俺の回復魔法が優秀すぎるせいで、仲間が全員ビキニアーマーになった   作:エアロマグロ

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第33話:伝説のビキニマスター

 魔王城での死闘から数日後。

 俺たちは王都の城門の前に立っていた。

 魔王を降伏させたというニュースは、既に早馬で伝わっているらしい。

 城門が開くと同時に、地鳴りのような歓声が響き渡った。

 

「うおおおおおおお!!」

「英雄だ! 英雄のお帰りだァ!!」

 

 レッドカーペットが敷かれ、紙吹雪が舞う。

 国中から集まった群衆が、俺たちを迎えていた。

 

「すごい……こんなに歓迎されるなんて」

 

 俺は素直に感動した。

 苦労した甲斐があったというものだ。

 だが、少し歩いて違和感を覚えた。

 歓声の内容がおかしい。

 

「ビキニ! ビキニ! ビキニ!」

「見せてくれ! 最強の装備を!」

 

 ビキニコールだ。

 そして群衆を見渡して絶句した。

 衛兵たちが、全員上半身裸で槍を持っている。

 肉屋の親父が、エプロン一枚で肉を切り分けている。

 貴族のおっさんが、シースルーのシルクシャツで優雅に手を振っている。

 

「……なぁ、この国、狂ってないか?」

 

 俺は震える声で隣を見た。

 そこには、いつも通りのビキニアーマー姿のモアとマホがいた。今やこの格好も市民権を得てしまっている。

 

「素晴らしい……。合理的思考が浸透している証拠……」

 

 マホが満足げに頷く。

 

「見てアスク! みんな涼しそうだよ! これで熱中症も減るね!」

 

 モアもニコニコと手を振っている。

 ポジティブすぎる。

 これは涼しいとかそういうレベルじゃない。

 文化レベルが石器時代に逆戻りしている上に、性癖だけが未来へ加速してしまったディストピアだ。

 

「お、あそこにいるのはギルドマスターか?」

 

 群衆の中に、見知った顔を見つけた。

 冒険者ギルドの強面マスターだ。

 彼は俺と目が合うと、親指を立ててにかっと笑った。

 その服装は、トゲ付きの黒革ボンテージだった。北斗の雑魚かよ。

 

「見なかったことにしよう」

 

 俺は静かに視線を逸らした。

 もうダメだ。この国には、俺の味方は一人もいない。

 

 ***

 

 広場の特設ステージに到着すると、盛大なファンファーレが鳴り響いた。

 壇上には、玉座に腰掛けた国王陛下がいる。

 俺たちは陛下の前へと進み出た。

 

「よくぞやった、美しき英雄たちよ!」

 

 国王陛下が立ち上がり、両手を広げる。

 その瞬間、会場のボルテージは最高潮に達した。

 

 陛下は、黄金の王冠を被り、赤いビロードのマントを羽織っていた。

 そこまではいい。

 だが、その下は、王家の紋章が入ったパンツ一丁だった。

 

「……陛下?」

 

 俺は跪くのも忘れて呆然とした。

 

「余もそなたらの活躍を聞き、真実に目覚めたぞ! 服などという拘束具は、人間本来の力を削ぐものでしかなかったのだ!」

 

 陛下が朗々と演説する。

 その腹筋は意外と割れていた。鍛えているらしい。

 

「余は宣言する! 本日より、我が国の正装はビキニとする! 老若男女問わず、己の肉体を晒し、太陽の恵みを全身で浴びるのだ!」

 

「「「うおおおおおおお!! 国王万歳!!」」」

 

 民衆が狂喜乱舞する。

 地獄かここは。

 俺は眩暈がしてきた。

 一国の王が、公の場で露出狂宣言をしてしまった。

 確かに、国家ぐるみなら公然わいせつも犯罪じゃないな。もっとまともなことに権力を使ってくれ。

 

「さて、そなたらの偉業を称え、この広場に記念碑を建立した。除幕を行う!」

 

 国王の合図で、広場の中央にあった巨大な布が引き下ろされた。

 現れたのは、高さ5メートルはある黄金の像だ。

 

「……えっ」

 

 俺は目を疑った。

 そこには、躍動感あふれるポーズで剣を構えるモアと、杖を天に突き上げるマホの姿があった。

 ビキニアーマーの質感、筋肉の筋、肌の曲線美まで、変態的なこだわりで再現されている。

 極めて精巧な作りだ。職人をこんなことに使わないほうがいい。

 

 だが、問題はそこではない。

 その二人の中心、一段高い台座に、一人の男が立っていた。

 腕組みをして、どこか遠い目をして世界を見下ろしている男。

 

 どう見ても俺。アスクだ。

 

 そして、その男の装備は『全裸』だった。

 

「か、かっこいい!!」

 

「……神々しい」

 

 二人が目を輝かせる。

 

 「うむ。素晴らしい出来であろう」

 

 その反応を見て、国王が胸を張った。

 

「ちょっと待て! 俺はちゃんと服を着てたぞ! 冤罪だ!」

 

 俺は思わず国王に詰め寄った。

 

「む? 早馬では、全裸の力で魔王を撃破したと聞き及んでおるが……?」

 

「いや……それは……そうなんですけど、不可抗力と言うか、その……」

 

「うむ、合っているならそれでよいではないか。民衆はこう呼んでおるぞ。ビキニの戦乙女を従えし全裸の男、『伝説のビキニマスター』とな」

 

「「「うおおおおおおおおお!!! 全裸! 全裸! 全裸!」」」

 

「やめろぉぉぉ!!」

 

 俺の絶叫は、歓声にかき消された。

 確定してしまった。

 この銅像がある限り、俺は後世まで「露出狂集団の親玉」として、しかも「自分も脱ぎたかった男」として語り継がれるのだ。

 末代までの恥だ。

 

「アスク、よかったね! みんなに見てもらえるよ!」

 

 モアが無邪気に笑う。

 俺は膝から崩れ落ちた。

 もう、この国にはいられない。

 

「……行こう」

 

 広場の喧騒の中、俺は立ち上がった。

 

「え? どこへ?」

 

「どこでもいい! 変な噂がない土地へ! 常識が通用する国へ!」

 

 俺は走り出した。

 逃げるように、ステージを飛び降りる。

 これ以上ここにいたら、俺は全裸の英雄として祀り上げられてしまう。

 それだけは阻止しなければならない。

 

「あ、待ってよアスク!」

「まだパレードの途中……」

 

 二人が慌てて追いかけてくる。

 二人のむき出しの肌が、太陽の光を反射して眩しい。

 

「ちょっとアスク! 私たちは仲間でしょ! 一緒に行く!」

 

「アスクの回復魔法のない生活なんて、考えられない……」

 

 ……そうだな。

 毒を食らわば皿までだ。

 この二人を野放しにしては、俺がいつまでたっても全裸の変態だということにされてしまうだろう。

 二人をなんとか説得して、いつか必ず「服を着ることの素晴らしさ」を布教してやるんだ。

 

 魔王を倒しても、俺の戦いは終わらない。

 俺の回復魔法が優秀すぎるせいで、仲間が全員ビキニアーマーになった。そんな俺の、胃痛との戦いが――。




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