葬送フリーレン~アフターオレオール~   作:rvr75_raiden

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夫婦喧嘩は家族も食わぬが役に立つ のサイドストーリです。

https://syosetu.org/novel/402356/18.html


二人だけの日

■賑やかなる日々


 

オレオールへの旅を終えて、クレ地方の地に根を下ろしてからおおよそ7年目。

 

跡形もなく朽ち果てた戦士の村の一帯を人の住める形に復興したいと願ったシュタルク、フリーレンやシュタルクとずっと傍に居続ける事を願ったフェルン。

その二人の努力と大勢の協力者の助力が実を結び始めて、少しずつ彼らの切り開いた地に人は集まり、荒れ果て、魔物だらけになっていたクレ地方の地は人の営みのある場所へと変化を遂げている。

 

そして……

 

「母様!母様! みてみて!フリーレンさまから教えてもらいました」

 

深紅の髪を揺らし、フェルンの下へ駆け寄ってくる少女は髪よりもいっそう紅い瞳に輝きを乗せながら嬉しそうに笑ってフェルンの足元に抱きついてきた。

木漏れ日が差すテラスの椅子に座って今できる作業をしていたフェルンは手を止めて少女の頭を撫でながら答える。

 

「どうしたの?」

「これ!」

 

そう訴えてくる少女は差し出してきた両手に魔力を集中する。

 

ふわっと、3匹の艶やかな紅い魔力で出来た蝶。

その美しい紅色は少女の魔力特性と魂の色を表しているのか、フェルンが幼い頃に出したものとは異なる。

そのディテールの細かさは少女の魔法に対する深いイメージに基づいているのか、本物と見間違わんばかりの美しい蝶。

 

「綺麗……。凄い、もうこんな事も出来るようになったのね」

「はい、兄様にはできませんが!」

「うるさいな!出来るよ!5秒で消えるだけだから」

 

後ろから、青紫の髪と三白眼の少年は悔しそうな表情でやってきた。

 

「そんなことより!母さんの邪魔しちゃダメだろ」

「これぐらいのこと、邪魔になりませんよ。それに喜んでくれました」

 

そんな兄妹のやり取りを微笑ましく見ていると

 

「二人ともフェルンに楽しんでもらう魔法はないかって、今朝から一生懸命に練習したんだよ。

 具合はどう?不便はない?」

 

そう言ってやって来たのは彼女の師であるエルフのフリーレン。

 

「そうだったのですね。フリーレン様も二人共、ありがとうございます」

 

そう伝えると、子供達は嬉しそうに笑った。

 

「もう慣れたものとか言わず、何か困ったならすぐ言ってよね……周りはやっぱり心配なんだ」

「はい、でも今は本当に大丈夫ですよ」

 

そう答えたフェルンは本当に体調が悪いわけではない。

まあ、ただ身動きが取りにくいのは確かだが。

 

「3人目かぁ……あの子達もだけど、きっと可愛い子が生まれてくるんだろうね。

 シュタルクもいつもの倍頑張るって張り切って働いているよ」

「はい……そうですね」

 

シュタルクの村の再建と、フェルンの幸せ家族計画は、時折降りかかる困難も振り払いながらも今はそんな感じで概ね順調に進んでいる。

 

――ちょっとした奥様のご不満を除いては。

 

■そんな夫婦の間柄


 

「ただいまフェルン、具合どう?」

 

朝から関係者との打ち合わせと、移住希望者との話し合いと、再建作業の手伝いで走り回ったシュタルクが帰って来たのは日が沈んでしばらく経ってから。

戦士の村の跡地の主であるシュタルクが最後の作業をする必要はないのだが……これは当人がやらないと気がすまない性格なので仕方ない。

とにかく家族が増えることに対して、その未来に対して出来ることは何でもやる構え。

 

頑張った戦士様を笑顔で迎えるのは今のフェルンの生きがい。

そして、返るべき場所を手に入れてから帰宅した時のお約束。

フェルンは両手を広げてシュタルクを迎え入れる姿勢を取る。

要するにハグ待ちだ。

 

しかし……

 

「あー、フェルン……今工事現場行ったあとで泥だらけだからやめとこう」

 

時折こういう反応をみせるシュタルク。

 

「魔法で綺麗にしましょうか?」

「いや、フェルンは今身重だしね……」

 

