とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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鉄は、熱いうちに打つ
時系列は賢人が帰ってくるまでの間です。
挿絵にAIを使っています。


ヴァルキュアAbsence 蔓延る異能、もうひとつの答え。

 

 ────進化とはなんだ。退化とはなんだ。人間とはなんだ。あなたの名前を、教えてくれ。

 

 時は西暦2121年 1月。賢人がいなくなって1週間程が経った頃、日本の首都、新東響ではとある事件が世間を騒がせていた。

 

「まるでフレイザードね」

 

 とある死体を見て、嘲笑うかのように呟いたのは殺神葛(ころしず)(はじめ)。元生存部隊、現警察機構のダイナモに配属された新人である。

 

「ジョークにもなってないぞ殺神葛」

「一ちゃんはでりかしーというのがないんですの!? そんなに可愛らしい顔をしてらっしゃるのにぃ!」

「綺麗な花にはトゲがある、ということだな」

 

 茶娘城の言葉通り、殺神葛の顔は絶世の美人。スラッとした四肢に太陽かと思うほどの真っ白い髪。そして慈しむようでいて、しかし見下しているかのような目。

 

「戦香さん! 私は! 私はいかがでしょうか!」

 

 餌待ちのわんこのように、しっぽすら見える程の勢いで玉響(たまゆら)が顔を出した。

 

「しかしセカイ様……この死体はあまりにも……」

「……あぁ、そう、だな」

 

 とぴかの言う通りだった。問題の死体は半身が凍結し、もう半身が黒焦げになってしまっている。境界線は、まるでマスキングをしたようにピッタリと真っ直ぐ。見えない衣服の下もそうだろうと、セカイは考察する。グラナトファは未だ存在している。

 しかし医療局のれいちぇるの言葉が本当なら、賢人と妃崎が、正確に言えば妃崎のベルトとスタンプさえあればグラナトファは治療による根絶が可能だ。故に、今だけは失楽園である岡山市に隔離している。脱走など、考えられなかった。

 

「……クソ。こんな時に神川さんがいれば」

「ないものねだりをしても仕方ないですにゃ〜。セカにゃんっ」

「ええいっ、纒わりつくなと何度もっ! 俺には弓歌がいるんだッ」

「酷いにゃ……」

 

 つわりのからかいも程々に、ダイナモは捜査へと乗り出した。グラナトファ並びに悪魔騒動に人手を割かれている上、何かしらの怪人が暗躍しているかもしれないのだ。戦闘力のあるダイナモに任せるほかなかった。

 

「ジムペインとポートラルはどうしたんだ? 狗飼君」

 

 戦香の質問に、セカイはため息をつく。

 

「ジムペインはあのS級の気性から見送り、ポートラルは出張中なんだと」

 

 しかしそんな言葉に、戦香は俄然やる気が湧いてきたと言わんばかりに拳を握りしめた。

 捜査の第一は被害者の身辺調査から始まった。被害者の名前は笹中環。年齢は16歳、新東響都立鳳高校に通う、普通の女子高生だった。人間関係には取り立てるほどのトラブルもなく、むしろ良好と言ってもいい。

 

「警察なんて初めて見ました! ……いやぁ、環ちゃんのことは本当に……」

「……クッソ! ゼッテェ犯人ぶっ殺してやる!」

「いい子でした……こんな私にも優しくしてくれて」

 

「中々いい子だったみたいだな。愛されていたというかなんというか」

「そんな子をあんな酷い目に……」

 

 手のひらに爪が食い込む戦香の肩に、セカイは手を乗せる。

 

「感情に身を任せるな戦香。特に今回はな」

「なぜ落ち着いてられるんだ狗飼君はっ」

「長年の刑事の勘……かな」

「今日で5日目ですわよね?」

 

 一方その頃、とある商店街。一時は悪魔が襲撃し、壊滅に陥りかけたそれは、今まさに奇跡の復興を遂げようとしていた。それはひとえに、元渚輪で生き延びていた少女たちのお陰であった。復興は技術者ももちろん必要だが、1番は人手だ。

 

「ふ〜ん……じゃあもっかい壊したら……どうなるのかなっと」

「あまり目立つようなことをするなバカ」

 

