好きなお握りの具材はなんですか?
・熊野ノブユキ
俺だけ質問おかしくない?…まぁ鮭
映画の撮影で初めてアイツと出会ったときは”カッコイイな”ぐらいの認識だった。控え室で似たような顔をした女がギャーギャー騒ぐから注意したときも素直に頭を下げてくれた。ただ私のことを見つめる視線が少し違っているように感じた
『星野アクアの素顔に迫る!』
やはりというべきかアクアは世間から認知されテレビ・映画で目にすることが多くなり、そして反比例するように私のメディア露出は減少していった。
最初は制作側の目が節穴だと思っていたが現場のスタッフたちに悪辣な態度で接していたのが原因だと気付くのが遅かった。スケジュール帳に書き込むことが段々と無くなり普通に学校へ登下校する日が増えていく、その頃から両親の仲も悪くなり父は女を作って家から逃げていき母も私に対して興味を持つことが無くなった
『新進気鋭の若手タレント!不知火フリル』
『世代ナンバー1姫川大輝』
アクア以外にも世間から注目される役者・タレントが進出してきた。ペンを持って白紙のスケジュール帳に予定を書き込もうとするが手が動かなかった。稀に地方のローカル局やイベントでオファーを受けることはあるが継続が出来ない
このままでは本当に自分は終わってしまうと思いプライドを棄てて、テレビ局から出て来た仕事終わりのアクアに縋ったが最悪の別れ方をしてしまった。もう顔を合わせることも出来ないと思ったが今回の恋愛リアリティショーは渡りに船だった。世間に名前を売りたいという邪な気持ちも僅かながらあったが、子供の頃にアクアが憧れた私の姿を見てほしいと
「アクア君のこと好きでしょ?」
車内で黒川あかねに問い掛けられて有馬は返答に困った。好きか嫌いかで尋ねられたら嫌いではないが恋愛感情の好きについて問われると悩んでしまう
「違うの?」
「……分からない…でも嫌いじゃない、それに」
あかねとアクアは番組内でもペアで抜かれることが多くSNSでは『カップル成立秒読み』と囃し立てられている。
「私のことはいいの!かなちゃんの気持ちを教えて」
「好きなんだと思う…でもそれが恋愛感情なのか分からないの」
「じゃあこれからアクア君のことを知って、もっと好きになっちゃおうよ」
有馬の頭はパニックに陥っていた!何故あかねが自分の背中を押そうとしているのか分からない、このまま知名度をあげてゴールインすれば将来が約束されたも同然である。美男美女のカップルは世間が注目するはずなのに
「私はかなちゃんのことが好きなの」
「えっ?」
「子供のときのイザコザを水流すつもりは無いけど、それでもかなちゃんは私の推しなの」
小学生の頃に起きたトラブルは2人の関係を悪くするものだったが、あかねはそれでも有馬のことを好いている。ここまでくるとファンという括りでは収まらない
「多分私は結ばれることはないと思う。アクア君の進む道に私の席は無いの」
「…あかね」
「確かにアクア君の中でかなちゃんの評価は最底辺まで落ちてるけど、0なら後は加点していくだけなんだから」
酷い言いようであるが事実である。収録中に何度か絡みに行ったが事務的な対応をされてしまい距離が縮まることはなかった
「アクア君が一人暮らしをしている理由って知ってる?」
その言葉に首を横に振る
「鏑木さんから聞いたんだけど親子仲が良くないみたいで」
「そういえばアイツから家族の話って聞いたことがないかも」
「このままだとアクア君はずっと1人で生きていくと思うよ!」
家族から距離を取られた自分と家族から距離を取ったアクア、2人は案外似た者同士なのかもしれない、首都高を下りた車は有馬の住むマンションの前に停まり送ってくれた彼女に頭を下げる
自分の歩む道は険しいかもしれないが自身の将来にアクアが隣で歩いていることを願う彼女の上に流れ星が煌めくのであった
「お時間をとっていただきありがとうございます」
「それで何の用ですか姫川さん」
アクアたちが高校で勉学に励んでいる頃だった。苺プロの事務所に姫川大輝の母親である愛梨が訪れていた。数日前にアポイントの電話を受けたときは特に気にしていなかったが嫌な予感がする
「実は大輝の独立に目途が立ちまして」
「噂は本当でしたか」
大輝・愛梨の所属する事務所は彼女が女優としてデビューした頃から在籍する中堅どころの芸能事務所である
「きな臭い話はこっちにも伝わっています」
「だから9月頃に担当していたマネージャーと一緒に新事務所を立ち上げます」
「それで…ただ報告する為に訪れた訳じゃないですよね?」
サングラス越しに対面に座る彼女を見つめる壱護の心臓は嫌な鼓動で脈を打つ、そもそも愛梨と苺プロは深い関係という訳ではないのに時間をとって訪れる理由は限られてくる
「アクア君を新事務に引き入れたいと考えてます!」
その言葉を聞いた瞬間に彼は机を叩いて立ち上がる。冗談じゃないアクアはアイに次ぐ事務所の稼ぎ頭で今後も伸びていく存在である。それをドラマで共演しただけで引き抜こうとするなんて馬鹿げている
「寝ぼけている訳じゃないだろうな」
「もちろん」
「じゃあなんで」
「アクア君の為を思ってのことです!アイと仲が悪いことは関係者に知られています」
2人の仲が険悪というのは壱護にとって頭痛の種であった。時間を見つけてアクアと腹を割って話すつもりだったが互いの時間が合わずに今日に至る
「まだアクアには伝えてないよな?」
「恋愛リアリティショーが終わる頃に大輝を連れて会食をしようと思ってます」
「分かった!そっちの日程が分かったら教えてくれ、別に地方ロケに飛ばすようなことはしない!こっちもアイツと話したい」
その言葉を聞いて愛梨は頭を下げて退出していった。アクアの引き抜きは事務所にとってマズイことだが今のようにアイと不仲が続くようであれば考えなければならない
背もたれに体重を預け煙草に火を点ける壱護の苦悩は続くのであった
そして渦中の人物であるアクアは…
「どうしてこうなってる?」
有馬の太ももに頭を乗せて寝ているのであった
普通に中山記念で大損しました。
次の給料日まで競馬はしません
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