妙に抵抗するシュタルクにフェルンは眉を寄せる。

その様子を見て焦ったのかシュタルクは小さく指先でちょいちょいとフェルンの背後をこっそりと指した。

 

「??」

 

フェルンは振り返らずに背後に意識を集中すると……なるほど。

廊下の角からこっそりと頭を出してこちらを覗いている存在が二人。

 

「二人とも、ただいま。

 ……フェルン、洗濯の魔法お願いしていい?」

 

帰ってきた父におかえりなさいを言うために待ち構えていた兄妹に苦笑しながら声を掛けたシュタルク。

フェルンはため息を漏らしつつ服に汚れを魔法で消し去った。

 

「父さん、おかえり」

「父様、おかえりなさい」

 

そういって駆け寄ってきた二人をシュタルクは軽々と持ち上げた。

まあ、仕方ない。この子達は真心でシュタルクの帰りを迎えたかったのだ。

 

「ただいまー。いい子にしてたか~?」

 

そして、そんな子供達の目があるとシュタルクがちょっと遠慮がちになる気持ちもわかる。

親として毅然と振る舞わなければならない気持ち…それはわかるのだが、それでも、だがしかし……

 

有り体に言って円満で幸せだ。家族愛の深い頑張り屋の夫、聡く可愛い子供達、見守ってくれる師、そして新しい命。

それはそうなんだけど……それでAnything OK と言うにはフェルンの心根は若干若かった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

子供達を抱えて笑っているシュタルクもそんなフェルンの様子は認識はしており、心の中では冷や汗をかいている。

今にもフェルンがムッスーとしそうだ……

 

(さっきの断ったからだよなぁ)

 

しかし、判って欲しい。恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

だってお父さんなのだ、父親なのだ、パパなのだ。子供達の前でデレデレしたら格好がつかないじゃないか……

 

子供達を床におろして「もうご飯食べたのか?」と聞くと「まだ!」「父様を待ってました」と答えてくれた。

フェルンの方を見て確認するとコクリと頷いてくれた。

 

「じゃあ、すぐに行くから一緒に食べような」

 

と伝えると二人は「うん」と嬉しそうにリビングに帰っていった。

で、これでやっと二人きりになったわけだが……

 

「あの……フェルンさん?えっと……」

 

ハグのリトライは可能ですか?と目線で問うとプイッと顔を背けられた。駄目らしい。

夕飯の準備をするためにゆっくりとリビングに帰っていくフェルンに

 

「フェルン、後で話そう……」

 

と肩を落としながら声を掛けた。

 

フェルンは一度立ち止まってからそのままリビングに去っていく。

実にわかりにくいのだが、断らないのは一応話は聞いてくれる彼女の応答。

 

「いくつになっても手強いなぁ……」

 

そんなふうに思いながら頭かきつつ居間へと向かった。

 

■少しだけ足りないもの


 

その日の諸々も終わり就寝の時間。

フェルンは身重なのでベッドに寝るときは横向きに寝ざるを得ない。

 

左側を下にして眠るフェルンにシュタルクが向かい合う様に寝転ぶ。

 

「なあフェルン……」

「……なんですか?」

 

とりあえず、帰った時の事を話さねば

 

「ごめん……」

「何に関してですか?」

 

謝ることが常套句となってしまうとこうなってしまう。

まあ、そうだよねと反省してから言葉を続ける。

 

「帰った時玄関で断ったこと……

 あの子達の前でフェルンと抱き合ったりするの、なんか……恥ずかしくて……

 いや、恥ずかしいことじゃないんだけど、大事なことなんだけど。

 俺だって……触れたいんだけど……

 なんか、こう……耐えられないっていうか……なんといいますか……」

 

こういう事、うまく伝わるのかわからなくて辛い。

不器用と自覚あるシュタルクは、そう簡単に気持ちが切り替えられない。

そう伝えると、フェルンはこちらをじーっと見つめてくる。

 

しばらく、答えを待って見つめ合っているとフェルンはクスと笑った。

 

「フェルン……?」

「私も……判らなくはないです」

 

苦笑の表情を浮かべた彼女の口から出たのは共感の言葉だった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

フェルンとシュタルクがお互いに想いを確認して、将来を誓いあった日は周りにいたのはフリーレンぐらいだった。

 

