だが、同時に他の者達はこう言う
_______彼はヒーローみたいだ。と
___違和感を覚え始めたのは、きっとあの日からだ。
気づけば俺は、見覚えのないはずの一軒家の庭に立っている。
知らない景色。
なのに、なぜか懐かしい。
状況を理解するのに、時間はかからなかった。
……また、この夢か。
幼い頃から繰り返し見る夢。
そして、この夢を見るようになってからだ。
胸の奥に、小さな棘のような“違和感”が残るようになったのは。
__禪院家に非ずんば呪術師に非ず。
__呪術師に非ずんば人に非ず。
生まれた瞬間から聞かされ続けた言葉。
繰り返し浴びせられれば、それは常識になる。
疑う余地なんて、どこにもなかった。
呪術を扱えない者は、人として扱われない。
それがこの家の、当たり前だった。
仮に__呪術が扱えないという理由で殺されたとしても
「仕方ない」の一言で終わる。
そんな場所だ。
……なのに。
胸の奥に、消えないものがある。
違和感。
同年代の兄弟も、親戚も、皆同じ思想を持っていた。
当然だ。ここで育てば、それ以外の価値観なんて知らない。
幼い頃の俺も、そうだった。
『それが当たり前』
『自然なこと』
『気にする必要のない常識』
そう思っていたはずなのに――
違和感だけが、消えなかった。
何かがズレている。
理由は分からない。
けれど、この夢を見る時だけ、その正体に近づける気がしていた。
この夢には、必ず“あいつ”がいる。
庭の奥へ足を進める。
最初からそこにいたかのように、男は胡座をかいて座っていた。
伏せた視線の先では、一匹の犬が静かに尻尾を振っている。
ぼさぼさの髪。
どこか疲れたような目。
名前も、素性も知らない。
何度「お前は誰だ」と聞いても、答えは返ってこなかった。
だから今日は、違う問いを投げる。
「……なぁ」
男は答えない。
それでも続ける。
「俺が今感じてる、この違和感……なんなんだ?」
風が庭木を揺らす音だけが響く。
「……アンタなら知ってる気がするんだ」
一歩、近づく。
「……教えてくれよ」
ゆっくりと、男が顔を上げた。
その人相には似合わないほど、穏やかな目だった。
ほんの少しだけ、笑う。
そして。
「……お前のやりたいことをしろ」
静かな声。
断定でも、命令でもない。
ただ、道標のような一言。
「そしたら、分かる」
‥‥目が覚めた。
視界に飛び込んできたのは、見慣れた天井。
障子の隙間から差し込む朝の光が、やけに現実味を帯びている。
「……っは」
浅く息を吐く。
胸の奥に、まだあの庭の空気が残っている気がした。
夢だ。
分かってる。
分かっているのに___妙に感覚だけが生々しい。
指先を握り、開く。
畳の感触。肌に触れる空気の冷たさ。
全部、現実だ。
「……やりたいことを、やれ……か」
あの男の言葉が、耳の奥で反響する。
いつもは夢から覚めた瞬間にぼやけていくはずなのに、今日はやけに鮮明だった。
そこに映ってたのはごく普通の日常風景だった‥"はずだ。"
中庭で兄である直哉が従兄弟である真希を踏み付けていた
「呪霊も見えん。呪力も練れん。力も中途半端。その癖して呪術師になるって夢見すぎやで?真希ちゃん。」「ほれほれ、はよ起き上がれや。わざわざ俺が稽古の相手してやってんやから」
いつも見ているような光景
周りの人間もそれを見てもなにも思わない。
特に疑問にすら思わない。
止めようとも思わない。
何故なら真希は呪術をまともに扱えないのだから
‥‥‥‥なのに
_______違和感
胸の奥がざわつく。
見慣れているはずの光景なのに、まるで初めて見たみたいに息が詰まった。
真希の頬が地面に押し付けられる。
砂が舞う。
直哉の靴底が、何度も踏みつける。
笑い声。
周囲の視線。
誰も止めない空気。
それが、この家の“普通”。
____そう教えられてきた。
「……」
足が動かない。
止める理由なんてないはずだ。
ここでは弱い者が踏まれるのは当然のことだから。
なのに。
胸の奥で、誰かの声がした気がした。
『お前は、何がしたいんだ?』
夢の中で聞いた問い。
胡座をかいた男の姿が一瞬よぎる。
違和感が、喉元までせり上がる。
「‥?なんや転孤、居ったんか。なんかにいちゃんに用か?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「せっかくやし、お前も一緒に"稽古"でもするか?丁度ええサンドバッグがあるねん」
その時、俺は真希と目が合った。
そして、俺に向けられたものは殺意や憎悪のようなものではない。
"まるで、助けを求めるような顔だ"
_______違和感
「‥‥‥‥‥‥もう、その辺にしとこうよ。直哉兄」
「‥あ?」
そう口にした途端、空気が冷えるのを感じた
頭では理解してるはずなのに、それでも止まれなかった。
「‥‥その、‥‥えっと‥‥」
「おかしいなぁ。
俺の勘違いやなかったら、"もう止めろ"的こと言われた気がするけど‥‥‥
______お兄ちゃんの勘違いよな?」
「‥‥ッ」
直哉から分かりやすい殺意と共に呪力が溢れ出て来る
兄であるこの人に口答えするようなことがあれば、こうなることくらい予想出来たはずだ
なのに、なのに"何故か止まれなかった"
「兄弟喧嘩か?転孤。お前、いつからそんな偉なったんや」
返す言葉はない。
だけど、真希の横に立った瞬間。
世界が再び"夢で見たあの場所へと切り替わる"
目の前には例の男も立っていた。
『お前は"何に成りたいんだ?"』
「‥‥‥俺は‥立派な、呪術師に‥‥」
『違うな。』
『呪術師なら、
『もう一度聞くぜ。"俺"』
『何に成りたいんだ?』
「何がしたいんやお前は」
現実と夢の言葉が重なる。
「‥‥俺、は‥‥」
言葉が勝手に溢れる。
夢の中で何度も繰り返された問い。
答えを探し続けた時間。
やっと自分の中で
「‥‥人、を‥‥助けたい。」
「____
___________________________________
「はあ?ヒーロー?」
あまりにも間抜けでアホらしい理由やと思った。
今の今まで俺の後ろで眺めることしか出来ひんかったガキがいきなり立てついてきたと思ったら、理由が『ヒーローになりたいから?』
ギャグやとしたらクソ寒いわ
こういう時は力の差を見せつけたらええ。
そう思って術式を発動しようとした時やった。
転孤の雰囲気が、変わった。
ドクンッ
俺の心臓が大きく脈を打つ
___なんでや。
何故か俺はこの感覚を既に知っとる
これを既に俺はもう味わっとる。
俺は天才なんやて。皆言っとる。
父ちゃんの次の当主は俺やって
‥‥‥‥‥‥ざけんな
禪院家には落ちこぼれが居るんやって
男のくせに 呪力が1ミリもないんやって
‥‥‥‥‥‥‥ざけんなやッ
どんなショボくれた人なんやろ
どんな惨めな顔しとんのやろ
___頭で理解するよりも先に、身体が覚えていた。
「ふざけんなやァッ!!転孤ォォッ!!!」
禪院直哉はその身を持って理解する。
目の前に立つ者が、現代最凶と呼ばれる術式であること
触れたありとあらゆるものを、ただ壊す力。
それが例え、人であろうと、呪霊であろうと、呪力であろうと、術式であろうと
転孤は直哉の弟です