六年前の「神野の悪夢」により、平和の象徴オールマイトは左腕を失い、松葉杖の引退を余儀なくされた。絶対的な光を失った社会は急速に荒廃し、ヒーローへの不信とヴィランの台頭が加速する「冬の時代」へと突入した。

そんな絶望の最中、雄英高校ではA組・B組合同の生存術特訓がUSJにて開始される。だが、そこを襲撃したのは、合理的かつ冷徹な暗殺者へと変貌を遂げた死柄木弔率いるヴィラン連合だった。死柄木は個性に頼らず、アサルトライフル等の近代兵器を駆使して生徒たちを蹂躙。情報共有の要となる生徒を狙った精密射撃で追い詰めるが、緑谷出久の鋭い分析と爆豪勝己の即断により、生徒たちは防弾シールドと個性を連携させた戦術で反撃に転じる。

重傷を負う相澤、銃火器の雨に耐える生徒たち。押し返された死柄木は、重装甲を纏った対ヒーロー用決戦兵器「脳無」を起動させる。圧倒的な暴力が牙を剥く絶体絶命の瞬間、満身創痍で松葉杖を突く伝説の男、オールマイトが立ち上がる。これは、光を失った世界で、かつての英雄と未来の英雄たちが「真の平和」を問い直す、血と弾丸の戦記である。

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gemeniで生成した文章です
AIが出力したものをほぼ無編集でのせてます
誤字や表現の矛盾などがあります
こういうのが読みてーなーという自給自足小説です
原作の僕のヒーローアカデミアは完結してるしアニメも面白いのでぜひ!

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。


【原作開始6年前:神野の悪夢よりさらに苛烈な決戦】

オールマイトは勝った。逃げようとするオール・フォー・ワンの頭部を叩き潰し、その命を完全に断った。だが、代償はあまりに大きかった。 左腕は付け根から消失し、左肺は抉れ、脊椎へのダメージは彼から「不退転の立ち姿」すら奪った。

 

街頭:雨の静寂

秋の冷たい雨が降る、下町の家電量販店。 店頭に並ぶ数十台の液晶テレビは、すべて同じ映像を映し出していた。

 

「……本日、病院より緊急生中継が行われます。平和の象徴、オールマイトによる……引退声明です」

 

アナウンサーの声が震えている。画面が切り替わり、真っ白な病室が映し出された。

 

そこには、私たちが知っている「笑う超人」はいなかった。 痩せこけた体、左肩から先がない病衣の袖。右手で松葉杖を突き、かろうじて椅子に座るその男は、痛々しいほどに「人間」だった。

 

『……皆さん。私は、もう、戦えません』

 

テレビから流れる声は掠れ、血の混じった呼吸がマイクに拾われる。

 

『巨悪は、私がこの手で絶ちました。ですが……私は……これ以上、皆さんの盾にはなれない。勝って、守って、笑う。その約束を、果たせなくなった……。申し訳、ない……』

 

最強のヒーローが、カメラに向かって、震える頭(こうべ)を垂れた。

 

店頭:二人の少年

テレビの前には、雨に濡れるのも忘れて画面を凝視する二人の子供がいた。

 

緑谷出久(9歳)は、口を半開きにしたまま、ボロボロと涙をこぼしていた。 彼にとっての神様が、片腕を失い、杖をついて謝っている。それは「無個性」の自分でもいつか手が届くかもしれない「夢」が、目の前で粉々に砕け散った瞬間だった。

 

「……うそだ……。オールマイト……なんで……あやまるの……?」

 

絶望。それは、ヒーローが負けたことへの絶望ではなく、「ヒーローが弱くなったこと」を社会が突きつけていることへの、子供ながらの生理的な恐怖だった。

 

隣に立つ爆豪勝己(9歳)は、歯を食いしばり、拳を血が滲むほど握りしめていた。 「勝利」こそがヒーローの証だと信じてきた少年。彼が見ているのは、無残な姿になった憧れへの怒り、そして、あんな姿になってもなお「謝罪」を強いる、テレビの向こう側の冷たい視線への苛立ちだった。

 

「……ふざけんなよ……。勝ったんだろ……? 倒したんだろ……!? なんで、そんなボロボロで……惨めなツラして……謝ってんだよッ!!」

 

爆豪の掌から、雨粒を弾く小さな火花が散る。

 

IF:崩壊する日常(続き)

街角:大人たちの「品定め」

家電量販店の前で立ち止まっていた大人たちの間には、追悼のような静寂ではなく、もっと生々しく、利己的な動揺が広がっていた。

 

「……おい、嘘だろ。左腕がないじゃないか。あれじゃあ、もう二度と戦えない」 「肺も片方ないって言ってたぞ。松葉杖がないと立てないヒーローなんて、何の冗談だ?」

 

一人のサラリーマンが、震える手でスマートフォンの画面を操作しながら、吐き捨てるように言った。

 

「終わりだよ。これから誰がヴィランを止めるんだ? 警察か? 無理に決まってるだろう。明日から怖くて地下鉄にも乗れやしない」

 

その隣で、主婦が子供の肩を強く抱き寄せ、テレビの中の英雄を「かつての守護者」ではなく「役に立たなくなった置物」を見るような、冷ややかな、それでいて怯えた視線で射抜く。

 

「……謝るくらいなら、もっと完璧に勝って欲しかったわね。あんな姿を見せられたら、こっちまで縁起が悪いわ」

 

大人たちは、オールマイトが何を「倒した」かではなく、彼が何を「失った」か、そして自分たちの安全がどれほど損なわれたか、という計算ばかりを口にしていた。

 

プロヒーロー事務所:折れる「正義」

一方、中堅プロヒーローの事務所では、さらに絶望的な光景が広がっていた。

 

「……おい、さっきのニュース見たか? 指定ヴィランの残党が、オールマイトの引退声明と同時に暴動を起こした。三つの都市で同時多発的だ」

 

デスクに置かれた無線機からは、悲鳴と爆発音が絶え間なく流れている。だが、そこに飛び出そうとするヒーローの姿はなかった。

 

「……無理だ。俺たちは『オールマイトがいるから』ヒーローをやってられたんだ。彼が後ろに控えているから、ヴィランも最後の一線は越えなかった。でも、もうあいつらは『怖いものなし』だ……」

 

一人の若手ヒーローが、自身のコスチュームのマスクを床に叩きつけた。

 

「俺は、死ぬためにこの仕事を選んだんじゃない! 商売として、正義の味方をやってたんだ。松葉杖をついたオールマイトの代わりになれっていうのか? 冗談じゃない、俺は……今日で辞める」

 

彼だけではない。その日、全国で数百件の「ヒーロー廃業届」が提出された。 それは、平和の象徴という巨大な太陽が沈んだ後に訪れた、長すぎる夜の始まりだった。

 

店頭:少年たちの決別

再び、雨の家電量販店前。

 

大人たちの身勝手な不満や、逃げ出そうとするヒーローたちの気配すら、少年の鋭い感性は嗅ぎ取っていた。

 

緑谷出久は、泣きながら、けれど確かな殺気にも似た視線を、テレビに背を向けて去っていく大人たちに送っていた。 (……なんで。オールマイトは勝ったのに。あんなにボロボロになって、世界を救ってくれたのに。なんでみんな、そんなに冷たい言葉を投げられるんだ……!)

 

出久の中で、社会への「不信感」が初めて芽生える。それは、彼が後に掲げる「救って勝つ」という理想の裏側に、深い孤独が刻まれた瞬間だった。

 

対照的に、爆豪勝己は、テレビに映る「左腕のないオールマイト」から目を逸らさなかった。 「……辞めていく奴らも、文句垂れてるカス共も、全員まとめてぶっ飛ばしてやる」

 

爆豪の声は低く、地這うような怒りに満ちていた。 「俺が……もっと強くなって、あんな惨めなツラ、二度とさせねぇ。謝らせねぇ。……見てろよ、クソが」

 

二人の少年は、同じ「絶望」を見ながら、全く別の道を歩み始める。 一人は「欠けたものを埋める」ために。一人は「欠けることのない最強」を証明するために。

 

 

深淵の胎動:蓋なき時代の獣たち

その日を境に、夜の静寂(しじま)は死語となった。 「平和の象徴」が松葉杖をついて頭を下げた瞬間、裏社会の住人たちは、自分たちを縛り付けていた不可視の鎖が音を立てて千切れるのを聞いた。

 

死穢八斎會:病根の蔓延

「……不潔だな。誰も彼もが浮き足立っている」 薄暗い地下室で、オーバーホール――治崎廻は、鳥の面越しに忌々しげに呟いた。 オールマイトの不在により、警察の包囲網は目に見えて疎かになっていた。ヒーローたちは暴走する野良ヴィランの対応に追われ、腰を据えて「組織」を追う余裕を失っている。

 

治崎は、震える少女・壊理の腕に冷たい注射針を突き立てる。 「だが、好都合だ。ヒーローという『病』を根絶する薬を作るには、これ以上ない喧騒だ。世の中が混乱すればするほど、我々の薬(個性消失弾)の価値は跳ね上がる」 かつて細々と活動していた極道たちは、今や「時代の主役」を奪還せんと、闇市場に毒を流し込み始めた。

 

ステイン:純粋なる殺意の研磨

雨の降る保須市の路地裏、ステインは大型テレビに映し出される「NO.1」エンデヴァーの暴力的な戦い振りを、血走った眼で見つめていた。 炎でヴィランを焼き、勝利を誇示するその姿は、ステインにとって「救済」ではなく「名声への渇望」に他ならない。

 

「……偽物が増えた。オールマイトという唯一の『真実』が消え、残ったのは自意識を肥大化させただけの虚像共か」 彼は短刀を抜き、自らの腕を浅く切り裂いた。滴る血が、彼の狂気を研ぎ澄ます。 「粛清が必要だ。この混沌こそが、真の英雄を炙り出すための試金石となる」 翌朝、路地裏で発見されるヒーローの遺体は、昨日まで辞職を迷っていた者たちの背中を強く押した。

 

殻木(ドクター):死の工場のフル稼働

「ヒィ、ヒィヒィ……! 見たかね、あのアホ面を! AFO(先生)を殺して高笑いしているかと思えば、片腕を失くして震えとるとはな!」 不気味な培養液が並ぶ地下研究所で、ドクターはモニターを見ながら歓喜の声を上げていた。 主であるAFOを失った悲しみは、既に「研究」という名の狂気に塗り替えられている。

 