 そこに訪れたのは2人の少女。名を愁原(うれはら)結露(けつろ)と、直田(すぐた)定壊(さだえ)

 

「それじゃあ、始めよっか」

 

 愁原が手を空にかざすと、辺りが暗くなる。夜になったからではない。空気中の水分が霧散し、客に降りかかる。温度の低下とともに闇に包まれる商店街。そして、そこにいる人間は、ようやく異変を感じる。

 

「……まつ毛」

 

 全身の毛が逆立ち、その1本1本が凍りつく。瞬きをすればまぶたに冷たさが伝わる。ただそれだけだった異変が、1秒ごとに悪化していく。目が開かない者や掴んでいた商品を手放せない者、足が滑り、倒れた体勢のまま地面に張り付いてしまった者は酷いもので、起き上がろうと手を無理やり引っ張ると皮膚が剥がれてしまった。

 

「寒い……!!」

「だったらあっためてやるよ」

「ちょーっと待った〜!!!」

「なんだよ定壊。仕上げだろ?」

「ピッチリ境界線を定めなければなりません!」

 

 直田は口から伸縮、折り曲げ自在の棒を取り出す。そのかたちはまさに定規といった様相を呈しており、その生成経緯もありヌラりと嫌な照り返しを見せていた。それを人体にピッタリと密着させ、クイッと愁原に目配せする。

 

「……ふぅ、スッキリしました」

 

 余談だが、彼女はAB型である。

 

 

 ところ変わってスクランブル交差点。そこは人がごった返しており、永世中立国日本唯一の人の密集地であった。

 

「いっ────」

 

 満員電車のように、密閉された空間でもないのにこの混雑具合、肩と肩がぶつかってしまうなんて当然の事。しかしその瞬間に、時が止まる。

 

「あ〜あ〜、ぶつかりおばさん、ほんと嫌になっちゃう」

 

 そうごちりながら自らの手を粘土細工のようにこねくり回していく少女。彼女の名前は陶柄(すえがら)紫延(しえん)。彼女の手は、みるみるうちに鋭く尖っていく。そして目にずぶり、と突き刺さる。血は出ない。時が止まっているから。しかし、痛覚は依然としてある。止まった時の中の痛み、それは逃げ場のない痛み。

 

「あ〜……もう時間かぁ」

 

 そして、時は動き出す。体を自在に動かせるようになった被害者は、地面に倒れ込み、自らの目を抑えてのたうち回る。周囲の人々が駆け寄る中、紫延は悠々自適に空いた道を歩いていくのだった。

 

「……」

 

 ダイナモは、未だ手がかりを得られずにいた。セカイは所謂映えスポットの広場で一度視点を変えて、犯人像を思い浮かべる。人通りは決して多くないが、人自体はいる住宅街のど真ん中、もし夜に犯行があったとしても誰かが異変を感じるはず。なのに一切の痕跡を残さず、死体だけが証拠というこの事件。まさに────。

 

「不可能犯罪とでも言うか」

「何カッコつけてんの? てか買い出し行って来いって言ったわよね? ジョーロ」

「何上司をパシリにしてんだよ殺神葛。てかジョーロって何!?」

「湯水のように金が湧いてくるからジョーロ」

 

 事実である。高給取りであるからこそ、セカイは本気で怒るまではいかなかったのだ。しかしそれでも金は金、セカイは鼻をピクつかせる。

 

「あら興奮してるのかしら。気持ち悪い」

「セカにゃんは〜そーゆーところも〜可愛いのにゃ〜」

「恋葉奈君の言い方はあれだが……。殺神葛君。狗飼君は誠実だ。婚約者がいる彼は、その他の女性に発情しないんだぞ」

「発情言うな」

 

 そこに忍び寄る影が、1つ。

 

「楽しそうにしてるじゃない。私の女たちと」

 

 パリコレのように前衛的なファッション。トランポリンをスカートのように、頭にはミラーボールをはめている。はっきり言って不気味である。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……誰?」

「あらぁ、貴方達の恋人じゃないの〜」

「……何言ってますの? この方は」

 

