深夜、殆どの人間が寝静まって呪霊が最も活動する時間。
孤児院のリビングで少女と少年が机を間に挟み会話をしている。
「へー、あのおばけは他の人に見えなくて危険なんだ」
「そうだ、だから出来るだけ関わらないでほしい」
「じゃあもうちょっと教えてくれてもいいんじゃない?」
負けるッ!十にも満たない女の子に口で負けるッ!!
どうにかして誤魔化したい、だが完全に見られていたから難しい。
はっ!俺もよく知らないことにすればいいんじゃないか?
そうすれば説明できないことも納得できる、納得はすべてに優先するぜ!
「そうは言っても…僕もよく知らないんだ、最近見えるようになって…」
行けるぞ!完璧だ、俺の頭脳が恐ろしくなってくるね!
これならこれ以上の追及もないはず、そして適当に理由づけて他人に言わないようにすれば終わりだ。
「ならなんであんな強かったの?」
うーん…どうしよ。
「生まれつき…ダヨ?」
「嘘つき、最近見えるようになったなら手際よく倒せないよ」
「僕の才能が怖いよね」
これは詰んだか?
というか俺がわざわざ隠す必要もないんじゃないか?
星野アイは元々呪霊が見えていたっぽいし俺が隠してもいつか知ることになるんじゃないか?
なんならその前に死ぬんじゃないか?
…それは流石によくないな、俺が知ってるはずの知識だけは教えておくか。
「言うつもりないんだ…わたし、最近あういうの見えるようになってさ。怖いんだ、本当は。いつか殺されちゃうんじゃないかって、襲ってくるんじゃないかって」
「ふぅ…わかったよ、言うよ、言うって」
「ほんと!?やった!!」
「つっても本当に僕もよく知らないけど」
「それでもいいよ、教えて」
「あれの正式名称とかはしらないけど、妖怪って呼んでる。僕は生まれた時から見えてた、人間に取り付いたり、強いのだと食べたりする。そんで自分の中にある変な力…これは呼び方は決めてない、それを体に循環させると体が強くなる」
「やっぱ襲ってくるんだ、力って朱殷くんから出てるそれ?わたしも体強くできる?」
「僕以外に体に循環できる程力が多い人は見た事無いけど…」
今気づいたけど…君、呪力多いね?
僕ほどではないけど出力も高い、総量も僕には遠く届かないけどたくさんあるな。
だけど変に呪術界に引き込んでもいいのか?いや、呪霊が見える時点で手遅れか。
「驚いた、僕以外にこんな多い人なんて初めて見たよ。殆どの妖怪から逃げるくらいなら出来るんじゃないかな」
「そっか…でも、朱殷くんが守ってくれると嬉しいな」
「口説いてるつもりかい?中々やるね」
「落ちてくれてもいいのに」
末恐ろしい…成長したら何になるんだ?
アイドルか、伝説の。こりゃ天職ですわ。
「ある程度使えるようになるまで教えてあげてもいいけど」
「おねがい」
「随分食い気味だな、そんなに妖怪が怖いか?」
「怖いでしょ、普通に」
「そりゃそうか」
なら今、軽く教えるか。
他人に教えた事なんて一度もないけど、何とかなるでしょ。
まずは呪力の自覚からかな、こんだけ才能あるんだったら楽勝でしょ。
「まずは…今日は一旦寝ようか」
「えっ」
「えっ」
「今日は教えてくれないの?」
なんだ、そういう事か。
明日ここを出るでもないし、孤児院の呪霊は全部祓ったからしばらくは安全でしょ。
だから焦って教えなくても大丈夫だ、呪術って意外と体力使うし。
「そう焦らなくてもいいでしょ、時間が無い訳でもあるまいし」
「そうだけど…」
「それに、俺が守るからさ」
「へー…ふーん…」
?
どうしたんだ、急に。
まあいいか、今日は精神的に疲れたし寝よ。
起きた、新しい朝だ。
最初に目に入ったのは知らない天井、今だ!あのセリフを言うしかない!
「知らない天井だ…」
「当たり前でしょ、ここに入ったの昨日なんだし」
「!?」
誰だ!?このベッドは一人用で昨日は一人で寝たはずだぞ?
