冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~   作:斉宮 柴野

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聖杯戦争二日目。
まだ誰も、戦争が始まっていないことに気づいていなかった。


冬木アクターズ・ラプソディ 第二幕「恋は悪徳、悪徳は愉悦」
聖女の夢と、朝食会の愛憎劇


「ジャンヌ!!ジャンヌッ!!」

 

耳元で、誰かが私の名を呼んでいる。

 

うるさいなぁ。せっかく気持ちよく寝落ちしようとしてたのに。

 

重たいまぶたを開けようとするけれど、うまくいかない。視界が真っ白だ。

 

何も見えない。……あ、これ、アレだ。「眼」の使いすぎによるオーバーヒートだ。パソコンのCPUが熱暴走して画面が落ちるのと一緒。

 

まあ、当然よね。一晩で何人もの主演さんの演技を解析して、しかも物理演算までフル稼働させたんだもの。私の頭の中、今すごい熱持ってると思う。

 

「……ジャンヌ!目が……目が虚ろですぞ!しっかりしてください!医者を!!?」

 

「……ううん。大丈夫よ、ジル。今は真樹と呼びなさい。オフの時間だから。……大丈夫……身体が痛くて目が見えないだけだから。筋肉痛と眼精疲労のダブルパンチよ。明日には治るわ」

 

「なんと……!神よ!なぜこれほどまでに清らかな魂に試練を与え給うのか!代われるものなら私が代わりたい!貴女の苦痛を、この薄汚れた身に引き受けたい!」

 

暑苦しい。でも、誰かがこんなに必死に心配してくれるなんて、久しぶりかも。

 

「大げさね。……ちょっと休めば治るから。静かにしてて」

 

「は、はい……!静寂こそが最高の薬……。承知いたしました」

 

ふぅ。やっと静かになった。意識が急速に沈んでいく。深い深い泥のような眠りの中へ。重力に引かれるように、私の思考は闇の底へと落ちていく。……その底で、どこからか「声」が響いた。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

『あなたが何者であるかを放棄し、信念を持たずに生きることは、死ぬことよりも悲しい。若くして死ぬことよりも』

 

誰?凛とした、しかしどこか幼さを残した少女の声。聞いたことがあるような、ないような。

 

ああ……ジャンヌ・ダルク?そのセリフは知ってるわ。有名だものね。私の潜在意識が、役作りのために引き出した記憶かしら?夢の中でもリハーサルなんて、私ってば勉強熱心

 

私が作り出した「理想のジャンヌ像」が、私に語りかけているのだ。

 

『──それこそ愚かです。主は我々を見捨ててなどいませんよ』

 

『いや、そもそも主は誰一人として見捨てていらっしゃらない。ただ、何も出来ないだけです』

 

……ん?神様は無能だって言ってるの?なかなか辛辣ね。聖女のセリフにしては、随分と達観しているというか、諦観が混じっている。

 

炎の熱さ。肌が焦げる臭い。罵倒の声。「魔女だ!」「殺せ!」「火あぶりにしろ!」無数の悪意が、私を取り囲んでいる。これは……処刑台?ルーアンの広場?

 

『祈ることも、供物を捧げることも、全ては己のためではなく主の為の行いでしょう。主の嘆きを、主の悲しみを癒すために我々は祈るのです』

 

『そう、私は確かに──“主の嘆きを聞いたのです”』

 

主の嘆き……ね。神なんているのかな?脚本家の気まぐれじゃなくて?演出家の都合じゃなくて?

 

『諸天は主の栄光に。大空は御手の業に……』

 

『残された唯一つの物を以て、彼の歩みを守らせ給え。主よ、この身を委ねます』

 

 

……火刑になるところまで真似るつもりはないわよ。熱いのは嫌いだし、肌が荒れるもの。でも、不思議。セリフが染み付いているみたい。初めて読む台本のはずなのに、何百回も演じたことがあるような……。

 

熱くない。痛くない。ただ、懐かしい。

 

私は……誰だ?聖上真樹?それとも……?いいえ、私は女優。どんな役でもこなすカメレオン。だから、この「ジャンヌ・ダルク」という役も、私のレパートリーの一つに過ぎない。そうよね?

