一応注意。今回はドットーレ及び「断片」の個人的解釈が含まれます。罠にかかり囚われたヘウリアとドットーレの話。楽しんでいただけたら幸いです。
のちに、おもちゃの販売員に扮したタルタリヤとその弟が旅人と共に訪れる「おもちゃ研究所」「独眼坊大世界」と呼ばれる秘境。かつて遺跡重機を研究していた【博士】の研究所であったその最奥に、ドットーレは持参した机と椅子に足を組んで座り優雅にコーヒーを口にしていた。
「どうだ?お前が長年過ごした第二の故郷、フォンテーヌで購入した豆を挽いて淹れたコーヒーだ。いい匂いだろう」
「……」
「ふっ。二大武神と言えども、こうなれば形無しだな」
「……私なんかにちょっと厳重すぎやしませんかね?」
そうぼやくのは、岩元素で地面と接地した先端が癒着した電気水晶*1製の鎖6本でグルグル巻きにされ、無駄に豪華な椅子に座らされ仮面を外されたヘウリアだった。自称偽物である彼女はドットーレを憎々しげに睨んでいる。
「厳重すぎるに越したことはない。ヘウリア専用に私自ら設計し、クズネツ*2に特注してもらった特製品だ。存分に味わってくれ」
「この……っ!?」
文句を言おうと身動ぎをしようとして、振動に反応したのか地面と接地している岩元素が軽く爆ぜるとそこから連鎖する様に弾けた雷元素による電撃が襲い、感電して押し黙るしかないヘウリア。以前デミ・エリゴルスに拘束を任せていた時と違い、半自動になっている辺りだいぶ対策してきたことが伺えた。
「……ぐう。あなた、執行官ですよね?私、一応氷の女皇の盟友なんですがいいんです?」
「何を言う。私はスネージナヤと友好関係を保つべき璃月の岩王帝君襲撃の犯人という大罪人を捕らえただけだ。なにか悪いことでもしたかね?」
「ならさっさと千岩軍にでも突き出せばいいでしょうに」
「何を馬鹿な。せっかく捕らえたというのに馬鹿正直に引き渡してどうする。このあとは私がプロデュースした大々的なショーも計画してあるのだ。一緒にそれを見てからでも遅くはないだろう」
「……オセル、ですか?」
「ほう?やはり、知っていたか」
少しでも情報を引き出そうと、既知の情報である「渦の魔神オセル復活」を口に出したヘウリアに、ほくそ笑むドットーレ。特段驚いてもいない辺り、予想していたらしかった。
「【公子】のもとに潜り込ませた私の部下からの連絡で、北国銀行に訪れたお前が禁忌滅却の札について既に知っていたことを伝えられてね。あれは数日前に私が再現に成功した品であり、夜叉復活の様に以前から計画していたわけでもない。【公子】は計画のために完成品を渡されただけに過ぎない。故に、お前が知っているはずがない情報だ」
「おや。貴方の部下の口が軽くて酒場で漏らしたんじゃないんですか?」
「言い逃れるか。オセルについては……ふむ。モラクスとお前が手を組んで戦った魔神戦争においても封印することしか対策がなかった相手だ、封印を解きさえすれば出てくるとは想像がつくか。……実はそれも尋ねたかったのだ。お前の力を知る度に、お前はオセルの天敵なのだと気付いたのでな」
「……なにが、ですかね。私があの怪物の天敵なわけないでしょう」
「そうか?お前は塩水を固めて海の上すら歩行できる。本来の肉体を失った今ですらその程度の権能が使える、ということはだ」
「……」
「その肉体になる前のお前の権能は計り知れない。塩を多分に含んだ水である海水でその肉体が形成されているオセルもその影響を受けるはずだ、と考えるのは妥当だろう?お前を調べるにあたり、一番の武勇として語られるのがこのオセル戦に置いてオセルの妻である渦の余威「跋掣」を単独で相手をしつつオセルの気も引いて、モラクスが孤雲閣となった岩の槍を落とすまで時間稼ぎを完遂した、という話があげられる。私は疑問に思ったのだ。そんなこと、可能なのだろうかと」
「……死に物狂いで戦いましたからね」