「抑止力が消えた今、街こそが最高の実験場じゃ。完成度60%の脳無(ノウム)でも、今の腑抜けたヒーロー共なら十分に蹂躙できよう」 暗闇の中で、複数の赤い眼がカッと見開かれる。 主を失い、制御を離れた「死の兵器」たちは、目的もなく、ただ破壊を楽しむために街へと解き放たれていった。

 

世界の変容

こうして、各々の組織は繋がりを持つことなく、しかし同時に社会の土台を削り取り始めた。 ある者は富のために、ある者は信念のために、そしてある者はただの悪意のために。 誰もが「次は自分の番だ」と信じ、オールマイトが血を流して守り抜こうとした日常は、急速に色褪せていった。

 

 

聖域の密談:折れぬ志

病院の最上階、厳重な警備に守られた特別病室。 そこには、かつて「最強」と謳われた男が、点滴のチューブに繋がれ、消え入りそうな呼吸で横たわっていた。左腕のあった場所は平坦なシーツが広がり、酸素マスクが彼の命を辛うじて繋ぎ止めている。

 

ドアが開き、二人の男が足を踏み入れた。

 

「……酷いツラだな、俊典」

 

グラントリノの声が、静まり返った病室に低く響く。その瞳には、かつての弟子への憐れみと、それを上回る「これからの地獄」を見据えた覚悟が宿っていた。

 

「……サー、ナイトアイ。そして、師匠……」

 

オールマイトが、焦点の定まらない眼をゆっくりと向けた。その隣で、サー・ナイトアイは眼鏡の奥の鋭い眼を、自身の震える手ごと隠すように組み、沈黙を守っている。予知(予見)するまでもない。目の前の男は、もう二度と空を飛ぶことはできない。

 

「俊典、絶望している暇はないぞ」 グラントリノが、ベッドの側に寄り、杖を床に突いた。 「外を見たか。ヒーローの三割が廃業届を出し、残った連中もエンデヴァーの暴走を止められずにいる。ヴィラン共は我が世の春を謳歌し、街は灰の匂いがし始めた」

 

「……私の、せいです。私が、もっと……完璧であれば……」

 

「黙れッ!!」 ナイトアイの、悲鳴にも似た怒号が病室を切り裂いた。 「あなたが命を懸けてAFO(あいつ)を断った。その価値を、あなた自身が否定してどうするのですか! あなたが謝罪したことで、社会は確かに動揺した。だが、それだけではない!」

 

ナイトアイは一枚の報告書を、オールマイトの胸元に叩きつけた。

 

「見てください。辞職した臆病者たちの裏で、若手たちが立ち上がっている。雄英の教師陣、エッジショット、リューキュウ……。彼らは、あなたの不在を埋めるために、不眠不休で現場を回っている。オールマイト……あなたが倒れたことで、皮肉にも『自分がやらなければ』という真の正義が、あちこちで芽吹き始めているんです」

 

グラントリノが窓の外を見つめる。そこには、遠くで上がる煙と、それを消し止めようと奔走するヒーローたちの小さな光が見えた。

 

「俊典。お前はもう『平和の象徴』としては死んだ。だが、お前が遺した『火』はまだ消えていない。……これからは、杖を突いてでも歩け。戦えぬなら、導け。お前が謝る背中を見て、それでもなお前を追おうとする次世代に、その力を繋ぐために」

 

オールマイトの、唯一残された右手が、シーツを強く握りしめた。 「……繋ぐ。ワン・フォー・オールを……」

 

「そうだ。AFOが死に、社会が崩壊した今こそ、真の『継承者』を見つけ出さねばならん。世界が完全に闇に染まりきる前に」

 

ナイトアイは、眼鏡を押し上げ、冷徹なまでに合理的な、けれど熱い信頼を込めて告げた。 「私が探します。あなたの後継に相応しい、最高の逸材を」

 

 

希望の種:学舎(まなびや)への誘い

ナイトアイとグラントリノが、これからの地獄を予見して唇を噛んでいたその時、ドアが控えめにノックされました。

 

「やあ、失礼するよ。少しばかり、道が混んでいてね」

 

現れたのは、雄英高校校長、根津でした。彼はいつものように穏やかな、けれどどこか寂しげな微笑を浮かべ、小さな花束をサイドテーブルに置きました。

 

「根津、校長……」

 

「八木俊典くん。まずは、遅くなったことを謝らせておくれ。そして……」 根津は帽子を取り、ベッドに横たわる、かつての『象徴』に向かって深く頭を下げました。 「一人の教育者として、そしてこの世界に住む一員として、最大級の感謝を。君が文字通りその身を捧げて、あの巨悪(AFO)を討ってくれた。おかげで、世界は『壊滅』を免れ、今こうして立て直しへのスタートラインに立てた。君の勇気に、心からの敬意を」

 

オールマイトの頬を、一筋の涙が伝いました。 「……しかし、私は……もう、みんなを守れる姿では……」

 

「そうだね。君は『平和の象徴』という重すぎる看板を、ようやく下ろした。だがね、八木くん。看板を下ろした後の人生こそが、君という人間の真価を問うものだと私は思うんだ」

 

根津は椅子に飛び乗ると、オールマイトの残された右手を見つめました。

 

「君が松葉杖を突き、謝罪する姿を見て、世間は揺れた。だが、君の後ろ姿を見て、あの日から一度も歩みを止めていない若者たちがいる。彼らには、君の『勝利』の輝きだけでなく、その『傷』の重みを教える師が必要だ。……どうだろう、雄英高校に来てくれないか?」

 

その提案に、病室内がざわめきました。

 

「八木くん。君には、次の『平和の象徴』候補を選ぶ、審美眼となってほしい。君が命を懸けて守ったこの国に、次にどんな希望が必要なのか。それを君自身の目で見極め、君が持っているその『残り火』を託すにふさわしい少年、あるいは少女を、我々の校舎で育てるんだ」

 

根津の瞳が、力強く光ります。 「君がヒーローとして空を飛べないなら、次の誰かがもっと高く飛べるように、その翼を磨いてやってほしい。……教育という名の戦場で、もう一度、私と一緒に戦ってくれないかな」

 

オールマイトは、窓の向こう、雨の向こうに見えるはずの雄英高校の校舎を思い描きました。 ナイトアイが推す「完成された少年」か。あるいは、あの日、店頭のテレビを見ていた「泣き虫の少年」か。

 

「……校長。私は……」 掠れた声に、微かな力が宿ります。 「教えることなど、何も知らない男ですが……それでも良ければ。次の世代のために、この命の残りを、使わせてください」

 

 

混沌の6年間:正義の変質と市場の狂気

1. エンデヴァーを巡る「血の二極化」

エンデヴァーによる過剰な火力行使は、日々凄惨さを増していきました。現場に遺されるのは、逮捕されたヴィランではなく、炭化した「かつての人間」の成れの果てです。これに対し、市民の世論は修復不能なまでに引き裂かれました。

 

過激排斥派(パニッシャー): 「甘い顔をするからヴィランがのさばるんだ! 全員殺せ、焼き尽くせ!」と叫ぶ群衆。彼らにとってエンデヴァーは、自分たちの恐怖を肩代わりして「掃除」してくれる冷酷な神となりました。

 

人権擁護派(リベラル): 「ヒーローによる私刑を許すな! 憲法は死んだのか!」とデモを繰り返す人々。彼らはエンデヴァーを「国家公認の殺人鬼」と呼び、ヒーローシステムそのものの廃止を訴えました。

 

街角では、この二派による小競り合いが日常茶飯事となり、ヒーローがヴィランを捕まえる間に、市民同士が殴り合うという皮肉な光景が広がります。

 

2. 死の商人:サポート企業の暴走

「自分の身は自分で守る」――この不穏なスローガンを追い風に、本来ヒーロー専用であったはずの強力なサポートアイテムが、法を潜り抜け「自衛用」として一般市場に流れ始めました。

 

「プロに頼る時代は終わりました。あなたの掌に、エンデヴァー級の火力を」 企業は不安を煽り、市民に過剰な攻撃力を売りつけます。強盗を撃退するために一般人が放った閃光弾が、無関係な通行人の目を焼き、火炎放射器が街区を焼き払う。街は「武装した素人」による暴発的な暴力で溢れかえりました。

 

3. 折られる若き芽:ヒーロー科への逆風

この泥沼の状況下で、雄英高校を目指そうとする若者たちには、家族や周囲からの凄まじい圧力がかかりました。

 

麗日お茶子: 「お父ちゃんら、あんたに死んでほしゅうないんや。今はもう、ヒーローは『憧れ』やなくて『呪い』なんや……」と、泣いて願書の提出を止められる。

 

飯田天哉: 兄・インゲニウムがステインに(原作より早く)重傷を負わされ、厳格な飯田家ですら「これ以上の犠牲は家系を断絶させる」と、ヒーローの道を断念するよう説得を受ける。

 

上鳴や耳郎: 「あんなに叩かれる職業に、あえてなる必要なんてない」と、友人たちから冷めた視線を向けられる。

 

入試直前:それぞれの「地獄」

そんな荒廃した空気の中、ついに雄英高校の入試日がやってきます。

 

会場へ向かう電車の中、緑谷出久は、座席に置かれた「エンデヴァーの虐殺を糾弾する」雑誌の表紙を見つめていました。この6年間、彼は独りでした。無個性な彼に「頑張れ」と言う者など誰もいなかった。 (……それでも、僕は。右腕だけで謝るオールマイトじゃなくて、あの日に見た、勝って笑おうとしていた『あの背中』を、もう一度作らなきゃいけないんだ)

 

一方、爆豪勝己は、街中で「自衛用ガジェット」を誇示して粋がる一般人を、殺気立った眼で一瞥し、歩みを進めます。 (どいつもこいつも、道具に頼って強くなった気になってやがる。……最強ってのは、個人の魂の、圧倒的な『格』のことだろうが。見せてやるよ、俺が全部塗り替えてやる)

 

 

静まり返った試験会場。かつては華やかな「ヒーローへの門出」であった場所は、今や硝煙と緊張が漂う「戦場への志願受付所」と化していました。モニター越し、そして壇上に立つ「平和の象徴」の姿に、受験生たちは息を呑みます。

壇上に立つ、生きた「教訓」雄英高校講堂。そこには、かつて全盛期のオールマイトが放っていた「圧倒的な黄金の光」はありません。左腕の袖は空っぽのまま畳まれ、右手で重々しい松葉杖を突き、痩せこけた体でマイクの前に立つ八木俊典の姿がありました。

 

