「何とか、理解はできましたね。」
私は今、リンさんが持ってきてくれた資料を百科事典を使い読み解き、今のキヴォトスの情勢の理解を終えたところでした。
「会見までは……あと2時間ですか。」
確か1時間前にリンさんが迎えに来てくださるはず。
キヴォトスの情勢だけでなく、常識的な言葉もある程度理解することができましたし…そろそろ用意を始めておきましょうか。
確かリンさんが資料とともに、連邦生徒会の制服を持ってきて下さっていましたね。
着てみましょうか、恐らく会見もそちらで出たほうが良いでしょうし。
私は机の上に置いてあった制服を手に取る。
全体的に白を基調としていて、所々青い線が入っていて…凄い綺麗な服ですね。
正直、着慣れない服なので違和感はありますし…
…似合ってるんですかね、これ。
コンコンコン
ノック?リンさんでしょうか?
「入っても大丈夫ですよ。」
「失礼します。先生、準備のため少し早めに……制服の方、着てくださったんですね。」
「サイズは大丈夫ですか?どこかキツイとかありませんか?」
「ええ、大丈夫そうです。」
「それはよかったです。似合ってますよ、先生。」
「ふふ、そうですか。ありがとうございます。」
「先生、ある程度キヴォトスの状況を理解できましたか?」
「はい、詳しくはまだですが。」
「今1番問題なのが、ゲヘナとトリニティですよね?」
「ええ、両校は今とある条約で普段より警戒が高いですから。」
「確か…“エデン条約”……」
「そこまで読まれていましたか。はい、そのとおりです。」
楽園を冠する条約……碌な事にならない気がします。
まさかハスミさんやスズミさんのいる学園とチナツさんのいる学園が、ここまで面倒な事になっているとは……
「詳しい説明は省かせていただきますが、今回の会見では両校からも代表者が来ることになりました。」
「トリニティ総合学園からは先ほどもご協力いただいた羽川ハスミさん。」
「そして、ゲヘナ学園からは風紀委員会委員長、空崎ヒナさんがお越しになります。」
「また、そのお二人以外に一人付添人がいると聞いています。」
「どちらも治安維持組織ですね。生徒会から来るものだと…」
「両校の…特にトリニティの生徒会は、今大変な状況ですからね。」
「なるほど。そういうことですか。」
「空崎ヒナさんについては資料を読まれましたか?」
「はい、ゲヘナ最強の風紀委員長で、キヴォトス全体で見ても、彼女に敵う者はそうそういない。」
「ゲヘナで起きる問題のほとんどは彼女が対処していると。」
「そこまで理解されているなら大丈夫でしょう。」
「その他にも、様々な学園から代表者が来ています。」
「多くの人がいますから緊張されると思いますが、落ち着いていきましょう。」
「わかりました。」
「では、移動します。」
リンさんの後をついていき、ヘリに乗り込みます。
機械を使っているとはいえ、外の世界の人も飛べる時代なのですね。
それにこちらの方が、重いものを運ぶのにも適していそうです。
ヘリで移動すること数分。
無事サンクトゥムタワーに到着しました。
その後はリンさんに案内され、連邦生徒会の控室に入りました。
コンコンコン
「七神リン、入ります。」
リンさんがドアを開けると、中には連邦生徒会の制服を着た人が数名いました。
「先生、どうぞお入りください。」
リンさんに言われるまま室内に入り、指定された席に座りました。
……私に向けてくる目線からはやはり、警戒や疑念などが読み取れますね。
「皆さんお集まりのようなので、会見前に先生の紹介を行いたいと思います。」
どうやらこの方達は連邦生徒会の幹部のようですね。
「この方は古明地さとり先生、連邦生徒会長が創設した連邦捜査部シャーレの先生です。」
「この方が…?」
(私達よりも幼く見えるのですが……)
そう言ったのはピンク髪で糸目の方。
……怪しいですね、この人。
何というか胡散臭いというか、裏切りそうというか……生徒といっても信用出来ませんね。
「さとり先生、ここにいる方々は行政委員会…連邦生徒会の各部門をまとめる幹部達です。」
その後はリンさんからは軽く皆さんの紹介をされました。
特にこれからお世話になりそうなのは、財務室長の扇喜アオイさんでしょうか。
他学園の支援やシャーレの活動のための資金も一度彼女を通したほうが良さそうですね。
あとは……防衛室の不知火カヤさん。
なんでしょう、態度や話し方からは礼儀正しい真面目な方なのかと思うのですが……
怪しさが拭えない。経験上、こういう人ほど裏切りますからね。
取り敢えずは警戒しておいたほうがいいでしょう。
「そして最後に、連邦生徒会統括室、首席行政官兼連邦生徒会長代行を務めている七神リンです。」
「リンさん、ご紹介ありがとうございました。」
「改めて、連邦捜査部シャーレの先生に就任した古明地さとりです。皆さんよろしくお願いします。」
「ええ、よろしく先生。」
(…まぁ、会長が決めた人なら大丈夫でしょう。)
「よろしくお願いします、先生。」
(まさか本当に年上だったとは思いませんでした。)
特に悪い印象は向けられていない様ですね。
シャーレの業務上、連邦生徒会との協力は必要不可欠でしょうからひとまず安心です。
「……そろそろ時間になりますね。私と先生はこれから会見の会場まで向かいます。」
「皆さんはここで解散していただいて結構です。本日の業務、お疲れ様でした。」
リンさんと私は一礼し、控室から出ました。
「このまま会場まで向かいます。お手洗いなどは大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。リンさん、今更ですが私は何を話せば?」
「そうですね、大体の説明と質問への返答は私がいたしますから……先生はご自身の紹介と答えられそうな質問の対応をお願いします。」
「分かりました。」
それからしばらく廊下を歩き、会場前まで着きました。
「時間丁度ですね。行きましょう、先生。」
私はリンさんの後ろをついて行き、部屋に入ります。
部屋に入ると聞こえてくるのは、シャッター音とざわめき。
ゲヘナ代表席ーーー
「行政官の後ろの方は……子供…?」
…連邦生徒会の制服を着ているけど見覚えがないわね。
新しい幹部…?でもそんな情報はどこにもなかったはず……
……となると、彼女が先生…?
