転スラ完結後の世界にスライムに転生してきちゃった主人公の話です

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見たいものを小説にしてみたけど、ここからの続きが思いつかなかった……


転生したら原作終わってた件

 まさか自分の人生が、こんな形で終わるとは思ってもいなかった。

 俺、朝倉恒一(あさくらこういち)はこの大学一年の夏休み、本来は一日中家でゲームしたり、本を読んだりしてだらだらと過ごす予定だった。

 スライムが大好きだった俺は、前から気になっていた"スライムが活躍する"と聞いていたラノベを買いに今日だけと思い外へと出ただけだった。

 

 ……それなのに。

 

 背後から聞こえた突然の悲鳴と怒号の声。

 つい気になって振り返ろうとした瞬間……。

 背中に、焼け付くような衝撃が走った。

 

(あつ……っ!)

 

 言葉が出ず、呼吸もうまく出来ない。

 体勢を保てず、膝から崩れ落ち、地面に倒れた。

 呼吸が乱れ、視界が揺れる。

 

(……何が……起きた? 熱……? いや、これは……刺された……のか?)

 

 背中の焦げるような痛覚が脳を痺れさせていく。

 

(……っ、まずい……考えが……纏まらない……。この熱……どうにか……)

 

《確認しました。『対熱耐性』獲得……成功しました》

 

(なんだ……、幻聴……?)

 

 痛みが波のように押し寄せ、思考が寸断される。

 

(……痛い。集中が保てない……くそ……)

 

《確認しました。『痛覚無効』獲得……成功しました》

 

 痛覚無効とかいう声が聴こえたのに痛みは消えない。

 身体の傷は広がり、血が流れ続けていた。

 

 次第に、強烈な寒気が内側からこみ上げてくる。

 

(寒い……血が……相当抜けてる……寒い中死ぬのは……嫌だな……)

 

《確認しました。『対寒耐性』獲得……成功しました。『対熱耐性』『対寒耐性』を獲得した事により、『熱変動耐性』にスキルが進化しました》

 

 そう考えている間も冷えは増す一方だった。

 

(冷静に……状況を……整理……できないな……)

 

 呼吸が浅い。指の感覚も薄れてきた。

 

(努力……なんて……ろくにしてこなかったな……。もし、もしも生き延びられるなら……今度こそ、ちゃんと努力して生きたかった……。こんな時になって……今更後悔するなんて……)

 

《確認しました。ユニークスキル『努力家』獲得……成功しました》

 

(……スキル? さっきから……本気でなんなんだ……これは……)

 

 視界が暗くなる。

 

(そういえば……こういう展開……転スラに……あったな……。なら捕食者……とか……都合よく……手に入れば……)

 

《確認しました。ユニークスキル『捕食者』獲得……成功しました》

 

(……幻聴……だろうな……)

 

 本当に転スラの世界への転生だとしたら、リムルが捕食者を持っているだろうから普通獲得できないだろう。

 そんなことを考えていると、最後に浮かぶのは、今日買うつもりだったスライムが主役だと聞いていた本の表紙。

 

(スライム作品……まだ心ゆくまで楽しめてなかったな……。いっそのこと……可能なら……俺がスライムに……)

 

《確認しました。ユニークスキル『粘好者』獲得……成功しました。続けて、種族:粘性生物(スライム)の身体を構築……成功しました》

 

(……最後まで……幻聴……か……)

 

 そうして意識がすうっと落ちていき……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近は仕事続きで疲れていたこともあって、俺――リムル・テンペスト――は少し息抜きしようと考え、休憩をするからしばらく出てくるという書き置きを残して久しぶりに一人でジュラの大森林の奥地へ足を踏み入れていた。

 

