奇跡は起こらない。

死人は死人のままだ。




(PPPPPPの終盤に思う所があって書き始めたのですが、数年経ってもあの結末に至る物語を読み返せず同じくらい詰まってしまっていたのでひとまずハイライトのみ投稿します)
(なんら積み上げなくハイライトが始まる事、ご容赦ください。できなければブラウザバックをお願いします)

(開演です)

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皆様、幸せですか?
(何かへの勧誘の意図はありません)


ハイライト

 

 

 

 

 「ふーん、それってつまりさ、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

 「え……」

 

 

 「自分語りになるけど、私の場合全部幸せのためにやった事なんだよねー、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「えぇ⁈キョーコさんの三部作なら誰でも知ってますよ⁈」

 

 「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ぴっ、と指を突き付けキョーコは断言する。

 

 

 「そもそもあいつら書き始めた始まりは『お母さんに褒められた』からなんだよねー、()()()()()()()()()()

 

 「……!」

 

 

 【()()】。

 覚えのある単語にラッキーが怯む。

 

 

 「食事もくれる服もくれるベッドも部屋もくれる、だけど愛情もコミュニケーションもくれない、そんな自分の興した会社ばっかりの奴が唯一褒めてくれたのが小学校の宿題で書いた物語に目を通してくれたときでさ、()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 「で、それからあらゆる時間を小説の為に使ってね?中高大と文芸サークルで修行して“最高”の奴が見出せたから次はとにかく取材に行ってそいつに必要なもの全部インプットして後は書き上げるだけ、とこれを三回繰り返して出来たのが『魔弦』『墓標』『無題』(あいつら)な訳よ」

 

 「は、はぁ……」

 

 

 

 「そんでそん時私()()()()()()と思う?」

 

 「……どーなってたんですか?」

 

 

 腕を広げて、黒紫のセーターに包まれた程良い肉付きの身体を示されてもラッキーに分かる事は何一つ無い。

 セーターによって強調され、わずかに背を反らした事で揺れるものを意識しない為にも努めて先を促した。

 

 

 

 「()()()()()?ガリガリ。骨と皮ばっか」

 

 「…………、……!」 

 

 

 その言葉でようやくラッキーは思い出した。

 父と連れ立って歩いていた痩せ細り、まるで死神のように見えた人の事を。

 怖がった自分に母が『取材で来た作家さんよ』と教えてくれた事を。

 

 ()()()()()()()()()()()

 思い出してみればセーターを基調にした服装や顔の造形は確かに目の前に居るキョーコそのものだ。

 けれどあの『死神』と目の前で生きているキョーコが同じものだとは思えなかった。

 

 内心の混乱を察していないのか、あるいは察して無視しているのか、キョーコは語り続ける。

 

 

 「今ある体力だけでとにかく書き進めてたからねー。限界が近付いたら何か食べんだけどなに食べても味がしなくて、寝ても寝てないのよ?夢の中でも文字書いてるからさぁ?」

 

 「…………」

 

 

 怒気、狂気。

 執着、傍観。

 極限、最低。

 ごく短い言葉で語られる若き日の全て(小説家菊茎キョウコの人生)には怖気立つ程の凄味が有り、凄まじいまでに煮詰められた感情が込められていた。

 

 ……そして小説家菊茎キョウコの人生(そこ)には粒ほどの幸せも無かった。

 

 

 

 「まぁそれでも普通に『無題』も書き上がりつつあったんだけどさー、その頃会社が厳しくなって金勘定がキツくなってきたお母さんがなんて言ったと思う?『()()()()()()()で稼いだ分くらいよこしなさい』って言ったんだよ?砕け落ちたよねー」

 

 「…………」

 

 

 短くも濁流のような『小説家菊茎キョウコの人生』と至極あっさりと語られる『小説家菊茎キョウコの死』。

 これらを受け止められる心はラッキーの人生の何処にも存在していなかった。

 

 

