逆転偉人裁判   作:筑前国屋文左衛門

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史上最恐の暴君

カンッ!!

 

 

サイバンチョウ「ナルホド君、私は君に謝らなければなりません。」

 

ナルホド「どうしたんですか?」

 

サイバンチョウ「次の被告人ですが……その……。」

 

ナルホド「あぁ…なんとなく予想つきましたよ。また、逆転不可能な人なんですね…。」

 

ミツルギ「ほう、弁護士が被告人を信じずに諦めるか。」

 

ナルホド「ヒトラーみたいなのが来たらどうしようもないじゃないか…。」

 

マヨイ「…ねえ、ナルホド君。気のせいかもしれないけど、なんか警備員が増えてない?」

 

ナルホド「言われてみれば……。」

 

サイバンチョウ「被告人を見れば、その理由もわかるでしょう。では、被告人を入廷させます。」

 

 

被告人入廷中……

 

 

ヒコクニン「……………」

 

ナルホド「(が、眼力がすごい…。)」

 

サイバンチョウ「被告人の名前はイワン雷帝。凄まじい虐殺と恐怖政治を行ったモスクワ大公国(現ロシア)皇帝です。」

 

ナルホド「(こ、この人か…)」

 

ミツルギ「ふむ、人の性格は外見に出ると言うが、被告人を見るとそれが正しいことが良く分かるな。」

 

イワン「おい貴様、それは我輩に対する愚弄か。」

 

ミツルギ「それは失礼したな。」

 

ナルホド「ミツルギ、よく平然と返せるな……。」

 

ミツルギ「被告人がどんな人物であれ、それを恐れれば、検事などという職は務まらないからな。」

 

サイバンチョウ「それではミツルギ検事、罪状を読んで頂きますかな。」

 

ミツルギ「では……。

被告人は、スパイ及び反逆の容疑で、貴族や家臣、将軍を大量に投獄、拷問、処刑した。

他にも、オプリーチナと呼ばれる広大な直轄地を都市部に敷き、元々そこの領主だった貴族は、代わりに極寒のシベリアの土地が与えられた。

さらに1570年、謀反の疑いを名目に、ノウゴロドの住民の4分の3を虐殺した。

被告人、これに誤りはないか?」

 

イワン「ふん、だから何だと言うのだ。」

 

ミツルギ「一連の虐殺による被害者は、ほぼ全て冤罪による処刑であり、彼の深い猜疑心によるものだ。」

 

マヨイ「ね、ね、カイギシンって?」

 

ナルホド「周りが信じられなくなって、疑心暗鬼になることだよ。」

 

ミツルギ「オプリーチナにしても、被告人の猜疑心が生んだ策であり、領主の貴族には当然拒否権がない。拒否すれば、股関から串刺しにされるのが予想できるからだ。

ノウゴロドの件にしても、謀反は明らかなデマであるにも関わらず断行し、大虐殺を行った。

このような鬼の所業は到底許されるものではなく、被告人は重く罰せられて当然だな。」

 

ナルホド「『異議あり!!』

確かに被告人は、大量に虐殺行為を行いました。その動機も彼の猜疑心、という性格の問題であり、直接的な動機ではありません。

しかし、彼の猜疑心が芽生えたのは、彼の壮絶な生い立ちによるものであります。」

 

サイバンチョウ「壮絶な生い立ちですか、実に気になりますな。」

 

ナルホド「被告人、お辛いでしょうがよろしいですか?」

 

イワン「勝手に話せ。」

 

ナルホド「被告人の父親ヴァシリー3世は、被告人が3歳の時に病死。それから5年後、母親が王家の財産を狙う貴族に毒殺されます。

被告人の周りは財産を奪おうとする陰湿な貴族ばかりで、虐待は日常的。満足に食事もさせて貰えませんでした。

結果、被告人は『強者こそ全て』という思想に染まり、動物への虐待を始めます。

 

一連の生い立ちが、被告人の人格に多大なる影響を与えたことは疑いようのない事実です!よって被告人には情状酌量の余地があると言えます!」

 

サイバンチョウ「被告人、さぞお辛かったでしょうな。」

 

イワン「今となっては、もう良いことだ。そのような者達は、一族郎党使用人含め、全員串刺しに処した。

死して地獄に落ちた後も、その貴族を見つければ言いがかりをつけて密告し、血を流させておる。

貴様らに分かるか?人が血を流し、苦しみ泣き叫ぶ様は実に素晴らしい。どんなに嫌なことがあっても虐殺を見るだけで、胸がすくような思いだった!ああ、たまらん!!あれはまるで麻薬だ、だがそれが良い!」

 

ナルホド「………………。」

 

マヨイ「……完全に表情が危ない人だね……。」

 

ナルホド「サディズムを極めた、って言い方がしっくりくる人だよな……。」

 

ミツルギ「しかしだ、生い立ちに原因があり、情状酌量をもってしても、その罪状はあまりにも重い。少なくとも、それだけで無罪にできるとは思えない。

目を見開いて流血を渇望するなど、被告人の性格に大きな問題があるとしか言えない。」

 

ナルホド「うっ……………た、確かに……。」

 

マヨイ「ちょっと!!納得しちゃってどうすんの!