異例の挨拶:感謝と警告オールマイトは、震える声を絞り出すようにして語り始めました。「……まず、皆さんに。心からの感謝を。……この、明日をも知れぬ苦難の時代に。ヒーローという、もはや『富』も『名声』も約束されない茨の道を志してくれたこと……。君たちのその勇気に、救われる思いだ」彼は一度言葉を切り、自身の空っぽの左肩と、松葉杖を支える細い足を、受験生たちに敢えて見せつけるように示しました。「……見ての通りだ。現場の現実は、この体だ。巨悪を討ち、勝ったとしても……失われるものはあまりに多い。君たちがこれから向かうのは、夢の舞台ではない。泥を啜り、血を流し、それでもなお『誰かのために』と手を伸ばし続ける……地獄だ。……それでも、来てくれるか?」会場を支配したのは、重苦しい沈黙。しかし、その中には恐怖だけでなく、純粋な「使命感」が静かに発火し始めていました。

 

根津校長の宣言と試験の変貌続いて、オールマイトの足元にいた根津校長が、凛とした声でマイクを引き継ぎました。「皆さんが背負おうとしている覚悟に、我々も全力で応えよう。……今年の試験に、単なる『ポイント競争』の場は用意していない。君たちが今日行うのは、【戦闘・救護・避難指示】が入り乱れる実践的シミュレーションだ」

 

改訂された入試内容:実践的フェーズ以前までの「仮想ヴィラン(ロボット)を壊すだけ」の試験は撤廃され、より「今、街で起きている地獄」を模した内容に変更されました。試験項目内容の詳細【戦闘】暴走する武装市民や、組織化されたヴィラン(模擬体)の無力化。【救護】倒壊した瓦礫の下から、精巧なダミー人形を「傷口を悪化させず」に救出する。【避難指示】混乱する群衆(ロボット)を、パニックを起こさせず安全圏へ誘導する。「……唾を飲む音が聞こえるね。だが、覚えておいてほしい」根津校長の瞳が鋭く光ります。「今の社会が求めているのは、強いだけの男ではない。絶望の中で、誰よりも早く『大丈夫だ』と笑える……真に賢く、強い魂だ。……さあ、始めようか!」

 

受験生たちの反応:出久と爆豪の眼緑谷出久は、震える手で膝を叩きました。(……オールマイトは、あんな姿になってもまだ、僕らを導こうとしてくれている。左腕がないなら、僕が……僕のこの腕が、誰かの盾にならなきゃいけないんだ!)対照的に、爆豪勝己は、壇上のオールマイトを睨みつけるように見つめ、獰猛に口角を上げました。(……あんなツラ、二度とさせねぇ。救いも、護りも、全部俺が力ずくで完璧にこなしてやる。……見てろよ、クソが)

 

 

雄英高校の入試会場は、皮肉にも今の日本の「縮図」となっていました。 試験が開始された直後、会場の外縁部で異変が起こります。

 

混沌の包囲網:若き壁

「ヒーローごっこはもう終わりだ!」「税金の無駄遣い共、ここを更地にしろ!」

 

雄英の正門前を埋め尽くしたのは、プラカードを掲げた市民団体と、それに紛れた自称「自警団」のチンピラヴィランたちでした。彼らにとって、この入試は格好の攻撃対象です。

 

「オールマイトはもう松葉杖だ! 守れるもんも守れねぇ学校に、ガキを入れる親の気が知れねえな!」 一人のチンピラが、市販された強力な攻撃ガジェットを校門へ向けました。

 

だが、その攻撃が届く前に、鮮やかな「盾」が彼らを阻みました。

 

「……そこまでです。ここは今、未来を担う子供たちが命を懸けている場所だ」

 

そこに立っていたのは、エンデヴァーのような威圧的な暴力ではなく、静かな、しかし確かな闘志を瞳に宿した若手ヒーローたちでした。

 

リューキュウ: ドラゴンの翼を広げ、背後にいる市民を風圧から守ります。「絶望するのは簡単です。ですが、私たちはまだ、彼らの明日を諦めていません!」

 

ファットガム: 罵声を浴びせる群衆をその巨体で優しく、けれど断固として押し留めます。「お怒りはごもっともや。けどな、夢見とる若もんの邪魔だけは、おっちゃんが許さへんで!」

 

エッジショット: 忍びの如き速さで、武器を持ったチンピラの指先を無力化していきます。「……心が折れるヒーローもいた。だが、残った我々は、以前よりも結束している」

 

彼らは世間から石を投げられ、同僚が去っていく中で、それでも「ヒーロー」であることを選んだ者たちでした。彼らの背中は、会場内で試験に挑む受験生たちを守る、最後の防波堤となっていました。

 

実技試験:泥沼のシミュレーション

外部の喧騒を遮断した演習場内では、緑谷出久が泥に塗れていました。

 

「……あ、危ない!」 倒壊したビルの下敷きになりかけているダミー人形。出久は「個性」がない代わりに、この6年間で叩き込んだ『人体の構造』と『力学』をフル回転させます。

 

「この角度で瓦礫を支えれば、隙間ができる……! すみません、今助けます! パニックにならないで、僕の声を聞いてください!」 相手が人形だと分かっていても、出久の瞳は本物(リアル)の命を救おうとする熱に浮かされています。その必死な姿は、モニターで見守るオールマイトの胸を強く打ちました。

 

一方で、爆豪勝己は、妨害に現れる模擬ヴィランを爆炎で一掃しながら、後続の受験生に怒鳴り散らしていました。 「ノロノロしてんじゃねぇ! 救護班はあっちだ、怪我人を纏めて運べ! 避難路の確保は俺がやる、テメェらは余計なこと考えずに動けッ!」 それは乱暴ながらも、今の荒廃した現場で最も必要とされる「力強い牽引(リード)」でした。

 

モニター室の静寂

「……見てください、俊典くん」 根津校長が、特定の画面を指差しました。 「外では大人たちが絶望を撒き散らしているが、ここでは……彼らはまだ、誰も諦めていない」

 

オールマイトは、松葉杖を握る手に力を込めました。 「ええ。……彼らは知っているんだ。誰かが立ち上がらなければ、この夜は明けないのだと」

 

画面の中、ボロボロになりながらも人を背負い、泥の中を走る無個性の少年の姿。 オールマイトの心の中で、あの日決めた「後継者選び」の天秤が、激しく揺れ始めます。

 

 

試験会場に広がる光景は、もはや「選抜」という言葉では形容しきれないほどに、純粋で、かつ切実な「祈り」に近いものでした。

 

■ 1. 泥濘のなかの輝き:1-Aメンバーの奮闘

演習場の各地では、後に伝説となる若者たちが、それぞれの正義を泥にまみれさせていました。

 

麗日お茶子: 浮かせた瓦礫を受け止める彼女の顔は、かつてのふんわりとした笑顔ではなく、歯を食いしばり、家族を想う覚悟に満ちた「戦士」の顔でした。「あきらめへん……私が助けて、みんなで笑うんや……!」

 

飯田天哉: 兄を傷つけた暴力への憎しみを、すべて「避難誘導の迅速さ」へと変換していました。規律正しく、迷いのないその指示は、パニック寸前の受験生たちの心を繋ぎ止めます。

 

切島鋭児郎: 落下してくる外壁をその身一つで受け止め、盾となっていました。「俺が硬くなってりゃ、後ろの奴らは痛くねぇだろ!」

 

一方で、彼らとは対照的に、多くの一般受験生たちは「実戦形式」の重圧に押し潰されていました。 「こんなの、塾で習ったロボット壊しと違うじゃないか……!」 「外では暴徒が叫んでるし、もう、嫌だ……」 泣き崩れる者、足がすくむ者。それがこの6年間、大人が子供に見せてしまった「世界の写し鏡」でした。

 

■ 2. モニタールーム:静かなる確信

その絶望の差を見つめるモニタールームで、オールマイトと根津校長は、モニターの青白い光に照らされていました。オールマイトの瞳には、かつての自分が見失いかけていた、小さな、けれど消えない「希望の灯」が宿っていました。

 

「……校長。これほどの若者が、まだ残っていた。この最悪の時代に、まだ……」

 

「そうだね、八木くん。彼らは、我々が思うよりもずっと、大人たちの背中を見て、そして『自分たちが何とかしなくては』と、この6年を耐え抜いてきたんだ」

 

オールマイトは、手元の進行表を確認し、掠れた声で問いかけます。

 

「……例の『0ポイント・ギミック』は、どうしますか? 予定通り、この混乱の最後に投入を?」

 

根津校長は、温かい紅茶を一口啜り、ゆっくりと首を振りました。

 

「いいや。使う必要はないよ。……この6年間という残酷な時間が、彼らにとっては十分すぎるほどの『選別』だった。今ここで泥を這っている彼らは、既に心の中に、あの巨大ロボットよりも大きな壁を乗り越えてきているからね」

 

校長はモニターの端、校門前で暴れる暴徒たちの映像に目を向けました。

 

「あのギミックは温存しておこう。もし万が一、外の暴徒たちがこの神聖な試験を物理的に壊しに来た時の、『鎮圧用』としてね。……今は、彼らの純粋な輝きを、最後まで見守ろうじゃないか」

 

■ 3. 希望の予感

モニターの一角には、個性を使えず、手のひらを血で滲ませながら、一人の負傷者を安全圏へ引きずっていく緑谷出久の姿が映っていました。 そしてもう一方には、自らの爆炎を「推進力」ではなく「光」として使い、暗い瓦礫の中の生存者を照らし出す爆豪勝己の姿が。

 

オールマイトは、松葉杖を強く握り直しました。 「……ええ。彼らが切り拓く未来なら……私は、もう一度信じてみたくなりました」

 

 

試験終了のブザーが演習場に長く、重く鳴り響きました。それは、少年少女たちが「子供」でいられる時間の終わりと、過酷な「プロ予備軍」としての始まりを告げる合図のようでした。

 

■ 1. 硝煙のあとの静寂

ブザーの余韻が消えるとともに、演習場のあちこちで受験生たちが糸が切れたように崩れ落ちました。

 

ある者は、泥にまみれたコスチュームのまま地面に大の字になり、濁った空を仰いで激しく肩を揺らし。 ある者は、自分の不甲斐なさに、傷だらけの膝を抱えて静かに肩を震わせる。

 

「はいはい、お疲れさん。怪我人はどこだい? 自分で動ける者は救護所へ行きな」

 

その間を、リカバリーガールが忙しなく歩き回ります。彼女の癒やしのキスは、肉体の傷だけでなく、極限の緊張にさらされた子供たちの心をも、わずかに解きほぐしていくようでした。

 

「……ひどい時代になったもんだねぇ。こんな小さな子たちに、戦場を強いるなんて」

 