 

答えは出ない。炎が視界を覆い尽くす。向こうに、誰かの顔が見えた気がした。涙を流して叫んでいる男の顔。……ジル?あ、彼だ。あんなに泣いて。ブサイクな顔。でも、愛おしい顔。

 

『泣かないで、ジル。私は……』

 

……

 

…………

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

「……はっ!」

 

心臓がバクバク言っている。汗びっしょりだ。Tシャツが背中に張り付いて気持ち悪い。

 

「……夢?」

 

冬木ハイアットホテルのスイートルーム。高級な調度品と、柔らかな間接照明。窓の外は白み始めている。朝だ。

 

「お目覚めですか、ジャンヌ!」

 

「……おはよう、ジル。今何時?」

 

「午前6時でございます。昨夜の激闘から数時間しか経っておりませんが、貴女の顔色は……おお、薔薇色のようです!」

 

薔薇色?鏡を見てないからわからないけど、たぶん寝不足で充血してるだけだと思うわ。

 

でも、視界は戻っていた。白い霞も消え、クリアな色彩が目に飛び込んでくる。よかった。私の「眼」は無事みたい。

 

「お腹すいた」

 

「朝食のご用意を!ルームサービスを呼びましょうか?それとも、私が厨房に乗り込んでシェフを脅して……」

 

「脅さなくていいから。普通にビュッフェに行きましょう。ここの朝食、評判いいらしいのよ」

 

洗面所に向かう。顔を洗って、歯を磨いて。鏡の中の自分と向き合う。

 

「……昨日の夢、なんだったんだろう」

 

リアルだった。あまりにもリアルな「死」の記憶。でも、怖くはなかった。むしろ、使命を果たした満足感のようなものが。

 

「ま、いっか。役作りのヒントになったと思えば儲けもの」

 

切り替え完了。今日は二日目。聖杯戦争という名の演劇祭は、まだ始まったばかりなのだから。

 

「参りましょう、ジャンヌ。貴女の胃袋を満たすため、このジル・ド・レ、全力でエスコートいたします!」

 

「うん、頼もしいわ。でも、他の宿泊客の人に変な目で見られるから、そのローブ脱げない?」

 

「これは我が正装!脱げません!」

 

「……ですよねー」

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

……ん?

 

「……あら?」

 

 

 

普通の人には見えないだろう。でも、私の「眼」には、ハッキリと映っている。赤い線。緑の膜。そして、空中に浮かぶ幾何学的な紋様。

 

えっと……これは……。分析開始。力の波長……粘着質で、神経質で、プライドが高そうな波形。あ、これ昨日会ったケイネス先生の感じね!間違いない。あの「私がルールブックだ」と言わんばかりの几帳面さが、この術式にも表れている。

 

なるほど。彼はこのホテルの上層階を貸し切って、自分たちのテリトリーにしているのね。この罠は、「関係者以外立ち入り禁止」のテープみたいなものか。あるいは、侵入者を感知するための防犯ブザー?「ここから先は俺の楽屋だから入ってくるなよ」っていう意思表示ね。

 

几帳面だなぁ。でも、食堂に行くにはここを通らないといけないのよ。またぐの面倒くさいわね。踏んだらどうなるのかしら?警報が鳴る?それとも、スライムでも降ってくる?

 

「ジャンヌ?いかがなされますか?何か……不吉な気配を感じますか?」

 

彼には見えていないらしい。キャスターなのに。まあ、彼は大雑把な召喚術が専門だから、こういう繊細な設置型の罠には疎いのかもしれない。

 

「ううん、なんでもないわ。ただ、廊下がちょっと『散らかってる』だけ」

 

「散らかって……?塵一つ落ちておりませんが……」

 

「精神的な意味でよ。……よし、行くわよジル。私の足跡をトレースしてついてきてね」

 

「よいしょ、っと」

 

次は、床に敷き詰められた緑の膜。でも、よく見ると膜には「継ぎ目」がある。力の供給ラインが途切れている、わずか数センチの隙間。施工ミス?

