ドブカス(本物)のヒーローアカデミア (前作)   作:むめい。

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8話

 

黒い霧が広がった瞬間、俺は術式を発動する。コマを刻み、地面を踏み蹴って、一直線に霧の外へ抜ける。背中に冷たい気配が触れて、ほんの一瞬遅れてたら、俺もあれに飲まれとったと思うと、背筋が少しだけ冷えた。

 

「なんの能力かも分からんのに、みんなよう避けへんかったな...あぁトロすぎて避けれへんかっただけか」

 

着地して振り返ると、さっきまでクラスがおった場所はもう空っぽやった。人の声も足音も消えてた。恐らくあいつらは消えたんやない、飛ばされたんや。生きとるかどうかは分からんけど、死んだ感じはせえへん。まぁ、あっちは殺す算段ついとるからワープさせたんやろうけど。

 

その場に残っとったんは、俺と13号と、その他数人。あと黒い霧のヴィランだけや。霧はゆっくり形を変えながら、こっちを見とるみたいにうねっとる。13号は一歩前に出て、俺をかばう位置に立った。

 

「禪院君、君は外に出て救援を呼んでください!」

「僕の個性はヴィランの個性に有利だ!」

 

13号は落ち着いた声で言うたけど、俺は鼻で笑った。

 

「逆やろ。君のブラックホール、あの霧と相性悪いって分からん?」

 

一見、霧相手にブラックホールは有利に見える。けど相手の能力はワープや、動きの遅いブラックホールの攻撃を自分のとこにワープさせられて自滅する未来しか見えんわ。

 

俺は霧の動きをじっと見た。速さはない。広がり方はまぁまぁ、飲み込まれたら終い。さっきクラス全員を一瞬で飛ばした力がある。正面からやり合うのは得策やない。

 

(位置、距離、相手の動き全部見えとる)

 

投射呪法の線を頭の中で引く。次に動く場所、その次、そのまた次。

失敗したら、あの霧の中や。そうなったら、どこに飛ばされるかも分からん。

 

「なあ13号」

 

俺は視線を霧から外さんまま言うた。

 

「あいつ、殺しても構わへんよね?」

 

「ダメに決まってるでしょ!...さっきの話聞いてましたか?」

 

「ジョーダンやマジにせんといて、瀕死に留めといたるわ」

 

「……分かった。でも無理はしないでください」

 

「誰に物言うてんの?」

 

そう言って、俺は次の一歩を刻んだ。

 

黒霧のそばに、俺は一気に距離を詰める。コマを刻んで地面を踏り、空気を裂くみたいに走る。視界の端で、13号が何か叫んどった気もするけど、耳に入らん。今は速度だけや。

 

(念の為や。念の為)

 

いきなり触る気はない。まずは回る。黒霧の周りをぐるぐると走る。近すぎず遠すぎず。相手の反応を見るための距離や。

 

霧はゆっくり揺れるだけで、俺の動きについて来れてへん。視線も、気配も、全部が数テンポ遅い。

 

(ああ、やっぱそうやな)

 

もっと速度を上げる。足が地面を蹴るたび、衝撃が遅れて耳に届く。風が顔を殴る。視界の端がにじむ。体が軽うなって、感覚だけが鋭くなる。

 

数十秒走って、身体が亜音速の域に入った。

 

(ここからや)

 

黒霧の正面に回り込む。距離を一気に詰めて、腕を伸ばす。

 

触れた瞬間、術式を発動。

 

黒霧の動きが、止まった。

 

ぴたりと止まったわけやない。正確には、動こうとして失敗した、そんな感じや。中途半端な姿勢のまま、固まっとる。

 

(ほらな。カラクリ知らん相手には無理や)

 

投射呪法は、触れられた相手に「一秒を二十四に分けた動き」を無理やり考えさせる。できへんかったら、その一秒間、完全に止まる。

 

黒霧は、その一秒を作れんかった。

 

俺は止まった黒霧を見下ろした。

 

(やっぱりや。あんな連中まとめて来られたら厄介やけど、単体やったら楽勝やな)

 

狙う場所を決める。モヤの部分やない。実体のあるとこや。霧の奥に、かろうじて形のある胴体が見える。

 

(そこや)

 

一歩踏み込んで、拳を振り抜く。

 

亜音速のまま、呪力で強化した拳で真正面から叩き込む。

 

鈍い音がして、黒霧の胴体がひしゃげた。血と黒い何かが混じったもんを吐き出しながら、黒霧は後ろに吹き飛ぶ。地面を転がって、壁にぶつかって、動かんようになった。

 

十秒が終わる頃には、もう立ち上がる気配もない。

 

俺は肩を回して、軽く息を吐いた。

 

「あれ、あれあれあれ?」

 

倒れとる黒霧を見て、鼻で笑う。

 

「こんなもんなん?」

 

正直、拍子抜けやった。もっと粘ると思っとったし、もう一回くらいワープしてカウンター喰らわせてくる思っとった。でも、結局俺の勝ちや。

 

後ろをちらっと見ると、13号が目を丸くして固まっとった。

 

「……禪院君」

 

「何その顔。死んでへんやろ、多分」

 

黒霧はピクリとも動かん。生きとるかどうかは分からんけど、少なくとも、今すぐ動く気配はない。

 

俺は周囲を見回した。エントランスに人影はほとんど残っとらん。クラスはほとんどが飛ばされた後や。

 

