お薬鬱々雷蛍術師ちゃん   作:降臨してない異邦人

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間章
ボコボコ雷蛍術師


 

「「「Ya!!!」」」

 

 モンドの外、広がる草原の中でヒルチャールの声が響く。

 

「バーテ、そこで見ててね」

 

 私の隣、綺麗な髪色なんだろう少女がこちらに背を向けながら剣を抜いた。

 

「はい......」

 

「オイラも見てるぞ〜」

 

 気の抜けた声を背景に少女は流れるようにヒルチャールの首を落としていく。

 

「...バーテ、パイモン。大丈夫だった?」

 

 金髪の少女─蛍はあたりに敵がいないことを確認してから振り向く。

 

 ......嘘偽りのない、本心から心配しているという顔だ。

 

「おう、大丈夫だぞ!」

 

「はい......」

 

「それならよかった。そろそろご飯にしようか」

 

 旅人はテキパキとそこらの枝木を集めて火を使う準備をしていく。

 

「美味しいから期待して待ってろよ!」

 

「......」

 

「作るのは私だけどね」

 

 旅人は目を分かりやすく細めてパイモンに言葉を返す。

 

 ただの戯れで悪意なんて欠片もない。

 

「......あの!」

 

「ん?」

「どうしたの?」

 

「どうして私と一緒に行くんですか!?」

 

「どうしてって......身寄りはないけどモンドは出たいんだろ?」

 

「それなら私たちが一番だからね」

 

 ああ、それはその通りだ。

 

 私にはもう行く宛だって頼れる人間もいない。それに吟遊詩人だか風神だか知らないがあんな恐ろしい存在がいる場所にいたくない。

 

 けど、私がしたいのはそんな話じゃない。

 

「私は何度もあなたたちに襲い掛かったんですよ!?」

 

「あくまでファデュイの仕事だろ?それなら仕方ないんじゃないか?」

 

「最初に襲い掛かったときは仕事と関係ありません!」

 

「それだって薬のせいなんだろ?」

 

 パイモンは私の言葉に知ったような顔で返す。

 

 私はあの事件の後、確かにあの風神も交えて─なんでか知らないが赤髪の酒屋の主人にも─私の事情について一通り話させられた。

 けれど、動揺していたとはいえそんな()()()()()()なんてことは一言だって言っていない。

 

「薬の服用も全部私の意思で─」

 

「それに─」

 

「ウェンティを守ろうとしてくれたからね」

 

 いつの間にか料理を終わらせていた旅人が皿を片手に会話に入る。

 

「っ!あれは!」

 

「まあまあ、とりあえずご飯食べよ?今日もまだ歩くから体力が持たないよ?」

 

 睨みつけても蛍は優しい笑みを変えることはない。

 

 ああ、どうしても苛つきを抑えられない。

 

 薬を飲んでいる時の昂りでも、飲んでない時の不安でもなくて、ただ、ただ、肺に重いコールタールが溜まっていくような錯覚を感じる。

 

「はい......」

 

 その感情を肺の奥に押し留めながら蛍の出した料理をフォークで口の中に入れる。

 

 チキンか何かだろうか。

 

 まあ、関係はない。

 

「おいしい?」

 

「...美味しいんじゃないですか?」

 

「?」

 

「薬を使ってない時は味がわからないんです」

 

「え」

 

「......」

 

 目の前のものを噛んで、潰して、喉奥へ押し込んでいく。

 

 冷たい沈黙。

 

「あれ?どうしたんだ?」

 

 夢中で食べていたパイモンが食べ終わり、その目線が蛍を通って私の方へとやってくる。

 

 蛍は顎に手を添えて考えている。

 

 彼女は気まずさからでもなんでもなくただ真剣に私のために考えてくれるんだろう。

 

 そんな彼女の私を想う、私を否定する善意が、憎々しい(嬉しい)

 

 薬を飲んだ私だって、いや、むしろそれこそが(悪人)なのに。

 

 そんな私を想ってくれていて、否定していて。

 

 …吐き気がする。

 

「とりあえず璃月まで急ごう。他の国とは違う薬も売ってるらしいからなんとかできるかも」

 

「…わかりました」

 

 面を上げた蛍がすぐに後片付けを済ませると、私たちは再び旅路へと戻った。

 

 草原と空を見ながら歩み続ける。

 

 けれど、その景色に色はなく、白と黒で構成されていた。

 

 薬のない私の世界では色を感じられない。

 