 

いや、構造上の仕様ね。

 

右へ、左へ。しゃがんで、飛んで、またいで。

 

簡単だ。構造が見えていれば、解く必要すらない。ただ「避ければ」いいだけ。

 

「おお……!なんという足捌き!見えざる悪魔の結界など、聖女の歩みの前には無力……!!まさにモーセが海を割るが如く!貴女が歩いた後には、清浄な道ができるのですな!!」

 

監視カメラで見られたら確実に不審者扱いだけど、まあケイネス先生の結界がカメラ代わりになってるから大丈夫でしょう。24階。25階。

 

……まだあるの?どんだけ警戒心強いのよ。これ、設置するだけで一晩かかったんじゃない?ADさん並みに働くなぁ、ケイネス先生も。苦労が偲ばれるわ。

 

「お邪魔しまーす」

 

そこには、優雅な朝の風景が広がっていた。中央のテーブルには、白いクロスが敷かれ、銀の食器が並んでいる。そこに座っているのは、神経質そうな顔をした英国紳士――ケイネス・エルメロイ・アーチボルト先生。

 

その向かいには、気だるげな美女さん。そして、その背後には、給仕のように控えるイケメン騎士――ランサーさん。絵に描いたような「貴族の朝食」だ。ドラマの撮影中?「おはようございます、本番行きまーす」って声かけちゃった感じ?

 

「……ッ!?」

 

え、なにそのリアクション。私が食堂に来たのがそんなに意外?ああ、もしかして「朝食券」持ってないと思った?大丈夫、部屋番号伝えればツケにできるから。

 

「で……?なぜここにいるのかね?ジャンヌ・ダルクよ」

 

彼は今、必死に現状を把握しようとしている。24階層に及ぶ魔術障壁。悪霊払いの結界。侵入者を感知する水銀のセンサー。その全てが、破壊された形跡もなく、警報一つ鳴らさず、「無視」されて突破されたのだ。彼のプライドはズタズタだ。

 

「なぜって……。お腹が減りましたので、朝食を共にできればと思いまして。同じホテルの客ではないですか。相席、いいですか?」

 

「我がアーチボルトの魔術工房を……『月霊髄液』の自動防衛網を……全く傷つけずに、気づかれずにここまで来て……?アサシンでも不可能な芸当だぞ……」

 

ブツブツ言ってる。「月霊髄液」?あ、あの銀色のスライムみたいなやつの名前?かっこいい名前つけてるなぁ。中二病心を感じるわ。アサシンでも不可能ってことは、私の忍び足スキルは暗殺者レベルってこと?褒め言葉として受け取っておくわ。

 

「どうなされたのですか?ケイネス様、オムレツが冷めますよ?あ、ここのスクランブルエッグも美味しいらしいですね」

 

「この……化け物が……」

 

化け物呼ばわりは失礼ね。レディに対して。

 

「ああ、おはようございます。ディルムッドさん」

 

彼は気まずそうに、しかし礼儀正しく会釈を返してくれた。

 

「……おはようございます、ジャンヌ殿。昨夜はお疲れ様でした」

 

「昨日は良い感じでしたね。名乗りはやっぱり正義です。映えてましたよ。特にあの『我が主君に誓って!』ってところ、キュンとしました」

 

「ああ、まあ……。どうも。……」

 

照れてる照れてる。可愛い。

 

「えーと、あとその女性はソラウさん?初めまして。ランサーさんのマネージャーさんですか?それともケイネス先生の奥様?」

 

「私を無視するな!!朝食にする!!」

 

あーあ。マナー違反ですよ、先生。彼は苛立ち紛れにコーヒーを飲むが、その視線は私の瞳に釘付けだ。まるで、顕微鏡で未知のウイルスを観察するような目。

 