「ああ、そうだろう。だが海沿いの港町である璃月港に一切の被害を出すことなく、が肝だ。お前はオセルを固めることができたのではないか?倒せたはずなのに、わざわざ封印されるまで時間稼ぎを「演出」したのではないか、と私は考えたわけだ」
そう語られたヘウリア。苦虫を噛み潰したような顔を一瞬だけ浮かべてから、不敵な笑みを形作る。
「貴方は私を買いかぶりすぎですよ。それが可能だというのなら、なぜ私はそんな面倒くさいことをしたんですか?」
「ああ、それだ。それが謎だった。故に私は、非常に多い仕事を消化する中で、我が断片の一人に「ヘウリアのことを考え続ける」様に命じた」
「は?………はあ?」
正気ですか?とでも言いたげな顔を浮かべるヘウリアに、少年体の断片ドットーレは得意げに語る。
「ああ、正気だとも。ヘウリア、お前の研究価値はそれほどに興味深く、断片一人のリソースを全部割いてもいいぐらいには素晴らしい。そして、それを任されたのが最も若く!最も発想力にすぐれたこの私だ!……お前は知っていると思うが、10年前のスメールで起きたアトラス事変。私の断片もあの場にいた」
「そうですね。大戦犯アザールと一緒に裁判にかけられて、アザールに罪を全部押し付けて逃れたと聞きました」
「おや、あの愚か者をスケープゴートにしたのは不満か?」
「いや。貴方があんなミスを犯すはずがないのでアザールが全部悪いのは納得だしどうせ冤罪でもアザールなんでどうでもいいです。ざまあとしか」
「……アザールがお前になにかしたのか?」
「反吐が出るぐらい嫌いなだけですよ。ああ、安心してください。貴方も同列です」
「それは実に遺憾だ。あの男と同列に扱われるのは最大の侮辱だ。あの男が余計なプライドから謀らなければアトラスは今頃ファデュイの最大戦力に……」
「“あなたの最大戦力”の間違いでしょう」
本気で嫌がるドットーレにヘウリアがそう返すと、ドットーレは楽し気に嗤った。
「どういう、意味だ?」
「……あの時点では、デミ・オロバシもデミ・エリゴルスも。デミ・ルネウが付けていた首輪などなくとも貴方の命令を聞いていました。デミ・オロバシはともかく、自我があるデミ・エリゴルスすらその逆鱗に触れるまでは従っていた」
「ああ、そうだな」
「でも、私の呼びかけにデミ・オロバシは反応ひとつ見せなかった。つまり命令に愚直に従うわけじゃない。考えられるとしたら、貴方のその声に反応する……つまりは断片が変わろうとも命令を聞くように設定されていた、そうじゃないですか?他のファトゥスはおろか、氷の女皇の命令すら貴方を介さなければ聞かなかったのでは……?」
「……だがそれでも私は執行官第二位だ。ファデュイの最大戦力であることに変わりは……」
「変わりますよ。貴方に忠誠心があるかどうかすら怪しい。大方、環境が利用できるから留まっているだけでしょうに。貴方は必要とあれば部下どころか同僚すらも利用する外道だ」
そう告げたヘウリアに、ドットーレはぽかんと口を開けて呆けていたかと思えば、満面の笑みを浮かべた。それはとてもとても邪悪な笑みで、それを目の前で見せられたヘウリアも思わず怯んでしまう。
「ククッ……否定するのは簡単だが、それよりも喜悦が勝るな。私のことをそんなにも理解してくれているだなんて、嬉しいぞヘウリア」
「私は一ミリも嬉しくないです。死ね」
「まあそう言うな。私もお前のことをモラクスよりも理解しているつもりだぞ。そうだ、話を戻そう。10年前、私は本体が氷の女皇に報告しファトゥスを派遣されながらも、断片を残してお前の奮闘を観察していた。リソース不足の分身体でよくもあそこまで戦えたものだ。環境を利用し、仲間を使い、アトラスの傲慢さすら利用し、お前はあの最強の援軍が来るまで間に合わせて見せた。賞賛に値する、値するが……注目するべきはその戦闘力ではない。あのとき、炎神が似たような分身体を送り込んでいたが、その完成度はお前の分身体と比べるまでもなかった」
「いやあ、遠隔ながらあの火力をポンポン出せるマーヴィカさんは凄いですよね」
