カンッ!!
サイバンチョウ「さて、お二方休憩は取れましたかな?。」
ナルホド「はい、お菓子は美味しくいただきました。」
ミツルギ「お心遣いに感謝する。」
サイバンチョウ「お二人がリラックスできたのでしたら、よろしい。
それでは、早速被告人に入廷してもらいましょう。」
被告人入廷中…
サイバンチョウ「それでは、被告人。職業と名前を。」
ヒコクニン「織田信長が家臣、明智光秀でございます。」
マヨイ「うわぁ…凄い人来ちゃった。」
ナルホド「戦国時代の人まで裁くのかよ・・・。」
マヨイ「でも、最初に比べたら物凄く楽だと思うよ?」
ナルホド「……いや、一人目は逆転できないよ。主人公が最初から諦めるってのもどうかと思うけど。」
ミツルギ「では、罪状を読み上げる。
被告人は1582年6月21日、京都の本能寺に宿泊していた主君の織田信長・当主の織田信忠を襲撃し殺害した。
当時の織田信長の力は絶大なもので、諸大名はきっと恐れていただろう。よくその中で裏切れたものだな?」
光秀「我ながら、とても大胆なことをしたと思っております。」
ミツルギ「そもそも、何故謀反を思い立ったのだ?」
光秀「普段から積もりに積もった恨みを晴らす、というのも理由の一つではありますが。」
ミツルギ「鯛が腐っていたことを叱責された、とか言う話もあったな」
光秀「それに関しては全く気にしてない、と言えば嘘になりますが……真
の理由が別にあります。」
ミツルギ「ほう、それは気になるな。一体どういう理由なのだ?」
光秀「この場ですから申し上げます。
あの方は、あろうことか自ら天皇になろうとしていたのです!!」
ミツルギ「何?」
サイバンチョウ「それは知りませんでしたな 。」
ナルホド「事実、信長は度々天皇の譲位を促していたと主張する学者もいます。
被告人、あなたはどのようにして信長が、天皇の位を狙っているとわかったのですか?」
光秀「あれは、石山本願寺と和睦を結んだ日の夜のことでございます。
信長様からお呼びがかかりまして、色々と指示が出された最後に…信長様が私にこう尋ねたのです。
『わしは、この国に王は一人しかいらぬと考えておるが、お主はどうじゃ?』
と。
最初は何を言っているのかよく分かりませんでしたが……その意味に気づいた時に私は言葉を失いました。
結局、その後別の話に切り替えられてしまい、この話はなかったかのようになりました。」
サイバンチョウ「なんと……。」
ミツルギ「…語られぬ歴史、というものか。」
マヨイ「ねえねえ、どうして天皇云々でここまで驚くの?」
ナルホド「今でこそ、天皇は『象徴』ということで唯のお飾りみたいになっているけど、昔は『神の子孫』って言われてたからね。どんなことがあっても天皇の権威を犯してはいけない、という考えが無意識のうちにあったんだよ。」
ミツルギ「源平合戦や戦国時代があったにも関わらず、天皇が殺されることがなかったのもその考えがあったからだ。
他国にはないことだな。」
サイバンチョウ「もっとも、それを教育として押し付けた結果、簡単に軍国主義に傾いたのかもしれませんがな。」
光秀「ともかく、私が謀反を起こしたのはそういう訳でございます。
間違っても、個人の感情だけで謀反は起こしてはおりません。」
ミツルギ「とは言えだ、それが謀反を起こす正当な理由になるとは言えない。
殺人罪は一先ず目をつむるとして、主君を裏切る、という武士道の世界ではおおよそ許されないような行為を犯している。しかも、その後に味方を募ろうとしていた。
天皇を守る為とはいえ、それ相応の批判は受けて当然と考えるが。」
ナルホド「『異議あり!!』
ミツルギ検事、君は今、戦国時代の人間を裁こうとしているのだよ。」
ミツルギ「それが何なのだ?」
ナルホド「歴史の授業を忘れたのかい?