「……その魔眼、生まれつきか?」

 

「ええ、まあ。カラーコンタクトじゃありませんよ」

 

「その構造……。名付けるなら『模倣の魔眼』と言うべきものだな。解析、分解、そして再現……。私の結界術式を瞬時に理解し、同調することで『異物』として認識させずにすり抜けたのか。……控えめに言って凄まじい術式だ……」

 

解説ありがとう。なるほど、私、同調してたんだ。自分では「隙間を歩いた」感覚だったけど、無意識にハッキングしてたのね。私の才能が怖い。

 

「しかしこれがあれば、ジャンヌ・ダルクの奇跡がほぼ説明できる。昨夜の『我が神はここにありて』も、本来の防御宝具としての性質を改変し、物理攻撃に転用した……。模倣できる規模次第で、魔法の領域に片足を突っ込んでいるがな」

 

魔法の領域。魔眼か〜。昨日も言われたけど、設定集を共有してくれないかな?よく分からないわ。魔術と魔法の違いとか。でもここは女優!知ったかぶりで乗り切る!私はミステリアスに微笑む。

 

「この目に興味がお有りですか?まさか『えぐり出して礼装に』……なんて言いませんよね?そういうグロテスクな趣味は、私の騎士が許しませんよ?」

 

「……魔術師ならばそう考えるかもな。だが、生きたまま解析する方が有益だ」

 

「あら、研究熱心。でも、魔法などと……全ては主の賜物。あまり持ち上げられぬよう。私はただ、与えられた役目を演じているに過ぎません」

 

メモメモ。魔法と魔術。普通なら同じ意味だけど、この台本では厳密な違いがあるのね。「魔法」って言うと、なんか「ヤバいこと」扱いされるみたい。

 

「……あなた、本当にジャンヌなの?」

 

それまで黙って食事をしていた美女――ソラウさんが、私を射抜くような視線で見ている。この子、なんか胡散臭い。そう言いたげな目だ。

 

「え?」

 

「ジャンヌ・ダルクにしては、あまりにも……現代的すぎるわ。それに、その軽薄な態度。聖女というよりは、ただの……」

 

ただの?演劇オタクの女子大生??いや、ここでボロを出しちゃいけない。私は「聖女ジャンヌ・ダルク」を演じている「聖上真樹」というレイヤーを重ねる。多重構造の演技。

 

「私を見た人間が、私をジャンヌ・ダルクと呼ぶ時……その真偽に如何程の価値がありましょう?」

 

「え?」

 

「名前など、ただのラベルです。私がサーヴァントだろうと、マスターだろうと、私は主の声に従うのみです。まあ、声が聞こえないときは私の主観で動きますがね」

 

どうだ。煙に巻くようでいて、核心を突いたようなセリフ。「私は私だ」と言っているようで、「神の意志だ」とも言っている。解釈の余地を残すのが、名演技の条件よ。すると。

 

「おおお!!!!」

 

背後で、ジルがむせび泣き始めた。またか。朝から情緒不安定ね。

 

「このお言葉はまさに、シノン城にてシャルル王太子に言われた言葉……!『私が何者であるかより、私が何を成すかを見よ』と!!形式や身分にとらわれず、ただ使命のみを見据えるその高潔さ!ああ、ジャンヌ!貴女はやはり、私の知るジャンヌそのものです!!」

 

……マジで!?そんなこと言ってたの、本物のジャンヌ・ダルク!?知らなかった。適当にそれっぽいこと言っただけなんだけど。

 

私の「聖女ロールプレイ」、精度が高すぎて怖い。もしかして、私の中に「前世の記憶」的なサムシングがあるの?いやいや、まさかね。単に私が天才なだけよ。……おっといけない。あまりにリアルに演じるから、ジルさんが本当のジル・ド・レみたいに感じてしまっていたわ。

 

彼もまた、私に合わせて「狂信的な元帥」を演じきっている名優。負けてられないわね。

 