要するに、なんとなく二人きりで逢瀬を楽しむには人目は少なかったのだ。

今考えればフリーレンの目を盗みさえすれば二人きりの世界になれるので楽ではあった。

フリーレンが何らかの手段で覗き見している可能性に目を瞑って……だが。

 

家族で暮らすための家が建ち、そして結婚をした頃には、建設してくれたドワーフ達やシュタルクの復興の興行に手を貸してくれる協力者達が身の回りに増え、少しずつだが、当たり前のように二人きりだった時間は減ってきていた。

 

不便ではない。問題があったわけではない。それは未来へ向かうために必要な出会いだ。

そんな中でも、なんやかんやと程なくして子供達も生まれた。

 

そうしていつの間にかシュタルクとフェルンは恋人ではなく、父と母として、土地の領主としても振る舞う必要が出てきた。

 

年を経るたびに積み重なっていくものがあり、人生に器用になるたびに想いに不器用になっている気がする。

何も持たなかった頃はあんなに簡単に、軽く言えた言葉は少し重い。

 

「年を経るたびに、新しい何かを手に入れるたびに、簡単ではなくなってきたのかもしれませんね」

 

フェルンのその言いようにシュタルクは笑う。

 

「そうかもしれないけど、俺達そんなに年寄りでもないと思うんだけど」

「でもシュタルク様、子供達の前で何も出来なかったじゃないですか」

「う、ごめん……」

 

とてもシンプルなことなんだけど、立場が増えると中々に……むつかしい。

 

恋人だった時、夫婦になりたてだった時、あの日のように睦言を語り、触れ合う一時。

二人きりで抜き差しなく触れ合えるのは本当に寝室で二人でいる時。

まあ、子供達が夜中に突然部屋に来たりもするので油断はできないのだが……

 

そんな中、苦笑していたフェルンが真顔になり、シュタルクに声をかけた

 

「シュタルク様は……もし立場を忘れられたら、二人きりになれたら……

 あの日のように言えますか?」

 

■そういう記念日


 

「もし、簡単に覚悟が決まらないなら、そういう事を言える日を決めませんか?」

 

フェルンの提案にシュタルクは首を傾げる。

 

「どういう事?」

「これからも私達はたくさんのものを積み重ねます。

 でもそれはこの先の私達に必要なことで、幸せにつながることだと思います」

 

それは、そうだろう。向かおうとする未来にたどり着くにはまだ道半ばだ。

沢山の夢がある。子供達の将来もある。掴み取りたい未来がある。

 

「やるべき事や、人との関係性、立場は常に変化していくでしょう」

「……そう、かもな」

 

ずっと続くような気がした旅が終わったように、フェルンとの関係が変わったように、自分たちの人生を掴み取った日のように日々何かが変化していく。

 

「だから、言葉を重ねませんか? 改めてお互いの立ち位置を確認するために」

 

微笑んでそういう彼女にシュタルクは問う

 

「立ち位置ってどう言う……?」

「こういうことです」

 

フェルンは右手を伸ばしてシュタルクの頬に触れてきた。

 

「少し手を伸ばせばお互いに触れられる位置にいていいのか?

 今もそう思っているのか……言葉を重ねましょう。確認しましょう。

 毎日言ってもいいけれど、でもこの先ずっと、年に一度その日にだけは必ず確認しましょう」

 

野暮なことかも知れない。

言葉にしなくても判っていて当たり前だろうと言うかも知れない。

でも、改めて言葉にして伝え合おうというのだ。

 

「年に一度、じゃなくても今みたいな時間を持てばいつでも言えたりしないかな……

 フェルンが欲しい時にいつでも言えるように努力するけど……」

 

そういうとフェルンは笑いながら

 

「じゃあ今言ってください」

「え、あーーーーー、えーーーーと、その~~……」

 

急に言われて言葉に詰まる。

二人でちょっと言葉にしづらい事をする時とかそういう雰囲気のときとかは言えるんだけど……改めて言われると……パワーが要る。シラフの時ってこんな意気地がなかったんだな。

 

「……あ――」

「――愛してます。大好きです。シュタルク様、ずっと傍にいましょう」

 

先に言われた。

「安い言葉ではありません。当たり前の言葉のようで口にするには勇気と覚悟がいります。だから年に一回決めた時に必ず言うようにしましょう」

 

「もちろん言えるなら毎日言ってくれてもいいですよ?」と微笑むフェルンに呆気にとられながらも、叶わないなと苦笑しつつも……

 