 国も発展してきたからかなかなか見ることのなくなった、昔のゴブリン村だった頃のことを思い出させる、どこか素朴で懐かしい雰囲気を残すこの森で、俺は自然と足を止めた。

 かつて転生したばかりで手探りだった頃の自分と比べ、今の俺は魔素の流れや生き物の気配を瞬時に感じ取り、森の中の状況を把握できるほどに成長している。

 それでも、この場所は当時と変わらない穏やかさを湛えていて、不思議と心が落ち着くのだ。

 

主様(マスター)。休憩と言いつつ、仕事から逃走している事実は否定できませんよ?》

 

 頭の中に響く、相変わらず容赦のないシエルの声。

 

「逃走って言い方ひどくない? 俺だって疲れてるんだぞ」

《そうは言っても事実は事実ですから》

 

 そんなことを話しつつ森を歩いていると、ぽよん、と小さな音がした。

 ……スライムだ。

 

 透明感のある青色で、サイズも形もまるで転生してきた頃の俺のようだ。

 まるで、自分の初期形態を見ているようで、思わず顔がほころぶ。

 

 だが、それとは別に、胸の奥に小さな引っかかりのような感覚が残った。

 ただ懐かしいだけではない、どこか妙な引力。

 

主様(マスター)の感情の動きに微細な違和感があります。おそらく対象のユニークスキルが、主様(マスター)の興味を惹いています》

 

「ユニークスキル!? やっぱり普通のスライムじゃなさそうだな……」

 

 スライムは、ぽよん、と俺のほうへ身体を向けた。

 だがそれは、意識して俺の方を向いたわけではなく、ただ身体の向きが偶然こちらを向いただけのようだ。

 

《補足します。対象は視覚・聴覚に類する感知能力を保持していません。そのため現在、外界の位置情報をほぼ取得できていません》

 

「ああ……そりゃ落ち着かないわけだ」

 

 つまり、このスライムは今、自分の身に何が起きているかも分かっていない。

 俺も転生してからヴェルドラに『魔力感知』を教えてもらうまで、外の様子は全くわからなかったわけだしな。

 

 少し可哀想になって、俺はしゃがみ込み念話を繋げる。

 

(大丈夫、大丈夫。怖がらなくていいぞー)

 

(……!? 何だこれ……。声……じゃない。直接、意識に……?)

 

 スライムは跳ねるでも暴れるでもなく、一瞬で思考し始めた。

 混乱している雰囲気は伝わるが、子供のように泣き叫ぶ感じではない。

 状況を理解しようとしている、そんな冷静な思考の流れが微かに感じ取れる。

 

(……くそっ、情報が……足りない……。俺の身体に何が起きてる……?)

 

 見えていない、聞こえていない。

 それなのにスライムの思考は混乱しつつもどこか慎重で、大人っぽい落ち着きを帯びていた。

 

「やっぱりこうなるか。俺も、転生したばかりの頃は、かなり混乱してたしな……」

 

 俺はしゃがみ、スライムの体表にそっと触れた。

 すると、わずかに反応が跳ね返ってくる。

 

(っ、触られた……のか……? 誰かが……近くに……?)

 

 驚きはしているが、冷静に状況を整理しようとしている。

 むやみに暴れたり噛みつこうとしたりする気配はない。

 

(悪い悪い。怖がらせるつもりはないから)

 

 俺が念話で話しかけるとスライムの動きがわずかに収まる。

 

主様(マスター)。解析結果を報告します。

 対象は転生者で確定です。

 スキル構成は、ユニークスキル『粘好者』『努力家』『捕食者』を確認済み》

 

「……転生者か。そりゃ普通のスライムじゃないわけだ」

 

 俺はゆっくりと、そして穏やかに語りかける。

 

(落ち着け。敵じゃない。少なくとも、今すぐ害するつもりはない)

 

(……その、繋がってるこれ……何なんだ……? 念話……みたいなものか……?)

