ぽんこつ美少女Vtuberと最強無職 ~元無敗王者を人気配信者が放っておいてくれない~   作:世嗣

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王者狩りの覚悟

 

 

「さあて、誰からやる? なんなら―――全員で、俺にかかってくるか?」

 

 ショッピングモールの中、乱入してきたロウカクさんたちを見て一番早く動いたのはゆずりさんだった。

 

「シンセアちゃん! めぐるちゃん! ここを離脱します!」

「おっけおっけ~。シンセア~!」

「ラムちゃん、『集合』! そしてそのまま、『ゆるやかウェーブ』!」

 

 ゆずりさんが声をかけると、シンセアさんが肩に乗っていた召喚獣のスライムに『集合』の指示をだした。

 すると、肩に乗っているスライムの5倍くらいの量のスライムたちが集まって来た。おそらくそれまで分裂して周囲にトラップを作っていたものだろう。

 そして、本来の大きさに戻ったスライムを薄く広げ、俺たちの視界を覆ってしまう。

 

「つららァ!」

「はいはい、うちにお任せあれ」

 

 ロウカクさんが叫ぶとつららさんが腕を振るう。つららさんを起点に生まれた氷の風はスライムの波とぶつかって押し合った。

 

「―――『三界斬破』からの――――『閃解図(ブレイドリリース)』」

 

 スライムの向こうで、淡い光が漏れた。

 

「ななのさん! ステラ! 逃げるよ!」

「チッ。おいこらカンナとつらら頭下げろ!」

 

 俺がなーちゃんとステラをひっつかんでショッピングモールの二階の方に逃げ、ロウカクさんがカンナさんとつららさんの首元を掴んで地面に叩き伏せる。

 

 瞬間、俺たちの視界に無数の斬撃が走り、それに応じた斬撃エフェクトが空中に固定化された。

 

「かっかっかっ、まさか必殺技まで切って逃げの一手とはな。やるじゃねェか祝部サン」

 

 スライムで視界を覆ってからの逃避行動。それに素早く対応したロウカクさんだったが、ゆずりさんは必殺技を切ってその追跡を防いだ。

 このショッピングモールは閉鎖空間である上に、ゆずりさんの必殺技は混戦状態でめっぽう強いはずだ。

 

「あ、ありがと、ヒロくん」

「ごめんねお兄ちゃん。いまの必殺技、だよね? 逃げのために使うなんてびっくりだよ」

「ああ。そうだね……」

 

 普通にやれば有利なのはゆずりさんのはずなんだが、実際に取ったのは逃げの一手。

 今の消耗した状況だと自分たちのチームがカモになると判断したのか、それともそれだけロウカクさんとやりたくないのか。

 

 ……後者かな、たぶんだけど。

 

「もういたーい! ロウカクほんとカンナたちの扱いが雑ぅ~!」

「うっせーな。祝部サンの必殺技の射程でぼけーっとしてるメスガキのせいだろ」

「してないもん!」

「必殺技まで切られたら流石に追いかけるのは美味しくないですねぇ。リーダーどうします?」

「ほっとけほっとけ。どうせどっかで当たるんだ。それに、まだ俺たちと遊んでくれそうなのもいるしな」

 

 じろり、とロウカクさんが二階に逃げた俺たちを見た。

 

「ンじゃあ、やるか」

 

 獣のように鋭い目を細め、ロウカクさんが無骨な二丁のリボルバーをこちらに向ける。そして、迷いなく引き金を引いた。

 マズルフラッシュと共にハンドガンとは思えない威力の銃弾が放たれる。

 

「ななのさんとステラは一階に逃げろ! ここはロウカクさんの射程だ!」

「オラオラオラ! 他人に構ってる余裕があんのかよ!」

「くっ――――」

「オッ、銃弾弾き、まだできるみたいで安心したぜ?」

 

 俺が反射的に棒を振るって銃弾をはじくと、いつの間にか目の前にはロウカクさんがいた。

 ロウカクさんの口の端が吊り上がる。それと共にロウカクさんの両手の中の銃が変形する。無骨な印象はそのままにオートマチックガンへと変形したそれは、銃を撃つため――――()()()()、まるでトンファーのように相手を叩き伏せるために振るわれた。

