かぐやと彩葉、仲良し二人組でタケノコ狩りに行こう!

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かぐやと彩葉のタケノコ狩り講座

 ほんの少しだけ未来のお話。

 今よりも科学が発展してインターネット上に仮想世界、通称「ツクヨミ」と呼ばれる誰もがアバターを作り配信等の活動が出来る世界。

 そんな世界のネットアイドルに魅せられた少女のお話。

 

 

 とあるボロアパートの一室に明かりが灯る。

 

「美味しい」

 

 酒寄彩葉は小さなちゃぶ台の上に乗っている夕食に手をつけてそのような感想を述べる。

 彼女は絶賛大学受験に励みながらも生活費や学費をバイトで稼ぐ超貧乏苦学生でありながら、最近配信者としての活動もやらされている超多忙な身なのだ。

 そして食事は金も手間も掛けられないため相当にひもじいものになっている。

 だが今日の夕食は炊き込みご飯だ。

 白米に味醂やら醤油を混ぜ、魚やら野菜などの具を入れて味付けをする程度の簡単なもの。だがそのバリエーションは彼女の胃袋を喜ばせるには十分なのだ。

 

「足りない」

 

 ちゃぶ台の対面に座って同じく夕食を摘んでいるのは彩葉の同居人のかぐやである、その彼女がぽそりと呟く。

 高校生の一人暮らしに転がり込み食卓のエンゲル係数を爆上げさせている犯人。

 ある日、家に帰る際に七色に光り輝くゲーミング電柱から生まれたかぐや姫っぽい人である。

 兎に角わがままで勝手にお金を使うわ、外に出歩くはで完全に手を焼いている。

 何よりライバー活動、主に楽曲系統でプロデューサーをやらされている。

 

「何よ文句あるの?相手するわよ」

 

 彩葉からしたら面白くない話だ。

 この炊き込みご飯というご馳走を前にして足りないなどとほざきやがるのだ。

 

「風味がない!」

 

 相手はお茶碗につがれているそれをずいっと差し出し、そしてしっかりとか喧嘩を売ってきた。

 しかしちゃんとした意見はあるようだ。

 

「風味ぃ?」

 

 彩葉は一旦矛を納めて差し出された相手の茶碗を嗅ぐがしっかりと甘めの匂いがするではないか。

 

「あるじゃない」

「ちーがーうー!」

 

 かぐやから被せるように否定の言葉が。

 

「それは調味料の匂い!」

「……」

 

 ここで彩葉はまたかぐやのめんどくさい我儘が始まるのかとうんざりとした心境になる。

 

「何が物足りないってのよ」

 

 このやり取りをするのもめんどくさいなと思いつつ一応相手に伺う。

 相手はよくぞ聞いてくれましたといった表情。

 

「それはズバリタケノコの風味が足りない!」

 

 えっへんとドヤ顔で語るかぐや。

 

「たけのこぉ?」

 

 彩葉はつい「共喰い」と言いそうになったが何とか踏みとどまる。

 目の前のそれはコンクリートの塊から生まれたのでその表現が正しいのか困る。

 

「うーん…」

 

 そう言われて改めて茶碗の内容を見る。そこには魚をほぐしたものを入れたとはいえ物足りないと思わなくもない。

 この中に彩りの良い山菜があったら己の舌ももっと喜びそうだと少しは思う。

 

「分かったわよ用意すればいいんでしょ?」

 

 彼女は折れた。自身も食べたいという欲求もあったからだ。

 

「やったぁ!」

 

 かぐやは両手をあげて喜びを表現する。

 

「でもタケノコは高いから適当にスーパーできのこでも…」

 

 その折衷案をするが相手は首を縦に振らなかった。

 

「やだぁ!タケノコがいい!!きのこなんてやだぁ!!」

「んなっ!一部界隈で戦争が起こりかねない事を…」

 

 お菓子界隈では戦争のトリガーになりかねない危うい言葉を発する。

 

「タケノコ高いのよ」

 

 たまにキノコ類で食事をかさ増しする為キノコの値段は知っている、それと同時にタケノコの値段も。

 値段的には誤差の範囲とはいえ少しでも食費を抑えたい身としてはあまりお金をかけたくない。

 

「やだやだやだぁ!」

「あ〜もう!うるさーい!」

 

 二人の騒がしい口論は隣人の壁ドンが炸裂するまで続いた。

 

 

「タケノコ狩りい!」

 

 かぐやは山を前にしてテンションが極まっていた。

 

「はぁ…」

 

 一方の彩葉は暑さ対策で帽子を目深に被りながら単語帳片手に己の失策を今になって気がついた。

 タケノコが取れる山までの往復費用、一日作業になる為別途昼食を用意しなくてはいけない、そもそも今日一日まともに勉強も出来ない。

 それを踏まえれば三百円くらいの安いタケノコでも買って済ませればよかったのだ。

 目先の銭しか考えなかったツケだ。

 

(さっさとタケノコ掘って帰らないと勉強時間が…)

 