 

(そう。頭の中で会話できるやつだ)

 

 思考は混乱しているが、理解しようとしている、その理性的な姿勢がよくわかる。

 

(……状況説明……してもらえるなら、ありがたいんだが)

 

(もちろんだよ)

 

 俺は転生者らしきスライムに目線を合わせるように姿勢を低くする。

 

(まず、自己紹介な。俺はリムル、リムル・テンペスト)

 

(……リムル、か。……よろしく)

 

(ああ、よろしく。)

 

 一瞬だけ、返事に間があった。

 ほんのわずかだが、思考が引っかかったような感触。

 

 名前を聞いて驚いたのかもしれない。

 日本人っぽくない名前だしな。

 

 でも、すぐに落ち着いた調子に戻ったし、

 わざわざ突っ込むほどの反応でもない。

 

 俺はそのまま話を続けることにした。

 

(ひとまず事実として、お前は転生してスライムになったみたいだな)

 

(……転生……か。なるほど……そうとしか説明できない状況だな……)

 

 どこか納得したかのような思考が流れてくる。

 シエルによると、まだ転生して日も浅いようだ。

 それでも理性的に判断できているのは、素直に感心する。

 

(大丈夫。スライムだからって弱いわけじゃない。俺もそうだったしな)

 

(……保証してくれるなら……信じる。今は……それしか選択肢もないしな)

 

 そのスライムはゆっくりと、俺の足元に寄り添うように跳ねた。

 そして念話越しに、わずかに間を置いて言葉を返してきた。

 

(……一つ、頼みがあるんだが)

 

(ん?)

 

(俺の置かれてる状況が落ち着くまで……少しの間でいい、手を貸してくれ。……ただ全部を任せる気はない。見えないだけで、頭は生きてる。判断くらいは、自分でしたいしな)

 

 不思議と、迷いの少ない声だった。

 俺はその芯の強さに少しだけ感心した。

 

(もちろんだよ。しばらくは俺が面倒みる。それに……)

 

 俺は軽く笑った。

 

(どうせなら、このあともしばらく一緒に行動しようぜ。お前の感覚が整うまででもいいし、気が向いたなら仲間としてでも。ひとりで動くよりずっと安全だしな)

 

(……助かる。そう言ってもらえると……安心できる)

 

 そう言った念話に込められた安堵の感情の奥に、わずかに"頼るだけでは終わりたくない"という静かな意志のようなものが混じっているのが伝わってくる。

 

 その控えめで、でも確かな意志が、どこか心地よく感じられた。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 俺は意識を切り替え、『思考加速』しながらシエルに問いかける。

 

(……で、こいつのスキル構成、もうちょい細かく分かった?)

 

《はい、主様(マスター)。追加解析が完了しましたので報告します》

 

 どうもシエルの声がいつもより楽しそうなのが気になる。

 何か面白い情報でも見つけたのか?

 

《まず、ユニークスキル『粘好者』。これは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です。

 権能としては、

 このユニークスキルの権能が全てスライム種に対してのみの権能になると引き換えにこのユニークスキルの効果を大幅に上昇し、他スキルも対スライム種なら効果が上昇する『粘性生物特化』

 スキル所持者への好意が持たれやすくなる『好感誘導』

 そして、『解析鑑定』と『森羅万象』になっています。

 『粘性生物特化』によって、『粘好者』はスライム種に限定した場合、アルティメットスキルに迫るほどの出力があります》

 

「……アルティメットスキル級ってお前……」

 

 それ生まれたての存在が持ってるような力じゃないだろ普通。

 

《ただしスライム種限定という条件が影響し、他種族には一切効果がありません。

 また主様(マスター)のようなアルティメットスキル保持者には抵抗力が上回るため、

 『好感誘導』の場合は()()()()()()()()()()()()程度の影響しか通っていません》

 

「……まあ、確かに可愛いけどさ。俺の好み以前に、スキルで好きになるのは少し気分が悪いかもな」

 

