日常のホロライブSS(一話完結の短編集) 作:Sano / セイノ
世は、まさに大かき氷時代!
うだるような夏の暑さからか、ホロメン達の中に高まるかき氷の熱はそのとどまるところを知らなかった。
というのも、茶屋で人気のかき氷に感動した大空スバルとハコス・ベールズが、それを大げさにホロメンらに吹聴したからである。
「氷の調達なら任せてもろて!」
そんなホロメン達の熱量に対して、胸を叩いて得意気に請け負ったのは雪花ラミィ。
ユニーリア出身のハーフエルフの令嬢は氷魔法の使い手、彼女に掛かれば氷などいくらでも生み出せるのである。
夏の暑さに喘ぐホロメン達へ、ひと時の涼しさを届けよう。
そう願って彼女が始めたのは、『氷宅急便』なるかき氷用の氷を、魔法によって届けるサービスであった。
それに当たってラミィは、先輩のAZKiに『氷宅急便』のサポートを頼んでいた。
GeoGuessrで研ぎ澄まされた彼女の位置感覚は、どんな場所の位置すらも正確に特定する。その力に頼ることで、遠隔操作で場所を問わずに自由に氷生成できることをハーフエルフの令嬢は思いついたのである。
人のよいAZKiは楚々とした笑みで快諾し、まさにラミィが思い描いた事業が始まろうとしていた。
早くも寄せられたホロメン達からの依頼に、彼女はにんまりと腹黒い笑みを浮かべる。
(ふふ、このサービスは人気がでるぞ~)
「じゃあ、あずあず。位置情報をお願い」
「うん、わかった。Guess!」
ラミィの求めに頷いて、AZKiは目を閉じて届け先を寸分違わぬ精度で思い浮かべる。
繋いだ指先から伝わった情報、その場所へハーフエルフの少女は魔法で氷を顕現せるのである。
————————————(side ぺこマリ)————————————
朝のぺこマリ体操を終えて、兎田ぺこら、宝鐘マリン、そして綺々羅々ヴィヴィの三人は額の汗を拭っていた。
「おい、この後氷来っぞ。かき氷の覚悟は出来てっか?」
「ふん、任せるぺこ!」
かき氷機を手に不敵な笑みを浮かべるマリン。それに応じるようにぺこらも両手のシロップを掲げて見せる。
「うわぁ、楽しみですね! 私、この夏まだかき氷を——」
——パキンッ!
その時、手を打って笑みを浮かべていたヴィヴィを氷の柱が閉じこめた。
((——は?))
呆けたようにそれを凝視するのは、三期生の二人の少女たち。
そして、我に返った彼女たちは、氷に封じられた後輩に駆け寄った。
「ヴィ、ヴィヴィー!?」
「大丈夫ぺこか!?」
氷をガンガンと叩いて呼びかけるマリン。
そのすぐ後ろに、またしてパキンッという音とともに狙いすましたように氷塊が出現する。
それは先ほどまで海賊の少女が立っていた場所。
あまりに正確すぎる位置情報に基づいたラミィの氷魔法は、氷を届けるのみに及ばず、そのホロメンすらも氷漬けにするのである。
————————————(side あずらみ)————————————
「あ、マリンちゃんが動いたからズレちゃったかも……」
「大丈夫、大丈夫! 魔力はなんぼでもあるから、どんどんいこ―!」
申し訳なさそうな顔をするAZKi、その不安をラミィは腕を突き上げて余裕の笑みで吹き飛ばす。
拳を握って、頷くAZKi。
「うん! じゃあ、いくよ。 Guess!Guess!Guess!——」
ひんやりとした冷気がハーフエルフの令嬢を中心に逆巻き、魔力の奔流となって二人を包んでいた。
その魔力が向かう先はどこなのか——
————————————(side ぺこマリ)————————————
「っべぇぞ、マジで!」
「とにかく走れぺこ!」
全力で疾走するぺこマリは、自分たちを狙い定める氷魔法の脅威から逃げ回っていた。
視界の端に氷漬けにされたヴィヴィが過る。
少しでも動きを止めれば、正確無比な氷撃は少女らをあの二の舞にするであろう。
だからこそ、二人は血相を変えて足を動かすのである。
……だが、それもいつまでもは続かない。
「あ!?」
足を縺もつれさせたマリンが、姿勢を崩した。
それを無様とばかりに笑って見過ごそうとしたぺこらの足も急に止まる。
見れば、地に伏したマリンが、兎の少女のジャージの袖を握りしめて引き留めているのである。
「ちょ、離せぺこ!」
「うるせぇ! おまえ、今マリンを見捨てようとしただろ!」
狼狽うろたえながらも吼ほえるぺこらに、マリンも怒号を上げる。
「マリンは関係ないやろ! どうせお前はコスプレ幽霊なんだから、凍っても大丈夫ぺこ!」
「は? 幽霊なんて年齢考えるのメンドイから作った設定です―。それにぺこらが船長を見捨てようとした事実は消えねぇ! お前だけが助かるなんて許さないからな、ぺこマリが死ぬときは一緒や!」
「ふざんけんな! 離せぺ——」
——パキンッ!