 ただ一人を除いて。

 

「お父様…」

 

──────

 

 あれから何日か経った。

 

 魔物、時には盗賊団を蛍は私を庇いながら流れるように倒していく。

 

 ...私だって薬さえあればあの程度なら戦える。

 

 戦闘が終わるたびに彼女は私の無事を確かめて、笑みを浮かべる。

 

 戦えない私に、価値なんてないのに。

 

 なんでわざわざ危険を負いながら私を守るのか。

 

 それとも、これが善人というものなのだろうか。

 

 ...やっぱり、(悪人)には理解できない。

 

「璃月までもう少しだな!」

 

「そうだね、あとはこの道を進めば...」

 

「おっと、ここは通行止めだ」

 

 突然会話に異物が混ざり込む。

 

 その言葉を発したのは茶色いローブを着た男性。

 

 目を向けた先には赤いローブに紫のローブ,,,つい最近まできていたそれを見れば嫌でも所属はわかる。

 

「貴様が栄誉騎士だな。作戦に支障をきたさぬようここで仕留めさせてもらう」

 

 岩使いが杖を構えると同時に走り出す蛍。

 

 シールドのうちに入る瞬間を狙うように雷蛍術師と炎銃使いも遅れて構える。

 

 ...二人は蛍の方を狙ってる。どうやらこちらには気づいていないみたいだ。

 

 目の前の雷蛍を風で吹き飛ばしながら炎を纏う銃弾を躱しシールドの展開で動けない岩使いを斬る。

 

「油断するなよ!」

 

「もちろんね」

 

 振りかぶった瞬間に必ず生まれる隙を狙った弾丸。しかし、それはは予期されていたためか頬を掠めるのみに留まる。

 

「この子達で盛り上げよう!」

 

 すぐに炎銃使いに向かう蛍だが、ここまでの攻防の間に雷蛍が蛍を囲っていた。

 

 銃弾を避けながら全方向にいる雷蛍を吹き飛ばすのは容易ではない。

 

 が、

 

「バーテのと比べたらマッサージみたいなものだよ!」

 

 雷蛍を無視し、突き抜ける。

 

「ちっ!おい!......」

 

「は〜い」

 

 耳打ちしている炎銃使いに蛍が迫る。

 

 だが、炎銃使いもこの任務を任せられただけあって優秀なのだろう。

 

 銃を剣に合わせて一瞬の時間を得る。

 

 さて、どうするのかと見ていれば...雷蛍術師と目が合う。

 

「ブリンク!」

 

 元素力が迸りこちらに向かってくる。

 人質にでもするつもりなのか。

 

「バーテ!」

 

 蛍がこちらに向く。

 

 ...お粗末な制御だ。

 

「きゃっ」

 

 予想通りの位置に現れた身体の鳩尾を殴りつけ、邪眼を奪う。

 体勢が崩れたのを押し倒し馬乗りになる。

 

「あ、もしかしてあなた...」

 

 こいつも優秀な雷蛍術師なんだろう。

 

 制御は十分。連携も取れる。動きもそこそこ。

 

「イタっ!ごめっごめんなさい!」

 

 けど、私の方が早い。私の方が邪眼を使える。私の方が雷蛍を操れる。

 

「だっ、っ!」

 

 ファデュイが私のいるべき場所だった。

 

 ファデュイだけが私の才能を生かせる場所だったのに。

 

 どうして、どうしてこんな奴が。

 

「バーテ!」

 

 声を聞いて周りの景色が見えてくる。

 

 血に染まった顔面、血に染まった拳。

 

「バーテ...?」

 

「ごめんなさいごめんなさいわたしが傷つけました、言うことを破ってごめんなさいもうしません」

 

「バーテ、落ち着いて!」

 

「えうっ、おえっ、おええっ」

 

 視界が歪む。逃げたい。この現実から逃げたい。

 

 雷蛍術師の手元の香の中身を掴み取る。

 

 元素力に当てられて紫に光るそれを喰らう。掴む。喰らう。掴む。喰らう。

 

「はーっ、はー♫ちょっと気合い入れすぎちゃったかな〜♫」

 

「…大丈夫ならよかった。早く街の中に行こう。」

 

「は〜い♫」

 

「お、おう!」

 

 逡巡の末に街の方へ向いた蛍。

 

 おろおろとしていたが、すぐにその背を負うパイモン。

 

 それらが去っていくのを見つめる。

 

「バーテ。」

 

「今行きま〜す♫」

 

 

 

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