 彼女の名前は握翔(あくと)(みやこ)。彼女は周囲で動画を撮る若者達の体を能力で掴み、宙に浮かせる。しかしそれを全くと言っていいほど気にせず、殺神葛は容赦なくその頭の被り物を剥ぎ、地面に投げ捨てた。

 

「あら、醜女じゃない」

「────!!!!」

「茶娘城は上空の人を! 他は取りこぼしを!」

 

 声にならない悲鳴。しかしその隙に、ダイナモ少女達は掴まれた人々を救出する。避難させ、そして戦闘が……。

 

「取り乱すのも私のしょうには合わないし、っと」

 

 捨てられたミラーボールの汚れを払い、もう一度被り直す。

 

「アンタは私のフィアンセには相応しくないわね」

「……何する気?」

「これな〜んだ」

 

 おもむろに、京は赤黒い物体を取り出した。

 

「うわきったな────」

 

 言い終わる前に、殺神葛は倒れた。そう、彼女自身の両肺が、京によって抜き取られたのだ。途端に呼吸ができなくなる殺神葛。徐々に内蔵も、頭も働かなくなる。

 

「殺神葛さん!!」

 

 どうすればいい。体内への侵攻、元治癒姫へのものだったのなら俺の血液によって治癒することができた。もっといえば神川さんがいればすぐに……! 

 そうセカイの中に、様々な考えが浮かんでは消えていく。どれもこれも治癒姫への治療方法しか思い浮かばない。

 

「玉響は殺神葛を連れて逃げてくれ! 私が……1秒でも時間を稼ぐ!」

「戦香さんを置いてそんなこと……!!」

「早く行けッ!!!」

「ッ……!」

 

 部隊長の意地。戦香を突き動かしていたのは、それだけだった。玉響は瀕死の殺神葛を抱えて医療局の本部へと向かう。

 

 今機動力のない蕾や寧々音君を前線には出せない。そしてとぴかにはセカイを守ってもらう必要がある。……残るはつわり君だけ。

 

 元は部隊長であった戦香が指示を出す。しかし……。

 

「────!!」

 

 声が、出ない。声帯が抜き取られたのだ。

 

「戦香ッ!! どうしたんだッ!!」

 

 声が出せない以上、その被害すら伝えることはできない。それに、内蔵と違い動きに影響は出ない。治癒射器(しりんじ)を使うことこそ出来ないものの、未だ身体能力は健在だ。

 

 私は部隊長だ。それに、この程度の傷なら、さして動きに支障はない。それに、一体一なら私は負けるはずがない。

 だからなんで私は部隊長なのか、それを確かめる必要がある。

 分からない。私は今時間を稼ぐだけでいい? 

 違うな、今ここで相手を倒せば被害は出ずに済む。本当にそうか? 誰の言葉だ。誰の考えだろうか。刀を納めろ。

 私は怖いのか? 無駄だ。恐れているのか? 殺そうとしてくる相手を殺したら私も殺人者になるのか? 

 私が殺人者? 

 いや、私って何? ダイナモ? 治癒姫? 何だそれ。確かめたい。探しにいきたいのか。何をしてるの? 私は立っている。確かに許さない。

 同じだ。同じじゃない。同じにされた。一体誰に? 頭だ。頭の中に宇宙がいる。宇宙虫がある。遮断しないと、あとは取り除かないといけないな。外がさわがしいな

 うるさい

 だれ だれがしゃべってる

 わたしじゃない わたしだ

 ちがう

 ちがうちがうちがう

 つかまえられない

 おそいおそいおそい はやい

 あれは あれ

 あれはわたし

 ちがう

 わたしは どれ

 どれでもない

 からっぽ からっぽが みてる

 なにをなにもなにもないのにいっぱいある

 こぼれるとまれとまれだれがとめる

 だれがいない

 いないいないいないいない

 いる

 いるいるいるいるいる

 うるさい

 うるさい

 うるさい

 ────

 あ

 

 

 

 

「……正直貴方のことは気に食わないですが、戦香さんの頼みです!! 絶対落としませんからね……!!」

 

 未だ、殺神葛の空気の伴わない呼吸は続く。常人なら既に死んでいるはず。なのに彼女の身体が、生きたいと叫び続けているのだ。しかしそれは灯火に過ぎない。

 

