ゼクトル船団第2合同艦隊と強襲打撃艦隊による、惑星コルゴラズへの襲撃開始から2時間が経過した。
地上部隊は黒いピラミッド状の王宮周辺を確保し、既に内部の3分の2を制圧。
作戦目標である『皇帝の代弁者』達の喉元まで迫っていた。
しかし、戦闘はより一層激しさを増し始めている。
地上では、王宮を奪還しようと惑星各地から集結したコルゴラズ兵が押し寄せ、その上空では両軍の航空機が激しく制空権を奪い合っていた。
更にその上――宇宙では。
3隻のアイアンフレイム級強襲揚陸艦が、王宮へ押し寄せるコルゴラズ兵に向け、対地ミサイルと60cm4連装速射砲による絶え間ない砲撃を浴びせている。
それを阻止すべく、コルゴラズ艦隊も次々と突撃を仕掛けて来るが、第2合同艦隊がその悉くを食い止めていた。
何処も激戦が続いている。
濃緑色に塗られたチェンラルノ3型戦車が、瓦礫の山を乗り越えて現れた黒紫色の多砲塔戦車と激しく撃ち合う。
敵戦車から放たれたプラズマ弾が、チェンラルノの周囲へ次々と着弾。
その内の数発がシールドを直撃し、眩い光を散らした。
だが、チェンラルノは臆する事なく反撃を開始する。
砲塔が旋回し、170mmプラズマレールガンから砲弾が撃ち出された。
プラズマを纏う砲弾は、敵戦車の装甲を容易く貫通し、内部をズタズタに引き裂き、搭乗員達の息の根を止める。
その傍らでは、戦車に随伴する2機のバンガード級タイタンが手にしたガトリングガン、プレデターキャノンで弾幕を張っていた。
肉薄して来るコルゴラズ兵が、雨のように降り注ぐ銃弾によって次々と薙ぎ倒されていく。
更に別の場所では、新型ロボット兵リーパーが戦闘を繰り広げている。
両腕に装備されたリーパーロケットを歩兵集団へ向けて乱射。
至る所でエネルギー爆発が巻き起こり、コルゴラズ兵が爆風に吹き飛ばされる。
その一方、別のリーパーが瓦礫の山を駆け上がり、背部から円盤状に折り畳まれた大量のティックを射出した。
その直後――。
見晴らしの良い場所へ姿を晒したリーパーに、敵戦車のプラズマ弾が直撃、爆発する。
リーパーの巨体がバラバラに弾け飛び、無数の部品が瓦礫の上へ降り注いだ。
仇を取るかのように、射出されたティックが次々と起動。
折り畳まれていた4本の脚と丸いボディを展開し、瓦礫の陰に隠れていたコルゴラズ兵や戦車へ飛び付く。
直後、猛烈な爆発が連続して巻き起こった。
「クソッ! リーパーが1機やられた!」
「こちら第69移乗小隊! 航空支援を要請する! 繰り返す、航空支援を要請する!」
押し寄せるコルゴラズ兵を相手に、30人の移乗戦闘員が懸命に戦闘を続けていた。
高性能な装備を身に付け、高度な訓練を受けた彼らであっても、絶え間なく続く攻勢を受け、徐々に疲弊の色が見え始めている。
「ちくしょう! 何処からこんなに湧いて出て来やがるんだ!」
「喋る暇が有るなら手を動かせ! 右から来ているぞ、二等兵!」
瓦礫を迂回して側面へ回り込んだコルゴラズ兵が、移乗戦闘員達へ銃口を向けていた。
指が引き金に掛かる。
だが、その引き金が引かれる寸前、背後から飛来した無数の銃弾が、コルゴラズ兵の身体に突き刺さった。
「パイロットだ! 運が向いて来たぞ!」
フルフェイス型のヘルメットを被った1人の兵士が、腰に装着されたジャンプキットを巧みに操り、瓦礫の間を縦横無尽に駆け回る。
壁を蹴り、ジャンプキットを噴射。
一気に上空へ飛び上がると、眼下のコルゴラズ兵へ向けてオルタネーターを構えた。
ツインバレルの特殊なサブマシンガンが火を噴き、敵兵を的確に撃ち抜いていく。
瞬く間に、側面へ回り込んでいた敵兵が一掃された。
「会えて良かったです、大尉! タイタンはどうされたので?」
「他の戦線へ出張させている。何処も似たような状況だ」
粗方の敵を排除したパイロットは、そのまま第69移乗小隊の元へと舞い戻る。
