シリーズ作品の合間に気分転換で執筆しました。
一発ネタです。


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第1話

 

 

彼女の近所には、小さい頃からお世話になっているお兄さんがいる。

 

ユウリが5歳にも満たない頃からの付き合いで、ご近所付き合いも長い。

 

幼なじみのホップよりも、下手したら長い付き合いかもしれない。

 

そのお兄さんはユウリとは少々年が離れているが、決まって腰を折り、視線を合わせて話してくれる。

 

子供にも優しく受け答えしてくれ、子供心にも共感してくれる。

 

遊びに誘っても断らずに乗ってくれる。

 

愛想もよく、人柄もいい。

ユーモアにも溢れていて、近所でも評判のお兄さんだ。

 

 

あと、ついで顔もいい。

 

モデル顔負けの顔面偏差値をしている。

 

ご近所のおばあさんたちも、彼と話す口実でよくお裾分けを持っていくほどに、人気である。

 

透き通るような白髪は女性からも受けが良く、男ながらに魅力に溢れている。

 

本人曰く「ストレスで色素が抜けた」と言っていたが、周りからは羨まれていた。

 

 

そんなお兄さんとの馴れ初めは、話せば長くなる。

 

ある日突然、家へと押し掛けてきたお兄さんを一時期迎え入れたのがことの始まりだ。

 

家無し、家族無し、金も無し。

着の身着のままほっぽり出てきたという、お兄さん。

 

その話を裏付けるように、小汚い恰好で近くの農場を倒れていたところを発見し、助けたのがユウリ一家であった。

 

『……すいません、一時でいいので家に泊めさせてください』

 

行く当てもなく、彷徨うだけであった彼に暖かい手を差し伸べたユウリ一家。

 

本当に少しの間ではあったが、当時、彼はその好意に甘えて、ユウリ家に滞在していた。

 

積極的に家事もこなすし、料理のお手伝いもする。

 

世が世ならスパダリと言われるほど機敏に動き、一家に貢献していた。

 

職を見つけ、独り立ちできるまで面倒を見るという条件付きではあったが、いつまでも滞在してくれと逆に懇願するほどに、彼は働き者であった。

 

けれど、お兄さんはこのまま居候していては悪いと思ったのか、死ぬ気で仕事を見つけ出し、家を建築し、直ぐに独り立ちしていった。

 

一人用の小さな家ではあるが、ユウリ一家や周りの人たち総出で手伝いを行ったのを覚えている。

 

その際、彼のポケモンたちも家の建造を手伝っていたのだが、何やら見慣れないポケモンばかりで、ダンテやソニアといった大人組は興奮していた。

 

こてこてと可愛らしく歩くハリネズミのようなフォルムをしたポケモンが花壇に花を咲かせ、

 

みゅう?っと可愛らしく首を傾げていたポケモンがテレポートで木材を運び出す。

 

他にも大型のポケモンが建設に邪魔な岩を粉砕していたが、どのポケモンたちも、この地方では見慣れないポケモンたちであった。

 

ユウリやホップはそんなポケモンたちとも触れ合うことができ、ご満悦であった。

 

お兄さんは小説家として生計を立てており、お金を稼いでいる。

 

彼の描いた小説は世界感が独特で、一定の人気を誇っている。

 

ユウリも彼の描いた小説を覗き込んだことがあるが、その世界感にどっぷりハマった。

 

『…このハリーポッターっていう作品凄いね!

私もこのシリーズの本、全部揃えてるもん!!!』

 

『……ぐわああ!!心にアバタケダブラ喰らった気分だよ…

オリジナルで書きだしてるとは言え、なんだか申し訳なくなってくる』

 

彼の描く作品にも惹かれ、隙を見てはお兄さんの元へ行くようになったユウリ。

 

その際も決まって筆を置き、彼女の話にも付き合ってくれる。

 

ポケモンが存在しない世界や、ハリーポッターのような魔法の存在する世界。

 

空想上の話を、お兄さんは御伽噺のように聞かせてくれる。

 

ユウリは、そんなお兄さんの口から語られる物語が好きだった。

 

よくホップと一緒になって家に押しかけたものである。

 

 

 

 

 

さて、本題であるが

 

顔もよく、親身になって話を聞いてくれ、穏やかな性格のちょっと年上な男性が身近に居たら、年頃の女の子はどう思うだろうか。

 

最近は小説の売れ行きもよく、映画化まで決まっている。

つまり、ちょっとした小金持ちになることも確定している。

 

 

この世の女性の理想を詰め込んだ男性、それがお兄さんである。

 

身近に入れば、惚れない者は居ない。

もし惚れない奴が居れば、そいつはLGBTだと断言していい。

 

 

ユウリも例に漏れず、お兄さんに恋をした1人であった。

 

街にもお兄さんに恋慕の情を寄せる者も多くおり、ユウリより年上のお姉さんたちもゾッコンである。

 

彼女たちは猛獣のような視線でいつも彼を狙っており、ボディタッチなどでさり気なく距離感を縮めていた。

 

ユウリではできない、大人の攻め方というやつである。

 

幼い彼女がやったところで効果はいまひとつ。

暖簾に腕押し。糠に釘を打ち込むようなものだ。

 

だからユウリは、幼いなりに精一杯の思いを伝えることで、お兄さんの心を射止めることにした。

 

純粋な子供にしかできない行動である。

 

「お兄さん!お兄さん!私と結婚して下さい!」

 

「いや、普通に犯罪になっちゃうから無理だよ??

