機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第222話 決着 x 転機

#

死の宣告と同時に辺り一帯を吹き飛ばすような巨大な爆発が巻き起こる。爆風があらゆるものを弾き飛ばしていき、木は折れ、砂塵が舞っていく。

 

リカルドは術式を発動した瞬間、木の陰に移動して身を伏せていた。あの爆発を受けては自分の身も危うい。その中心にいた二人は確実に死んでいるだろう。

 

炭素術で空気中の二酸化炭素を酸素と炭素に分解して発火させる高度な魔術だった。いわゆる粉塵爆発であるが、開放空間では起こすことが難しいこの現象も魔術であれば容易い。

 

ここに来てリカルドの魔術は数段の進化を遂げていた。これまでにない戦いが急速な成長を促したのだ。

 

(さて、こうなってはこのまま逃げるしかない… )

 

ここまでの大事を起こしては隠蔽工作しきれるものではない。爆発を嗅ぎつけて既に学院の警備が動き出していることだろう。

 

痕跡が残っていてはリカルドが容疑者としてあげられる可能性は高い。そうなっては別人になりすましたとしても活動を続けていくことは難しくなるだろう。

 

死体が残っていればあの黒い男を犯人に仕立て上げるなどの擬装を施すことが出来たが、粉々に吹き飛ばしてしまってはそれもままならない。残っていたとしても時間的に完璧な擬装は難しかった。

 

(しばらくは本国で大人しくしているしかないな )

 

リカルドはすべてを捨てて本国に戻ることを決意するとこの場を後にすると決断する。踵(きびす)を返して歩き出していく…そんな時だった…

 

…………ヒュン………ヒュン………

 

微かに何かが空気を切るような音がリカルドの耳に届く。気のせいなどではなくその音は徐々に大きくなっていった。

 

咄嗟に後ろを振り返ると、立ち上る煙の中から黒い影が飛び出してくる。

 

「!? 」

 

漆黒の棒を頭上で回転させながらあの男が迫ってきた。既に間合いに入られてしまっている。始末したという思いが油断を招いた形だ。死体を確認出来ないような魔術を使ったことがここに来て裏目に出ていた。

 

反射的に地面を蹴り後ろに飛び退く。だが―

 

―黒晶金剛斬(こくしょうこんごうざん)

 

棒の先端に緩やかな曲線を描く黒い刀身が形成された。回転の勢いを乗せて横一文字に薙ぎ払われる。

 

……ヒュパッ……

 

リカルドが後ろに飛んだ瞬間、両足は大腿部でバッサリと切断されていた。リカルドは両足を残して飛んでいき地面に落下して転がる。

 

遅れて、切断された周囲の木々が次々と地面に倒れていった。黒い男は漆黒の大薙刀の端を持って薙ぎ払い、長大な間合いで以てリカルドに斬撃を浴びせたのだ。

 

リカルドは地面に手を突き、両足のない体を起こすと男を見つめる。その顔には苦痛を堪える力みと男に対する憎悪、死への恐怖がない交ぜになった歪みが見て取れた。

 

本当の感情を表に現すのはリカルドとなってから初めてのことだ。

 

暗い火を灯す眼が見つめる先には、兜で顔の見えない全身黒ずくめの男が薙刀を振り抜いた姿勢のまま静かに佇(たたず)んでいた。

 

#

苦痛に顔を歪めるリカルドを見下ろしながら考える。

 

正直、困る…

 

殺すわけにもいかないし、かと言ってこのまま逃がしてしまっていいんだろうか? ここまでやったならもう遠くに逃げるしかないだろう。ルシウスもファムも安全は保証されていると評価しても間違いはなさそう…。

 

この状態でにらみ合い、警備が来るまで待っておくのが一番なんだろうけど、俺も警備とか衛兵とかには会いたくない。

 

見た目の怪しさならこの中でダントツだ。参考人としていろいろ聞かれるだろう。逆に聞かれない方が驚きだ。顔を見せろと言われるだろうし、それだけは避けなければならない。

 

警備が来てリカルドを取り押さえた瞬間にダッシュでおさらばしよう。俺も取り押さえられるかも知れないがそこはルシウスに頑張ってもらうか…。

 