「ジル、静かに。ここはレストランよ。他のお客様のご迷惑になります」

 

「はっ!申し訳ございません!感動のあまり声帯のボリューム調整が!」

 

「というわけで、細かいことは気にせず、一緒に朝ごはん食べませんか?戦略会議も兼ねて。私、このホテルのフレンチトーストが気になってるんです」

 

 

 

◇◇

 

 

 

「で……ソラウさん。貴女に問いたいことがあります」

 

「なぜ、ディルムッドさんの魅了にかかったままなのですか?」

 

「……ッ!な、なぜそれを……?やめて、私の心に入ってこないで……!」

 

「貴女に見えるからですよ。その機能が。そして、その解除コードを、貴女自身が握りしめていることも」

 

私の「眼」は誤魔化せない。彼女の視覚情報、そして回路の奥底にある「感情の色の揺らぎ」を解析する。そこにあるのは、ランサーさん――ディルムッド・オディナ特有の「愛の黒子」による強制力。ええ、確かに強力な呪いだわ。

 

でも、それだけじゃない。彼女の魂の形を見れば一目瞭然。彼女は「抵抗」していない。むしろ、その呪いの波動を、温かい毛布のように自ら体に巻き付けている。悲劇のヒロインという役柄に酔いしれる新人女優のように。

 

「バカな。ソラウの対魔力、魔術防御ならば、ランサーの魅了ごときレジストは容易いはずだ。彼女は時計塔の降霊科の学部長の娘だぞ?その程度の魔術耐性を持ち合わせていないわけがない」

 

「あえてレジストをなさらない。ケイネス様、ソラウ様は『火遊び』をなさっているのです」

 

「なに……?火遊びだと……?」

 

「『恋に恋して、本当に落ちる手段』があったから、試してみた……と。そういう脚本を、ご自分で書いて演じていらっしゃる」

 

彼の論理的思考では理解できない領域の話だ。魔術的な数値で言えば、確かに彼女は抵抗できるはず。

 

でも、人間の心は数値じゃない。「抵抗できるけど、したくない」。

 

なぜなら、退屈な日常に飽き飽きしていたから。決められた婚約、決められた人生。そこに突然現れた、伝説のイケメン騎士。しかも「呪い」という、不可抗力の言い訳付き。これ、昼ドラの鉄板展開ね!泥沼不倫劇の予感!視聴率取れるわぁ。

 

でも私、こういうドロドロした雰囲気は演じるのも大好きなのよねえ。「禁断の恋」に身を焦がす人妻役、一度やってみたかったの。

 

「な……ッ!!ち、違うわ!私は……私はただ……!」

 

「図星ですねえ。顔が真っ赤ですよ。照明のせいじゃありませんね。ケイネス様、ソラウ様は貴方の奥様?それとも妹様?」

 

「ソラウは私の婚約者だ!!許嫁だ!!政略とはいえ、将来を誓い合った仲だ!」

 

「なるほど!独身でいられるうちに、危険で熱い恋をしたい!!マリッジブルーからの逃避行!わかります!わかりますよソラウ様!!」

 

「『ああディルムッド!!私を見て!!私の手を握って!私の騎士に!!』……っていう心の叫びが聞こえてきそうです。……でも、抱いて、とは言っちゃだめですよ?分不相応になりますから。あくまでプラトニックな『悲恋』で止めておくのが、視聴者ウケがいいんです」

 

「わ、我が主!誤解なきよう!私にはそのような意思は毛頭……!!私は騎士として、主君に忠誠を……!」

 

「ないですよね!それはそう!貴方は真面目すぎるくらい真面目だもの。でも、道ならぬ恋こそディルムッド・オディナの華!!!その『困り顔』こそが、彼女の恋心に油を注いでいることに気づいていない!罪作りな男ねえ!」

 

でも、その「潔白さ」が逆にソラウさんを追い詰めている。「私の気持ちに気づいているくせに、拒絶もしないなんて!」っていう、面倒くさい乙女心の暴走。ああ、楽しい。この三角関係、最高に美味しい。