彼女の呟きは、誰に届くこともなく、風に溶けていきました。

 

■ 2. モニタールーム:安堵と覚悟

一方、モニタールームの大型モニターには、校門前で気勢を上げていた暴徒たちが、リューキュウやファットガムたちの毅然とした対応(そして、威圧するように起動した0ポイント・ギミックの巨大な影)に気圧され、散り散りに去っていく様子が映し出されていました。

 

「……終わりましたね、校長」

 

オールマイトが、肺に溜まっていた熱い息をゆっくりと吐き出しました。 張り詰めていた空気が、ようやく少しだけ弛緩します。

 

「ああ。外部の混乱も、演習場内の熱狂も、まずは一段落だ。……八木くん、君の目には誰が残ったかな?」

 

根津校長が、手元のタブレットで受験生たちのスコア――それは単なる撃破数ではなく、救護の迅速さ、避難時の声掛けの適切さ、そして何より『絶望に抗う精神力』が加味された数値――を表示させました。

 

オールマイトは、数多ある画面の中から、一点を見つめていました。 そこには、試験終了の合図を聞いた途端、背負っていたダミー人形を降ろし、その場に突っ伏して、汚れた拳で地面を叩きながら泣いている緑谷出久の姿がありました。

 

「……私は、欲張りなのかもしれません。救おうとする者、勝とうとする者……その両方が、今の暗闇には必要なのだと感じました」

 

■ 3. 運命の交差

オールマイトは、壁に立てかけていた松葉杖を手に取り、ゆっくりと、しかし確かな足取りで立ち上がりました。

 

「校長。……少し、現場の空気を吸ってきます。……あの日、テレビの前で私を見ていた『子供たち』に、今の私がかけられる言葉を探しに」

 

「おや、それは重畳。……教師らしい顔になってきたじゃないか、八木先生」

 

根津校長の軽やかな笑い声を背に、かつての平和の象徴は、松葉杖の音を等間隔に響かせながら、夕暮れの迫る演習場へと向かいました。

 

 

夕暮れに染まり始めた演習場に、等間隔で響く硬い音。 「コツ、……コツ、……」 松葉杖が地面を突くその音が聞こえた瞬間、座り込んでいた受験生たちの間にさざなみのような動揺が走りました。

 

「……おい、嘘だろ」「オールマイトだ……本物だ」

 

ざわめきの中、痩せこけた体を揺らしながら、かつての「象徴」が歩み寄ります。 彼は道すがら、疲れ果てた受験生一人ひとりの目を見つめ、「お疲れ様」「良い動きだったぞ」と、掠れた、けれど温かい声をかけて回りました。

 

そして、彼は一人の少年の前で足を止めました。 泥と砂にまみれ、動かなくなった拳で地面を叩き、嗚咽を漏らし続けている緑谷出久。

 

「……もう、顔を上げてもいいんだぞ。少年」

 

出久がビクッと肩を揺らし、涙と泥でぐしゃぐしゃになった顔を上げます。そこには、逆光を背負い、不敵に……けれど少しおどけたように微笑む「師」の姿がありました。

 

「『私が来た!』……ってね。 少し、遅くなったかな」

 

「あ、あ、……お、オール、マイ……」

 

声にならない声を漏らす出久に、オールマイトは松葉杖を片手に預け、空いた右手を力強く、少年の泥だらけの頭に乗せました。

 

「君の戦いを見ていた。誰よりも早く駆け出し、誰よりも泥にまみれ、最後まで誰も見捨てなかった。……ナイスファイトだったぞ、少年!」

 

その言葉は、この6年間、無個性の出久が誰からも、自分自身からさえも受け取ることができなかった「全肯定」でした。出久は「あ、ああ……」と喉を詰まらせ、さらに激しく泣きじゃくりました。

 

「……チッ、相変わらずうるせぇな、デク」

 

低く、けれどどこか重みのある声が響きました。 いつの間にか、数歩後ろに爆豪勝己が立っていました。

 

彼は地面に突っ伏す出久を一瞥した後、その視線を真っ直ぐに、オールマイトへと向けました。 6年前、テレビの前で拳を握りしめていた少年は、今やかつての憧れを追い越さんばかりの体格に成長しています。

 

しかし、爆豪の言葉は、いつもの罵声ではありませんでした。

 

「……体は、もう大丈夫なのかよ。……オールマイト」

 

爆豪の視線が、秋風に力なく、ひらりと揺れる「左側の空っぽの袖」に吸い寄せられました。 あの日、テレビ越しに見た絶望の光景。今、目の前にあるのは、それを現実として受け入れ、杖を突いてなお戦い続けている男の姿。

 

爆豪は、言葉に詰まりました。 「最強」であれと自分を律してきた彼にとって、目の前の英雄が負っている傷の深さは、正視するのをためらうほどに重く、残酷なものでした。

 

オールマイトは、爆豪の揺れる瞳を見て、優しく目を細めました。 「ああ。……不便ではあるが、君たちのような若者に会えるなら、これくらいの代償は安いものだよ。爆豪少年」

 

英雄の「弱さ」と、それを上回る「精神の強さ」を前に、爆豪はただ、拳を強く握りしめることしかできませんでした。

 

 

夕闇が演習場を包み込み、遠くで暴徒たちが去った後の静寂が、三人の間に重く横たわりました。

 

爆豪は、風に揺れるオールマイトの空っぽの袖から視線を外すと、震える自分の拳をじっと見つめました。

 

■ 爆豪の誓い:最強への呪詛と祈り

「……あんたがそんな杖ついて、惨めな姿晒してんのは、俺たちのせいだ」

 

爆豪の声は低く、地這うような自責と怒りに満ちていました。 「あんたが一人で全部背負って、あの日ボロボロになるまで戦わなきゃいけなかったのは……俺たちが、弱かったからだ。クソみたいな大人共が、あんたの背中に甘えて、座り込んでたからだ」

 

爆豪は顔を上げ、かつての「象徴」を射抜くような鋭い眼で見据えました。

 

「俺は、あんたみたいにはならねぇ。……勝って、誰一人傷つかせねぇ。あんたにも、もう二度と謝らせねぇ。俺が……圧倒的な力で、絶望も、悲鳴も、全部ねじ伏せて、誰も文句が言えねぇ『最強の1位』になってやるよ!!」

 

それは、自分自身を極限まで追い込む、呪いにも似た誓いでした。 「救う」ことを「負けない」ことの延長線上に置く、彼なりの不器用で、しかし鋼のように硬い決意。

 

■ 出久の奮起:震える手で掴むもの

その隣で、ようやく立ち上がった緑谷出久は、爆豪の言葉に弾かれたように顔を上げました。

 

爆豪の「強さ」は、あまりに眩しく、鋭い。 それに比べて、自分は個性もなく、さっきまで地面を叩いて泣いていた。

 

(……そうだ。かっちゃんは、あの日からずっと、前を向いて怒ってたんだ。僕は、失われたものを数えて、悲しんでばかりで……)

 

出久は、泥にまみれた右手を強く、白くなるまで握りしめました。 爆豪が「傷つかない最強」を目指すなら、自分は何になれるだろう。

 

「……僕は」

 

出久の声はまだ震えていましたが、その瞳には、先ほどまでの絶望ではなく、オールマイトの右手のぬくもりが灯した小さな火が宿っていました。

 

「僕は、かっちゃんみたいに強くない。……でも、オールマイト。あなたが杖を突いて、それでも僕たちを導いてくれるなら……。僕は、あなたが守りたかったこの世界で、一人でも多くの人を、その手から零さないように……。あなたの『左腕』になれるくらい、強くなってみせる!」

 

無個性の少年の、身の程知らずな、けれど一点の曇りもない覚悟。

 

■ オールマイトの微笑

二人の少年から突きつけられた、熱すぎるほどの誓い。 オールマイトは、松葉杖に寄りかかりながら、枯れ果てたはずの胸の奥が熱くなるのを感じていました。

 

「……ああ。……ああ、そうだ。期待しているぞ、少年たち」

 

平和の象徴は、かつて見せたことのない「一人の人間」としての、慈愛に満ちた笑みを浮かべました。

 

「君たちがいる限り、この夜は……必ず明ける」

 

 

 

合格発表を待つ時間は、かつてのような「輝かしい未来への期待」ではありませんでした。それは、「生還が約束されない戦地への招集令状」を待つような、重苦しく、ひりつくような静寂でした。

 

■ 停滞した時間:合格発表の朝

20XX年、冬。 かつてなら合格を祝う桜が咲く準備を始めている頃ですが、街を包んでいるのは、排ガスと暴徒たちの放火による薄汚れた灰色の煙、そして互いを監視し合うような冷たい空気だけでした。

 

1. 麗日家:震える母の背中

お茶子の自宅に届いた、雄英の紋章が入った封筒。 ホログラムから投影された「合格」の文字を見た瞬間、お茶子は小さく拳を握りましたが、その背後で、母親は顔を覆って泣き崩れました。

 

「……おめでとう、お茶子。……おめでとう……っ」

 

おめでとう、と言いながら、母の肩は絶望に震えていました。 今の社会でヒーローになるということは、いつエンデヴァーのような過剰暴力の矢面に立たされるか分からず、いつステインのような狂信者に喉を焼かれるか分からないということ。 娘の夢が叶った喜びよりも、「娘を失うカウントダウンが始まった」という恐怖が、親の心を切り裂いていました。

 

2. 飯田家:名家の誇りと、現実の影

飯田天哉は、静まり返ったリビングで合格通知を受け取りました。 兄、インゲニウムが病室で寝たきりとなり、「ヒーローを辞めるなら今だ」と親族から説得され続けてきた日々。

 

「……行かせてください。兄さんの走れなくなった道を、僕が……僕が繋がなければならないんです」

 

厳格な父は、何も言わず天哉の肩を叩きました。その掌は、かつてのような力強さはなく、ただ重く、震えていました。もはやヒーローは「誇り高い家業」ではなく、「誰かがやらねばならない、汚れ仕事」になり果てていたのです。

 

3. 街の喧騒:責任転嫁の連鎖

一歩外に出れば、社会の歪みはさらに剥き出しになっていました。

 

「また強盗かよ! ヒーローは何をやってるんだ!」 「エンデヴァーが焼き殺したヴィランの家族が、またデモを起こしてるぞ」

 

市民たちは、自分たちが安全な場所にいられない不満を、すべて「残ったヒーロー」と、そして「その予備軍である学生」にぶつけ始めていました。SNSには『子供を戦場に送る雄英は人殺しだ』という誹謗中傷と、『もっと殺せ、もっと守れ』という強欲な期待が入り混じり、濁流となって流れていました。