《大丈夫です。主様(マスター)の対象への好意は純粋に個人的嗜好です。スキルの影響はごく微弱であり、主様(マスター)の場合は初対面で興味を持つ程度です》

 

「ならよかった」

 

 とはいえ、生まれてすぐそんなとんでもスキルを持ってるやつなんて初めて見た。

 こりゃ本当にただ者じゃない。

 

《次に、『努力家』。これは適応速度や学習速度が非常に高くなるスキルです。

 権能である『思考加速』・『並列演算』・『最適行動』・『能力学習』の全てが上手く噛み合っており、今回の場合、未発達の魔力感知の習得にも強力に作用します》

 

「つまり……教えたらすぐできるってことか」

 

《はい。また、スキル保持者自身がスライム種であることで、『努力家』を使用する際に『粘好者』の『粘性生物特化』が発動して、ユニークスキルとしては上位の性能が予想されます》

 

「お、おう……すごいな……」

 

 これってもしかしてシエルが『大賢者』さんだった頃に匹敵するかもじゃないか?

 完全に天才型のスライムじゃん……。

 

 《そして、最後が特に問題なスキルで……。

 『捕食者』は完全に主様(マスター)が持っていた『捕食者』と同等のものでした。非常に興味深いです》

 

「え? 全く同じユニークスキルって、そんなことって普通ありえないよな?」

 

 思わず声が出た。

 シエルの解析結果を聞いた瞬間、胸の奥が少しざわつく。

 

 ユニークスキルは、個々人が生み出す固有の権能。

 全く同じものが存在するなんて、理屈の上では起こらない。

 

 なのに。

 

《対象の『捕食者』は、主様(マスター)がかつて所持していた『捕食者』と、構造・効果・処理手順の全てが一致しています》

 

「……完全に、同じ?」

 

《はい》

 

 即答だった。

 

 俺が最初に手に入れたスキル。

 捕食し、解析し、保存し、合成する。

 あの頃の俺の()()()()()()()だった能力。

 

 それを、今目の前にいる、生まれたばかりのスライムが持っている。

 

 偶然にしては出来すぎている。

 かといって、誰かが意図的に与えたとも思えない。

 

「……妙だな」

 

 怖い、とは少し違う。

 胸に浮かぶのは、不安よりも疑問だった。

 

《理由は特定できません。未知の要素を含む事象ですが、非常に気になる現象です》

 

「だよなぁ。普通の転生したスライムで済む話じゃなさそうだ」

 

 シエルの言葉を聞きながら、俺は小さなスライムの方を見る。

 

 同じスキルを持っている。

 それだけ聞けば、奇跡みたいな話だ。

 

 でも……。

 

「……それでも、俺とは全然違う」

 

《何がでしょう?》

 

「立場も、状況も、何もかもだ」

 

 俺は、さっき念話越しに感じた思考を思い出す。

 

 混乱しているのに必死に状況を理解しようとしていた、あの感触。

 

「俺には『大賢者』がいて、最初から助けられていた」

 

《……はい。対象には、『大賢者』に類似した思考補助系統のユニークスキルは確認されません》

 

「だろ」

 

 俺は小さく息を吐いた。

 

 同じ捕食者を持っているのに、使い方を教えてくれる存在がいない。

 

 それはかなり危うい、そんな気がした。

 

「……不思議な縁だな」

 

《縁、ですか》

 

「同じスキルを持って生まれたのに、環境はまるで違う」

 

 それは運がいいとか悪いとか、そういう話じゃない。

 

 ただ俺が放っておけない、それだけの話だ。

 

「だったら」

 

 自然と、言葉が出た。

 

「俺が教えるしかないだろ」

 

《合理的判断です》

 

「だろ?」

 

 同じ捕食者を持つスライム。

 でも、同じ道を歩かせるつもりはない。

 

 俺はあいつの、俺と同じ『捕食者』を持つ存在の行末を見たい。

 