ユウリちゃんは、僕を犯罪者に仕立てあげたいのかい?」

 

優し気な声色で断りを入れるお兄さん。

 

残念ながら、告白は成功しなかった。

 

当たり前である。

 

如何に子供からのアプローチであろうとも、受けてしまえばロリコン認定待ったなし。

 

世間で社会的に抹殺されてしまう。

 

お兄さんが断りを入れるのも当然であり、自然な流れではあった。

 

しかし、子供の感情がそれで納得できるかと言えば、否である。

 

「じゃ、じゃあ!どうしたら結婚くれるの?」

 

涙目になったユウリ。

 

幼い子供を泣かせるほど、彼は鬼畜ではない。

 

優し気な声色で彼女を宥めた。

 

『そこまで想ってくれるなんて、僕は果報ものだね。

そうだなぁ。

ユウリちゃんが結婚できる年になって、且つ僕とポケモン勝負に勝ったらいいよ』

 

一時の気の迷いだと、彼は思っていた。

 

幼い女の子が「父親と結婚する」なんて約束を交わすのもよく聞く話だ。

 

女の子なら一度は必ず通る道だろう。

 

大きくなれば現実を知り、その言葉すら忘れているのがほとんどである。

 

だから、彼は大して気にも留めていなかった。

 

数年もすれば先の言葉すら忘れ、すくすく育っていくだろうと彼は思っている。

 

彼としては冗談半分で言った言葉であろうが、ユウリは真に受けた。

 

結婚できる年になって、ポケモン勝負に勝つことができれば、結婚してくれる。

 

その言葉の意味はデカい。

 

子供の行動力は凄まじく、当時幼かったユウリは、ポケモンバトルで勝つために勉強に励み始めた。

 

年の問題は時間が解決してくれる。

 

あとは、お兄さんとポケモンバトルで勝つだけでいい。

 

近所のアカデミーに通ったり、ホップのお兄さんであるダンデからも指導を受け、徐々に知識と判断力を蓄えていった。

 

ポケモンとの相性、技の効果、フィールドの天候調整、ダイマックス。

 

 

黙々と知識の習得に励む姿からは、執念が窺えた。

 

その様子に、周りもユウリの本気度を悟る。

 

両親も娘の背中を後押しして「頑張りなさい」「外堀を埋めていくのも忘れるんじゃないぞ!」と余計なアドバイスを送る。

 

師匠になったダンデは「こんな幼い女の子の乙女心を射止めるなんて、悪い奴だ」と悪乗りして、ユウリを全力で鍛え上げた。

 

お兄さんの知らぬところで、ユウリを応援する輪が生まれていた。

 

彼女の本気度を知らないのは、お兄さん唯一人のみ。

 

外堀も埋めに掛かっているとは、普段家で執筆活動に勤しんでいるお兄さんには知り得ない話であった。

 

勿論、その間も大好きなお兄さんの家を訪れるのも忘れてはいない。

 

ホップと一緒に、時間を見つけては突撃していた。

 

 

「最近はウマ娘?って作品描いてるよね。

ケモ耳の女の子が、お兄さんの趣味なの?」

 

 

「こら、ユウリ!人の性癖にとやかくケチをつけるのは御法度だぜ!

人の趣味は千差万別なんだって、ダンデ兄ちゃんも言ってたぞ!」

 

 

「いや、あらぬ誤解だから!変に受け取らないでね、本当に!!

別に趣味とかじゃないから!!!」

 

何やら必死に否定していたお兄さん。

 

ユウリとホップは、そんな否定しなくてもいいじゃんと思っていた。

 

これでは認めているのと同義である。

 

ユウリは心のメモ帳に、お兄さんはケモ耳好きと書き加えた。

 

あとで、ふさふさの耳の付いたカチューシャを注文しようと心に決めた。

 

お兄さんの性癖を暴いたり、部屋でのんびりとおしゃべりしたりと、多くの時間をお兄さんの家で費やした、ユウリ。

 

彼女の心持ちは、いつまで経っても変わることはなかった。

 

やっぱり、お兄さんと結婚したい。

 

その気持ちに一寸の迷いもない。

 

 

旅に出て、ジムチャレンジへ挑む時期になろうとも、その想いは変わらなかった。

 

ユウリも12歳となり、年頃の年齢となる。

 

発育もよくなり、幼い身体つきから解き放たれたユウリ。

 

今なら大人の誘惑もできるに違いない。

 

旅立つ前も、幼い頃からの日課である、お兄さん成分をしっかりと補充していく。

 

「すーはー。やっぱり、お兄さんの匂いを嗅ぐと落ち着きます!