 ここで問題はタケノコ狩りのシーズンを過ぎている事だ。

 この場所は取れる事で有名な山ではある。

 タケノコ狩りは四月から遅くても六月で、今の暑い季節だとタケノコを楽しむよりは竹藪の景色を楽しむ時期に差し掛かかりつつある。

 つまり新芽を見つけるのは厳しい時期に差し掛かっているのだ。

 

「早く行こう!」

「こら待ちなさーい!」

 

 かぐやはウッキウキで林の中に突撃していく。

 二人は地面に対して特に注意を割きながら歩いていく。

 ケモノ道ではあるが周りは草がちゃんと狩られておりちょっとしたハイキングのコースのようだった。

 こんな場所でタケノコが取れたらそれは楽しいだろうなと彩葉も思う。

 

「そうだ、せっかくだからタケノコ狩りを配信したら?」

「なるほどっ!」

 

 彩葉はそう言って動画サイトを開いて配信ボタンを押してかぐやを写す。

 せっかく金を出してこんなところに来たのなら元を取るとは言わなくても何かの足しにはしたい。

 

「みんなー今日はタケノコ狩りしちゃうよー!」

 

 かぐやのセリフと共に周りの竹藪や青空を写す。

 するとコメントからは『タケノコ!?』『まじで?』等がずらりと流れてくる。

 ここ最近精力的な活動のおかげで登録者と視聴者激増の配信者なのだ。

 かぐやはぐいっと顔を寄せて画面を見る。

 

「んー?『誰が撮ってるの?』それはいろ…」

「……」

「…いろPだよ!」

 

 彩葉と言いかけたが彩葉が鬼の表情で睨んで黙らせる。

 彼女はかぐやの音楽関係のプロデューサー『いろP』の名義で活動している。

 

「今日は折角なので緊急で動画回してます」

 

 彩葉は平坦な声で努めて説明をする。

 

「コメント『何で今の時期にタケノコ?』」

「タケノコ炊き込みご飯食べたいから!」

 

 かぐやの返しにコメント欄はウケている層と引いている層に分かれる。

 

「んーっと『スーパーで買えばいいじゃん』その通り過ぎる…」

 

 この世の真理を突かれて泣きたくなる。

 視聴者と交流を深めながらタケノコ探しをする事一時間が過ぎていたある時。

 

「ん?千円チャットだ。ありがとうございます…ってヤチヨ!?」

 

 お金付きのコメントが流れたのだが、それが何とヤチヨというツクヨミと呼ばれる仮想空間を維持管理するAIからだった。

 そして同時に配信者と歌手も同時にこなしており、彩葉は彼女を推している。

 

「え、えーっとうわうわっ!ヤチヨのコメントが読めるなんて…!」

「早く読んだら?」

 

 興奮する相手に対してかぐやは少々つまらなさそうにしながら発言を促す。

 

「えー『壁にタケノコ刺さってたりしてない?』…は?え?」

 

 彩葉は読み上げながらそのトンチンカンなコメントに自問してしまう。

 竹は地面に生えるもので壁に生えているとは考えづらい。ボケなのかマジなのか困ってしまう。

 因みにコメント欄はネット界の大物ヤチヨの登場で大盛り上がりで概ね好意的だが、本気でタケノコが壁に刺さっていると捉えているコメントは見られない。

 

「あった!」

「ええ!?」

 

 かぐやが指を刺した方にある崖上にまるで突き刺さっているように見えるタケノコがあった。

 

「さ、さすがヤチヨ…」

 

 ゲーミング電柱程ではないがこの時期にタケノコが見つかるのはかなり稀であると事前に調べていた為、発見できた事実に驚くほかない。

 よく見たら問題のタケノコは岩の切れ目から生えているようだった。ど根性である。

 

「で、どうやって取るか…」

 

 タケノコの生えている位置はおよそ二メートル半程、彩葉とかぐやの身長では腕を伸ばしても届くまい。

 

「踏み台になる!」

「それしかないか…」

 

 かぐやからの提案に頷く。さっさと家に帰りたい為それに頷く。

 持っていた端末を地面に置いて、被っている帽子を目深に被って可能な限り顔が写らないように気を配る。

 彩葉が両手両膝をついて、その背中に乗っかるかぐや。

 

「さぁ行くよ!」

「いや私が下なんかい!」

 

 かぐやに踏み台にされる人生なのだろうか。

 

「右右!もうちょい!」

 

 かぐやは壁に刺さるタケノコへ必死に手を伸ばしている。

 因みにコメント欄は『REC』とか『み、見え』など過去最高に大盛り上がりである。

 

「取れた…っ、お、おわぁ!?」

「ちょまっかぐやっ!?」

 

 タケノコはスポッと岩の入れ目から抜けたが、その際の反作用で上の人がバランスを崩す。

 

「「ぎゃあああっ!!!」」

 

 その日のコメント数と再生数、そして投げ銭の額は諸々の経費を差し引いても余裕で黒字だったとさ。

 

 

「というわけでここに茹でてから半日冷ましたタケノコがあります」

「料理番組みたーい」

 