「違う。火力面においてはお前もアトラスを討伐したアレがあればわからんだろう。最も恐ろしいと思ったことは、お前の断片とでも呼ぶべき分身体だ。全く同じ性格、同じ人格。経験で多少は変わろうがほとんど映し鏡の様な自我を持つ分身。炎神の様に遠隔操作ではなく、完全に独立していた。つまりお前は、魂を複製もしくは、分割させたこととなる」
「ああ、それは。遺憾ながら貴方を参考にしました。ありがとうございますそして死ね」
「それは光栄だがしかし、残念ながら前提が違う。私の断片はあくまで、肉体の年代ごとに分けたものであり、条件が同じ断片を作ることはできない。どんなに細かく分けても30もできれば上出来だろう」
「……はい?」
そこで初めて、ヘウリアは思い違いに気づく。魂の分割など、【博士】ができるから当たり前にできていたと思っていたことが……それこそが異常なのだということに。今更になって思いだす。自分が最期に手に入れた「兹白」が……分割された魂の統合がまるでできずに三重人格になっていたという情報を。
「そもそもの話だが。魔神でも死すれば業障となり自我を失くした「力」が暴走する様に。生物というものの魂もしくは精神は、そこまで強靭ではない。百年、千年と生きれば自我を保つことができず磨耗もする。それが常識だ。磨耗とは即ち魂を削ることと同義であり、魂の分割や複製などした場合、なにかしら不具合が起きるはずだ。精神崩壊、記憶の欠如、二重人格、狂乱……しかし、お前はスメールの分身と別たれてなお、双方共にその傾向は見えない。これがどれほど異常なことかわかるか。ヘウリア」
「………」
「そこで私は仮説を立てた。ヘウリアの魂は、並外れた強度を持っているのだと。ではその理由はなぜか、と考えた。そこで思い出したのは、初対面のあの時。お前は、私の手のうちの全てを読んでいた。デミ・オロバシを見て動揺こそすれど、ファトゥスだと知りながら私の断片を躊躇なく殺して見せた。あの時はただただ興味深いとしか思わなかったが………すぐに疑問に辿り着いたよ。なぜ、数百年の時を超えて復活したばかりのお前が、私の存在を知っていたのかと」
「……!」
10年前の、復活したばかりで進む道も決まってなかったあの頃に。考えることを放棄してドットーレの断片を殺したことが、完全に裏目に出たのだと察してしまうヘウリア。青ざめたその顔を見てドットーレは上機嫌に語る。
「そして、並外れた強度を持つ魂。これを言い換えれば、少し分割しても問題ない膨大なデータベース……それこそ世界樹の様なもの、となる。そして、先ほども話したオセルの話に繋がる。オセルを倒せるのに時間稼ぎに留めた。それはなぜか。ここまで材料が揃えば、わからないでもない。……お前は、未来を知っている。そうだな?」
「……そんな、わけが。何を証拠にっ」
核心を突かれて、自分の声が震えていることにヘウリアも気づく。最悪だった。カーレスにだけ伝えていた真実が。一番知られたくない男の頭脳を甘く見ていた故に、気付かれた。
「ああ、そうだ。証拠はない。これはただの仮説でしかないが、そう考えればすべてがしっくりくるのだよ!正確には「自分がいない歴史を知っている」だろうか。強靭な魂は即ち、膨大な歴史をため込むための容量だ。オセルも恐らくはモラクスに封印されることこそが自分の知る歴史で、その後の歴史が変わりかねないから自分は手出しできない、といったところか。アザールを嫌っているのも、「本来の歴史」であの男が最悪な醜態を見せたからだろうか」
「……それ、が真実だとして。それを、他の【博士】には……」
「ああ、まだ伝えていない。私の様に四六時中お前のことを考えていない限りはこのような結論など絵空事にしか聞こえないだろうからな。確信を得てから伝えるはずだったが……ああ、いい。お前のその顔は、正解でよさそうだ」
「……そう、ですか!」