 絶対に俺とは別の選択をして、別の存在になるはずだ。

 

「……どこまで行くか、見てみたいな」

 

《観測対象として適切ですね》

 

「観測とか言うな」

 

 苦笑しながら、俺は小さなスライムに近づいた。

 

 弟子、なんて言葉は大げさかもしれない。

 

 でも()()()()()()()()()()としてなら、教えられることは山ほどある。

 

 同じ力を持って、違う人生を歩くスライムが、どんな存在になるのか。

 

 それが、純粋に楽しみだった。

 

 さて、まずはあいつに色々教えるために、そろそろ本題に戻るかな。

 俺は目の前の小さなスライムに意識を戻した。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

(……で、今お前が困ってるのは、()()()()ことや()()()()()って部分だよな?)

 

(……ああ。何もわからん状態ってのは、想像以上に不安だからな)

 

(だろうな。そこで、まず()()()()()()()()()を教える)

 

 俺は少し間を置き、ゆっくりと言葉を繋げる。

 

(『魔力感知』ってスキルだ。周囲の魔素の流れを読み取って、世界を見て、聴くことができる)

 

(……本当にそれで可能なのか?)

 

(可能だし、転生したスライムなら向いてると思うぞ。俺もそれで世界を見始めたからな)

 

 スライムの体をわずかに揺らしている。

 期待と不安の感情が入り混じっているようだ。

 

(やり方は簡単だ。まず、自分の体内を流れる魔素……わかるか?)

 

(……まあ、なんとなく? 多分動いてるのがわかる)

 

(よし。それを外の魔素に触れさせるつもりで……ちょっとずつ広げていく)

 

 そのスライムが集中し始めるのがわかった。

 俺は黙って見守る。

 

 次の瞬間。

 

(っ――――な……!?)

 

「おっと、やっぱ来たか」

 

 急に目の前のスライムの体がびくんっと震え、ぷるぷると揺れ始めた。

 

(な……何だこれ……!! 情報が……多すぎ……っ!?)

 

 周囲の魔素の揺らぎ。

 光や音、熱や湿り気、さらに微細な生命の気配まで。

 あらゆる情報が、一度に押し寄せてくる。

 

 俺も最初は、似たような状態だった。

 ただ……俺には、すぐに助けてくれる存在がいた。

 

 こいつには、それがない。

 

(お、おちつけ……落ち着き……いや無理だろこれ!!)

 

(無理すんなよ。最初はそんなもんだ。俺も昔は結構キツかったし)

 

主様(マスター)はやや誇張しています。当時の記録によると、"あ、なんか普通に見えるわ"程度の反応でした》

 

「いや、まああれはお前のおかげでもあったからな!」

 

(くそ、これ……処理が追いつか……ぐっ……)

 

 目の前のスライムの思考が一度大きく沈む。

 それでも諦める気配はない。

 

《報告。対象のユニークスキル『努力家』が作動しました。

 『思考加速』・『並列演算』・『能力学習』・『最適行動』をフルに使用し、情報処理を再構築しています》

 

(……っ……は……はぁ……周りが、見える?)

 

 さっきまで苦しんでいた情報の奔流が、一気に整理されたのがわかった。

 

 おそらく、周りの景色がしっかりと認識できているのだろう。

 

(お、見えたか?)

 

(……すごい……360度全部見えるじゃん……)

 

「おお、やっぱり早いな。『努力家』のスキルはやっぱり優秀みたいだな」

 

 生後数日でここまでできるのは、普通におかしい。

 でも、こいつのスキル構成を考えれば納得できる進化速度だ。

 

《対象は魔力感知を"常時使用可能レベル"まで最適化しました。

 以後、行動に支障はなさそうです》

 

「よし。これで世界が見えてきたな」

 

(ああ……ありがとう。本当に……助かった……)

 

 目の前のスライムの視線――いや、魔力の揺らぎが、真っ直ぐ俺に向いた。

 