 タケノコを取って持って帰ったはいいが当然そのまますぐご飯に混ぜて食べられるはずもない。

 下準備として沸騰した湯で柔らかくしてから、時間をかけて冷ますことで灰汁等を抜いてからタケノコの風味を際立つようにしなければいけなかった。

 結果として食べられるのは次の日の昼になっていた。

 茹でている間と冷ましている間のかぐやの興味はそれに付きっきりなっていた。そのため彩葉はゆっくりと勉強ができた実りのある時間だった。

 

「醤油、味醂、食用酒に魚入れて…」

「はいっ!」

 

 かぐやは待ってましたと一口サイズに切ったタケノコの乗った皿を渡す。

 

「んふふっ…」

 

 そのゲンキンさに彩葉はつい笑ってしまう。

 

 

 タケノコ炊き込みご飯が炊き上がるのを待つこと一時間。

 ワンルームのボロアパートの一室は既に香ばしい香りで溢れかえっていた。

 

「「…………」」

 

 二人は配信をするわけでも勉強をするわけでもなく自然と炊飯器の前で炊き上がるのを待っていた。

 

 ピピーッ!と炊飯器の中身が炊き上がる音。

 

「来た!」

 

 かぐやは早く彩葉に開けてくれと視線を送る。

 

「ちょっと待ちなさいよ」

 

 急かしてくる相手に苦笑いを浮かべながら炊飯器のスイッチを押して中身を開陳する。

 

「うおー!」

 

 炊飯器の中に広がる香ばしいが一気に広がっていく。

 

「早くっ早くぅ!」

「待ってって」

 

 辛抱たまらんかぐや。

 彩葉は苦笑いしながらご飯をお茶碗によそう。

 ちゃぶ台の上には二人分の炊き込みご飯。お互いにそれを囲むように互い合わせに座る。

 

「「いただきます!」」

 

 かぐやは生まれた直後に比べたら格段に上手くなった箸捌きで一口分のご飯を取る。

 そしてそれをゆっくりと噛み締めるために口元へと運ぶ。

 

 

 

―暗転

 

 

 

「あれ…?」

 

 かぐやがふと周りを見渡すと彩葉どころか人っ子一人いなかった。

 切り立った山の上にポツンと一人だけ、この広大な土地に自分だけ。

 

「あ、まって、やめて、やだ…やだ…」

 

 ジワジワと今自分が置かれている絶望的な状況、それを再確認する。

もう存在しない筈の己の体の末端が恐怖で冷える。

 彩葉ともう一度会いたいと思ったかぐやは周りの雑務を全て終えてから、ものすごいテクノロジーを駆使して少し過去に戻りしれっと再会するつもりだった。

 しかし地球まで後少しの所で隕石にぶつかり想定よりも過去に戻ってしまったと予想される。

 予想なのは実際は日本から遠く離れた孤島に不時着した可能性もあるからだ。

 今現在が西暦何年なのか、そもそも暦の概念すらある時代なのかも分からない。

 唯一分かるのはここが太陽が昇って降りているため、間違いなく地球だと言うことだけだ。

 それは彩葉との再会が途方もなく困難で絶望的な状況だという事だけだ。

 

「やめてやだ、一人にしないで…」

 

 今の彼女は体を受肉させる機能を失い思念体に近い存在、または概念になっている。

 よって自力でその場から動くことすら出来ないし、自決する事も叶わない。

 

「誰か助けて…」

 

 失っている筈の手で頭を抱えてうずくまる。

 太陽が昇ってから沈むのを百回数えた辺りから、もう日にちすら数えるのを頭は拒んだ。




 超かぐや姫!最初に見る前は歌や作画で圧倒する作品だと思ってました。あそこまでSFの枠組みで勝負する作品だとは思ってませんでした。

 このオチだとさすがに人の心が無いので下にちょっとだけ続き載せときます。



「かぐや?」
「あ…」

 寝室で寝ていたかぐやは自身を心配そうに覗き込む彩葉を視界いっぱい見やる。
 場所は二人が現在住んでいるタワマンの一室。
 ヤチヨとして再会してから既に十年以上経っており、すっかり彩葉もアラサーになっている。
 今のかぐやはヤチヨが自身を複製出来る機能を応用して、ネットでのヤチヨとしてツクヨミサーバー維持をする存在とは違い、かぐやとして現実世界で彩葉のそばにいる役割を果たす為に筐体に移した存在だ。

「大丈夫?うなされてたみたいだけど…」

 相手が目を覚ましたのを見て安心し、相手の顔を覗き込むのをやめて上体を起こそうとする。

「彩葉っ!」
「うおっ!?」

 自分から離れようとする相手の肩を強く握って抱き寄せる。
 あまりの勢いと突然の事に彩葉はちょっと野太い声が出る。
 今のかぐやの体は彩葉が必死の研究の末に生み出した機械仕掛けの体で、今感じる悪寒も相手の温もりもセンサー越しに測定した数値をそう感じるようにデータにしただけだ。

「彩葉、いろは、いろはぁっ!!」

 けれど感じる温もりはかぐやにとっては本物だった。
 この温もりを離すまいと力を入れる。

「私はここにいるから」

 最初こそ驚いたが拒む事なくぎゅっと抱きしめられている彼女はそっと相手の頭を撫でてやる。

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