「…まさか連邦生徒会はあの子供を例の先生にするつもりじゃありませんよね…」
隣でアコがつぶやく。
はぁ…聞かれていたら面倒なことになりそうね。
「アコ、見た目で判断するのは辞めなさい。」
「チナツの話ではちゃんとした大人の方よ。」
「ですが委員会、とても大人には……」
「……チナツに年齢でも聞いておけばよかったですね。」
…確かに大人には見えない。
特に背丈に関しては私と同じように見える。
何も知らない人から見れば高校生にも見えない……
「だからといって声に出すのは辞めなさい。」
「申し訳ありません、委員長。」
だとしても結局は先生が何をするかだろう。
資料を見ればシャーレの異常と言えるまでの権力の高さが理解できる。
それを善に使うか、悪に使うかは先生次第……
もし後者なら……排除するだけね。
トリニティ代表席ーーー
「ハスミ先輩、あの人が先生なんですか?」
「ええ。間違いありません。」
連邦生徒会の人かと思ったんですが……本当に先生なんですね……
「先生って言うからには、もう少し大人の方が来ると思っていたっすけど……」
「私も最初は驚きました。ですがちゃんとした大人の方ですよ。」
「へぇ…年いくつとか聞いてないんですか?」
「確か26歳って言ってましたね。」
「26…!思ってたより年上なんすね……」
私よりも十歳も年上じゃないですか、見た目で人を判断しちゃだめですね……
「……何で連邦生徒会長は外から呼んできた人に、こんな権力持たせたんでしょうね?」
面識があったから…?
でもそれだけではなさそうですけど……
「それは行政官も分からないみたいです。」
「なるほど、知る人は連邦生徒会長だけってことすか。」
行政官でも分からないとなると本当に連邦生徒会長の独断なんですね。
一体何の為に……?
会見席ーーー
席に着いてから5分ぐらいでしょうか。
私が入ってきてからというもの、皆さんの困惑する声が大きくなってきました。
「時間になりましたので会見を始めさせて頂きます。」
「まず、お忙しい中にもかかわらずご出席頂いた各メディア、そして各学園の代表の皆様、誠にありがとうございます。」
「今回の会見ではキヴォトスで広まっている連邦生徒会長と今回の学園都市の混乱の原因について、また連邦生徒会長が設立した連邦捜査部シャーレの説明をさせて頂きます。」
「まず連邦生徒会長についてお話させて頂きます。」
それからリンさんは噂の通り連邦生徒会長が失踪し、現在も安否が分からないことを明かしました。
また、サンクトゥムタワーの最終管理者が居なくなっていたことで、連邦生徒会が行政権を喪失した事が今回の混乱の原因でもあると説明されました。
突如消えた連邦生徒会長、混乱に対応できなかった連邦生徒会について出席者の方から不満が溢れ出ていました。
「はい!質問してもよろしいでしょうか!」
そう言って手を挙げたのは茶髪に眼鏡をかけた方。
生徒…でしょうか?ですがメディアの席に座っているようですが……
「ええ、どうぞ。」
「クロノススクール報道部の風巻マイです!先ほど行政権を失ったという説明がありましたが、現在はどうなっているのですか?また、解決しているのならどのような方法を使ったのですか?」
「はい、まず行政権を喪失した件につきましては既に解決済みです。その方法ですがそれを説明するためには、連邦生徒会長が設立したシャーレの説明が必要になりますので、そちらで回答させていただきます。」
「なるほど、ありがとうございました!」
「……質問が他に無いようなのでシャーレの説明に入らせて頂きます。」
それからリンさんはシャーレについての説明を始めました。
連邦生徒会長が設立したこと、さらに超法規的権力を持つことを説明されました。
やはりというか……出席者の皆さんはとても心配そうな顔をしていました。
「行政権を回復させた方法ですが、このシャーレの力をお借りし、サンクトゥムタワーの認証を行った形になります。」
先程の質問の回答ですね。
まぁ、ほとんどはアロナさんのおかげなんですけどね。
「そして、そのシャーレ顧問……先生となって頂く方の紹介をさせて頂きます。」
「本日よりシャーレの先生として就任される古明地さとり先生です。」
リンさんが私の紹介をすると同時に立ち上がります。
ざわめきとカメラのシャッター音が今までよりも多く聞こえます。
「ただいま説明があった通り、シャーレの先生に就任しました古明地さとりです。皆さんこれからよろしくお願いします。」
