倒れ伏す羂索。1000年の因縁が今此処に終結を迎えようとしている。
「1000年の暗躍、ご苦労だったな羂索。此処がお前の終着だ。」
術式が機能不全を起こした羂索の体は痙攣し、頭の縫い目が外れ
10体いる特級呪霊達も術式が使えない為にアイン達と灰の英雄達に畳まれフンフに簀巻きにされ、ドライの影に収納されていく。
「ほっておいても死ぬだろうが、せめてもの情けだ。今すぐ殺してやろう。」
創世が、道満が口を閉じようとする。この口を閉じ切れば羂索は死ぬ。ようやく子等の仇を討てる。ようやく悲劇の元凶を葬れる。二人の悲願が叶う瞬間に、羂索の影が爆発した。
「ッ!?『餓樂堕』!」
咄嗟に術式にて羂索がいた場所を喰らう。手応えはある。だが恐らく体を食っただけ、本体の脳は生きている。追撃したいが、目の前の存在から目を離すのは自殺行為だ。
爆発した影が晴れる。佇む一人の麗人。その目は漆黒であり肌は死人の様に白く、豪奢な着物を身につけ、槍を……嫌、矛を右手で握り、左手で頭部だけになった羂索を持っている。
受肉体かと訝しむが、人がこの様な気配を放つわけがない。こんな死を具現した気配を放つわけがない。ならば呪霊?だがこれは呪霊と言っていいのか?迸る呪力が地を空を撫でる度に触れた場所が死んでいく。
「嗚呼、このように現世の空気を吸うのはいつぶりであろうか?ようやっと妾を解放したの羂索?妾を騙し封印したお主の無様、まこと滑稽であるぞ。」
左手で持った生首をコロコロと笑いながら上機嫌に眺める女は、その漆黒の双眸でコチラを見る。その目に浮かぶ感情は親愛と憎悪。相反するが矛盾しないそれらを宿した視線はそれだけで弱い呪霊を祓う事ができそうだ。
「お主がコヤツを追い詰めた術師かの?褒めて遣わす。本来なら褒美の一つでもとらすのだがの、この身の妾が人に与える褒美は死と決まっておる故に、スマヌな童よ。恨むなら我が夫たるイザナギを恨んでおくれ。」
女。手に持つ矛。死人の様な見た目。夫たるイザナギ。一つ一つのピースが合わさり出た答えは最悪も最悪。
「恐れながら問わせていただく。貴方様は黄泉の女神、黄泉津大神イザナミ神であらせられるか?」
「ほほほ。学のある童であるな。感心感心。いかにも、妾こそ黄泉を統べる神。イザナミである。まぁ呪霊たる身である故、呪神・黄泉津大神と言ったところかの。」
最悪だ。原作でも出ていたが産土神信仰から生まれた呪霊が灰原を殺めた様に、この世界では信仰が反転して生まれた呪霊は例外なく強い。
無意識の集合体である呪霊にはピンキリがある。無意識の集合体である故に、根幹となる恐怖や増悪の感情次第で強さが変わる。人が人を恐怖する故に生まれた真人。自然から生まれた漏瑚・花御・陀艮。彼等が強いのは理解できる。何故なら人はそれらを無意識に強く恐れるからだ。
ならば、ならばだ。信仰とは意識的に畏れ敬い奉る。集まる呪力はいかほどか?それが呪霊に転ずれば強いのは必定。そしてそれが大神級の死を司る存在が転じた場合、その等級は特級などでは表せない。
「さしずめ神級呪霊と言ったところか。羂索め、こんな隠し玉を持っていようとは……」
「ほほ、どうする童よ?妾は機嫌がいい。今なら憎きあの人の子等であるお主を見逃してやってもいいほどにの。」
原作では存在しなかった呪霊。何故これほど強力な呪霊を羂索は使わなかった?
死滅回遊。此岸の人間を彼岸に渡す儀式……なるほど。プレイヤーの呪力程度でそんな事ができるのかと思っていたが、彼岸の女主人を持っていたからあんなマネができたわけだ。
「偉大なる死の女神よ。我等が人の始祖にして慈悲深き母よ。無礼を承知で答えましょう。神墜としは我等人の業なれば、堕ちし貴方を祓い、正しき神に還りたまえ。」
この呪霊を世に放てば多くの人が死ぬだろう。呪術界の総力を結集しても祓除できるか怪しいこの神は此処で払わねばならぬ。無辜の民草を傷つけてなるものか。
「イザナミ様よ、今の時代神は祈り縋られる象徴でいいのよ。変にしゃしゃりでて構い倒すのはクソ親の典型だぜ?」
頬の口が喋る。成得領域内で様子を伺っていた創世も同意見らしい。
「ほほほ!なんと勇ましき子等か!妾を前にその様な言葉を吐くとは、あな嬉しや。子等の成長を感じる時ほど嬉しいことはない。」
イザナミ神の気配が強まる。それだけで灰色の世界の半分が暗く染まる。現れるは荒れ果てた大地、天を突く程に巨大な社、一軒家を優に超える巨大の8体の鬼神。1500の黄泉軍。数えるのが馬鹿馬鹿しくなるほどの死者の群れ。
「さあさあ、妾の黄泉の世界に抗えるかの?人の可能性を見せてくれりゃ。」
雄雄雄雄雄雄雄オオオオオオオオオオォォォォォォ!!