(リムル。……改めて礼を言うよ。俺に世界を見せてくれて、ありがとう)

 

 その言葉は真っ直ぐで、飾り気がない。

 純粋な感謝の意思だけが伝わってくる。

 

 このスライムはただ強いだけじゃなく、意思と芯がある。

 

 それは過去の自分とは違う形の、はっきりした意志だった。

 

(……よし。これで最低限、外の世界は把握できるな)

 

 そう言いながら、俺は改めて周囲の魔素を観察する。

 

 『魔力感知』。

 それがなければ、俺たちはこの世界を認識することすらできない。

 

 まあ、慌てる必要はない。

 一歩ずつ覚えればいいさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――何も、ない。

 

 暗い、というよりも、そもそも()()という感覚自体が存在しない。

 音もなく、匂いもなく、風も感じない。

 

 ただ、意識だけが、はっきりと残っている。

 

(……俺、生きてるのか? いや……死んだはずだよな)

 

 背中を貫いた衝撃。

 焼けるような痛み。

 力が抜けて、視界が歪んで――。

 

 あれは、どう考えても致命傷だった。

 

(……なのに、苦しくない)

 

 息をしている感覚がない。

 肺が動く感覚も、空気が出入りする感じもない。

 

 それでも、息切れもしないし、窒息もしない。

 

(……呼吸、してない?)

 

 その事実に気づいた瞬間、別の違和感にも気づく。

 

 身体の輪郭が、曖昧だ。

 腕や脚の位置がはっきりしない。

 

 代わりに、自分の()()に触れる何かが、妙に柔らかい。

 

(……ぷよぷよしてる……?)

 

 押せば歪み、手応えもなく戻る。

 人間の身体じゃない。

 

(……これ、俺の体じゃない……よな?)

 

 そこで思い出す。

 

 意識が途切れる直前。

 頭の奥に、はっきりと響いた()

 

(……スキル、とか……獲得、とか……)

 

 夢にしては妙に機械的だった。

 幻聴にしては、意味が通りすぎていた。

 

(……もしかして、これ……)

 

 考えたくない言葉が、頭に浮かぶ。

 

 ――転生。

 

 しかも、この聞き覚えのある形式の声は……。

 

(……いや、決めつけるのは早い)

 

 あれは死ぬ直前の錯覚かもしれない。

 今の感覚だって、ただの夢の続きの可能性もある。

 

 そう思った、そのとき。

 

(大丈夫、大丈夫。怖がらなくていいぞー)

 

 突然、意識の奥に()()が流れ込んできた。

 

 耳で聞いたわけじゃない。

 空気を通した音でもない。

 

 ()()()()()()()()()()()()感じの……。

 

(……念話……?)

 

 そんな単語が自然に浮かぶ時点で、嫌な予感しかしない。

 

 少しして、柔らかい感触が外側から伝わってくる。

 

(……今、触られた?)

 

 悪意はない。

 様子をうかがっているだけの、慎重な触れ方だ。

 

 そして……。

 

(まず、自己紹介な。俺はリムル、リムル・テンペスト)

 

 その名前を聞いた瞬間、思考が止まった。

 

(……リムル)

 

 疑いは、そこで終わった。

 

(……ああ。ここ、転スラの世界だ)

 

 死ぬ直前に聞こえた()()()()()の声。

 スライムのような身体。

 そして、この名前。

 

 偶然で済ませるには、条件が揃いすぎている。

 

(……よりにもよって、ここかよ)

 

 胸の奥が、ひやりと冷える。

 

 嬉しさよりも先に、不安が来た。

 

 自分がこの世界の知識を持っていることが、どう影響するのか分からない。

 そしてそれがバレたときのリムル達の反応も想像できない。

 

 味方になるのか。

 危険視されるのか。

 そして、何か本来と違う流れを引き起こすのか。

 

(……下手に知られていいこと、なさそうだな)