「こちらはどうにか持たせていますが、皆疲弊し始めています。我々だけで、この場を守り続けるのは困難です」
「安心しろ。もう直ぐ、王宮へ突入したナイトフォー大隊が作戦目標を達成してくれる筈だ」
パイロットはそう言うと、不安そうな表情を浮かべる小隊長の肩を軽く叩いた。
「もう少しの辛抱だ」
その言葉を証明するかのように、彼らの元へ通信が入った。
『アイアンフレイムより全部隊へ。たった今、ナイトフォー大隊が作戦目標を達成した』
「ほらな」
パイロットが小さく笑う。
その場に居た兵士達の顔にも、安堵の表情が浮かんだ。
『地上に展開する全部隊は、直ちに撤収ポイントへ移動せよ。なお、回収には予定通り携帯トランスポーターを使用する』
「よし、お前達は先に行け。俺はもう少し周囲の部隊を支援してから撤収する」
そう告げると、パイロットは通信機を操作する。
「VD、聞こえるか? こっちへ来てくれ」
自らのタイタンと合流すべく、パイロットは再び瓦礫の中を走り出す。
それを見送った第69移乗小隊の兵士達も、指示された撤収ポイントへと急ぎ始める。
地上で。
空で。
宇宙で。
未だ激しい戦闘は続いている。
だが、惑星コルゴラズを巡る戦いは――。
確実に、終わりへと近づいていた。
***
「第2遠戦艦隊は右翼に展開。ミサイルと魚雷による飽和攻撃で、敵空母の進出を抑えろ。第2突撃艦隊は分散し、新たに現れた敵小艦隊への対応に当たれ」
地上部隊の撤収が進む惑星コルゴラズ。
その遥か上空で、ヴェッティア率いる第2合同艦隊が、次々と押し寄せるコルゴラズ艦隊への対応に追われていた。
「敵残存艦艇数、400隻を切りました!」
「良いペースだ。このまま押し切らせて貰おう」
命令と同時に、第2遠戦艦隊を構成するグレイゼファー級巡洋戦艦が攻撃を開始。
搭載されている全ての16連装反物質ミサイル発射管から、一斉に炎が噴き出した。
6隻のグレイゼファー級から放たれた、合計1344発もの反物質ミサイルが大きく上下へ分かれ、接近するコルゴラズ空母艦隊を包み込むように殺到する。
60隻前後の空母艦隊も必死に対空砲火を浴びせるが、全てを撃ち落とす事など到底出来ない。
迎撃網を突破した反物質ミサイルが次々と命中。
瞬く間に、艦隊は無数の閃光へと飲み込まれていった。
一方、遠戦艦隊の周囲では、サキウチ級コルベット艦がその高い機動性を存分に発揮している。
肉薄して来たコルゴラズの巡洋艦へ食らい付き、番犬の如く追い回しては、陽電子砲と反物質ミサイルを叩き込む。
「ヴェッティア提督! アイアンフレイムより入電! 地上に展開していた全部隊の撤収が完了したとの事です!」
通信手の報告を受け、ヴェッティアは惑星コルゴラズへ視線を向ける。
報告通り、軌道上に展開していた強襲打撃艦隊が、ゆっくりと惑星から離れ始めていた。
「航空隊は全機帰還せよ! こちらも本星系からの撤退準備に移る。レーダー手、索敵を怠るなよ!」
「了解!」
コルゴラズの板状攻撃機と激しい空戦を繰り広げていたビックホークや地上部隊を支援していたフロントランナーは、次々と戦線を離脱しヴィクトリーロード級空母やホシカゼ級巡洋艦への帰還を開始する。
その動きを好機と見たのか、1隻のコルゴラズ戦艦が一気に距離を詰めて来たが、艦隊下方へ回り込んでいたセンエイ級駆逐艦が、ホーク級反物質魚雷を発射。
下方から突き上げるように命中した魚雷によって、コルゴラズ戦艦は巨大な火球へと変わった。
航空機が居なくなった防空網の隙間には、クロスボウ級フリゲート艦が即座に滑り込む。
無数の対空砲が火を噴き、敵攻撃機を寄せ付けない濃密な弾幕を形成する。
「惑星コルゴラズ軌道上より、強襲打撃艦隊の離脱を確認!」
通信士の報告とほぼ同時に、ヴェッティアの指揮官席へ1本の通信が入った。
(ペルマーノ少将からの……個人通信?)
