斉木楠雄の災難 〜魔法少女が生まれる前から、僕の日常は終わっていた〜 作:saiki!!
お久しぶりの投稿となります!大変お待たせいたしました!
前回の第3話では、高町家の道場を舞台に、亡き父・士郎の未練と美由希の葛藤を(栗入りゼリーを食べながら)超能力で強引に解決する、少し真面目でシュールな「家族カウンセリング」をお届けしました。前作を読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!
さて、久しぶりとなる今回の第4話は、テンポとキレに特化した至高のギャグ回です。
月村しのぶからの招きを受け、月村邸へと至高のコーヒーゼリーを求めて赴く楠雄。
お待たせした分、無駄な描写を極限まで削ぎ落とした爆速のテンポ感でお送りします!
久しぶりのため上手くできた自信がありません!
・作者より:
楠雄の動機は今回も100%「コーヒーゼリーのため」ですが、結果として平穏が守られる(?)ことになります。無駄を一切省いた(つもり)キレッキレの(つもり)やり取りと、シュールなテンポ感を楽しんでいただければ幸いです。
それでは、お久しぶりの第4話。
極上コーヒーゼリーの甘味と、粉砕されるドアノブを添えて……どうぞ!
【放課後:海鳴大学付属小学校・校門前】
校門のすぐ脇に、一台の黒塗りの高級外車が静かに停車している。
その横で、腕を組んで佇む月村しのぶ。
しのぶ:(……今日こそ、彼の正体を見極めてやるわ)
校門から出てきた僕を目で捉えると、しのぶは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、後部座席のドアへと歩み寄った。
しのぶ:「ふふ、待ちわびたわ、斉木くん。我が家の専属パティシエに作らせた極上コーヒーゼリーが食べたければ――」
バッ!
しのぶが勢いよくドアを開ける。
そこにはすでに、後部座席の奥に深々と腰掛け、目を閉じている僕の姿があった。
(……遅いぞ。早くしろ)
しのぶ:「……はやっ!?」
【月村邸・応接間】
(……というわけで、一瞬で月村邸の応接間である)
(……やれやれ。高町家も大概だったが、ここは輪をかけて豪邸だな。それとメイドたちの視線が少しばかり鬱陶しい)
しのぶ:「……っ、コホン! お待たせしたわね、斉木くん。我が家の専属パティシエが、あなたのために用意した最高傑作よ」
(先の動揺を必死でリセットしたな)
銀のトレイに乗せられて運ばれてきたのは、透明なクリスタルグラスに盛られた漆黒のゼリー。
上部には繊細な金箔と、極上の生クリームが添えられている。
(………………!!)
しのぶ:「……どうかしら? 我が家の……」
(……いただきます)
しのぶが言い終わるより早く、僕はスプーンを滑り込ませ、一口目を口に運んだ。
(………………っ!?!?)
(……美味い……!! 口に含んだ瞬間、濃厚なコクとすっきりとした苦味が広がり、追いかけるように生クリームの上品な甘みが全体を包み込む……! 悪くない!…月村家のパティシエ、君を今日から『神』と呼んでもいいぞ……!)
しのぶ:「……あ、あの……斉木くん……? 目を閉じて震えてるけど、大丈夫……?」
(……喋りかけるな、月村しのぶ。今、僕はゼリーと対話しているんだ)
しのぶ:(……な、なんなのこの圧は……!? )
〜コーヒーゼリーを堪能中〜
しのぶ:(……ダメね、完全に自分の世界に入ってるわ。……でも、不思議ね。彼がこうして普通に(?)ゼリーを食べているだけで、なんだか胸がポカポカするわ……。)
(……ふう。一口目の衝撃から、二口目、三口目へのグラデーションも見事だ。生クリームが溶け出す速度まで計算されている。月村家の専属パティシエ……やるな)
僕は最後のひとすくいを惜しみながら口に運ぶと、スプーンを静かに皿へと置いた。
しのぶ:「……満足していただけたかしら、斉木くん?」
(……ああ、大満足だ。ごちそうさまでした。……さて、長居は無用だな。美味いものを食べたらサッサと帰ってドラマを観るに限る)
僕が席を立とうとした、その時――
(……ん?)