 

■ 決意の少年たち

そんな地獄のような空気の中、緑谷出久は自室で、オールマイトのホログラムを見つめていました。

 

「……君が、一番人を救おうとしていたよ」

 

その言葉だけが、彼を支える唯一の光でした。 机の上には、ボロボロになった「将来のためのヒーロー分析」ノート。 出久は、震える手でノートの新しいページをめくりました。

 

(……社会はバラバラで、誰もが誰かのせいにして、ヒーローでさえ逃げ出していく。……だったら。だったら、誰よりもボロボロになっても、最後まで笑って手を差し伸べる……。そんなヒーローが、今、絶対に必要だ。……僕は、行くよ。オールマイト)

 

同じ頃、爆豪勝己は、自宅の窓から見える荒廃した街並みを睨みつけていました。 「……最強じゃなきゃ、誰も救えねぇ。最強じゃなきゃ、誰も黙らねぇ。……見てろよ、クソ共。俺が、この掃き溜めを、力ずくで平和にしてやる」

 

 

 

職員室の空気は、窓の外から微かに聞こえるデモ隊の怒号と、ひっきりなしに鳴り響く苦情電話の音で、ひどく濁っていました。

 

かつてのような活気はなく、残った教職員たちは防犯モニターを睨みながら、武装した暴徒の侵入に備える日々。そんな殺伐とした空間の片隅で、二人の男が対峙していました。

 

■ 職員室の対話:欺瞞と合理

「……入学式の中止、及び担当生徒の即時除籍処分の検討をお願いしたい」

 

書類を叩きつけるように置いたのは、相澤消太(イレイザーヘッド)でした。その目の下には、連日の現場対応で刻まれた深い隈があり、視線はナイフのように鋭く研ぎ澄まされています。

 

「彼らに『おめでとう』などと浮ついた言葉をかける時間は、一秒たりともありません。外を見ればわかるでしょう。ここはもはや学校ではなく、標的だ。入学式などという形式にリソースを割くのは、非合理的を通り越して、もはや自殺行為ですよ」

 

その言葉を、オールマイト(八木俊典)は、松葉杖に体重を預けながら静かに受け止めました。彼は空っぽの左袖を揺らし、窓の外……「ヒーローは死ね」と書かれた看板を掲げる群衆を見つめました。

 

「……相澤くん。君の言うことは、痛いほど正しい。今のこの国で、入学式を挙行するのは……確かに、贅沢すぎる『欺瞞』かもしれないね」

 

オールマイトは掠れた声で続けました。

 

「だがね。……あの日。私が杖をついて謝る姿を見て、周りの大人が『もう終わりだ』と唾を吐く中で……。それでも、この地獄のような6年を耐え抜き、『それでもヒーローになりたい』と、自ら火の中に飛び込んできた子供たちがいるんだ」

 

彼はゆっくりと相澤の方を向き、その瞳に微かな、しかし消えない火を灯しました。

 

「たとえ明日、ここが戦場になるとしても。今日という日だけは、彼らに『学校』という場所を……自分たちの選んだ道が、誰かに祝福されるものであるという実感を、体験させてやりたい。……それが、大人たちが子供に見せてしまった絶望に対する、せめてもの贖罪だと、私は思うんだ」

 

沈黙が職員室を支配しました。相澤は、相変わらず不満げな表情を崩しませんでしたが、オールマイトの「右手の震え」を、そしてその奥にある覚悟を、無視することはできませんでした。

 

「……チッ。相変わらず、感情論が過ぎる」

 

相澤は乱暴に首を掻きむしり、提出しようとしていた中止要請の書類を、無造作にポケットへねじ込みました。

 

「……まぁ、今の子供たちの『覚悟の質』を考えれば、初日から追い出して絶望させるより、一度『安全な場所』だと錯覚させてから現実を叩きつける方が……成長の効率としては、合理的かもしれません。わかりましたよ、入学式(茶番)は認めます」

 

「……ありがとう、相澤くん」

 

「礼には及びません。その代わり、式が終わった瞬間に、私のやり方で『現実』を教え込みます。……覚悟しておけと、彼らに伝えてください」

 

 

 

重々しい鉄扉が閉ざされ、武装したプロヒーローたちが校舎の四隅を固める。それは「式典」というよりは、どこか「決起集会」に近い異様な緊張感の中で行われました。

 

■ 厳戒態勢の入学式:静寂の祝辞

体育館には、新入生たちの規則正しい呼吸音だけが響いていました。窓の外には、暴徒の乱入を防ぐための防護シャッターが下ろされ、人工照明が彼らの硬い表情を照らしています。

 

壇上に上がった根津校長は、マイクの位置を調整すると、いつもの穏やかな、けれどこの状況下では奇妙に響く軽やかな声を放ちました。

 

「おや、皆さん。そんなに怖い顔をしないで。私はネズミかな? 犬かな? どっちでもいいけど、少なくとも皆さんの敵ではないよ」

 

小さなユーモアに、会場の空気がわずかにだけ揺れました。根津は言葉を続けます。

 

「今の社会で、この門を叩いた君たちは、間違いなく変わり者だ。だが、その『変わり者』たちの勇気が、この腐りかけた世界を繋ぎ止める唯一の希望でもある。……入学、おめでとう。君たちの知性と勇気に、最大級の敬意を表するよ」

 

続いて、松葉杖の音と共にオールマイトがマイクの前に立ちました。 「……ありがとう。今日、この場所に座ってくれて、本当にありがとう。君たちが前を向いてくれる限り、私の心も、まだ折れずにいられる」

 

短い、けれど魂を削り出したような感謝の言葉。それは、生徒たちの胸に深く刻まれました。その後、プレゼント・マイクやミッドナイトら教師陣が紹介されましたが、彼らの瞳にも、かつての陽気さの裏に「生徒を守り抜く」という悲壮な決意が滲んでいました。

 

■ 終わりのブザー:生存術の幕開け

「……以上をもって、入学式を終了する」

 

司会の声が止んだ、その瞬間でした。

 

「――喜劇(茶番)はそこまでだ。全員、その場に伏せろッ!!」

 

体育館を切り裂くような相澤消太の怒号。 同時に、会場の照明がすべて落とされ、非常警報が鳴り響きました。あまりの急変に、受験生たちが混乱し、悲鳴が上がる中、相澤の声が再び闇に響きます。

 

「A組B組、全員。今の『声』に反応して伏せられなかった奴は、実戦なら死んでいるぞ」

 

再び照明がつくと、そこには捕縛布を構え、鬼気迫る表情で生徒たちを見下ろす相澤の姿がありました。その横には、B組担任のブラドキングもまた、厳しい表情で立っています。

 

「入学式を体験したいと言ったのはオールマイトだ。俺は反対した。……今の社会で、お前たちに教えるべきは『ヒーロー像』じゃない。『いかにして、死なずに朝を迎えるか』だ」

 

相澤の目が赤く光ります。

 

「これより、A組B組合同による『生存術特訓』を開始する。救助を待つな、綺麗事を捨てる。……まずは、この体育館から一人も欠けずに、武装した『教師陣(ヴィラン役)』の包囲網を突破して校舎まで帰還してみせろ。……できない奴は、今すぐ親元へ帰れ」

 

その宣言を聞いた瞬間、緑谷出久の背中を冷たい汗が伝いました。 (入学初日から……これが、今のヒーローの『現実』なんだ……!)

 

一方で、爆豪勝己は獰猛に口角を上げ、掌で小さな火花を爆ぜさせました。 (上等だ……! 綺麗事じゃねぇ、圧倒的な『生存』を刻み込んでやるよッ!)

 

 

 

突然の闇と警報、そして教師陣による襲撃。 かつての平和な時代ならパニックで終わっていたであろうその光景も、この「地獄の6年間」を生き抜いてきた少年少女たちにとっては、もはや見慣れた「日常の延長」に過ぎませんでした。

 

■ 反応の連鎖:生存本能の開花

「……始まったな。デク、もたもたしてんじゃねぇぞ!」

 

爆豪勝己の声は、誰よりも早く空気を震わせました。彼は爆破の反動で低空を滑るように移動し、真っ先に体育館の出口を塞ごうとしたブラドキングの視界を、閃光で焼き払います。

 

「全員、固まるな! 散開しろ! 標的を分散させなきゃ、一網打尽にされるぞ!」

 

飯田天哉の指示も速い。彼はこの6年、いつ暴徒に襲われるか分からない登下校を繰り返す中で、咄嗟の状況判断力を極限まで高めていました。その指示に従い、1-Aと1-Bの生徒たちは、反目する暇もなく、阿吽の呼吸でそれぞれの「個性」を生存のために使い始めます。

 

■ 地獄を知る少年たちの「動き」

轟焦凍: 無言のまま足元を氷結させ、教師陣の足止めと同時に、生徒たちの背後を守る強固な盾(氷壁)を瞬時に形成する。

 

八百万百 & 拳藤一佳: A・B組のリーダー格二人は、視線を交わしただけで役割を分担。八百万が暗視ゴーグルを次々と生成して配布し、拳藤がその巨拳で瓦礫を弾き飛ばし、脱出路を確保する。

 

緑谷出久: 彼は、相澤の捕縛布が動く「予備動作」を凝視していました。個性がないからこそ、この6年間、プロヒーローやヴィランの戦闘記録を死ぬほど分析し、その「癖」を脳に刻んできた。

 

「相澤先生の瞬きまであと3秒……今だ! みんな、右の遮蔽物へ!!」

 

出久の叫びに、周囲の生徒たちが反射的に動く。その直後、先ほどまで彼らがいた場所を、相澤の捕縛布が虚しく切り裂きました。

 

■ 驚愕と確信:教職員たちの視線

捕縛布を引き戻した相澤の瞳に、微かな驚きが走ります。

 

(……混乱が、これだけで収まったか。通常なら泣き叫ぶ奴が出るはずだが、こいつらは……最初から「戦場」に立っているツラをしてやがる)

 

相澤の攻撃を紙一重でかわし、連携して校舎へと突き進む生徒たち。その動きには、甘えや「演習」という妥協が一切ありません。一歩間違えれば死ぬ。その実感を、彼らは入学前から骨身に刻まされている。

 

モニタールームでその光景を見守るオールマイトは、松葉杖を握る手に力がこもっていました。

 

「……彼らは、守られるだけの存在ではないのだね、校長。この6年という冬の時代が、彼らをこれほどまでに鋭く、強くしてしまった……」

 