紫の髪に星を宿した目、子供ながらにこの世の物とは思えない美貌。
なんだ、星野アイか。
「いや、何でここいんだよ」
「?、朱殷くんが眠った後に朱殷くんの布団に入ったからだけど?」
「当たり前の事のようにヤバい事言うじゃん…」
ダメでしょ、男女が同じベッドで寝たら。エッチなのはダメ!
俺らまだ10歳行ってないからセーフか…?否、アウトだろ。
てかこの場面を他人に見られたらヤバいんじゃないか?普通に入園初日で女と同衾したヤバいやつだろ。合って間もない男と同衾する女もヤバいけどな。
「とりあえず離れてくれるか?他人に見られたらマズい」
「何がまずいの?」
「何もかも」
「ちぇっ…いいよ」
視線を感じる。この身体はハイスペックで、視線を感じることも、それに乗る感情も覚ることが出来る。
視線に乗る思念は、驚愕、疑念、気まずさ。
―――見られた
ほーん、孤児院二日目で最低な評判が広がることが確定。
クソァ!!
その後、俺は誰にも話しかけられることなく朝食を食べ終え、園長室に来ていた。
ちなみに陰口は聞こえた、詰んだ。
「朱殷君、君は来年から小学校に通うことになるからね。ランドセルの色や行く小学校を決めてほしいんだ」
ランドセルの色というワンクッションを挟みながら話された園長の話をまとめると、行く学校を決めろとのことだった、選択肢は二つ。
一つは孤児や捨て子が集まり、こういう孤児院と提携している、いわゆる
もう一つは何の変哲もない普通の小学校。
(何もなければ呪霊が多そうな提携している学校だが…)
「園長先生、星野さんが行っている学校はどっちですか?」
―――守るって言っちまったからな、流石に責任は取らないといけない。
それに呪術師としてこういう口約束も縛りになる可能性がある、一応のケアもしておかなければならない。
「星野さんは仲間の子たちが少ない方の学校だね、そっちがいいのかい?」
「はい、そちらでお願いします」
「わかった、何かあれば星野さんを頼るといい、先輩だからね」
「ちなみに、星野さんって何歳ですか?」
「彼女は六歳だよ、今年から新一年生だ」
思ったより子供だった…この年であそこまで受け答えがしっかりしているとは、完璧超人だな。コメディアンの方じゃないぞ。
そんなくだらない事を考えながら僕は園長室を出た。
出てくるまでまっていたのだろう、短髪に刈り上げた体格のデカい子供が声を掛けてくる。
「なあ、おまえちょっとこいよ」
「なんだい?要件ならここで聞くよ」
俺は知ってるぞ!これは所謂いじめってやつだな!
二日目から問題を起こすのは良くない、適当にあしらって帰ってもらおう。
陰口なら好きに叩いてもらっていいんだが、暴力沙汰になると面倒だ。
できればどっちもやめてほしんだがな、呪霊発生の原因になる。
「いいから来いってんだよ!」
強引に腕を掴まれる、避けることもできたがあえてしない。
問題を起こすのは避けられなさそうだな、なら出来るだけ人目のつかない所でやるか。
ほっといてたら勝手に案内してくれそうだしな。
さて、連れられながら少し話そう、誰にってわけでもないがしいて言うなら自分への説得だな。
連れていかれたなら選択肢は大体二択である、反撃するか、大人しくボコられるか。
反撃した場合は、呪霊が増える可能性があり、問題にもなる。
大人しくボコられれば誰も報告せずに、丸く収まる。呪霊が増える可能性も減る。
だから、俺は反撃しない、犬にかまれたと思ってやり過ごす。
いつの間にか子供が増えている、最初は刈り上げ君だけだったのに四人くらいになっていた。
「おまえちょうしのってんだろ!」
「そんなことないさ」
「すかしてんじゃねえ!」
そう言って殴ってくる。
うーん醜い、これは夏油さんも猿呼びしますわ。
その時俺は、苛立ちであふれ出る呪力を抑えるために遠くから突き刺さる視線に気が付かなかった。
「朱殷…くん……?」
もう続かない