テレパシーで不穏な思考が引っかかった。
刺客A:(……月村の屋敷、潜入完了。狙うは月村の娘……あの異端の血を引く存在だ。……ん? 応接間に民間人のガキが一人……まあいい、まとめて処理する)
(……やれやれ。植木鉢の陰に、物騒な思考を持った男が二人ほど潜入してきたな。……血がどうとか言っているが、吸血鬼の血族争いか何かか? 全く、この海鳴市という街は物騒なヤツが渋滞しすぎている)
しのぶ:「……? 斉木くん、どうしたの? 急に固まって……」
しのぶが怪訝そうに僕の顔を覗き込む。
彼女はまだ、刺客が廊下のすぐ外まで迫っていることに気づいていない。
(……やれやれ。ここで事件を起こされては、せっかくのコーヒーゼリーの後味が台無しになる。何より、パティシエが巻き込まれて怪我でもされたら、僕のおかわり計画が永遠に潰えてしまうからな)
刺客A:(よし、ドアを開けて一気に……!)
カチャリ、と応接間のドアノブが外側から静かに回される。
(……『サイコキネシス・ドアノブ超高速逆回転』)
ガガガガガガッッッ!!!
刺客A:(ひぎゃあああッ!? 指がっ! 指がドアノブの回転に巻き込まれて折れるッ!!??)
刺客B:(な、なんだ!? ドアが勝手に超高速回転して……ぐわあああッ!?)
〜しばらくお待ちください〜
ドアの外で、声にならない悲鳴と骨が折れるような惨劇の音が静かに響き渡った。
しのぶ:「……え? 今、廊下で何か変な音が……?」
(……気のせいだ。月村家のドアは、少し油が切れているんじゃないか? やれやれ…ドラマの放送に間に合わないじゃないか…リアルタイムでなければテレパシーでネタバレを喰らってしまう。)
(……やれやれ…仕方ないか)
僕は何事もなかったかのように、座っていた革張りのソファへゆっくりと深く腰掛け直した。
(……月村さん…このゼリー、おかわりはあるか?)
しのぶ:「……え? あ、ええ……もちろん用意させてあるけれど……」
しのぶ:(……なんなのこの人……急におかわりを要求して、また座り直したわ……。)
(……ふう。これで刺客の処理も完了だ。君がどんな重い宿命を背負っていようが、僕には関係ない。僕にとっては『美味しいコーヒーゼリーを提供するパティシエの雇い主』であれば、それで十分なんだからな)
(……二杯目のコーヒーゼリーを完食し、僕は大満足で月村邸を後にした)
【月村邸・廊下】
……僕が去った直後。
ドアノブで指を砕かれ、廊下で悶絶していた二人組の刺客。
刺客A:「くっ……な、なんだあのドアは……呪われているのか……っ!? おい、一旦引くぞ……!」
刺客B:「ああ……手酷い罠だ……月村の娘を狙うのは出直した方が――」
ガタッ。
廊下の奥から、静かに、しかし圧倒的な圧力を伴って影が近づいてきた。
そこに立っていたのは、トレイを手にした月村家のメイドだった。
メイド:「……あら? 我が家の廊下で、コソコソと何をしておられるのですか?」
刺客A:「ひっ……!? メイド……!? いや、待て、俺たちは怪しい者じゃ――」
メイド:「無断侵入、およびお屋敷の備品(ドアノブ)の損壊……。お嬢様の穏やかな放課後を妨害する不審者は……排除いたします」
刺客B:「待っ……ぎゃあぁぁぁぁぁぁっっっ!!???」
ボコッ! バキッ! ドカッ!!
(……やれやれ。屋敷を出た僕の耳に、遠くから悲惨な悲鳴が聞こえてきたな。……どうやら月村家のメイドは、刺客程度なら素手で処理できる戦闘力を持っているらしい。僕が手を出すまでもなかったな)
夕暮れの海鳴市を歩きながら、僕はコーヒーゼリーの余韻に浸る。
(……月村しのぶ。君の家は思った以上に物騒だが、コーヒーゼリーの味は間違いなく本物だ。……また次に呼ばれれば…まぁ、行ってやらんこともない)
(……やれやれ。今日も僕の平穏な日常は、ゼリーの甘みと共に過ぎていくな)
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!
今回は、余計な描写を思い切ってカットし、**「テンポ・キレ・オチ」**に全振りをしてみた第4話でした。いかがでしたでしょうか?
魔法少女たちの本格的な活躍の前に、海鳴市の裏側(月村家のメイド隊)の恐ろしさが少しだけ露呈してしまいましたが、これもまたこの街の日常ということでご容赦ください。
お久しぶりの投稿となりましたが、楽しんでいただけていれば幸いです!
感想や「ここ笑った!」などのコメントをいただけると、次の執筆への大きなエネルギーになります。
それでは、また第5話でお会いしましょう!