「暇やし、ヒーロー?なってやろうやないか」

 

俺は足元にコマを刻んで、一気に跳んだ。景色が横に流れて、次の瞬間には相澤先生のすぐ横や。

 

先生は手だらけのヴィランと睨み合っとった。肘の皮膚が崩れてるみたいになってるわ。相手の個性やろうな。

 

「困ってるみたいやね。助けたろか?」

 

横から声かけた瞬間、相澤先生の目が見開いた。

 

「禪院!?お前なんでここに来た!!」

「13号から避難しろと言われなかったのか!?」

 

俺は肩をすくめる。

 

「なんやねん。折角わざわざ来たんやで?」

「お礼のひとつくらい言えんの?」

 

手だらけのヴィランが、こっちを見て舌打ちした。

 

「なんだお前。生徒か」

「邪魔すんなら……死ね!」

 

腕を振り上げて、俺に向かって伸ばしてくる。

 

「禪院、避けろ!こいつの個性は……!」

 

先生の声が終わる前に、俺はもう消えとった。

 

次の瞬間には手だらけの真後ろや。

 

「助けに来たやつが足手まといになるわけないやろ」

 

振り向きざまに言う。

 

「黒い霧のヴィランなら、もう殺したで」

 

手だらけが歯噛みする。

 

「チッ……ヒーローがヴィラン殺して良いのかよ?」

 

「嘘に決まってるやろ」

「馬鹿すぎて笑えるわ」

 

一歩近づいて、耳元で言う。

 

「てか君、そんな手くっつけて何がしたいん?」

「もしかして、支えてもらわんと立つこともできひんとか?」

 

手だらけの顔が歪む。

 

「お前……おい!脳無!!」

 

叫んだ瞬間、後ろから地面が割れるみたいな音がした。脳が丸出しの黒い筋肉が化け物みたいな速度で突っ込んでくる。

 

さっきまで俺がおった場所を、拳が叩き潰した。コンクリが砕けて破片が飛ぶ。

 

けど、そこに俺はおらん。

 

「頑張り賞ってとこやね」

 

脳無はもう一度殴ろうとするけど、動きが直線すぎる。速いだけで、読みやすい。

 

(一発殴られたら結構効きそうや...ま、喰らわんけど)

 

「てか、なんなん君?人間ちゃうやろ?」

 

返事はない。脳無はただ前に出て、殴る。それだけや。右、左、踏み込み、叩きつける。床が割れて、風圧だけが遅れてくる。

 

「力とスピードだけやね」

「脳無君言うたっけ?名前の通りやん」

 

(見た目は脳ミソ丸出しやけどな)

 

脳無は唸るだけで、また突っ込んでくる。

床を蹴る音が遅れて聞こえるくらい速い。

拳が振り下ろされるたび、地面が割れて、空気が潰れる。

 

(正面からやり合う意味はないわ)

 

俺は一歩だけ踏み出して、横に滑る。

拳が背中の後ろを通り過ぎて、風圧だけが肌を叩いた。

 

「ほら、見え見えやって」

 

次の瞬間、脳無の腹に手を当てる。

術式発動。

 

脳無の体が、また中途半端な姿勢で止まる。

拳を振り切る途中、足も浮いたままや。

 

「何回でも止めたるで」

 

踏み込んで、腹に一発。

続けて胸。

顎。

止まっとる相手に遠慮はいらん。

 

鈍い音が連続して鳴る。

肉を殴る感触が、拳に残る。

 

脳無が体勢を立て直す前に後ろに跳ぶ。

 

怒ったみたいに吠えて、また突っ込んでくる。

今度は両腕を振り回して、範囲を広げてきた。

 

「学習しとるつもりなん?。遅いわ」

 

拳が地面に突き刺さり、俺の方に破片が飛んでくるがそれも避ける。

 

「当たらん当たらん」

 

脳無が向きを変える前に、背後に回る。

亜音速で踏み込んで、背中に連打。

 

一発

二発

三発

 

「遅いって言うとるやろ」

 

脳無が振り向きざまに肘を振る。

それがかすめる。

 

(...あぶな)

 

肩が少し持ってかれた。

痺れる感じが残る。

 

「……今のは、ちょいムカつくわ」

 

もう一回、正面から行く。

わざと距離を詰めて、脳無の拳を誘う。

 

振り下ろされた瞬間、内側に潜る。

腹に触れる。

 

術式、発動。

 

また止まる。

 

「芸ないけど、効くやろ」

 

今度は止まっとる間に、全力で殴る。

みぞおちに一発。

 

音が遅れて聞こえる。術式解除の演出と共にヴィランが吹き飛ぶ。

 

それでも、脳無は平然と立ち上がろうとする。

 

「...しぶとすぎやろ」

 

「当たり前だろ」

 

手だらけのヴィランが、歪んだ笑いを浮かべて言う。

 

「そいつはな、先生が“対オールマイト用”に作った特注品だぞ」

「これでも、そこのプロヒーローのせいで弱体化してるんだぜ?」

 

その言葉で、俺は一瞬だけ動きを止めた。

 

視線を横にやる。

相澤先生や。

 

先生は目を見開いたまま、脳無を睨みつけとる。

首元の布が、風もないのに微かに揺れている。

目は赤くなっとる。

 

……個性、発動中やな。

 

「……は?」

 

思わず声が漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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