そんなことを考えていたら背後の土の中からルシウスが這い出してくる。爆発する寸前に一瞬だけコアの力を使って地面に穴を掘って埋めておいた。

 

俺の方は全身から炭素を放出して相手の炭素の支配を奪っていき爆発を乱してやった。対抗術式だ。加えて、その炭素を使って装甲を作り出して防いだのだった。

 

「そこの御仁っ! 早く留目を刺すのだっ! 」

 

這い出してきたルシウスは開口一番とんでもないことを言ってくる。

 

ええ… 殺人教唆かな? 穏やかじゃないね…

 

とは言えそれが普通なんだろう。多分リカルドはこのまま捕まれば死刑だ。俺がこの場で死刑にしたところで結果は変わらない…嫌だけど。

 

どうしたもんかねぇ…

 

薙刀で肩をトントンしながら考える。正直に言うとリカルドの両足を切ったことで俺の心はだいぶ参っている。切断した感触は気分のいいものじゃなかった。

 

どう考えても殺すなんて無理…

 

…とりあえず両腕も追加でいっておこうか

 

そこまでやっておけば流石に逃げることも反撃することも出来ないだろう。魔物を相手にしていると思えば罪悪感もなくやれるはず?

 

いや、魔物相手にもそんなことはやったことなかったな…

 

…ああ、まあ~勢いでやれば何とかなるだろう、勢いで…

二本も四本も一緒だっ、一緒っ! 手足を切ったところで死にはしないさっ

 

俺は詳しいんだ…

 

仄暗い覚悟を決めて薙刀を構えるとリカルドへゆっくりと近づいていく。

 

動くなよ…手元が狂うから

 

リカルドも痛みが引いたのか覚悟を決めたのか、今は落ち着いた様子でこちらを見ている。

 

何を思っているんだろうな?

 

こちらが殺人を忌避していることはわかっているだろう。どうせ殺せないと高を括(くく)っているのか、それとも殺す覚悟が決まったのかも知れないと危機を感じているのか?

 

両足を切断された今、相手がどう見てているのか疑問が生じる。

 

まあ、知る由もないが… 表情からは読めない

 

やがて、こちらの間合いギリギリまで接近すると無性にひとこと言ってやりたくなった。これで最後になるかも知れない。

 

「最後に一応言っておく…そこら辺の土ではない 」

 

素材は厳選したものを調整して使用している。こだわりがあるんだよっ、こだわりがっ!

 

「………… 」

 

だが、リカルドには何のことかサッパリ通じていないようだ。沈黙するのみである。

 

まあ、そうか…

 

見切りを付けてさらに足を踏み出した。だが、瞬間、リカルドの魔力が急速に膨張していくのを感じた。

 

まだそんな力が…

 

意外な出来事に警戒の構えを取り相手の出方をうかがっているとリカルドの足の切断面から黒いものが急速に伸びていき一瞬の内に義足が形成される。

 

これはまさかっ!?

 

驚く暇もなくヤツは義足を操って後ろに飛び跳ねる。恐るべき速度で木々の間をバネのように跳ねていき森の暗がりの中に消えていった。

 

あれはルシウスが最後に使って見せた魔術と同じ技術だろう。名付けるなら義肢術とか義体術とかが適当だろうか? そう簡単に修得出来るものではないと思うのだが…

 

始めから使えたとは思えない。この戦いの中で出来るようになったと言うことなんだろう。

 

成長したな…あいつ…

 

敵ながら天晴れ… そんな思いが湧いてくるのは殺さずに済ますことが出来てほっとしているからかも知れない。

 

これでリカルドとは決着が付いた。

 

まだ解決していない問題もあるけどな…

 

炭素術を解除して仕舞い込むと後ろからルシウスが話しかけてくる。

 

「終わったようだな… 」

 

ルシウスに向き直り、近づきつつ様子を確認する。魔力はある程度回復したようで欠損が痛々しい右腕も傷口の肉が盛り上がり徐々に再生されつつあった。

 

入院までは必要ないかな…?