「――俺も大好きだ。ずっとフェルンの傍にいたい」

やっと言葉にする勇気が出たシュタルクはそう返しながらゆっくりとフェルンを抱きしめた。

もちろん、今のフェルンの負担にならないようにだが。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「で、1年に一回の記念日を決めてシュタルクとフェルンがこっそり二人きりで過ごせるようにして欲しいってこと?」

「はい。フリーレン様にも協力いただければと思いまして」

 

ある日の午前中突然にフェルンから投げつけられたお願いにフリーレンは言葉を返す。

なんというかフリーレンからすると……色々大変だなぁという感想しかない。

 

(もっとイチャイチャしたいけどちょっと我慢しているから気兼ねなく開放する日が欲しいってこと……かな?)

 

はっきり言って、第三者から見ると十分すぎるぐらいに甘い生活しとるやろお前らと、なんやかんや夜にごそごそした結果の3人目でしょと、一体何が不満なのだと、そう言いたいけれど……

まあ、フェルンがそう言うならそうなんだろう。フェルンとシュタルクの中では。

 

もちろんフリーレンとて二人の立場はわかっている。

なんせ、ほうぼうの有力者に荒れ地となったクレ地方の管理者にシュタルクとフェルンを結果的に推しちゃったのはフリーレン当人だ。

主犯はグラナト伯爵とオルデン卿だけど。そそのかされただけだけど!……とフリーレンは思っているが。

それはさておき、これも大人としての次のステージへの成長とその折り合いなのかなと納得することにした。

 

「それで、いつにするの?」

 

まあ、とにかくやってみなければわからない。そんな記念日はいつにするのか聞いてみた。

 

「この日にしようかなと」

 

そう言ってフェルンが指差すカレンダーの日付は見覚えがある。

なんということもない日だ。どの地方の何に祈る日でもないありきたりの日取り。

だがこの日は……

 

「なるほど、シュタルクが旅を辞めるからパーティー抜けるとか言ってフェルンを泣かせた日だね」

 

というと、眼の前のフェルンがズルっと滑るような反応をした。そんなリアクションも覚えたのか。

 

「違います! 旅を終えたあとの生き方を選んだ……ずっと一緒にいようって確認し合った日です!」

 

ツッコミを入れるフェルンにフリーレンは笑顔で返した。

 

「知っているよ。

 ……だってフェルンとシュタルクの後押ししたの私なんだからね」

 

終わるべきではないと思った。これから新たに始まるべきだと思った。

だから二人と対話し、今がある。

 

「そうだね、これは確かに……私達の生き方を変えた記念日だ」

 

フリーレンの言葉に「はい」と返すフェルン。

 

「じゃあ、これから先はその日に子供達を連れてアイゼンの家に泊まりで遊びに行くようにしようかな――」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「なるほど……それでお祖父様の家に毎年行くようになったのですね」

 

時は10年程経過した、二人の記念日の……翌日。

現在フリーレンと二人の子供達は家のすぐ近くにあるお手伝いさんの家に泊めてもらう事になっている。

 

件の約束の記念日にちょっとしたトラブルもあって盛大に拗ねてしまったフェルンにシュタルクが現在全力フォローで何かを頑張っている……はずだ。

家の中で二人が何をしているのかはエルフにはわからない。わからないが家には多重の防音障壁を貼ってきた。多分大丈夫。

 

「父様も母様も……何ていうか本当に真面目ですね。私達の目なんて気にせず好きにすればいいのに」

 

という少女の言葉にフリーレンは苦笑する。

 

「そうだね、私もそう思うけど……あの二人は気持ちが不器用だから、君たちの前で親として振る舞いながらそんな事もできないんだよ……誰に似たのだか」

 

―― 記念日なんてのはただの言い訳で、想いの節目、根幹にある願いを忘れないためのきっかけでしかない。

 

最近母親に譲りに膨らんできた胸を自己主張しつつ少女は

「私ならもっとうまくやれます。そんなに好きなら好きって顔を見た時に言えばいいんです」

 

―― でもあの不器用な夫婦が少しだけいつもより素直になるためには

 

「そう思いませんか?フリーレン様」

満面の笑みでフリーレンに語りかける。

 

―― 大事な約束事なのだろう

 

「……そうだね。そう思うよ、本当に」

少女の訴えにフリーレンは苦笑しながらも頷いた。

 

~ fin ~

 




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