雄叫びと共に殺到する八雷神と黄泉軍と死者の群れ。まるで漆黒の濁流の様に迫るそれは、人が抗えぬ天災を想起させる。
「総員全力で迎え撃ちなさい!相手は堕ちた大神。死力を尽くしても討てるか怪しい存在です。後の事は考えず持ちうる全てを懸けて此処で祓いますよ!」
「皆、リソースは気にするな!短期決戦で畳まにゃ勝ち目はない!目指すは黄泉津大神一人!」
『『『承知!』』』
子等の声を頼もしく思いながらも、現状戦力では勝ち目が薄い。相手は黄泉の軍勢と冥府の女主人。恐らくどれだけ雑兵を削ろうと意味はない。何故なら奴らは文字通りの死兵。どれだけ焼こうが消し飛ばそうが幾らでも蘇るだろう。
『
現にツェーンが放つ鋼鉄の雨を受けても減った分が一瞬にして補充されている。何よりただの死者の雑兵ですらツェーンの砲撃に数発耐えている。恐らくあの暗く染まった場所は一種の生得領域であり、その範囲にいる限りただの雑兵ですら1級並みのステータスを得ている。
「ほほほ!なんと雅な花火じゃ。一度咲けば死が降る黒金の雨。真、妾に捧げる供物に相応しいの。」
自らの兵がどれだけ削れようが笑みを浮かべ軍勢の最後尾にて浮かびながら此方を眺める黄泉津大神に微塵の焦りも敵意もない。
人が地を這う蟻を眺める様に、あれは自らが害されるなど思ってもいない。事実、手持ちの中で最高の貫通力を持つノインですら軍勢を貫く事はできない。
『ギギギギ!
世界にラッパの音が轟く。地から湧き出でる茶褐色の濁流。尽きぬ飢えと癒えぬ渇きを抱えた餓鬼の蝗が死者の群れと激突する。漆黒の濁流はその手にした武具と武練で蝗を打ち払う。茶褐色の濁流はその顎と数で全てを噛み潰す。
『ガガガガ!食い放題とはコノことダ!無尽に湧き出デる餌!それも極上の味と質!嗚呼、嗚呼、コレホドの糧があれば次のラッパも鳴らせようとも!拡張術式・
更に次のラッパが鳴る。地より蝗と共に現れる赤・青・橙色の甲冑を身につけた、馬の様な悪魔の様な生物に騎乗した騎兵隊が現れる。その数2万。原点の2億とは桁が違うがそれでも強力かつ大量の増援は漆黒の濁流を押し留める。それでも尚ジリジリと押されている。
『
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各々が自らの術式で敵を一掃していくが、拮抗した状態を崩せない。
『マスター!俺とフンフの姉御はこの世界の維持で精一杯だぁ!!灰の英雄達はあの暗い領域に入ると力を発揮できないし、術式の素体となってるツヴォルフも祓われちまぅ!マスターの守りに使ってくれや!』
子供達が全力で術式をぶん回し、リソースを食い潰しながらも攻め立ててようやく拮抗。この現状を打開するには新たな手札がいる。だが、並の札ではダメだ。
手持ちには羂索が放った特級呪霊が10体。これで新たな子供を創っても劇的に状況は変わらない。ならばだ、ここは賭けるしかない。
「「ヴァニティ。」」
『御前に。』
失敗すれば死ぬし、賭けに勝っても更に次の賭けに勝てなければ勝負の土俵に立てない。
さあ、博打の時間だ。
術式紹介『無尽の斬閃』
一を切っては十を望み、十を切っては百を求め、百を切っては千を目指し、千を切っては空を見据え、空を切っては無を断とう。いずれ那由多を斬るために。
術式効果。単純明快に切れると思えばなんでも切れる。極めれば極めるほどに無敵となるが、少しの疑念や雑念が混じれば何も切れない。