 

「ああ、ジル!!!ここにおわすのは、まだ開かぬ恋の蕾!!!許されざる恋の炎!!祝福すべき?諌めるべき?」

 

「神への冒涜である不義密通……ですが、愛なき結婚という牢獄に繋がれた乙女の戯れと思えば、目くじらを立てることもありますまい。それに、愛を知らぬまま嫁ぐ不幸もまた、悲劇ですので。ジャンヌよ、貴女がそれを『良し』とするならば、このジル、全力でその恋路を応援いたしますぞ!」

 

「貴様ら……!!言いたい放題言いおって……!!私の目の前で……!!」

 

ケイネス先生の顔色が、怒りと屈辱で紫色になっている。すごい色だ。カラーコードで言うと#800080くらい。自分の婚約者が、自分の部下に惚れていると指摘され、それを部外者に「昼ドラみたいで面白いね」と評されているのだ。

 

プライドの高い彼にとっては、公開処刑に等しい。このままでは彼がキレて、このレストランごと爆破しかねない。それは困る。まだフレンチトーストが来てないもの。

 

「まあまあ、落ち着いてください。私が何を言いたいかというと」

 

「我々の仲を嗤いに来たのだろうが!出て行け!今すぐ私の視界から消え失せろ!」

 

「違います。主演と助演は仲良くやりましょうということです。チームワークが崩壊したら、いい作品は撮れませんよ。ディルムッドさんはいい男ですが、ケイネスさんは『主』なのです。プロデューサーであり、総監督なのです」

 

「婚約者を、自分の道具の機能で魅了できたと思えば……腹も立たないでしょう?全てはケイネス様、貴方の『所有物』の中で起きている、可愛らしいハプニングですよ」

 

「……ぬ?」

 

「彼女が惚れているのは、貴方の魔力が維持するサーヴァント。つまり貴方の魔力の一部。貴方の才能が生み出した『作品』に、彼女はファンとして熱狂しているだけです。器の大きい男として、そのくらいの遊び、許して差し上げたら?自分のフィギュアコレクションを婚約者が気に入った、くらいの感覚で」

 

「はっ!!私は騎士であれば、主の槍でございます!それ以上でも以下でもございません!我が身も心も、主君の覇道のために!」

 

「ランサー……あなたは私の魔力で……」

 

「ならソラウ様は自分の一部に恋をしていると?まあおままごとの様です。かわいらしいじゃありませんか?ケイネス様。貴方の偉大なる魔術体系の中に組み込まれた、小さなバグ。それを愛でる余裕こそが、ロードの証では?」

 

どうだ。「ランサーは俺の魔力で動いている」→「ランサーは俺の一部」→「ソラウはランサーが好き」→「つまりソラウは俺が好き」。

 

「奪われた」と思うから腹が立つ。「貸してやっている」と思えば、優越感に浸れる。天才的な発想の転換だわ。

 

「よい!!……いったん、考えさせろ!!頭が痛くなってきた……」

 

ソラウさんは、顔を真っ赤にして俯いている。「おままごと」と言われたことが悔しいのか、それとも「自分の一部に恋してる」という指摘が恥ずかしいのか。

 

いいわ。それでこそ「悪女」の素質がある。

 

「ええ、舞台はまだ序章。ゆっくり楽しく演じましょう。誰も彼もが踊っているのですから。貴方たちの愛憎劇、楽しみにしていますよ」

 

よし!場は和んだわね!こんな感じで、ドロドロ展開も「演出」として楽しんじゃうのが、私の聖女スタイル!

 

次はどんなシーンが待っているのかしら。脚本家の腕が鳴るわ。




聖杯戦争において最も先に死ぬのは人間関係である。

この作品のヒロインは?

  • 真樹
  • ジル
  • 言峰
  • ソラウ
  • ウェイバー
  • ギルガメッシュ
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