 「『無題』って博士の絶望で終わるじゃん?()()()()()()()()()()()()()。なんもできなくって抜け殻になってたんだわあの頃。ああ、ちゃんと書き上げたし受賞式やらなんやらは出たけど全部アクタちゃんにおまかせよおまかせ」

 

 「…………」

 

 「そんでふと気付いたらどっかの旅館の数ヶ月後にいてさー、夕食が目の前にあんのよ。味噌汁啜ってさぁ、びゃあびゃあ泣いたよ」

 

 「……びゃあびゃあ」

 

 「そ、びゃあびゃあ。おかみさんにオロオロされるくらいにびゃあびゃあ泣いてさ、そんでしばらくそこにいてようやく気づいたのよ、『小説書いてても全然幸せじゃない』ってね」

 

 「おいしいものを美味しく食べたいし、友達とお泊まりしたいし、綺麗な景色を存分に眺めていたいし、人の温もりが恋しくて、好きな事で褒められたい。私の幸せはだいたいその辺にあるからさ」

 

 「今こうして写真撮ってんのは他にどんな幸せがあってもやり続けられるから。……私の幸せを邪魔しないから、とも言えるね。ラッキーきゅんは?」

 

 「え……?」

 

 

 抜けた返事を返す。

 いや、ラッキーは自分の喉を通った声がどのようなものかも認識出来ていなかった。

 

 

 

 

 それはなによりの幸せ?

 

 

 

 

 耳に届くキョーコの声も既に音になってはいなかった。

 

 

 

 

 

 




菊池キョウコ/『菊茎キョウコ』/「キョーコ」:書かれて五年後くらいには教科書にも載った『魔弦』『墓標』そして『無題』の三部作(似通ったものを感じられているので物語の内容に直接の繋がりは無いのに三部作とされている)のベストセラーを書いた元小説家にして写真家。『魔弦』を書いた時の取材で音上家と知り合う。『墓標』『無題』を経て小説家を辞め、写真家になり、写真家での貯金が貯まる頃、園田ラッキーと出会う。小さい頃しばらくは名前の読み方すら教えられておらず『きく()きょうこ』が自分の名前だと思ってたのでそれがペンネームになった。
編集者は誰であろうと『アクタちゃん』。

園田ラッキー/「ラッキーきゅん」:才能に悩む少年。なんかきゅん付
けされてる。キーパーソンはキョウコだけど主人公はこの人。

『魔弦』:バイオリンの弦が引き千切れる瞬間を間近で味わいたいという執念に取り憑かれたヴァイオリニストの話。最後は心臓発作で死にゆくヴァイオリニストが引き千切れる弦を感じながら死んで終わる。
『墓標』:人が死に埋葬され墓標(という記号)に変えられる様に悦楽を覚える女の話。丁寧に死者を弔い、遺族に寄り添う人格者だと見られた女は病院で自らを慕う生者に囲まれ墓標(あの悦楽)を見られない事に絶望しながら死んで終わる。
『無題』:『まっさらな空白を描きたい』という欲望のまま筆を振るう画家の話。終盤博士(はくし)という名前が分かった主人公が『画家として死ぬ』様が描かれる。『菊茎キョウコ』が砕け落ちたのは終盤が執筆される前。
三部作/「あいつら」:作者曰く『あんときことなんも覚えてねーわ。いや記憶はしてんだけど実感がないって感じ?』らしい。『あいつらは最高だけどあいつらでしか私を評価しない奴とは話さないって決めてる』とのこと。
菊池キョウコの近況:スーパーコンピューターの24時間を写真に収められないか交渉中。

(『バイオリン』が『バ』で『ヴァイオリニスト』が『ヴァ』なのは作者のこだわりです。ヴァイオリンはカッコつけて気取ってるしバイオリニストはなんか弱い、そんな感傷です。バイオリンはバイオリンだろ、バイオリンの木製感は『ヴァ』じゃなくて『バ』だろ、けどストラディヴァリウスは『ヴァ』な気がするとかそんな感じです)

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