聞きたいことを聞き終えた瞬間、立ち上がろうとするヘウリア。迸る電撃がその身を砕こうとするのを耐えながらこちらに反撃せんとするその姿に、ドットーレは焦ることなく拍手を送る。
「お前をここで殺せば、問題ないというわけですよね!ドットーレェ!!」
「図星を突かれたからと口封じにかかるのは感心しないぞヘウリア。どんなに傷つこうともその意思を貫こうとするとは、賞賛に値する。だが残念ながらその鎖を繋げている岩元素はシールドを生み出す結晶反応を参考にしている。動けば動く程結晶反応が起きて修復する仕組みになっている。炎元素で電気水晶自体を砕かない限り、破壊は不可能だ」
「こんなものぉ………っ」
「そんな無駄なことを頑張るよりも素晴らしい提案をしよう。ヘウリア」
そう言って眼前までやってくると、顔を近づけて手を差し出すドットーレ。今まで嘲笑で歪んでいたその顔は真面目なものだった。
「私の「友人」になれ。そうすれば、その秘密も隠し通すことを誓おう。我々は同盟者となり、お前の知る歴史を利用し我が頭脳を用いて、至高の領域へと至るのだ。もちろん他の私になど渡しはしない。お前を他の私になぞ渡すのはもったいない……私の手を取れ、ヘウリア……!お前と共に、私は天に立つ……!」
それは、「ヘウリアのことを考え続ける」様に命じられた影響か。それとも、禁忌の領域に気づいてしまった影響か。狂気を宿した目でこちらを見てくるドットーレに、ヘウリアは――――――――
「お断りですよ、バーカ!」
「ぐぬあっ!?」
近づいたのをいいことに、頭を振りかぶって渾身の頭突きをお見舞い。仮面が叩き割られたドットーレに信じられないという表情を向けられ、ヘウリアは不敵に笑う。
「私が未来の知識を有していると気付いたことは賞賛しますよ。でもね、だからって貴方の「友人」になるなんてまっぴらごめんです!私はお前たちの様な外道のせいで失われる命を少しでも拾い上げるために生きるって、決めたんです!!」
「……ヘウリア」
「それとですね。貴方の知識は確かにすごいですが………「認識」できなければ関係ないんですよ」
そう笑ったヘウリアの視線が背後を向いていて、ドットーレは振り向く。誰もいない。はずなのに。確かに煌々と燃え盛る熱源がそこに在って。
「あてしのへウリアを独り占めにしたいだ?寝言は寝て言え」
「なに、が――――――」
ドットーレがその存在を確認した時にはその身ごと蒸発し、放たれた熱風が過負荷反応を起こして電気水晶の鎖が砕け散って、頭突きをしたまま前傾姿勢だったヘウリアは前のめりに倒れ込んだところに、手が差し伸べられた。
「大丈夫?」
「……いえ。本当に助かりました、グレメリー。保険はかけておくものですね……」
「友人」になれと脅迫してきたドットーレの魔の手から本当の親友であるグレメリーが助けに来てくれたことに安堵したヘウリアは、電撃に晒され過負荷反応を直接受けたダメージから、そのままグレメリーに抱き着く様に崩れ落ちたのだった。
※見た目だけはおねショタ。そんなわけでヘウリアの未来知識をその頭脳から導き出したドットーレ。ヘウリアからしても自分の魂が異常なのだと突きつけられる羽目に。ヘウリア史上最大のピンチでした。
そこに駆け付けるは真の親友、グレメリー。こちらもこちらでヘウリアが未来知識を知ってるってのを知ってあの時死にに行ったのはそういうことなのかと結構混乱してたり。
次回から一気に璃月編クライマックスに駆けおりていきまっせ。ドットーレの仕掛けたショーとは……?
以下定型文になりますが、割と真面目に感想に飢えているのでどしどしいただけると本当に嬉しいです。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
ヘウリアの隣に立てるのは
-
グレメリー
-
モラクス
-
ウェンティ
-
雷電影
-
帰終
-
マルコシアス
-
伐難
-
ヴィー
-
蛍
-
隊長
-
ドットーレェ!!!!!