これなら、ジムチャレンジも頑張れちゃいます!!」

 

「……いや、僕の匂いなんて嗅いでも、何の得もないからね???

年頃の女の子が、はしたないことをしちゃ駄目だよ?」

 

困り顔のお兄さんを眺めてから、ジムチャレンジへと臨むユウリ。

 

旅の合間を縫っては、お兄さんの家に突撃するのは確定事項なので、ほんの少しのお別れである。

 

気合も十分。

充電もバッチし!

 

あとはジムチャレンジで己を鍛え上げ、お兄さんをバトルで負かすことのみである。

 

師匠となったダンデも彼女には期待を寄せており、いづれチャンピョンズトーナメントにまで登ってくるだろうなぁと予感させる。

 

それほどまでの仕上がりであり、ダンデとしても鼻が高かった。

 

町の住民や両親からの声援を受けて、旅立っていったユウリとホップ。

 

お兄さんも、その輪に加わって彼らを見送った。

 

彼らの活躍は、スマホロトムにて逐一確認できる。

 

便利な世界だなぁと呑気なことを考えていた彼だが、失念していたことがある。

 

 

 

それは、ユウリと数年前に交わした約束である。

 

 

今尚ユウリがその言葉を達成するために旅に出ているとは微塵も思っておらず、油断していた。

 

彼自身、この言葉が後に首を締めることになるとは想像すらしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1年後。

 

ユウリとお兄さんは、農場の一角にある広大なバトルフィールドにて向き合っていた。

 

「……ユウリちゃんが、まさか昔の言葉を一言一句覚えていたとは…

一時の気の迷いだと思ってたんだけどなぁ…」

 

「違います~!私は今も昔も、お兄さん一筋です~!!!

他の女性に盗られないよう、必死で気を張ってたんだから!」

 

お兄さんと呼ばれる彼の顔には、少しだけ焦りが見えた。

 

ユウリ

 

彼女は1年という短い歳月で、ダンテを下し、なんとチャンピオンにまで上り詰めていた。

 

燃え盛る女の恋心は凄まじい。

 

想い人である男性を射止めるためなら、チャンピオンにすら打ち勝ってしまうのだから、末恐ろしいことこの上ない。

 

「…お兄さんのポケモンを初めて見た時から、強いことは分かってました。

だから、この旅路で武者修行して私も強くなったんです!」

 

ユウリの手持には、近場の森で出会ったザシアン。

 

永遠のエネルギーを有するとされるムゲンダイナ。

 

マスタードと呼ばれる老人から譲り受けた卵を孵化させ、一から育て上げたウーラオス。

 

その他にも、頼れるポケモンたちが付いている。

 

ガラル地方のチャンピオンになったユウリ。

 

手持のポケモンたちも旅路の中で多くの経験を積み、歴戦の猛者を凌ぐ強さを得ている。

 

新チャンピオンとして、相応しい実力を備えている。

 

しかし、それに対抗し得るポケモンを有するのが、お兄さんである。

 

出自や家族構成にも未だに謎の多いお兄さん。

 

彼の自慢のポケモンたちの強さは、旅の合間でバトルをして、敗北した経験から身に染みている。

 

何処にでもいる一般ポケモントレーナーを自称する彼であったが、普通に強かった。

 

もはや、詐称に近い。

 

「私が勝ったら、お兄さんと結婚する。

その瞬間のために、今まで頑張ってこれました。

男に二言はない、そうですよね??」

 

若干顔が蒼くなっているお兄さん。

 

吐いた言葉は呑み込めない。

 

まさか、こんなにも早く結婚を迫られることになろうとは、夢にも思わなかった。

 

華々しい人生に、結婚の影がチラつきつつある。

 

自らの失言に、ここまで苦しめられるとは想定外である。

 

この窮地を脱するにはユウリとバトルをし、勝ち続ける道以外残されていない。

 

 

「いくよ、ザシアン!

初戦は勝ちにいくよ!!!」

 

「シェイミ、頼んだ!!!

これで負けたら人生の墓場に一直線だから!!ホントに頼んだ!!!」

 

人生を掛けたバトルが今、始まろうとしている。

 

お兄さんの全てを貰うべく、全身全霊を掛けてバトルに臨むユウリ。

 

幼い頃の約束を果たしてもらう。

 

そのために、彼女は今日、本気で勝ちにいく。

 

 


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