「悲しいことだが、その通りだね、八木くん」 根津校長は、モニターに映る出久と爆豪の、獲物を狙う獣のような鋭い眼光を見つめました。 「だが、この『生存本能』こそが、今の暗黒社会に風穴を開ける唯一の楔(くさび)になる。……見てごらん、A組とB組の垣根が、生存という目的の前で消えていくよ」

 

■ 脱出のクライマックス

体育館の出口付近。相澤の抹消を掻い潜りながら、出久は爆豪の背中を押し、爆豪は出久の進路を爆破で切り拓く。

 

「……かっちゃん、右! 先生が来る!」 「言われなくても分かってんだよ、クソナード!!」

 

罵り合いながらも、二人の動きは完璧に噛み合っていました。 それは、かつての「憧れ」から始まった関係が、この過酷な時代を経て、互いの生存を担保し合う「運命共同体」へと変質した瞬間でした。

 

 

 

体育館はもはや式典の場ではなく、剥き出しの個性が衝突する「圧殺の檻」と化していました。

 

■ 体育館:閉鎖空間の激突

「逃がさんぞ、雛鳥共ッ!」 ブラドキングが自らの血を操作し、体育館の正面玄関を赤い凝固した檻で封鎖します。それと同時に、相澤が天井の鉄骨から音もなく舞い降り、捕縛布を大蛇のように操って生徒たちの足をさらおうとしました。

 

「散れッ!!」 爆豪が叫ぶと同時に、上鳴電気と耳郎響香が背中合わせに陣取ります。

 

「耳郎、合図を!」 「……12時方向、音響増幅完了! ぶっ放せ!」

 

耳郎のプラグが体育館の床に突き刺さり、大音量の心音振動がブラドキングの姿勢を崩します。その隙を逃さず、上鳴が「無差別放電」をブラドの血の檻に叩き込みました。水分を含んだ血の檻が導電体となり、入口付近にいた教師陣を一瞬だけ足止めします。

 

■ A・B組の混合連携

「B組、私たちが盾になる! 攻撃の手を休めるな!」 拳藤一佳が巨大化した拳で、相澤が投げつけた鉄製の練習用パイプを弾き飛ばします。その背後から、切島鋭児郎と鉄哲徹鐵の「硬化コンビ」が、文字通り肉体の弾丸となって相澤へ突っ込みました。

 

「熱いぜ! B組の、名前も知らねぇけどお前も硬いな!」 「当たり前だ! 漢気(おとこぎ)に組の境界なんてねぇんだよッ!」

 

二人の突進が、相澤の「抹消」の視線を強制的に自分たちへと引き付けます。

 

■ 緑谷出久の「目」

「……今だ! 先生の目が逸れた!」 出久は、個性を使えない代わりに、体育館の「構造」を利用しました。彼は放送室の配電盤が露出しているのを見抜き、瀬呂範太に指示を飛ばします。

 

「瀬呂くん、あの配電盤にテープを! 重みを乗せて引き抜いて!」 「応よッ!」

 

引き抜かれた配電盤から火花が散り、体育館の大型スピーカーが轟音と共に落下。それが教師陣と生徒たちの間を分かつ巨大な「壁」となりました。

 

「……かっちゃん、今! あのスピーカーの裏を通って換気窓へ!」

 

「指図すんじゃねぇ……が、そのルートは悪くねぇッ!」 爆豪が轟焦凍に目配せを送ります。轟は右半身から冷気を一気に放出し、体育館の床に巨大な「氷の滑り台」を生成しました。

 

「全員、この上に乗れ! 止まるな、滑り抜けろ!」

 

A・B組混じり合った四十名の生徒たちが、氷の坂を滑り、ブラドキングの血の檻を爆豪の爆破で粉砕しながら、一丸となって出口へと殺到します。

 

■ 相澤の視線

「……フン。連携の構築速度が、想定の1.5倍は早いな」

 

相澤はゴーグルを直し、壁に深く刻まれた爆破の跡と、整然と脱出していく生徒たちの背中を見つめました。彼らは個々に強いだけでなく、この6年間の「日常的な脅威」の中で、『誰がリーダーに相応しく、誰がどの役割に向いているか』を、野生の直感で嗅ぎ分ける能力を身につけていたのです。

 

体育館を脱出し、校舎へと続く渡り廊下。 泥と埃にまみれた出久は、隣を走るB組の物間寧人と視線を交わしました。皮肉屋の物間ですら、今は言葉を発する余裕もなく、ただ「生き残る」という一点において、出久の合図に従っていました。

 

 

校舎の入り口、冷たいコンクリートの床に倒れ込む生徒たち。息を切らし、泥と氷と硝煙にまみれた彼らの前に、相澤消太が捕縛布を巻き直しながら現れました。

 

その背後には、松葉杖をついたオールマイトが、静かに、しかし熱い視線で彼らを見守っています。

 

■ 相澤の総評:生存のランク付け

「……そこまでだ。全員、立て。まだ息があるなら整列しろ」

 

相澤の声は、合格を祝う教師のそれではなく、戦場の指揮官の如く冷徹でした。彼は手元の端末を操作し、空間にホログラムのリストを投影します。

 

「今から、今回の『生存術訓練』における順位を発表する。これは単なる身体能力の差ではない。『自分を含めた、その場の生存率をどれだけ引き上げたか』……その貢献度だ」

 

1位:爆豪勝己・緑谷出久(同率)

 

3位:八百万百

 

4位:拳藤一佳 ……

 

最下位:[個人の武力に頼り、周囲の退路を塞いだ数名]

 

「爆豪。お前の火力は、敵を倒すためではなく、全員の『出口』を抉り開けるために機能した。緑谷。お前の分析は、個性のない者が戦場で『目』となることの重要性を証明した。……逆に、下位の奴らは何だ? 自分の個性を誇示して足を止め、後続の避難を遅らせた。実戦なら、お前たちのせいで後ろの10人が死んでいたぞ」

 

生徒たちの間に、戦慄が走ります。 「……ヒーローは『勝つ』のが仕事じゃない。絶望的な状況下で、誰一人欠けずに『明日を迎える』のが最低条件だ。それができない奴は、この学校には必要ない」

 

■ オールマイトの激励:傷跡が語る真実

重苦しい沈黙が流れる中、オールマイトが松葉杖を突き、一歩前へ出ました。 「コツ、……コツ」というその乾いた音が、静まり返った廊下に響きます。

 

「……皆、よくやってくれた。相澤くんの言葉は厳しい。だが、それがこの6年間、私が……そして君たちの親たちが、身をもって痛感してきた『世界の正体』だ」

 

オールマイトは、あえて松葉杖を脇に置き、残された右腕だけで壁を支え、自らの不自由な体を生徒たちに晒しました。

 

「見てくれ。かつて『平和の象徴』と呼ばれた男の、これが成れの果てだ。……私は、一人で背負いすぎた。強すぎる力で、君たちの世代から『危機感』を奪ってしまった。その結果が、あの日、私が倒れた瞬間に崩壊したこの社会だ」

 

彼は出久と爆豪、そして震える手で互いを支え合う生徒たちを見つめました。

 

「だが、今日の君たちは違った。……個性の有無も、クラスの壁も関係なく、生き残るために手を組み、互いの欠けた部分を補い合っていた。……それこそが、私が現役時代に作り上げることができなかった、『真の平和の形』なのだと、君たちに教えられたよ」

 

オールマイトの瞳に、熱い光が宿ります。

 

「順位はついた。だが、君たちが今日ここで『全員で』生還したという事実は、どんなスコアよりも価値がある。……君たちは、私のようにはなるな。一人で折れる『象徴』ではなく、全員で支え合い、決して折れない『不屈の盾』になってくれ。……今日から、君たちが新しいヒーローの歴史だ!」

 

■ 新たな覚悟

ボロボロになった生徒たちの顔に、少しずつ、力強い色が戻ってきます。 緑谷出久は、泥だらけの手で自分の胸を強く押さえました。オールマイトの「失敗」を、自分たちが「成功」に変えてみせる。その決意が、心臓を叩きます。

 

爆豪勝己は、フンと鼻を鳴らして視線を逸らしましたが、その耳はオールマイトの言葉を一言も漏らさず聞き入っていました。 (……一人で折れねぇ『最強』……。全員まとめて、俺が勝たせてやるよッ!)

 

 

 

入学式という名の「生存訓練」を終えた日の夜。生徒たちが通されたのは、かつての学生寮を急造の「要塞」へと改修した、鉄錆とコンクリートの匂いが漂う堅牢な建物でした。

 

窓には強化防弾ガラスがはめ込まれ、廊下の角にはセンサーライト。A組とB組が同じ棟で生活し、互いに背中を守り合う「24時間自衛体制」の共同生活が幕を開けます。

 

■ 1-A・1-B 合同ラウンジ:戦士たちの休息

消灯前。泥を落としたばかりの生徒たちが、ラウンジのソファに身を沈めていました。そこには、これまでの雄英にはなかった、戦友のような独特の連帯感が漂っています。

 

「……あかん、正直まだ手が震えとるわ」

 

麗日お茶子が、温かいお茶のカップを両手で包み込みながら呟きました。その隣では、芦戸三奈と耳郎響香が、深く溜息をついています。

 

「ほんとそれ。相澤先生のあの捕縛布……あれ、マジで殺しにきてたよね? 体育館で天井から降ってきた時、一瞬、本当に死ぬかと思った……」

 

「……耳郎ちゃんの音響増幅がなかったら、私、ブラド先生の血の檻に閉じ込められて終わりだったわ。……怖かった、本当に」

 

女子組の言葉に、B組の拳藤一佳が力強く頷きました。 「でも、あの絶望的な状況で、緑谷くんや爆豪くんが真っ先に動いたでしょう? あれでスイッチが入ったわ。あ、私はB組の拳藤一佳。改めてよろしく。こっちは……」

 

「……物間寧人。フン、A組のやり方は荒っぽくて嫌いじゃないけどね。僕は物間だ。よろしく」

 

皮肉を混ぜながらも、物間は出久に視線を送ります。あの日、現場で自分の「コピー」をどう使うべきか的確に指示を出した無個性の少年に、彼は密かな敬意を抱いていました。

 

■ 繋がる少年たち

「僕は緑谷出久。みんな、今日は……助け合ってくれてありがとう。本当に、みんながいたから戻ってこれたんだ」

 

出久が頭を下げると、切島鋭児郎がその肩を叩きました。 「硬いこと言うなよ! 俺は切島! B組の鉄哲もそうだけど、俺たちは『盾』だからな。お前みたいな『目』がいてくれねーと、どこに突っ込めばいいか分からねぇんだよ!」