「……」

 

 ────しかし微かな残り火は、時にマグマをも焼き尽くす。

 

「……あれ」

「!?」

 

 声が、出た。声帯はあっても、肺がなければ人間は声を出すことすら出来ないはずなのに、殺神葛が声を上げたのだ。

 

「……私、生きてる?」

「殺神葛さん……?」

「あっ、あっ、ごめんなさいごめんなさい……!!」

「ど、どうしたんですか?」

「私皆に酷いこと言っちゃって……セカイになんてジョーロとかぁっ」

「わ、分かりましたから……! 早く医療局に行きましょう?」

 

 その狼狽ぶりに、玉響は驚き諌め、医療局への歩みを進めていく。しかし殺神葛の体は、徐々に治っていた。その体内に、新たな肺が生まれ、そして胸が光り出す。そこから生まれたのは、規格外。

 無名の大剣。S級程の潜在能力を持つ者なら、無から治癒射器(シリンジ)を生成できる。甘噛瑠奏がその例だ。

 

「いや良い。もう治ったし。てかあのブス気に食わないんだけど」

「は!? え!? ちょ殺神葛さんどこにいくんですか!?」

 

 誰も追いつけないスピードで、彼女は飛び立つ。

 

 

「戦香ッ!! 恋葉奈ッ! 湯布院ッ!!!」

 

 戦況は地獄。セカイが叫んでも、戦闘不能になった彼女たちが立ち上がることは、無い。

 

「セカイ様はわたしがお守りしますッ!!」

「ダメだとぴかッ!!」

 

 京の能力は、掴む対象となるものが止まってるほど容易に操れる。だからとぴかは、セカイを抱えて縦横無尽に動き回っていた。攻撃手段はない。今のままずっと逃げられる保証も、体力もとぴかにはなかった。削られていく体力、一瞬の休息すら許されないその緊張感。京の文字通り魔の手が迫る────。

 

「随分なやられようじゃない。先輩さん♡」

 

 地が吹き飛ぶ。ただ、殺神葛が降り立っただけである。

 

「さぁて、そんじゃあその不細工な顔、も〜っと歪ませてあげようかしら」

「まだ生きてやがったのコイツ……!!!」

「はい、終わり」

 

 そのひと振り。その衝撃破だけで、京は倒れ伏した。

 

「……こんな、性格ブスに」

 

 バタリ、と。しかしまだ事件は解決していない。セカイは被害に遭った元治癒姫達に血を飲ませ、とぴか、殺神葛の3人で捜査に乗り出すのだった。

 

「おいおいおい……どうなってるんだこれは……」

「フレイザードの群生地ね」

「ッ……」

 

 商店街、そしてスクランブル交差点での犯行。明らかに別人による犯行だった。被害者の姿が見ていられなかったのか、とぴかが嘔吐する。

 

「大丈夫かッ」

「えぇはいっ私のことはどうぞお構いなく……」

「こんな腑抜けはあの腑抜けと一緒に置いていくんだったわね」

「ッ……!」

 

 キッと、セカイは殺神葛を睨む。しかし飄々とした態度で彼女は続けた。

 

「こういう……なんだっけ? ははっ、不可能犯罪? 別人ってことはまだまだこういう能力者がいる可能性が高いのよね?」

「あ、あぁ……」

「だったら徒党を組んでる可能性も高い。ま、それがさっきのブスみたいな強さなら敵じゃないけど」

 

 そんな時、セカイの電話が勢いよく鳴る。相手はルティアだった。

 

「握翔京……元PAL研究所の研究者か……」

『他の犯人を見ないことには断定できないけど、恐らくそういうことでしょうね』

「元PAL研の職員が超能力者に……」

 

 しかしそれなら話は早い。捜査の鉄則その2、犯人か被害者の共通点を探るべし。セカイは早速情報局のある人物を訪ねた。

 

「ルフフ……あぁいい。真実でも偽証でもいい。だがこれだけはゆめゆめ忘れるな? 得た者を楽しませる、それが情報だ」

 

 彼女の名前は袴着(はかまぎ)ラウディ。元情報局の局長である。現在は太陽機関による暫定政府を抜け、出版社に務めている。

 