確かに、こんな………こんな……ヤバイ…人、だけどさ……。」

 

ナルホド「後にいくほど声量が下がってるよ、マヨイちゃん…。」

 

イワン「弁護人、何も反論しないのか?しなければ粛清の対象になるが。」

 

ナルホド「ええええぇぇぇぇ!?しゅ、粛清されるんですか、僕!?」

 

イワン「当然だ、被告を守れない弁護人など要らない。それが嫌なら、串刺しになるか?」

 

ナルホド「いやいやいやいや!分かりました、反論しますから!反論しますから!そのきつい目付きも止めて下さい!」

 

サイバンチョウ「遠目に見てますが、こちらもなんだがヒヤヒヤしますな…。」

 

ミツルギ「ではナルホド、早速反論してみろ、できなければ来週から、『赤いスーツのあの弁護士』に来てもらうことにしよう。」

 

ナルホド「オドロキ君じゃないですか!勘弁してくださいよ!」

 

ミツルギ「なら、反論してみたまえ。時間が押している。」

 

ナルホド「……………………。

被告人の貴族に対する行為は、確かに残酷の限りを尽くし、情状酌量をもってしても、許されにくいことかもしれません。

しかし、被告人の粛清行為は、腐敗した貴族達を廃し、モスクワ大公国、やがてはロシアの発展の基礎を作りあげたものです。

今のロシアがあるのはイワン雷帝のおかげであり、それを考慮して再度酌量すべきではないでしょうか!!」

 

ミツルギ「『異議あり!!』

……ふっ…詭弁だな。確かに貴族の粛清についてはそう言えるだろう。だったら民間人を粛清した件についてはどう説明する?」

 

ナルホド「ぐっ!!」

 

ミツルギ「ノウゴロドの虐殺の影響に至っては現在でも残り、非常に歴史ある街にも関わらず、未だに小都市のままだ。

 

民を大事にしないで、本当に国の基礎を作ったと言えるのか!!」

 

ナルホド「…………………勝てない…。」

 

サイバンチョウ「どうやら、これ以上反論は厳しいようですな。」

 

 

バキッ!

 

 

サイバンチョウ「バキ………?、何の音ですかな?

って被告人!前の柵を折って何をするつもりですか!?」

 

イワン「言ったろう。被告を守れぬ弁護士は要らぬと。我輩が直々に粛清してやるから感謝するんだな。」

 

ナルホド「ええぇーーっ!!わ、ちょっ来ないでください!!」

 

ミツルギ「騒ぐなナルホド。こんな時の為に警備員をいつもの倍に増やしてある。」

 

マヨイ「6人かかってようよう抑えてるね。」

 

サイバンチョウ「恐ろしい力ですな。」

 

ナルホド「サイバンチョウ!弁護側、被告人の退廷を求めます!というか、振りきられると、僕殺されるんでホント早くお願いします!!」

 

ミツルギ「検察側も同意する。法廷で血を見るのは避けたいからな。」

 

イワン「貴様ら………揃いも揃って我輩を排除するか……!良かろう、貴様らが地獄に堕ちた暁には数百倍に復讐してやる……!」

 

マヨイ「目が本気だね…真面目に生きて天国にいけるようにしよう…。」

 

サイバンチョウ「…それでは、双方から要請があったので被告人を退廷させます。」

 

 

被告人退廷中……(20人掛りで)

 

 

 

ナルホド「警備員20人も動員したのかよ!」

 

マヨイ「ナルホド君、帰りの夜道…気を付けてね…」

 

ナルホド「マヨイちゃん!冗談でも言って良いことと悪いことがあるんだよ!」

 

ミツルギ「さて……サイバンチョウ、そろそろ判決をお願いしたい。」

 

ナルホド「わざわざ言う必要あるのか……」

 

サイバンチョウ「そうですな。まあ、結果は大体予想がつくと思われますが、一応形式として出させて頂きますぞ」

 

 

 

 

 

 

 

『有罪』

 

 

 

 

 

 

 

マヨイ「やっぱりね。」

 

サイバンチョウ「逆転は不可能に近い人物でしたからな。仕方ありませんね。

さて、すぐにも休憩に入りましょうか。特にナルホドはお疲れでしょう。」

 

ナルホド「ええ……とても…(何より、死ぬのが凄まじく恐ろしくなったよ……)」

 

 

 

 




イワン四世
生没年1530~1584


モスクワ大公国(現 ロシア)国王。「雷帝」と渾名が付くほど、非常に残虐かつ苛烈な性格であり、貴族や国民を畏怖させた暴君。貴族の腐敗を無くし、国力増強に努めた一方、身分に関係なく虐殺や拷問を嬉々として行ったことから、本国ロシアでも評価が分かれている。

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