「古明地さとり先生は連邦生徒会長が直々に指名した方で、キヴォトスの外から来ていただいています。」
「れ、連邦生徒会長は何故そのような組織のトップを外から…!?」
「申し訳ありませんが、シャーレについては連邦生徒会長の完全な独断になりますので私達には分かりません。」
「一つ質問をいいかしら?」
今度はゲヘナの代表席の方から声が上がります。
そうなると、彼女が……
「はい、どうぞ。」
「ゲヘナ代表の空崎ヒナよ。シャーレの業務について、明記されていないのだけど、シャーレは何をする組織なのかしら?」
「シャーレに特にやるべきことはありません。言ってしまえば何をやるのかは先生次第です。ただ、先生と話し合い決めた方針は、連邦生徒会が対応できない生徒達の要望を聞くということになります。」
「そう、分かったわ。」
「私からもいいでしょうか。」
ヒナさんの隣の方も質問があるようですね。
……何かとんでもない服装をしてません…?
「ゲヘナ学園の天雨アコです。失礼ながら、先生の年齢はお幾つなのでしょうか?」
「年齢ですか……先生からお答えいただいても大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。私の年齢ですね、今年で26歳になります。」
「に、26……!?そ、そうだったのですね、ありがとうございます。」
(あの見た目で26歳…!?本当に子供ではないんですね……)
「他にご質問がある方はいらっしゃいますか?」
リンさんが問いかけるも、誰も声を上げない。
もう少し質問があると思っていたのですが……
今は様子見の段階…ということでしょうか。
「なさそうなのでこれで以上とさせて頂きます。」
「本日の会見はこれで終了となります。ご参加いただいた皆さん、お忙しい中ありがとうございました。」
リンさんが挨拶し会見が終了します。
時間にしておおよそ1時間。無事に会見を終えることができました。
その後私達は会場から離れ、ヘリに乗りシャーレに移動しました。
「お疲れ様でした、先生。これで今日の先生の仕事は終わりになります。」
「こちらこそ一日中お世話になりました。リンさんもゆっくり休んでくださいね。」
「お気遣いありがとうございます。ですがまだ仕事が残っていますので私はまだ残ります。」
「そうですか……くれぐれも無理はしないようにしてくださいね。」
「分かっています。先生、明日からの予定は考えていますか?」
「ええ、各学園…特に3大校に挨拶周りに行こうかと。」
「初めのうちから関係を築いていけるのでいいと思います。」
「本格的に周り始めるのは明後日以降になりそうですけどね。」
「そうですか。分かっていると思いますが、くれぐれも気をつけてくださいね。」
(……連邦生徒会長がいなくなった今、SRTの手が空いていますね……指揮権をシャーレに渡せば先生の護衛も務まるかもしれませんね。)
SRT……?何かの組織のようですけど……
護衛ですか、あればとても助かりますね。
「もしかしたら、先生の護衛に手の空いている組織を回せるかもしれません。」
「できれば、先生が学園を周り始めるまでには間に合わせられるようにしますね。」
「よろしくお願いします、リンさん。本当に今日一日、ありがとうございました。」
「ええ、先生も本当にお疲れ様でした。」
そういいリンさんは部屋から出ていきました。
今日一日、本当に色々なことがありました。
この世界で私は何をすべきなのか、本当に帰ることはできるのか……
いえ、今考えるのはやめましょう。
少なくともしばらくは帰れないですし、目の前のことをやるだけですね。
……今日はもうやることもないですし、休むことにしましょう。
その後、夕食を済ませ、お風呂に入り、シャーレの居住棟の一室で眠りにつきました。
アビドス郊外のオフィスビルーーー
「なるほど、中々に面白い方がいらっしゃったようですね。」
今日、突如現れたシャーレの先生の資料を見返しながら呟く。
「キヴォトス外……いえもしかしたらその世界とも違う所から来た存在……」
「人間の様でありながら、どこか人間とかけ離れた様に感じる者……」
「特に異質なのは生徒を助ける為に繰り出した光弾……こんな物はキヴォトスでも、外の世界でも見たことがない。」
「クックックッ、実に興味深い……いつかお会いできるといいですねぇ、古明地さとり先生。」