「くどい。さっさとPAL研の元職員を教えろって言ってんの」

 

 ペンは剣よりも強し。それは双方の力が拮抗しているか、もしくは距離が離れている場合の話である。殺神葛の殺気と大剣がラウディの首筋を捉える。

 

「ルフフ……仲良くやろうではないか。新人君。教えないとは言っていないだろう? ……交換条件だ。今起きている不可解な殺人事件の報道権、私の社に独占させて貰う。これでどうだい?」

「は? 意味わからないんだけど。マスコミの事情とか私らに関係ないし。別にそんな条件ならいい────」

「……待て殺神葛。よく考えてみろ。この事件は俺たち暫定政府の面子にも関わる問題だ。もし失態でもしてみろ。この社が出してる新聞しか情報が出ないんだぞ。世間はそれしか信用せざるを得なくなる」

「……私には関係ないし。てか失敗しなければいい話、でしょ? 袴着ラウディ、その話乗ったわ」

「あぁ、しかとその言葉、録音させてもらった」

「ちょまっ────」

「これが件の書類だ。……そしてこれは真偽不明の話だが、この件には神峰透露が関わっているようだ」

「それは本当か……!? あの死んだ天才が!?」

「さぁね〜。ただ、その方が面白いだろう?」

 

 

 

 彼らは情報を元に洗い出した職員の元へと向かった。

 

「死ねっ、死ねっ! 死ねェ!!」

「早く守ってよぉ結露ッ!!」

「あ、うるさいから黙って」

 

 治癒射器(シリンジ)による峰打ち。しかしそうは言っても四肢の骨を折るほどの威力。愁原と定壊は瞬く間に再起不能となる。そして続いて彼らは紫延が住んでいるアパートへと向かった。

 

「はぁ!? ふざけんなよなんでこんな強ぇやつと戦わなきゃなんないの!? パスよパス! 降参! こーさーん!!」

「そ」

 

 会うや否や、頭を地に伏せた紫延。背を向けて立ち去ろうとする殺神葛に、彼女は口角を歪ませる。

 

「バァカッ!」

「あんたがね」

 

 不意を突こうとしても、そんな小細工は通用しない。するはずが、ない。殺神葛の辞書に、容赦の2文字は存在しない。斬撃の瞬間の時間停止も、一撃でかたを付ければ意味が無い。事件の犯人は確かに捕まえた。しかしそれだけだ。その裏に潜む真の黒幕は、今だ暗躍を続けている。それをどうにかしないことには同じことの繰り返しだ。

 

「今のところ後手後手に回りすぎてるな。恐らくあの女子高生の事件は力を得て初めての事件だろう。だから被害者は1人だった」

「増長して起こしたのがあの大量殺人って言いたいのねジョーロは」

「ジョーロ言うな」

「みゅ、盛り上がってるところすいませんがセカイ様。……先程の3人、このリストではもう────死んでます」

「そ、それはどういう……」

「言葉の通りです。……先程の神峰透露の事も合わせてこの事件……死人が動きすぎなんです」

「まさか……ね。ははっ」

「怖いのが苦手ならそこでうずくまってなさい」

 

 セカイの顔が引き攣るのを尻目に、殺神葛はズカズカとアパートの奥へと歩いていく。そして壁を蹴破り────。

 

「みーつけた。で、こいつは誰? ジョーロ」

「神峰透露だ。確かに顔は載ってなかったからな。……ラウディさんの言葉は本当だったか。……おい、死んだはずのお前が何故ここにいる」

「地獄から蘇ったと……それは滞りなく結論と言える」

「……地獄? お前のことは神川さんから聞いてる。この事件の首謀者はお前か?」

「首謀者……ははっ!! そんな短絡的思考で本当に君は参謀なのか?」

「なんだと……?」

「彼女達は私の過去の被検体。まぁ名目上は職員ということになっているがね。大方大層な力に溺れたのだろう。人間というのは所詮、そういう生き物だからな」

「……知ったような口を」

「くだらない。さっさと切りましょ」

「ちょっと待て殺神葛。まずはこいつから情報を引き出すのが先だ」

「引き出す? 些かそちらの方が上だと聞こえるが?」

「そうだよ。多勢に無勢、お前に勝ち目はねぇよ」

「────私がいつ、被検体が3人だけと言った?」

 