艦のメイン通信機ではなく、直接自分宛てに送られて来た通信に、疑問を覚えながらもヴェッティアは回線を開く。
「こちら、第2合同艦隊提督のヴェッティア少将です」
『よお。突然悪いな、ヴェッティア少将』
「どうされたのですか、ペルマーノ少将?」
ヴェッティアの正面に、ペルマーノの姿を映した立体映像が浮かび上がる。
『いやな、礼を言っておこうと思ってな』
「礼、ですか?」
『ああ。そちらが素直にこっちの指揮下へ入ってくれたお陰で、作戦をスムーズに進める事が出来た。感謝する』
「そんな大袈裟な……協力せよと船団長から言われていましたし、何よりペルマーノ少将の方が大規模作戦の経験も豊富です。自分が下に付くのが当然でしょう」
その返答を聞き、ペルマーノは苦笑いを浮かべた。
『お前さん程、素直に協力してくれる奴ばかりだったら、アシエムももう少し持ったんだろうがな』
「え?」
『自分の手柄欲しさに、味方との協力を拒む奴も居るって話さ。……おっと、そろそろ爆破するぞ』
ペルマーノがそう言った直後、王宮を中心に巨大な爆炎が噴き上がった。
膨れ上がった炎は、周囲で侵略者を追い払ったと歓喜に沸いていたコルゴラズ人達や瓦礫の山と化した市街地、辛うじて艦砲射撃を免れていた建造物を次々と飲み込んでいく。
爆心地から半径10km圏内に存在していた、ありとあらゆるものが猛烈な爆炎に飲み込まれていく。
炎が収まった時、そこにはただ巨大な穴だけが、ぽっかりと大地に口を開けていた。
(あそこに一体、どれだけの民間人が居たのか……)
ヴェッティアは、眼下に広がる惨状を複雑な心境で見つめ続けた。
『これで、コルゴラズは終わりだな』
「そう決め付けるのは、まだ早いのでは?」
『いんや。終わりだよ、この国は』
ペルマーノは迷う事なく言い切る。
『……この後、神聖コルゴラズ選民国はバラバラに崩れる』
今回、コルゴラズに対して行われた一連の攻撃。
その目的は、単に敵の軍事力を削ぐだけではない。
まず、造船所を含む軍需生産拠点が破壊された。
これによって新たな艦艇の建造は勿論、損傷艦の修理、兵器や弾薬の補充すら困難となる。
仮に多くの艦艇が生き残っていたとしても、それらは戦う度に消耗していく一方だ。
補充も修理も出来ない以上、コルゴラズ艦隊の戦力は時間と共に確実に低下していく。
更に、資源惑星への爆撃。
艦艇や兵器を生産する為に必要な鉱物資源や各種原料、その採掘・精製能力までもが大きな打撃を受けた。
造船所だけ残っていても、資源が無ければ艦は造れない。
資源だけ残っていても、造船所が無ければ艦は造れない。
そして、その両者を結んでいた輸送船団も壊滅した。
だが、輸送網の壊滅による被害は、軍事面だけに留まらない。
コルゴラズの各惑星では、食料を殆ど生産していない。
必要となる食料のほぼ全てを、食料生産惑星からの輸入に依存していた。
それは、人口1000億を超える巨大惑星であっても例外ではない。
その生命線とも言える輸送網が、今や寸断されている。
僅かな食料が外部から届いたとしても、1000億を超える住民全てを養える筈もない。
やがて備蓄が底を突き始めれば、限られた食料を巡って配給制が敷かれるだろう。
軍。
政府。
重要施設。
国家を維持する為、それらへ優先的に食料が回され、一般市民への配給は削られていく。
そして、その先に待っているものは大規模な飢餓である。
食料を巡る暴動や略奪が頻発し、治安は急速に悪化。
飢餓によって労働者が減少すれば、発電、上下水道、医療、輸送、廃棄物処理といった都市機能の維持すら困難となっていくだろう。
そうなれば、犠牲者は餓死者だけでは済まない。
更に、コルゴラズの象徴であった王宮が破壊された。
そして、皇帝の意思を伝える存在であった『皇帝の代弁者』達も、既にこの世には居ない。
中央政府と信仰。
その双方を支えていた柱が、一度に失われたのだ。
誰が皇帝の意思を代弁するのか。
誰が残された食料や資源を管理するのか。
そして、誰の命令に軍は従うのか。
その答えを巡って軍、神官、地方政府が対立を始めれば、いずれ限られた食料と物資を奪い合い、コルゴラズ人同士が武器を向け合う事になる。