戦国時代、『下剋上』が盛んだった事実を!!」
ミツルギ「なっ……しまった…!」
ナルホド「被告人や被害者が活躍していた時代は、戦国時代の後半に当たりますが、まだ下剋上が盛んでした。
むしろ、戦争中なのですから、そんなことが起きても不思議ではありません。
ミツルギ検事は先程、戦争を理由に殺人罪には目をつむる、と言いました。それならば、戦争を理由に主君を裏切ることも目をつむるべきではありませんか!?」
ミツルギ「『異議あり!!』
…先程はうっかり焦ってしまったが、その理論は、ヒトラーの裁判と同じではないか。
周りが許容されるなら、自分も許されるという主張は詭弁以外の何物でもない!」
ナルホド「『異議あり!!』
先程と今回の事例には決定的な違いがあります!」
ミツルギ「決定的な違いだと?」
ナルホド「ミツルギ検事が持ち出した例の場合、平常時から行っていた、という点にも問題があると言えます。
しかし、被告の事例は『戦争』という非常事態の中で起きたものです!
こういった場合において、法や人道が正しく作用するとは思えません!!」
サイバンチョウ「つまり、戦争のように社会が混乱している状態では、無政府状態のようになっても仕方ない、ということですな。」
ミツルギ「『待った!!』
しかし、その為には戦争をしていた、という事実が必要だ。
被告人、お前が本能寺の変を起こした時、織田軍はどこかと戦争をしていたか?」
光秀「ええ、中国の毛利と戦をしておりました。」
ミツルギ「なにっ!?」
光秀「確か、猿が相手をしておりましたが…」
ミツルギ「猿……?…………秀吉か!」
ナルホド「サイバンチョウ、弁護側は証人として豊臣秀吉をお呼びすることを提案します。」
サイバンチョウ「ふむ………戦国武将が一度に二人も…。これは楽しみですな。是非入廷させ……い、いや、証人の入廷を許可します。」
ナルホド「(もしかしてサイバンチョウ…偉人を生で見たいが為にこんな場を…?)」
証人入廷中………
秀吉「ほぉ~、これが『法廷』か。実に豪華な作りではないか。しかし、些か黄金が足りぬのぉ。」
マヨイ「…言ってることが完全に成金趣味だね……」
ナルホド「そりゃあ、黄金の茶室を作るような人だもんな……というか…」
秀吉「あっ!!光秀!!貴様よくも殿を!!」
ナルホド「…こうなるんだよな。裏切った人間と、その仇を取った人間が並ぶと…。」
マヨイ「なんで分かってるのに呼んじゃったの!?取っ組み合いの喧嘩が始まったよ!」
サイバンチョウ「し、証人!落ち着いてください!」
光秀「猿よ、許せ。儂はどうしようも無かったんじゃ。」
秀吉「どうしようも無かったじゃと!?自ら謀反を起こしておいてその言い草はなんだ!」
ミツルギ「証人も被告人もいい加減にしないか!!何してる警備員、早く二人を止めたまえ!」
喧嘩仲裁中…
秀吉「……………」
マヨイ「見るからに不機嫌そうだね……」
ミツルギ「…コホン。証人、今後あのようなことは慎むように」
秀吉「ふん、お前こそ天下人に対する礼をわきまえるんだな」
ナルホド「(……弁護の為に呼んだけど、なんだか心配になってきたぞ…)」
サイバンチョウ「では、証人尋問を行います。証人、貴方は被告人が謀反を起こした時、どこで何をしていましたかな?」
ナルホド「(秀吉は中国地方の毛利を攻めていた、だとすれば当然中国地方にいて戦の準……)」
秀吉「駿河の家康殿と飯を食っておりました」
ナルホド・光秀「はああああぁぁぁ!?」
サイバンチョウ「それは本当ですか?」
ナルホド「『待った!!』
サイバンチョウ!証人の証言は嘘です!騙されたらダメです!」
サイバンチョウ「……ナルホド君、証人が予想外のことを言ったからと言って、それを虚偽と断定するのは感心しませんな。」
ナルホド「いやいやいやいや!だって、史実ですよ!歴史的な事実ですよ!」
光秀「ナルホド殿の言う通りでございます!猿は信長様に毛利討伐を命じられ、中国地方に行っておりました!
