日常のホロライブSS(一話完結の短編集)   作:Sano / セイノ

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季節は夏、大空スバルがハコス・ベールズに日本語を教える話、そんなホロメンたちの日常の一コマ。楽しんでいただければ幸いです。



大空スバルの日本語教室

「いいか、ハコス。漢字はな……パッションだ!!」

大空スバルはバンッとホワイトボードにを手で叩き、生徒の少女を見据えた。

 

 

外国出身者が日本語学習で最も苦戦するのは、なんといっても漢字である。ひらがなとカタカナはまだしも、2000字以上もある常用漢字を堪能に使いこなすことこそが日本語の難しいところ。

オーストラリア出身で絶賛日本語勉強中のハコス・ベールズ。あまりに多種多様でとらえ所のない漢字に頭を抱えた彼女は、先輩であるスバルに教えを乞うたのである。

 

 

「——まずは漢字自体が難しいものじゃない、苦手なものじゃない、って思えることが必要なんだとスバルは思う。だから漢字で遊んでみたいと、思います!」

「わぉ、なるほど!」

 

 

先輩の説明にハコスは目を輝かせて手を打った。

ただひたすら漢字とその読みを覚えることに終始してきたハコス、彼女にとってスバルの試みはとびきり魅力的に映ったのである。

 

 

「今回は創作漢字をやってみます! ハコス、聞いたことある?」

「……創作漢字? ボク初めて聞きました」

「OK。創作漢字っていうのは、簡単な漢字を組み合わせて、新しい読み方する字を作ってみるっていう遊びだから」

 

 

そう言ってスバルはホワイトバードにマーカーを走らせ始め、ハコスの視線がその黒い軌跡をなぞっていく。

「例えば、『食へん』の右側に『三分』と書く。ハコス、三分で食べられるようになるものといえば?」

 

 

先輩の問に、ネズミの少女はギザ歯を覗かせて身を乗り出した。

「あ、わかった! カップヌードルでしょ!」

「そうそう、いいじゃん! こんなふうにパッションで色々作っていけば、漢字への苦手意識とかなくなるから!」

 

 

「試しに『木へん』から考えてみるか。右側に何を書いてみる? 木に関係する意味になるから」

「……じゃあ、『木へん』の右側に赤色の『赤』でリンゴとかどうですか?」

“理解するの早ぇ! お前、天才か⁉”と、スバルは生徒の的確な回答に感心し、褒められたハコスもはにかんだように笑うのである。

 

 

「『木へん』の右側に青色の『青』でブルーベリー」

「スバルも負けてらんねぇな。『木へん』の右に黄色の『黄』でミカン……いや、グレープフルーツか……やっぱレモンか」

 

 

腕を組んで唸るスバルに、ネズミの少女はためらいつつも手を上げた。

「あの先輩、その漢字は『横(よこ)』です……」

 

 

「「………………」」

 

 

二人の少女の視線だけが交差し、気まずい静寂がこの場を支配する。

 

 

「ほわぁぁぁぁああああ!? マジだぁあああああ!!!」

やおら沈黙を裂いたのは、耳を聾《ろう》する爆音のようなスバルの絶叫。

そして彼女は思うのであった、コイツ自分より日本語できるんじゃね、と。

 

 

 

× × ×

 

 

 

「いいんですか、ご馳走になって?」

「いいよいいよ。オーストラリアにはないでしょ。ハコスにもかき氷食べて欲しいわ」

そう言って、スバルが後輩を伴って訪れたのは腰掛茶屋。漢字で頭を使った少女らは、夏の風物詩の甘味を求めて足を伸ばしたのであった。

 

 

到着したかき氷の全容を眺めて、ハコスはほぉと感嘆の息を漏らす。

粉雪のようなふんわりとした繊細な氷粒の山を、フルーツシロップと果物の切身が彩っている。

目にも美しいそれは、さながら一つ芸術品のようであった。

 

 

「食ってみな、飛ぶぞ」

隣でスバルが木製の匙さじを片手に、不敵な笑みを浮かべる。

ハコスも真似をして、スプーンを構えてかき氷に向かい合った。

 

 

不用意に山盛りの氷山に匙を突き入れると、頂上が崩れそうになり、ネズミの少女はぎくりとその身を竦すくませた。

そして、今度こそはと慎重に氷山の一角を掬すくい取って口に入れる。

 

 

彼女は忽たちまちの内に目を丸くした。

 

 

口の中で羽が舞ったかのような軽やかな氷の触感。

封じ込めれていた新鮮な果物の甘さと香りが一斉に花開き、それが柔らかな氷と共にすっと後を引きながら溶けていく。

その余韻すらもが愛おしかった。

 

 

「美味しい~!!」

「だろ!」

満面の笑みを浮かべて、足をバタバタとさせながら全身で喜びを表現するハコスに、スバルも弾ける笑顔を覗かせた。

 

 

だが、その美味しさに無心でかき氷を口に運んでいたハコス。

彼女は突然、スプーンを咥えたまま思わず身をよじらせた。

「う、頭が!?」

氷の冷たさがキリキリと頭を締め上げたのである。

 

 

「ハコス。かき氷を食い過ぎてなる、その頭キーンも夏の風物詩なんだよ」

「……うぅ」

後頭部を抑えながら呻くネズミの少女、それを見てスバルはからからと笑うのであった。

 

 

僅かに残る鈍痛に顔をしかめながら、ハコスは天を仰いで口を開く。

「美味しい氷をかきこみ過ぎりゃ 頭が痛くてこーりごり(氷々)。なんつって」

「お前、天才か⁉ よくそんな駄洒落がするすると出てくるな!!」

 

 

都都逸《どどいつ》風に詠まれた詩が、ヒグラシの鳴き声と共に夕焼け空に溶けていく。

暮れなずむ夏空を見上げてスバルは思うのであった、コイツ絶対自分より日本語できるだろ、と。

 

 

かくして、大空スバルは生徒のハコス・ベールズから逆に日本語を教わってしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回と関係する話)
雪花ラミィの氷宅急便(大ハプニング)https://syosetu.org/novel/401404/10.html
戌神ころねのキスカウンター https://syosetu.org/novel/401404/8.html
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