造船所を失い、資源惑星が焼かれ、輸送網は壊滅。
国家と信仰の象徴まで失った。
神聖コルゴラズ選民国を待ち受けているのは、単なる軍事的敗北ではない。
軍事。
経済。
物流。
社会。
そして、宗教的権威。
国家を支えていた全ての柱が、同時に崩れ始める。
その果てに待つものは――。
飢餓と内乱による、国家そのものの崩壊だった。
「船団長は……その事を?」
ヴェッティアの問いに、ペルマーノは僅かな間を置いて答えた。
『間違いなく、分かった上でこの作戦を立ててる』
「…………」
『あの人は優しい人だよ。見ず知らずの奴に手を差し伸べるくらいにはな。だが、それと同じくらい自らの……いや、ゼクトル船団の脅威となる存在に対しては、酷く冷酷になれる人でもある』
未だ付き合いこそ短いが、それでもペルマーノはサワミヤの人となりを、少しずつ把握し始めていた。
「なら何故、我々にその事を説明せず、この作戦を!?」
ヴェッティアが思わず声を荒らげる。
対するペルマーノは、至って落ち着いていた。
『多分……テストだ』
「テスト?」
『ああ。俺達がこの作戦の真意に気付くかどうか、試されてたんだろうな』
そして、僅かに笑う。
『んで、お前さんだけ気付いてなさそうだったんで、俺が教えに来た』
「え!?」
ここに来てヴェッティアは漸く、ペルマーノがわざわざ個人通信を送って来た理由に気が付いた。
『ヴェッティア。軍人ってのはな、上に行けば行く程、ただ命令を聞いていれば良いって訳じゃない』
先程までの軽い口調から一転。
ペルマーノの表情が、僅かに険しくなる。
『作戦の裏にある意図を読み取ったり、政治的な影響まで考えて動く必要が出て来る。時には、間違った判断を下そうとしている上官に苦言を呈して、止めなきゃならん事もある』
その言葉を聞いた瞬間、ヴェッティアの脳裏にアシエムの姿が浮かんだ。
クーデターが成功した後の、あの国の惨状。
新たな最高議長となった、あの男。
(止めてくれる誰かが居れば……彼も、止まる事が出来たのだろうか……)
答えなど、今となっては分からない。
『船団長が求めているのは、そういう人材だ』
ペルマーノの言葉で、ヴェッティアの意識が現実へ引き戻される。
『いざって時、自分が道を踏み外しそうになったら、本気で止めに来てくれるストッパー役。イエスマンじゃなく、自分に「それは間違っている」と言える奴だ』
「船団長を……止める人間」
『そういう事だ。今の所、軍人の中にはそういうタイプの人間が居ないからな』
ヴェッティアは何も答えず、立体映像の向こうに居るペルマーノを見つめる。
ただ命令された通りに戦い、勝利する。
それだけでは、上に立つ者として足りない。
何故、この作戦を行うのか。
勝利した先に、何が起こるのか。
その命令は、本当に正しいのか。
そこまで考え、自ら答えを出す事を求められている。
ヴェッティアは改めて、眼下の惑星へ視線を向けた。
王宮が存在していた場所には、巨大な穴だけが残されている。
その光景を見つめながら、彼はペルマーノの言葉を静かに噛み締めていた。
作戦会議中の皆んなの心の中。
ペルマーノ=作戦終了後、どうなるか気が付いているが、コルゴラズを完全に崩壊させないと今後も襲われると思い、何も言わなかった。なんか、ヴェッティアが気付いてなさそうだったので、後で教えとこうと考えてた。
リカーナ=作戦終了後、どうなるか分かっている。その上で、更なる混乱をもたらす為に食料生産惑星への爆撃を提案。
ヴェッティア=何も分かっていない。コルゴラズに打撃を与えるとても良い作戦だとか思ってた。
セカトン=作戦終了後のコルゴラズがどうなるか分かっていたが、敵国がどうなろうが知ったこっちゃないと思い、黙りを決めた。ダメそうなら誰か反対するやろとか考えてた。
サワミヤ=おかしいな?民間人めっちゃ死ぬ作戦なのに、誰も反対意見上げねぇなぁ。皆んな気が付いないの?……やっぱ、次の軍事部門長はパルローナにやってもらうか。
パルローナ=「グブォハァ!?」作戦会議には参加していなかったが、艦隊の指揮と軍事部門長を兼任しなければならない、とんでも激務の気配を感じ取り吐血。