだいぶ裁くつもりでいますぞ。

両人ともついてきてもらいますぞ?いいですな?」

 

 

ナルホド&ミツルギ「はい。(今日は一段と疲れそうだ…。)」




アドルフ・ヒトラー
生没年1889~1945

ドイツの政治家。
ドイツ首相を経て、総統に就任。
ポーランドに攻めこんで第二次世界大戦を引き起こし、イタリア、日本と組んで「枢軸」陣営で戦った。
ソ連侵攻に失敗した後、ベルリンを包囲され拳銃自殺。
政策の一つにユダヤ人への迫害を掲げ、ホロコーストの名のもとに、多くのユダヤ人を虐殺した。

経済政策では、大規模な公共事業を実施し、ハイパーインフレに陥っていたドイツ経済を立て直した。これは、後にアメリカのルーズベルトが、ニューディール政策をする際に参考にした。

また、画家でもあり、彼の作品は後世に多く残されている。
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