 

 ―――銃撃近接格闘術(ガン=カタ)

 二丁の拳銃を超近距離での戦闘に応用する、架空の格闘術。

 俺が現役のころからロウカクさんが使い、彼を『現役王者』へと押し上げたバトルスタイル。

 

「―――シッ!」

「こ、ん、のォッ!」

 

 上体を反らしてロウカクさんの攻撃をかわしたが、間髪置かずに今度は腹を狙われた。俺はそれを防ぐために棒の下端をつま先で蹴って銃を弾き、そのまま横に薙いだ。

 ロウカクさんはそれをかわすのではなく、銃で受け流しつつそのまま俺の額に銃口を向ける。

 

 だが、それは許さない。先に手首を抑えこむとそのまま身体を反転させる。

 俺たちの背中同士がぶつかり、しばしの間の膠着状態が生まれた。

 

「相変わらずよくかわしやがる! 俺とこの距離で殴り合えるやつはプロでもそんなにいないんだぜ?」

「こっちは死ぬ気ですよ。昔より随分キレがある」

「一度もクリーンヒットなしでよく言うぜ、野良猿。舐めてんのかァ?」

「それで言ったらロウカクさんもそうでしょ」

「あン?」

「セオリーで言ったら、姿は見せずに、俺たちとゆずりさんが削り合った後に漁夫るのが良かったんですし」

「かっかっかっかっかっ! ンなことして誰が面白いんだよ! 『現役最強』の俺には求められるプレイってのがあンだ―――よっ!」

 

 ぼやきつつロウカクさんが俺の手を払って、また超近距離でのガン=カタで攻めて来る。

 俺はそれに全力で対応しつつ、ちらりと一階に目を向ける。

 

「くふ、カンナとあそぼーよステラちゃん! 負けたらおにーちゃんは、カンナのコーチになってもらうから!」

「だ、駄目だよそんなの!」

「代わりにロウカクをあげるぅ~!」

「それは―――くっ、ボクが何と言っても角が立っちゃいそう……!」

 

 ステラの相手は身の丈に迫る大鎌を武器にするカンナさん。

 おそらく実力自体はステラとカンナさんに開きはないものの、大鎌というやりにくい相手のせいで少しステラが押され気味に見える。

 

「ふふ、心重さん随分丁寧な魔法の使い方ですねえ。この二週間で基礎の部分から丁寧にやらはったのがわかります」

「む、むむ……」

「……うっ、心重さんのまっすぐな目にまけるなうち……このキャラ崩したら生きていけへんで……」

 

 そして、なーちゃんとやってるのはつららさんだ。

 どっちも『魔法』使いだが、つららさんの『魔法』属性は『氷』。範囲攻撃に適性がある属性なため、二つの魔法弾をうまく使い分けるなーちゃんとは少し相性が悪い。

 

 これは、俺が指示を出さないといけなさそうだな!

 

「―――瞬間移動(ショートジャンプ)

「あっ、テメェ逃げんなよ!」

 

 俺はスキルを使ってロウカクさんから距離を取ると一階に転移する。

 急いで転移したから二人のカバーをしたり攻撃に参加はできないが、まず指示をするならこの距離でも十分だ。

 

「ステラ! インターセプト!」

「―――りょーかいっ!」

 

 短い指示だったが俺の意図を理解してくれたステラは、一度雷を放出してカンナさんの視界を奪った。

 刀を手に駆けるステラは今度は苦しそうだったなーちゃんの方に向かう。

 

「『プラズマエッジ』」

 

 バヂリ、とステラの刀から電弧(アーク)が走る。抜刀術を応用して振るわれた一撃はつららさんを襲う。

 

「おっと、急にうち狙い!?」

 

 不意を突いた一発目はつららさんの腕をかすめる。ステラは素早く二発目を溜めてつららさんを狙った―――が、直前でカンナさんがカバーに間に合った。彼女は鎌の側面をまるで盾のように広く使って雷を防いだのだ。

 

「射法『蛍火』」

「おっと、それはさせへんで~」

 