 

「俺は鉄哲徹鐵だ! 名前、覚えにくいだろうがよろしくな!」

 

名前が飛び交い、個性が明かされる。それは自己紹介というよりも、「自分の武器を仲間に周知し、生存率を高めるための共有」に近いものでした。

 

■ 爆豪の孤高と、見守る影

ラウンジの隅、一人で壁に寄りかかっていた爆豪勝己は、馴れ合う面々を「チッ」と一蹴しながらも、席を立とうとはしませんでした。

 

「仲良しごっこしてんじゃねぇぞ。……寝てる間に首掻っ切られたくなかったら、鍵の確認だけは忘れんな」

 

乱暴な言い草ですが、それが彼なりの「自衛への忠告」であることを、この6年を生き抜いた生徒たちは皆、肌で理解していました。

 

その様子を、ラウンジの入り口で松葉杖を突きながら見ていたオールマイトと、隣に立つ相澤消太。

 

「……見てください、相澤くん。彼らはもう、自分たちで『平和』の土台を作り始めている」

 

「……馴れ合いと連携は別物ですが。まぁ、今夜は目を瞑りましょう。……明日からは、本格的な『要塞防衛』の授業ですから」

 

窓の外では、夜の闇に紛れて暴徒の叫び声が遠くで聞こえています。しかし、厚い鉄扉に守られたこの寮の中には、確かに未来の「希望」が灯り始めていました。

 

 

 

かつての狂乱は、冷酷な「効率」へと昇華されていました。 ヴィラン連合の拠点。薄暗いバーカウンターに響くのは、グラスの触れ合う音ではなく、金属が擦れる乾いた音だけです。

 

■ 静寂の殺意:死柄木弔の変貌

「……ヒーローの三割が消えたこの6年で、残った『芽』はこれだけか」

 

死柄木弔は、カウンターに並べられた入学者のリストを眺めながら、静かに呟きました。かつてのようにテレビを壊したり、叫んだりすることはありません。その瞳には、霧深い夜のような、底冷えのする落ち着きが宿っています。

 

彼は慣れた手つきで、ガバメント(拳銃)を分解し、スライドとバレルを丁寧にオイルで拭き上げていきます。

 

「先生(AFO)が消えてから、分かったことがある。……『暴力』は、叫びながら振るうものではない。無言で、急所に置くものだ」

 

カチャリ、と小気味よい音を立てて銃が組み上がる。彼はその銃口を、リストに載っている「爆豪勝己」と「緑谷出久」の写真に、遊びもなく向けました。

 

■ 準備のディテール:死の工芸

隣では、黒霧が音もなくグラスを磨いていますが、その隣の席には、かつての「連合」のイメージからはかけ離れた、近代的な兵器が整然と並べられていました。

 

ナイフの検品: 死柄木は一本のタクティカルナイフを手に取り、刃先に欠けがないかを光に透かして確認します。親指で軽く触れ、その鋭利さに満足げな笑みを浮かべました。

 

ライフルの調整: ガンケースから取り出されたのは、最新型のアサルトライフル。彼は淡々とボルトキャリアを動かし、動作に一切の澱みがないかをチェックします。

 

装備の点検: 椅子にかけられたプレートキャリア(防弾ベスト)。死柄木はマガジンポーチの配置をミリ単位で調整し、弾倉を一つずつ、確実に装填できるか確認を繰り返しました。

 

「個性の時代が終わるわけじゃない。だが、個性に頼りすぎたヒーローから死んでいったのは……この6年が証明している」

 

■ 死柄木の戦略:USJ襲撃計画

「黒霧。雄英の警備体制は?」

 

「例の『要塞寮』により、校舎内の警備は鉄壁です。……ですが、今週、彼らは『災害救助演習』のために外部施設、USJへと移動します。そこだけは、物理的な壁が薄くなる」

 

死柄木は、タクティカルベストのベルクロを「バリッ」と剥がし、再び貼り直しました。

 

「……オールマイトは左腕を失い、松葉杖をついている。今のあいつは、平和の象徴ではなく、ただの『守られるべき老人』だ」

 

彼はアサルトライフルのマガジンを叩き込み、チャージングハンドルを引きました。ガシャリ、という冷たい音が地下室に響きます。

 

「ヒーローの卵たちが、初めて抱く『希望』……。それを、彼らの目の前で。そして、無力なオールマイトの目の前で。……一粒残らず、すり潰してやる」

 

かつての幼稚さは消え、プロの暗殺者、あるいはゲリラの指導者のような凄みを纏った死柄木弔。 彼は、机の上の「緑谷出久」の顔写真を、ナイフの先で静かに突きました。

 

 

死柄木は、タクティカルベストのポーチに予備のマガジンを差し込みながら、手元のリストから三人の写真を抜き出し、カウンターに並べました。

 

「今回の優先排除対象はこれだ。砂糖力動、尾白猿夫、そして口田甲司。」

 

黒霧が、磨いていたグラスを止め、訝しげにその写真を見つめます。 「……意外ですね。爆豪勝己や、あの緑谷という少年ではなく? 彼ら三人は、派手な火力があるわけでも、リーダーシップがあるわけでもありませんが」

 

死柄木は、欠けのないナイフの刃で、口田の写真を静かに指しました。

 

「黒霧、お前はまだ『個性』のランクに囚われている。……この口田というガキの個性は『生き物との対話』だ。今の荒廃した市街戦において、鳥や虫を使った広域の情報収集能力がどれほど驚異になるか分かっているか? 成長して戦域全体の『目』になられる前に、今のうちに摘んでおく。面倒な火種は小さいうちに消すのが、この6年で学んだ『合理的』なやり方だ」

 

死柄木は次に、砂糖と尾白の写真をナイフの先で弾きました。

 

「砂糖と尾白……こいつらは近接物理特化だ。個性を発動しても、結局は自分の肉体(リーチ)でしか戦えない。……つまり、遠距離からの精密射撃(アウトレンジ)に対する回答を持っていない。こいつらを殺すのは、作業だ」

 

死柄木はカウンターに置いたアサルトライフルのスコープを覗き込み、仮想の敵に照準を合わせました。その動作に、かつての感情的な苛立ちは一切ありません。

 

「爆豪や轟のような派手な個性は、後回しでいい。ああいう『主役級』は動向が読みやすいし、対策も立てやすい。だが、地味に『生存』と『情報』を支える縁の下の奴らから崩せば、組織は内側から腐り落ちる。……絶望ってのは、ヒーローというシステムの『機能』を一つずつ奪っていくことから始まるんだよ」

 

「……承知いたしました。では、USJの各エリアに、彼らを孤立させる配置を整えます」

 

「ああ。……オールマイトに、見せてやるんだ。自分が守ったはずの『未来』が、最新の弾丸一発で、あっけなく泥に沈むところをな」

 

死柄木は冷徹な眼差しで、プレートキャリアのサイドバックルを締め上げました。

 

 

 

USJ(嘘の災害や事故ルーム)の広大な空間には、かつての華やかさはなく、至る所に最新の監視カメラと防護壁が設置されていました。

 

「――喜ぶな。ここは『遊び場』じゃない。死ぬ練習をする場所だ」

 

相澤先生の冷徹な声が響きます。1-A、1-Bの生徒たちは、最新の救助設備を前にしても気を緩めることは許されませんでした。

 

■ 徹底的な「反復」:相澤の危惧

「尾白、砂糖! 救出後の後方警戒が甘い! 反射的に構えろ! 次、口田、情報共有の伝達をあと0.5秒早めろ。戦場での0.5秒は仲間の命の重みだ!」

 

相澤は、特に死柄木が狙いとして定めた三人を名指しで、執拗なまでに反復練習を繰り返させていました。この6年間、最前線で戦い続けてきた相澤の「生存本能」が、何か不穏な空気を感じ取っていたのかもしれません。

 

生徒たちは息を切らしながらも、何度も、何度も、倒壊現場から「命」を運び出す動作を、体に叩き込んでいきました。

 

■ 境界線の崩壊:ワープゲート出現

演習が終了し、生徒たちが安堵の息を吐こうとしたその瞬間――。 広場の中央、空間が「汚泥」のような色で歪み、黒霧のワープゲートが開きました。

 

そこから這い出してきたのは、この6年間で増殖した、社会から溢れ落ちた「チンピラヴィラン」の群れでした。

 

「ヒャハハ! やってるねぇ、ヒーローごっこ!」 「おい、そこにいる砂糖力道と尾白猿夫! お前らが今回のメインディッシュだ。大人しく俺たちの火力テストの標的になれよ!」

 

無手の、しかし殺意だけは一流のチンピラたちが、下品な笑い声を上げながら二人を名指しで指名しました。

 

「……名指しだと!?」 砂糖が拳を固め、尾白が尻尾を構えて前へ出ます。生徒たちの注意が、その派手な喧騒と、名指しされた二人の戦闘系個性持ちに集中しました。

 

■ 真の狙い:静かなる標的

だが、その混乱の最中。 相澤だけは、違和感に気づいていました。

 

(……おかしい。名指しした割には、連中の動きが『誘導』に見える。奴らの本当の視線は――)

 

チンピラたちが「砂糖と尾白」を追い回し、周囲を攪乱する裏側で、広場の影に一筋の「赤外線レーザー」が走りました。その細い光が捉えていたのは、戦う力を持たず、後方で怯えている口田甲司の喉元でした。

 

死柄木弔は、まだゲートの向こう。 アサルトライフルのスコープ越しに、静かに呼吸を整えていました。

 

「……まずは『目』から潰す。砂糖と尾白は、ただの『餌』だ」

 

指先がトリガーに触れる。 生徒たちが「戦い」に気を取られている間に、死の弾丸が放たれようとしていました。

 

「口田くん、動くなッ!!」 異変に気づいた緑谷出久の叫びが、銃声よりも一瞬早く響き渡ります。

 

 

 

乾いた銃声がUSJのドーム内に反響したのは、出久の叫びとほぼ同時でした。

 

■ 0.1秒の生還

「口田くん、動くなッ!!」

 

出久が放った渾身のタックルが、口田の体を地面へと押し転がします。その直後、口田が先ほどまで立っていた背後のコンクリート柱が、凄まじい火花と共に弾け飛びました。

 

「……ッ!? 銃声……!?」

 

砂糖と尾白が、自分たちに向けられた下品な挑発がただの「目眩まし」であったことを悟ります。ライフル弾の衝撃波が、伏せた出久たちの頬をかすめていきました。

 

■ 死柄木の「合理的」追撃

「……チッ。あの無個性、勘だけはいいな」

 