 

ルシウス自身も怪我に関しては気にしてなさそうだ。それより気に掛かっているのは俺が何者なのかってことだろう。

 

「助けてもらったようで……感謝する、ありがとう。しかし、ぶしつけかも知れないが一つうかがってもいいだろうか? 」

 

…来たよ

 

「いいだろう 」

「……なぜヤツに留目を刺さなかったのだ? 」

 

そう来るよな…

 

助けたことは事実として受け止めているみたいだ。しかし、わざわざ殺さずに逃がした風にも見えるから俺の狙いが理解しかねるって感じだろう。手放しに信用されているわけではない。

 

直接何者か聞いてこないのは聞いても無駄と考えているのか失礼であると考えているのか…? 結果としてより深い質問になっている。

 

答え次第ではより溝が深まる。今もちょっと距離が遠い…物理的にも…

 

「……その前に自己紹介がまだでござったな。拙者は旅の武芸者をやっているもので名をギヒトと申す。此度(こたび)はたまたま、偶然、思いがけず居合わせたもの。危うしと思い助太刀に入った次第……貴殿とあやつは何者でござろうか? 」

 

とりあえず挨拶は基本だよな。

 

ここで別れたら二度と会わないだろうから印象なんてどうでもいいと言えばどうでもいいが、後で通報されて指名手配?になることも考えられる。

 

そうなると次に擬人を使わなければならないときに困ったことになりかねない。

 

芽は先に摘んでおかなければ…

 

「ギヒト殿か…吾輩はルシウスと申す。学院で研究者をやっている者だ。ヤツはおそらく犯罪組織の工作員だろう。吾輩の研究室に正規の研究員として潜り込んでいたのだ。裏切られた形になったな…… 」

 

そう言ってルシウスは気落ちしたような、苦々しいような顔になった。

 

リカルドとは三年ほどの付き合いがあるんだったか。そこまで長くはないが良好な関係だったんだろう。なんだかんだでヤツは人当たりは良かった。いろいろ思うところがありそうだ。

 

「それはなんと…拙者には良くわからんが心情痛み入る… 」

「改めて礼を言わせてもらおう。ありがとう、助かった。あなたは命の恩人だ。今は言葉だけだがこのお礼は後で必ずする 」

「いやいや、礼には及ばぬよ。それよりまだ質問に答えてごさらんかったな。拙者は不殺の誓いを立てているでござる。人や魔物も殺さないようにしているでござるよ。そのために得物もこれを使っているのでござる 」

 

俺はユグニールを指し示しながらそう説明した。

 

これは強(あなが)ち嘘ではない。武器は殺さないことを主眼に置いて選択した。この姿の時は魔物だって殺さないつもりだ。暗躍をするなら血のにおいはなるべくしない方がいい…。

 

リカルドのこと、あんまり非難出来ないな…

 

「そうか…それはまた殊勝な心がけであるな。菜食主義の方であったか…そうとも知らずに失礼した 」

 

ん? こっちにもそういうのあるのか… 知らなかった

 

「いや、詮無きことでござるよ。お気に召されるな 」

 

まあ、なにはともあれ少し距離が近づいたようでなにより。やはり挨拶から会話につなげるコンボは有効だ。お互いの身の上を話せたことも大きいのだろう。話せば理解(わか)る。

 

これで通報は回避出来たな…

 

くだけてきたところでそろそろおさらばしたい。もう既に学院の警備がこちらに迫ってきていた。

 

彼らが来る前にここを立ち去らないと…

 

「そろそろ拙者は修行に戻るでござる。後は貴殿に任せるでござるよ 」

「そうか…もういかれるのか。残念である… 」

「それでは、さら…ッ! 」

 

さらば、と言おうとして途中で止まる。今何かを感じた。

 

なんだ?

 

「ふむ? どうかされたのか? 」

 

ルシウスが俺の挙動に違和感を覚えて声をかけてくる。俺はそれに応えずに違和感の正体を探ると引っかかるものがあった。

 

後ろ!?

 

俺は即座に後ろを振り返る。そこには驚くべきことが起こっていた。

 

 

 

 

 

 

足が………無い……

 

切断したはずの足がなくなっている。

 

リカルドではないだろう。そんな余裕があるとは思えん。

 

知らないヤツが持っていったと言うことだ。

 

擬人の索敵能力がさほど高くないとは言えこの距離でまったく気配を感じなかった。

 

四、五メートルと言ったところ。戦闘距離なら真後ろと言ってもいい。

 

誰だ? こんなことをしたヤツは……

 

まあ、別にいらないけどな…

 

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