 しかし、それをぼーっと見つめているなーちゃんではない。ちゃんとカンナさんの足を魔法弾で狙うが、それはつららさんの生み出した氷の盾で防がれた。

 

「急に戦いづらくなったな~。くふ、この二人、コンビで戦わせるのがヒロおにーさんの方針なのかな?」

「うちがカバーやるわ。ちゃんと前抑えててな」

「いーよぉ」

 

 片や氷を纏う雪女、大鎌を手にした悪魔の少女。

 片や周囲に光を旋回させる魔法巫女、刀を手にした魔女っ娘。

 

 おそらく、二人コンビなら実力は伯仲……と見たいのは、俺の親心か。

 

 俺もこのまま二人の攻撃に参加したいところだが。

 

「何余所見してんだ野良猿ゥ!」

「だよな! そう甘くはないよな!」

 

 瞬間移動して離れた間合いを、あっという間にロウカクさんは詰めてくる。

 警戒はしていたものの意識をある程度なーちゃんたち側に向けていた俺は、ロウカクさんが加速しつつ放った蹴りをまともに食らって吹き飛ばされた。

 ショッピングモールの店の一つに突っ込んだ俺は陳列棚をぶっ壊しつつ、壁に叩きつけられることで動きが止まる。

 

「流石に、ロウカクさんを片手間に相手するのは無理だな……」

 

 ジジ、と俺の視界のHPが一割ほど削れた。

 

「野良猿。俺と遊ぶ時はちゃんと俺に集中しろ。せっかくいい勝負してるンだからよ」

「いい勝負? 冗談」

「……ハハ、流石に気づくか?」

「あなたの代名詞、『神速』のロウカク、忘れてませんよ」

 

 商品に埋もれた俺を見下ろすようなロウカクさんが喉を鳴らした。

 

 ロウカクさんは強い。先ほど俺はロウカクさんと互角に殴り合えたから、もしかしたらこの戦闘を見たリスナーは「ヒロはロウカクと互角の実力がある」と思ったかもしれないが、それは違う。

 

 だって、ロウカクさんは()()()()()()()()()使()()()()()()

 

 ロウカクさんの代名詞である『ガン=カタ』は、彼が鍛錬によって手に入れたバトルスタイルであり、その強さは何もスキルに依存していない。

 そして、その『ガン=カタ』はロウカクさんが温存しているアクションスキルによって何倍も強さを増すタイプのものだ。

 

 つまり、今の俺はアクションスキルを縛った状態のロウカクさんと()()なのだ。

 

 じゃあ実際ロウカクさんがアクションスキルを使ったらどちらが勝つかなど、言うまでもない。

 

「ふー……」

 

 店の商品の山に埋もれた身体を持ち上げつつ、薄く息を吐く。

 

 俺がロウカクさんより腕がないのなんて当然だ。

 俺には5年のブランクがあり、ロウカクさんはその間ずっとこのヴァーチャル・スクエアの最前線で腕を磨き続けてきたのだ。

 

 そんな俺が彼に容易く勝てるなんて自惚れていない。

 

 でも、負けることも許されない。

 

 だって俺は『ヒロ・セブンス』。

 カレイドコア所属の『ヴァーチャル・スクエアの元無敗王者』。

 

 戦って勝つのが、俺の役目だ。

 

『ななのさん、ステラ』

『はい?』

『ん~?』

『一旦このエリアを離脱してくれ。おそらくつららさんとカンナさんが追いかけてくると思うけど、まともに戦わずに時間稼ぎに終始してくれ』

『いいけど……時間稼ぎをしてその後は? ヒロくんは今ロウカクさんと戦ってるんだよね?』

『すぐに俺が合流するから、それまでなんとか耐えてくれ』

『え? すぐ?』

 

 困惑するようななーちゃんの声に、俺は短く返した。

 

「ああ。俺は―――3分以内にロウカクさんを倒す」

 

 さあ、切り札の切り時だ。

 

 王者狩り(ジャイアントキリング)と、しゃれこもう。

 

 

 

 





ガン=カタ、かっちょよくて好き。
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