 

 その頃、医療局では。

 

「醜態を見せてしまったよう、だな玉響……慕ってくれている後輩あのような無様を……すまない」

「いえ! 脳を失っても無事だなんてやはり戦香先輩は凄いです!!」

「それよりもですわ! 皆さん! ニックネーム、決めませんこと!?」

「なんですか茶娘城さん急に」

「殺神葛さん最近入ってきたばかりだからツンケンしてるのかもしれませんし! それにも〜っと私たちも仲良くなるために!」

「賛成なんっ、だよ!!」

「ちょっとそれ、アタシも混ぜてもらっていいっすか?」

 

 ダイナモの整備班、パルフェも加わり、緊張感もクソもない会話を繰り広げていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「────私がいつ、被検体が3人だけと言った?」

 

 しかし、何も起こらない。

 

「ああ、なんかうるさかったからもう潰しといたわよ」

「なっ……!?」

「殺神葛!? いつの間に!?」

「さっき」

「さ、さっき!? いやここに突入した時はまだ神峰のことも分からなかったんだけど!?」

 

 神峰はごほん、と咳をして空気を立て直そうとする。しかしそんなことはお構いなしと殺神葛は神峰の首筋に剣を突きつける。彼は一瞬だけ沈黙し、そして小さく息を吐いた。

 その瞬間だった。空間が歪んだ。

 

「ッ……!?」

 

 セカイの肌が粟立つ。視界が、ほんの一瞬だけ傾いたのだ。

 神峰の背後。何もなかった空間から、“何か”が滲み出るように現れる。それは人の形をしていたが、人ではない。

 

「……使徒。そう呼ぶべきかな」

 

 神峰の声が、僅かに愉悦を帯びる。

 

「私が辿り着いたひとつの答えだよ。人は進化する。ならばその過程で人でなくなることもまた、必然だ」

「……気持ち悪」

 

 殺神葛は吐き捨てるように言い、そのまま踏み込んだ。

 

「そんなキモイのになるくらいなら、進化なんてごめんよ」

 

 振るわれる大剣。しかし────。

 

「……遅い」

 

 神峰は、受け止めた。神の使い。彼自身を甦らせた光の意志だ。

 

「は?」

 

 初めて、殺神葛の声に動揺が見えた。

 

「力の使い方が粗雑だ。君は強いが、完成されていない」

 

 次の瞬間。神峰の腕が振るわれる。

 

「ッ──!!」

 

 衝撃。殺神葛の身体が吹き飛び、壁を三枚ぶち抜いてようやく止まる。

 

「殺神葛ッ!!」

「……っ、なにこれ」

 

 立ち上がる。だが、理解が追いつかない。

 

 斬ったはずだった。

 当てたはずだった。

 なのに、何も起きていない。

 

「あぁ〜、いやいや落ち込まないでくれ。君が弱いのではない。私が強すぎるだけ────それは滞りなく結論と言える」

 

 神峰が淡々と言う。

 

「戦いの土俵が違うのだよ。君たちは人間、そして私は神だ。力をもらう側と与える側。どちらが上かは明白だろう?」

「……はぁ?」

 

 理解する気はない。必要もない。でも、負ける訳にはいかなかった。

 

「無駄だよ」

 

 次の一撃は内側に来た。

 

「がッ……!?」

 

 血が吐き出される。外傷はない。だが内臓が軋む。

 

「……見えないだろう? 当然だ。触れていないのだから」

 

 距離も、接触も、意味を成さない攻撃。

 

「クソ……!」

 

 膝をつく殺神葛。その様子を見て、神峰は静かに告げる。

 

「終わりだ。君は強い。だがそれだけだ。────人間の範疇に留まる限り、ね」

 

 神峰が手を上げる

 

 その瞬間

 

「ちょ〜っと待った〜!!!」

「……?」

 

 振り向くと、そこに立っていたのはダイナモの仲間たち。入院しているはずの腑抜けたちが何故。殺神葛がそう思っていると、彼女の持つ治癒射器(シリンジ)を指さした。

 

