隣にあった自動販売機から出てきた一通の手紙をきっかけに、ちょっとした宝探しが始まるが、
その結末は拍子抜けするほどくだらないものだった。
しかしその「嘘」は、かつて通っていた駄菓子屋と、失われた時間を思い出させる。
日常と少し不思議が交差する、静かな短編。
予報外れの地を打つような雨。
私は寂れた商店街の端にあるシャッターの降りた店の軒下に走って逃げ込んだ。
ポケットから紺色のタオルハンカチを取り出し、濡れた髪や首回りを拭うが、濡れた服が張り付いて不快感が残る。
「参ったね......」
やることもなく、ちょっとコンビニまでのつもりで雨具を持たずに出たのは失敗だった。
スマホで天気予報を確認する。雨雲レーダーには何も映ってない。通り雨だろう。それもゲリラ豪雨というやつ。すぐに止むと信じて、立ち尽くす。
九月も下旬に入ったというのに今年はまだまだ残暑厳しい。とはいえ、濡れた服で体が冷えてくる。
すぐ隣に目をやると寂れた商店街には似つかわしくない真新しい赤い自販機が立っている。下からの排熱で地味に足元が温かい。『あったか~い』飲み物でも買おう。
右から二番目、ミルクティー。
ボタンを押し、スマホのアプリから決済を済ませる。
「あともう一回買ったら、無料チケットだ」
カタンと少し重みのある音。取り出し口のカバーを開けると温かい缶と並んで一枚の二つ折りにされた紙が入っていた。最近入れられたものだろう。
「なんだろうこれ―――」
気になった私は先に紙を取り出して開いてみる。へんてこな手書きのメッセージが書かれていた。
『宝の在りかを示す。 コーヒーの『コ』、コーラの『ー』、ジンジャエールの『ナ』。その場所を見よ』
「...何を言ってるんだろう。それにしてもジンジャエールの『ナ』って...あぁブランド名の方か」
一瞬わからなかったが自販機のディスプレイをなぞっていた視線が答えを見つける。謎解きというにはあまりにも―――、雑すぎると思う。
ここは商店街の一番端。コーナー。あまりにも単純。自販機の反対側を見ると色褪せたクリーム色のビールケースがひっくり返して置かれている。
へんてこなメッセージが気になった私は、ミルクティーをそのままにビールケースの方へ向かっていく。半信半疑でビールケースをどかしてみるとプラスチック製の小さな宝箱があった。
「本当にあるんだ...」
紙を濡らさないように脇に挟んで、箱を手に取る。鍵はついていない。少し期待を込めて開けてみると中に入っていたのは『衝撃の真実』と書かれた一枚のメモ書きと小袋に入った一粒の飴玉。
意を決してメモ書きを読んでみる。
『衝撃の真実:マフィンは砂漠でとれる ――― 近所の妖精より』
文字は読める。だがあまりの意味不明さが頭に入ってこない。
寸刻、呆気にとられてしまった。
くだらないと心の中で吐き捨てようとしたが、別に怒るほどでもない。深夜テンションで友達に言われたら、どおりで!カラッカラだと!くらいは返していたかもしれない。
無意味なものに意味を見いだす癖でもあるんじゃないだろうかと自分に呆れてしまった。
飴玉を手に取って転がす。レモンキャンディ。特別好きな味ではなかったけれどレモンという響きが当時の自分には大人っぽく感じてなんとなく選んでいた味だった。
そういえばここって―――。
シャッターが閉まってて気づかなかったけれどこのお店、昔は駄菓子屋だったんだっけ。
思い返せば、小学校の低学年の頃、友達とたまに来ていたお店だった。高校に上がる頃、店を切り盛りしていたおばさんが入院したと小耳にはさんで以来開いているところを見たことが無かった。
取り出し口にあった紙を小さく折りなおして飴玉と一緒に宝箱に戻す。
いつからあるかわからない飴玉を食べる気にはなれなかった。
「そのままつぶれちゃったのかな、そういえばあのおばさんもいたずら好きだったな...」
真面目な顔して『はい、百万円ね』なんて言って私が戸惑っているのを見て笑ってたっけ。物懐かしさに浸っているとあれほどうるさかった雨音が消えていることに気づいた。宝箱とビールケースを元に戻す。
「このままだと風邪ひいちゃいそうだし、今日はあきらめよう」
コンビニまではたどり着けなかったけれどせめて思い出は持って帰ろう。
「あ、ミルクティー」
まだ温かいであろうミルクティーのために小走りで商店街に戻っていく。