USJ中央広場の高台。遮蔽物からアサルトライフルを構える死柄木弔は、感情を排した目でスコープを覗き直しました。かつてなら外したことに激昂して突っ込んでいたはずの彼は、今や淡々とボルトを操作し、次弾をチャンバーに送り込みます。

 

「だが、一度避けたところで……詰み(チェックメイト)だ」

 

死柄木は今度は口田を直接狙わず、口田が逃げ込むであろう「遮蔽物の足元」を狙い撃ちました。

 

「ガガッ!」と地面が爆ぜ、破片が口田の足に刺さります。「ひっ……!」と悲鳴を上げる口田。恐怖で動きが止まったその瞬間、死柄木は今度は「砂糖の膝」を、そして「尾白の尻尾の付け根」を、まるで作動不良の機械を分解するかのような冷徹さで狙撃し始めました。

 

■ 防衛戦:壁になる者、目になる者

「全員、固まるな! 遮蔽物を利用してジグザグに動けッ!!」

 

相澤先生が捕縛布を広げ、銃撃の死角を計算しながら生徒たちを誘導します。しかし、高所からの精密射撃に対し、近接戦闘型の生徒たちは圧倒的に不利でした。

 

「クソがぁッ! どこから撃ってやがる!!」

 

爆豪が爆煙を上げ、自らを「煙幕」として展開します。その煙の中で、出久は泥だらけの顔を上げ、必死に思考を巡らせました。

 

(今の銃声……反射音からして北北西の時計塔の上! 口田くんを狙ったのは、僕らの通信網を潰すためだ。かっちゃんが目立ってくれてる間に、僕が……!)

 

「飯田くん、障子くん! 爆豪くんの煙に紛れて、口田くんを救護エリアへ! 砂糖くんと尾白くんは僕と切島くんでカバーする!」

 

出久は「個性がない」からこそ、この6年間、弾道の法則や狙撃手の心理を学び続けてきました。彼は地面に落ちた瓦礫の破片を拾い上げ、あえてそれを死角から放り投げます。

 

「(あそこから撃っているなら、この反射光に反応するはず……!)」

 

キラリと光った破片に対し、案の定、死柄木が反射的に引き金を引きました。 「そこだッ!!」 出久の指し示した方向へ、轟の氷結が一気に伸び、狙撃ポイントの視界を遮断します。

 

■ 死柄木の冷笑

氷壁によって視界を奪われた死柄木は、落ち着いた動作で銃を下ろし、タクティカルベストから無線機を取り出しました。

 

「……黒霧。計画通り、半分はそっちへ流した。……残りは、俺が直接『解体』する」

 

ドームのあちこちで、黒い霧が渦巻き始めます。

 

「……おめでとう、ヒーローの卵たち。……君たちの最初の授業は、『理不尽な死への抗い方』だ」

 

 

 

USJの各エリアが、一瞬にして「孤立した戦場」へと変貌しました。黒霧のワープによって分断された生徒たちは、かつての原作のような「個性のぶつかり合い」ではなく、「近代兵器と殺戮の専門家」という、より合理的で冷酷な暴力に直面します。

 

■ 土砂崩れエリア:暗闇の弾丸

「……ライトを消せ! 標的になるぞ!」

 

轟焦凍の鋭い声が響きます。八百万百、常闇踏陰、そしてB組の数名が放り出されたのは、視界の悪い岩場でした。上空からは、暗視ゴーグルを装着したヴィランたちが、消音器(サイレンサー)付きのライフルで執拗に狙ってきます。

 

八百万百の「盾」: 彼女が真っ先に生成したのは、防弾仕様のタワーシールドでした。それも、単なる鉄板ではなく、貫通力を削ぐためのセラミックプレートを積層させた最新の防弾構造です。 「全員、私の後ろに! 弾道を計算します、常闇さん、ダークシャドウで上空の『熱源』を叩いて!」

 

常闇踏陰の「対空」: ダークシャドウが夜の闇に紛れ、岩影を跳ねるように移動します。 「……深淵より出でて、鉄の雨を払え! ダークシャドウ!」 銃声が響くたび、ダークシャドウが弾丸をその身で受け止め、火花を散らしながら狙撃手の位置を特定。闇の中での隠密戦闘という、より実戦的な「暗殺者狩り」が展開されました。

 

■ 水難エリア:水中の処刑場

水面に浮上しようとすれば、デッキに陣取ったヴィランたちのサブマシンガンが容赦なく水を叩きます。

 

「……これ、顔上げたら一瞬でハチの巣やんか……!」

 

麗日お茶子と蛙吹梅雨は、水中に沈んだ貨物船の影で息を潜めていました。 ヴィランたちは水中に向かって「炸裂弾」を投げ込み、衝撃波で生徒たちの鼓膜を破り、引きずり出そうとしています。

 

「梅雨ちゃん、私が船の瓦礫を浮かせて『防弾浮輪』を作るわ。それを盾にして、一気にデッキへ詰めよう!」 「……分かったわ。私は舌でヴィランの銃を取り上げる。……ケロ」

 

お茶子が浮かした鉄板を盾に、二人は水面を跳ねるように移動。個性を「攻撃」ではなく「防弾」と「接敵」に特化させた、泥臭くも確実な戦術で、銃を持つ大人たちに肉薄します。

 

■ 中央広場:死柄木とのチェス

分断を免れた緑谷出久と、エリア移動を爆破で無理やり拒絶した爆豪勝己の前には、アサルトライフルを肩に預けた死柄木弔がゆっくりと歩み寄ってきました。

 

「……いい判断だ、爆豪勝己。ワープの渦を爆破で弾くとはね。だが、その判断が自分の首を絞めることになる」

 

死柄木はライフルのセレクターをフルオートに切り替え、銃口を下げたまま、誘うように笑いました。

 

「爆破の隙を突いて一発。氷結の起点に一発。……君たちの個性には必ず『予備動作』がある。それを弾丸の速度で上書きされる絶望を、今から教えてやるよ」

 

「……あァ? 能書き垂れてんじゃねぇよ。そのクソ長い鉄砲、俺の至近距離で同じこと言えんのかよ!!」

 

爆豪が掌に火花を溜め、地を蹴ります。一方で、出久は死柄木の「指」を見ていました。 (死柄木の指はトリガーにかかっている。けど、視線はかっちゃんじゃなくて、僕の『足元』を狙ってる……! 跳弾(ちょうだん)で僕を転ばせる気だ!)

 

「かっちゃん、直線で突っ込むな! 跳ね返る弾を意識して!!」

 

個性の火花と、火薬の爆炎。 USJは、ヒーローの卵たちが「個性が通じない相手」とどう戦うかを試される、残酷な試験場へと化していました。

 

 

 

USJの中央広場は、硝煙と悲鳴が渦巻く混沌とした戦場へと変貌していました。

 

■ 相澤消太:霧の中の孤軍

「――ぐっ、……!」

 

相澤の肩を、ヴィランが放った9mm弾がかすめ、黒い戦闘服を赤く染めます。 かつての相澤なら、多人数相手でも「抹消」と捕縛布で圧倒できましたが、相手は個性に頼らない「プロの傭兵」たち。視界を遮るためのスモークグレネードが焚かれ、相澤の最大の武器である「視線」が物理的に遮断されていました。

 

「……ハッ、ヒーローの時代は終わりだ! 弾丸に瞬きはできねぇだろ!」

 

煙の中から放たれる無数の銃光。相澤は血の滲む唇を噛み、ゴーグルの奥の瞳を鋭く光らせました。彼は捕縛布を自分の体に巻き付け、あえて弾道の中心へと飛び込みます。

 

(……見えなくても「音」がある。……排莢(はいきょう)の音、引き金を引く指の摩擦音……!)

 

相澤は一瞬の静寂を捉え、煙を突き抜けて一人のヴィランの喉元に膝を叩き込みました。しかし、すぐさま別の方向からレーザーサイトの赤い点が彼の胸に重なります。

 

■ 1-A・1-B:合同の逆襲

相澤が絶体絶命の窮地に陥ったその時、中央広場を囲む各エリアのゲートが、内側から凄まじい衝撃と共に吹き飛びました。

 

「――お待たせしました、相澤先生!!」

 

飯田天哉の「エンジン」が全開で唸りを上げ、煙幕を強引に切り裂きます。その後ろには、各エリアを制圧し、生存してきたA組・B組の合同チームが並んでいました。

 

合同盾陣(スカム・フォート): 八百万百が生成した大型防弾シールドを、切島鋭児郎と鉄哲徹鐵が両脇で支え、強固な「動く壁」を形成。ヴィランの銃撃をすべて火花に変えて弾き返します。

 

遠距離無力化: 「ダークシャドウ! 銃器のみを狙え!」 常闇が叫び、盾の影から飛び出したダークシャドウが、ヴィランたちの腕を狙うのではなく、「銃の機関部」を正確に握り潰していきます。さらにB組の柳レイ子が個性を使い、撃ち落とされた銃を逆にヴィランたちへ投げつける波状攻撃。

 

「……A組もB組も関係ねぇ! 今は一人のヴィランもこの先に通さねぇぞ!」 上鳴電気が、B組の鎌切尖が切り開いた進路を通り、盾の隙間から「広域帯電」を放ちます。水難エリアから帰還したお茶子と梅雨も、ヴィランの背後を突き、武器を奪い去っていきました。

 

■ 絶望の中の「連携」

バラバラに分断されたはずの生徒たちが、この短時間で合流し、互いの個性を補完し合って中央へ戻ってきた。その光景は、死柄木が描いていた「合理的解体」のシナリオを、彼らの「生存本能」が上書きした瞬間でした。

 

「……フン、遅いんだよ、お前ら」

 

相澤は、肩の傷を押さえながら、ようやくわずかに口角を上げました。

 

「――総員、戦闘継続。……これより、ヴィラン連合の完全排除に移行する!」

 

■ 死柄木弔の眼差し

中央広場の高台からその光景を見下ろす死柄木は、ライフルを構えたまま、憎しみの混じった感嘆を漏らしました。

 

「……個性の『質』じゃない。……『使い方』を、この6年で学びすぎたか。……だが、黒霧。……そろそろ『アレ』を出してもいい頃だ。……弾丸が通じないなら、暴力そのもので塗り潰せばいい」

 

死柄木の背後で、空間が再び歪みます。 そこから現れたのは、かつてのような改造人間ではなく、銃器をその身に埋め込み、さらに漆黒のプレートキャリアで全身を覆った、「対ヒーロー用決戦兵器:脳無」でした。




この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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