神まびき(シンディアウト)

「は?」

神まびき(シンディアウト)。その治癒射器の名前。規格外の化け物性能らしいってパルフェさんが言ってたよ」

「名前なんてどうでもいいんだけど────っと」

 

 殺神葛は、神まびき(シンディアウト)を振るう。何度目かの攻撃。何度やっても通じるわけがない、神峰にあるまじきたかの括りよう。

 

「なっ……」

「名前の通り、私の治癒射器は神すら殺すみたいよ」

 

 無慈悲な一撃。

 

「やってください殺神葛さんッ!」

 

 そして声を上げた玉響に、寧々音が耳打ちする。

 

「────あっ、キルレートさんッ!!」

「……誰のこと言ってるのよ」

 

 殺神葛は呆れながらも、会話の流れから察する。

 

「何を戯れている? 進化に群れなど必要ないだろう?」

「……はぁ。あのさぁ、難しい戯言は耳障りなのよ」

 

 有無を言わせず、殺神葛は神峰を切り伏せる。しかし神から貰ったその体。即死には至らなかった。そして彼の目に、光が宿る。

 

「……これはこれは。神川賢人はいないのか……既に世代交代が行われたと……偏見で物を言おうか」

 

 倒れるその身体を、申し訳程度にセカイが支える。

 

「ただ異世界に飛ばされただけだ。……おかしいと思ったんだよ。科学者が神だなんだと、な」

「ふっ……この洞察力、やはり人類はまだまだ安泰、だな」

 

 散り際に、咲く絶華の儚さを、知らずとも。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいいい……! せっかくあだ名つけてもらったのに素っ気ない態度とっちゃってぇぇえ……」

「お、おいどうしたんだよ殺神葛。一体……」

「おそらくパニック状態に陥ってるのだと思うが……。まぁ、ふふ、これもこれで可愛いじゃないか」

「……ごめんジョーロ。取り乱した。それで? あだ名は何?」

「うわあああ急に落ち着かないでください!?」

「キルレート・アーですわ!!」

「ふぅん……ま、勝手にすれば」

 

 そう言う彼女の口は、少し上がっていた。

 

 

 ────1ヶ月後。テンペストでの戦いを終えたポートラルはそこに囚われた人間のリストを眺めていた。

 

「ちょっと待ってください!? この苗字って……」

「なんだ神川君」

「神峰……むいみだって……」

 

 礼音は珍しく慌て、賢人の持つファイルを手に取る。そう、あの科学者と同じ苗字の少女が救助されていたのだ。




愁原結露 氷と炎
直田定壊 伸縮自在、フレキシブルな定規を口から生成出来る。
陶柄紫延 攻撃の瞬間に時を止められる。制限時間は30秒。体を粘土のように捏ねて自在にかたちを変えられる。
握翔京 どこにでも届く腕。相手の体内にまで伸ばせる。そして掴んだものを自由自在に操る。
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僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~(作者:破れ綴じ)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

『完全に無意識で人の手袋の匂い嗅いでたんだけど……待ってよ、あれが僕なの?』▼ 魂を分裂させてTS転生した元勇者シエルが『剣士エスクリ』と『聖剣エペ』になって旅をして、超ドタイプな次世代の青年に脳を焼かれるお話です。特に深い意味はありませんが、転生した自分は複数いるし、全員自分なので好みのタイプも同じです。▼ 2日に1話以上の頻度で更新しようと思います。要は…


総合評価:988/評価:8.78/連載:92話/更新日時:2026年05月10日(日) 08:15 小説情報

呪力は呪力でも呪力かよ!?(作者:パンツ男)(原作:僕のヒーローアカデミア)

事故に遭い、死亡した少年はヒロアカの世界に転生する。▼転生特典は────呪力。▼術式や縛り、黒閃……強力な力でこの世界を生きていくと意気込むも、何かがおかしい……え!?▼呪力(じゅりょく)じゃなくて呪力(しゅりょく)なの!?▼


総合評価:412/評価:6.5/連載:15話/更新日時:2026年05月06日(水) 00:00 小説情報


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