…猿め、一体どういうつもりじゃ!」
秀吉「わしゃあ、本当のことを言ったまでじゃ」
ナルホド「(完全に私怨が入ってるよ、鼻ほじりながらそっぽ向いてるこの態度は…)」
ミツルギ「ふむ…そういうことか」
ナルホド「ミツルギ!違う!証人の言ってることはデタラメなんだ!」
ミツルギ「つまり、秀吉公による中国大返しは無かった、ということか。」
秀吉「!!」
ミツルギ「主君を強く思う気持ちが表れた、素晴らしい事件だと思ったが、まさか想像上の出来事とは驚きで、尚且つ失望すら覚える。」
秀吉「いや、そ…それは…」
ミツルギ「どうした証人?本能寺の時は家康のもとにいたのだろう?」
ナルホド「(…そうか!中国大返しは秀吉が中国地方にいなければ、そもそも起こらない!なんで気がつかなかったんだ!)」
サイバンチョウ「証人、検事からこのような指摘がありますが…。」
秀吉「ぐっ……み、光成を呼べ!」
サイバンチョウ「証人、あなたの口から語ってもらいたいですな。」
秀吉「………。」
光秀「猿、正直に申せ。そうでないとお前の手柄自体が消滅するぞ、そうなれば勝家や長秀が黙っておらんぞ。」
マヨイ「完全に黙っちゃったね…。」
ナルホド「多分、もう何も言い返せないよ。
サイバンチョウ、証人の証言は虚偽と判断すべきと考えます。」
ミツルギ「私も同意見だ。」
サイバンチョウ「どうやら、この場にいる全員が同じようですな。
では証人、真実を教えて頂けますかな?」
秀吉「………仕方ないのう、謀反が起きた時は、中国の毛利をまさに攻めている時じゃった。」
ナルホド「サイバンチョウ、この発言こそ真相です。
織田軍は証言の通り、戦争状態にあったと言えます。」
サイバンチョウ「となりますと、被告人の行為は正当なものと言えますな。ミツルギ検事、異議はありますかな?」
ミツルギ「史実として証拠がある以上、それに異議を唱えることはできない、真相をねじ曲げることになるからな。」
サイバンチョウ「…ミツルギ検事、あなたも変わりましたな。」
ミツルギ「…………」
サイバンチョウ「それでは、被告人に判決を言い渡します。」
『無罪』
光秀「ありがたき……いや、咎め無しとは些か申し訳なさすら覚えます。」
マヨイ「正直、光秀って聞いて極悪人のイメージしかなかったんだけど、礼儀正しくて頭良さそう。なんか印象変わった。」
ナルホド「頭良さそう、というか頭良いんだよ、マヨイちゃん…。」
サイバンチョウ「被告人、少しは精神的に楽になりましたかな?死んでからずっと裏切ったことを気に病んでいたと聞きましたが。」
ナルホド「え?」
光秀「当然でございます。主君を裏切るなど、本来あってはならないこと。ましてや、信長様には多大なる恩義があるにも関わらず、あのような仕打ち。
申し訳なく思わない訳がありません。」
サイバンチョウ「素晴らしい忠義心ですな。」
秀吉「(……おもしろくないのぉ…)」
ミツルギ「…随分と不満そうだな、証人。天下人として尊敬されたければ、貴様も被告人を見倣うんだな。」
秀吉「ふんっ!」
明智光秀
生没年1528~1582
日本の武将。
斎藤家や朝倉家など、仕える大名を転々とし、最終的に織田家の家臣となる。
部下として長く織田信長を助けていたが、1582年に本能寺の変を起こし、信長を殺害。
しかし、毛利を攻めていた羽柴秀吉が帰還し、山崎の戦いで対峙、敗北。最期は落ち武者狩りによって殺されたという。
尚、「三日天下」という言葉は、本能寺後の光秀による短い天下を基に生まれた。
謀反の理由は諸説あり、信長が天皇の位を狙っていたのも一つとされる。しかし、実際には信長自身、天皇の位を望んではいなかったとする説が有力。