 

 だから、隠す。

 

 知っていることも、分かっていることも、全部胸の奥に押し込める。

 

(……リムル、か。……よろしく)

 

 なるべく平静を装って返す。

 

(ひとまず事実として、お前は転生してスライムになったみたいだな)

 

(……転生……か。なるほど……そうとしか説明できない状況だな……)

 

 本当は、思い当たることだらけだ。

 でも、それを言葉にするつもりはない。

 

 ()()()()()()を演じるしかない。

 実際、状況説明してもらえるなら助かるしな。

 

(俺の置かれてる状況が落ち着くまで……少しの間でいい、手を貸してくれ。判断くらいは、自分でしたい)

 

 本心と建前を混ぜた言葉だった。

 

(どうせなら、このあともしばらく一緒に行動しようぜ)

 

(……助かる。そう言ってもらえると……安心できる)

 

 これは、嘘じゃない。

 

 見えず、聞こえず、何も分からないこの世界で。

 唯一、意味のある存在が()としてそばにいる。

 

(……頼るだけで終わるつもりはないがな)

 

 心の中で、そう付け足す。

 

 同じ場所に立てるかは分からない。

 けれど、側にいるだけの存在になる気もないからな。

 

 

 (……で、今お前が困ってるのは、()()()()ことや()()()()()って部分だよなな?)

 

 その声に、俺は小さく肯定を返した。

 

(……ああ。何もわからん状態ってのは、想像以上に不安だからな)

 

 本音だった。

 上下も距離も分からない。

 存在しているはずの世界が、完全に闇に閉ざされている。

 

(だろうな。そこで、まず()()()()()()()()()を教える)

 

 少し間があって、続く言葉。

 

(『魔力感知』ってスキルだ。周囲の魔素の流れを読み取って、世界を見て、聴くことができる)

 

 『魔力感知』。

 その単語を聞いた瞬間、胸の奥がひくりと動いた。

 

 ……知っている。

 けれど、それを表に出すわけにはいかなかった。

 

(……本当にそれで可能なのか?)

 

 あえて、疑問だけを口にする。

 

(可能だし、転生したスライムなら向いてると思うぞ。俺もそれで世界を見始めたからな)

 

 向いている。

 そう言われて安心した。

 知っていることと実際にしてみることは別だからな。

 

(やり方は簡単だ。まず、自分の体内を流れる魔素……わかるか?)

 

(……まあ、なんとなく? 多分動いてるのがわかる)

 

 本当になんとなくだ。

 けれど、確かに何かが巡っている。

 

(よし。それを外の魔素に触れさせるつもりで……ちょっとずつ広げていく)

 

 言われるまま、意識を外へ伸ばす。

 

 内側にあった流れを、にじませるように。

 染み出すように。

 

 次の瞬間。

 

(っ――――な……!?)

 

 情報が、爆発した。

 

 熱。

 湿り気。

 空気の動き。

 微細な生命の気配。

 

 ()()()というより、()()()()()()

 

(な……何だこれ……!! 情報が……多すぎ……っ!?)

 

 思考が追いつかない。

 何もかもが一度に来る。

 

(無理すんなよ。最初はそんなもんだ。俺も昔は結構キツかったし)

 

 その声を頼りに、必死に制御しようとする。

 

(お、おちつけ……落ち着き……いや無理だろこれ!!)

 

 処理できない。

 世界が重すぎる。

 

 その時だった。

 

 (……っ……は……はぁ……周りが、見える?)

 

 さっきまで苦しんでいた情報の奔流が、一気に整理されたのがわかった。

 

 そして視界の中に、ひとつの存在が浮かび上がる。

 

 それは人型だった。

 魔素の塊のような輪郭。

 

 ――あれが、リムル。

 

 知りたいと思った瞬間、無意識の内にスキルを発動させていた。

 

 ほんの一瞬、リムルの能力が脳内に映し出される。

 

《対象:リムル=テンペスト》

《種族:――》

《スキル:――》

 

 ……桁が違う。

 

(……は?)