互いを貶けなし合いながらも全く引かない二人は、仲良く揃って氷に閉ざされたのであった。
————————————(side ミオ)————————————
朝ミオ中である大神ミオは時計を見て、リスナーたちに笑いかけた。
「あ、もうすぐ氷が届くので、今日は息抜きにかき氷を作り——」
——パキンッ!
突如として氷結した配信主に、それをゆったりを眺めていた白上フブキとミオファ達が騒然となる。
————————————(side ロボタール)————————————
次々に眼前で凍らされるホロメン達。
それに戦慄したロボ子さんとアキ・ローゼンタールは虚空へと逃避した。
「怖かったぁ……さすがに空までは来ないでしょ」
「ボクもそう思うよ、アキちゃん」
アイクで浮遊するアキロゼの呟きに、その横で飛ぶロボット少女が肩を竦めるのだった。
さしもの氷魔法といえども、空を駆ける者まで捉えらえるとは思わない。
そう高をくくっていた二人は、直後にAZKiの空間把握を甘く見たつけを払うことになった。
——ガキンッ!
分厚い氷に封じ込められたアキロゼが、落下していく。
ラミィたちの氷撃はこの地のみならず、空すらも脅すのである。
恐怖に顔色を変えたロボ子は、ジェットエンジンを全開にふかして亜音速へと加速した。
————————————(side あずらみ)————————————
「……速いなぁ、でも大丈夫。Guess! うん、ロボ子さんにも届けられた」
「やったね! よし、じゃあ他のホロメン達にも氷を届けよう、次はねねとポルカ!」
「うん、どんどんGuessしていくね」
ほのぼのと仲睦まじく笑い合っているのは、あずらみの二人のみ。
彼女達の行いが、いかにホロメン達の心胆を寒からしめているとはつゆ知らず……
【後日譚 】
氷の除去のため、ホロライブ本社まで運ばれてくる氷漬けのホロメン達。
彼女達の氷塊は宅急便で送られ、今まさにトラックから積み荷の如く降ろされていく。
その様子に、スタッフの春先のどかは感嘆したように呟いた。
「わぁ、まさに氷宅急便ですねぇ」
雪花ラミィとAZKiはのどかの声に気まずそうに眼を逸らした。
普段は優等生であるあずらみの二人。彼女たちとしては珍しく、今回の騒動でしこたま叱られたのである。
かくして、氷を送り届けるはずの『氷宅急便』は、氷結したホロメン達が逆に送られることになった。
そして当初の思惑とは異なる形で、氷宅急便はホロメンたちにひと時の涼しさを味合わせたのであった。
そのまた後の話。
砕かれて大量に余った魔法の氷。
容易に溶けないそれで、獅白ぼたんはホロメン達に麵屋ぼたんの特別メニューとして冷やしラーメンを振舞ったのである。
そこで在庫が底をついたチャーシューを、桃鈴ねねと虫取りついでに魔界で補充したのはまた別の話。
了
(今回と関係する話)
大空スバルの日本語教室 https://syosetu.org/novel/401404/6.html
桃鈴ねねの魔界虫とり https://syosetu.org/novel/401404/2.html