初夏の晴れた日に、失恋をした。
それが紡ぐ、新しい出会いと少しの失敗の話。

某所のワンライ企画で書いたもので、お題は「カットアップ」です。

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本編

 初夏に私は失恋した。想い人が別の相手に告白する姿を、ただ見ていることしかできなかった。薄暗い物陰に隠れて、季節にも気温にも合っていない寒さを感じながら。

 公園のトイレは、ちょっとだけジメッとしている。それが、肌に張り付くのを感じながら。

 

「はい、よろこんで」

 

 そんな言葉が、私の胸を突き刺していく。滅多刺しとしか言いようがないくらいに。

 二人が手をつないで笑顔で去っていく姿は、どこまでも遠くに思えた。それこそ、太陽よりも。

 

 誰も見えなくなって、私はトイレから出ていく。太陽の光が、目に入った。とってもまぶしくて、私の淀みを浮かび上がらせていく。

 今日の青空は、ふたりを祝福するみたいに澄み渡っている。だから私は、目を閉じたかった。車の音が聞こえて、やめた。

 涙が、こぼれそうになる。ハンカチを取り出して、そのまま握り込む。ここで泣いてしまったら、本当に負け。だから、ただ握り込むだけでいい。それが、正解。

 

 もしいま事故にでも合ってしまえば、私はただ世界から見捨てられただけで終わってしまう。なら、せめて恨み言を吐き出したい。

 目に入った木の枝を折って、地面に文字を書いていく。初夏、失恋。それを踏み潰していると、誰かが近づいてくるのが見えた。

 私と同じ年くらいの、ちょっと寂しそうな男の子。目を伏せながら、ポケットに手を入れて歩いている。暑さにやられたのか、汗だくみたい。

 

 目が合って、私は動きを止めてしまった。なんとなく、視線に縛られたみたいな感じがする。

 地団駄を踏んでいるって思われたかも。もっと言えば、変な人だって思われたかも。手に握っていたハンカチを、私は差し出した。

 

「どうぞ。今日は暑いから、うんざりしちゃいますよね」

「あ、ありがとう……?」

 

 直接手渡すと、なんかちょっと目が逸らされた。そのまま、ぎこちなく額を拭いている。ひとまず、拒絶はされなかったみたい。

 とりあえず、間合いを取り合うことにならなくて良かった。私は軽く息をついて、ちょっとだけはにかんだ。

 

「こういう気分の時には、感情を吐き出したくて。それで、地面に字を書いてたんです。変わってますかね?」

「良いんじゃないかな……? 別に、誰に迷惑をかけるわけでもないし……」

 

 そう言う彼は、あちらこちらを見ている。なんというか、緊張しているみたい。よく考えたら、初対面の人にハンカチを渡されたら怖いかも。ちょっと、失敗しちゃったかな。

 彼から見た私、もしかしたら奇声を上げる一歩手前だったりして。いや、そこまでじゃないはず。

 でも、そうだとすると言い訳くらいはしておきたい。二度と会わないとしても、恥ずかしいし。

 

 私はパタパタと手を振りながら、彼と目を合わせた。

 

「地面に書いてある言葉が、私の気持ちなんです。どう、ですか……?」

 

 とりあえず、彼は私に合わせてくれたみたい。足元だった場所を、覗き込んでいるから。

 じっと見て、私を見て、首を傾げる。

 

「初恋……? 手の込んだ逆ナンですか……?」

 

 その言葉に、慌てて地面を見る。初夏の初と、失恋の恋。それだけが残っていて、ちょうど初恋になっちゃったみたい。

 彼、今はどんな気持ちなんだろう。変な人に目をつけられたって思ってないかな。逆の立場なら、私は一目散に逃げると思う。

 

 また私は手をパタパタと振って、全力で言い訳に走る。一歩下がる姿を、見ないフリをして。

 

「ち、違います! 初夏と、失恋。そう書いていたんです! それで、ヤケになってて!」

 

 彼は、どう反応するだろう。祈るように目を見ると、ちょっと細まる姿が見えた。

 これは、どっちの反応? 口元を見ると、少し緩んでいる。

 

「ああ、それなら仕方ない……。実は、僕もついさっき失恋をしちゃって……。なんか、世界が終わったみたいというか……」

「そう! そうなんです! 分かってくれるんですね!」

 

 私は彼の目の前まで進んで、手を取った。ハンカチも一緒に握り込んでしまう。暖かいなって、何となく思う。

 その手を、彼は何度も見ていた。そして、少しだけうつむく。何かを噛み締めるみたいに。

 私には分かる。冷たい心に暖かい手が重なって、びっくりしちゃったんだと思う。だって、私も同じだから。

 

「うん、分かるよ。太陽の光を浴びても、ちょっと鬱陶しかったり」

「そうですよね! なんでこんなに綺麗なんだって、青空が邪魔だったり!」

「風がじっとりして、妙に重かったり」

「分かります! 布の揺れが、妙にゾワゾワしたり!」

 

 彼は何度も頷いてくれて、私の口はどんどんと軽くなっていく。知らない人だからこそ、遠慮なく気持ちを吐き出せる。きっと、そういうこと。

 だったら、彼の気持ちも聞いてあげるのが大事だよね。

 

 そう思いながら、少しだけ空を見上げる。

 燦々と照らしてくる太陽が、とっても暖かい。それを感じながら、私はもう一度彼の手を取ったんだ。


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