 

 思考が止まる。

 一瞬しか見ていなくてしっかりと把握できたわけじゃない。

 でもこれは……。

 

(ちょ、待て)

 

(……転スラ、完結後かよ!!)

 

 脳内でだけ、叫んだ。

 

 だが、その直後。

 『解析鑑定』をしていることがバレる気配がしてすぐに閉じた。

 

 さっきまで見えていた数字が、霧に隠れる。

 

(……今の、なんだ?)

 

(お、見えたか?)

 

 少しだけ楽しそうな声。

 

(……すごい……360度全部見えるじゃん……)

 

 さっきのことは流石に言えない。

 

 知っていることも。

 見えたものも。

 

 全部、今は伏せる。

 

 原作が完結していると知ったとしても、原作を知っていることがこの世界でどう作用するか分からない以上、軽々しく話すわけにはいかなかった。

 

「おお、やっぱり早いな。『努力家』のスキルはやっぱり優秀みたいだな」

 

 声に、素直な感心が混じっている。

 

(ああ……ありがとう。本当に……助かった……)

 

 今は、それだけが本心だった。

 

(リムル。……改めて礼を言うよ。俺に世界を見せてくれて、ありがとう)

 

 心の奥は隠したままだ。

 けれど、言葉に嘘はない。

 

 この人の前では、何も知らない転生スライムでいなければならない。

 

(……よし。これで最低限、外の世界は把握できるな)

 

 その声を聞きながら、俺は初めて、自分の意思で世界を見渡した。

 

 光。

 影。

 魔素の流れ。

 

 すべてが、現実として存在している。

 

 ――ここは、もう物語の中じゃない。

 

 俺が生きる世界だ。

 

 

 

 にしても……。

 

 (原作で知ってたはずなんだけどさ……)

 

 (いや、実物は強すぎだろ!!)

 

 (これ、本当に隣に立てるような相手か!?)




色々考えたけど、主人公が強くなる方法がラミリスの迷宮くらいしか思いつかなくて断念。
後は主人公への名付けもどうしようかなとか考えてて何も思いつかなかった……。
転スラの設定もややこしく感じてきて、やっぱり原作完結後に転生は難しかった……。
取り敢えず、主人公の設定は載せとく。

 名前:朝倉恒一(前世)
 種族:スライム
 加護:なし
 称号:なし
 魔法:なし
 能力:ユニークスキル『努力家』
    ユニークスキル『粘好者』
    ユニークスキル『捕食者』
    スライム固有スキル『吸収、自己再生、溶解』
 耐性:痛覚無効
    熱変動耐性

『努力家(ツトメルモノ)』
もっと努力しとけばよかったという後悔から。努力すればするほど加速度的に成長できる。
 →『思考加速』
  『並列演算』
  『能力学習』
  『最適行動』

『捕食者(クラウモノ)』
リムルの捕食者を読者視点で詳しく知っていて、主人公にも偶然適正があったからから、全く同じ効果を持てたという独自設定。
 →『捕食』
  『解析』
  『胃袋』
  『擬態』
  『隔離』

『粘好者(アイスルモノ)』
主人公のスライム大好きさがスキルになった結果。読みは思いつかなかったから適当。とにかくスライムに特化してる。
 →『粘性生物特化』:このスキルの権能は全て粘液生物対象限定になり、他の能力も粘液生物に関連するものは強化される。
  『好感誘導』:他者に好かれやすくなる。ただし、誘惑とかではない。
  『解析鑑定』:『粘性生物特化』のせいでスライムやそれに関連するものに対してしかできない。ただ、自分もスライムだから悪用はできる。
  『森羅万象』:『解析鑑定』と同じ。ただ、『捕食者』の『解析』で出たものもわかる。

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