冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~ 作:斉宮 柴野
ただ、生き方を選び直すだけだ。
うん、とりあえず散歩してみたけど……ふつーの街ね。
いや、新都エリアは近代的なビルも多くてロケーションとしては悪くないんだけど、なんというか『生活感』がありすぎるのよ。
エキストラの人たちの動きも自然すぎて、逆にドラマがないっていうか。最初は良いところだと思ったけど、昨夜の埠頭でのあの盛り上がり(爆破・破壊・絶叫)を知った今となってはね……刺激が足りないわ
昨夜の戦場があまりにも非日常的で、スペクタクルで、予算度外視のド派手なステージだったから、この平穏な日常風景がどうしても霞んで見えてしまう。セットの建て込み、間に合ってるのかしら。
あちこちで道路工事してるけど、あれも舞台設営の一環?だとしたら美術スタッフさん、お疲れ様です。
私の隣を歩くのはジル。私の「眼」による特別演出のおかげで、周囲の目には彼が「白銀の鎧を着た紳士的なボディガード」に見えるように認識阻害をかけてある。
……え?なんで「白銀の鎧」なのかって?だって、スーツ姿のSPとかじゃつまらないじゃない。どうせならファンタジーな世界観で統一したいし、私の隣を歩くならそれなりの「格」が必要でしょ?だから、私の視界には薄汚れたローブのおじさんが映っているけれど、通行人の目には「中世の騎士様」が映っているはず。完璧な配慮だわ。
「ジャンヌ!これは……少々目立ちすぎるのでは??貴女の輝きが、白昼の太陽すらも凌駕しておりますぞ!」
「え?ちょっと地味かしら?今日のコーデ、結構自信あるんだけど」
自意識過剰ね。役者なら、視線はエネルギーに変えなきゃ。今の私は、昨夜の「聖女の鎧」を纏っている。銀色のブレストプレートに、蒼いスカート、腰には剣。
通りすがりの人たちが、みんな振り返る。二度見、三度見は当たり前。スマホを取り出してこっそり撮影しようとする人までいる。
「わ、綺麗な人……」
「すげぇ、本物の外国人モデルか?」
「あの連れ、ボディガード?甲冑着てない?」
「映画の撮影かな……」
聞こえてくるささやき声。ま、いっか。女優なら目立つのは大歓迎じゃない?そりゃあ私に向くならね!!スポットライトは浴びてこそ華。だから全開よ!
「あの……すみません!」
勇気ある通行人(エキストラA)が声をかけてきた。若い女性二人組だ。目がキラキラしている。
「はい、なんでしょう?サインですか?まだ練習中なんですけど、それでも良ければ」
「えっ、あ、はい!じゃなくて……あの、どちらの劇団の方ですか?その衣装、すごく素敵で……」
来た!待ってましたとばかりに、営業スマイル・マックス!
「はい!『冬木アクターズ・ラプソディ』の聖上真樹です。以後お見知り置きを」
「ふ、ふゆき……アクターズ……?新しい劇団ですか?」
「ええ、まあそんなところです。街全体を劇場にした、没入型エンターテインメント集団です」
「へえー!なんの役を?」
「ジャンヌ・ダルクです!救国の聖女にして、物理で敵を粉砕する武闘派ヒロイン!良かったら観に来てください!……どこでやるか、具体的なチケット販売所はまだ未定なんですけど、運が良ければ街角で遭遇できますよ」
女性たちは「キャー!かっこいい!」と黄色い声を上げて去っていった。ふふん。ファン第一号、ゲットね。こうやって地道な草の根活動をすることが、将来のスターへの第一歩なのよ。
「ふむ……これが世俗の者が言うところの『デート』というものなのでしょうか?貴女と共に街を歩き、人々と触れ合う……。かつてのオルレアンでは叶わなかった平穏な時間……」
あ、彼の中ではこれ「デート」判定なんだ。まあ、側から見ればそう見えなくもないか。美男(?)美女のカップル。ただし片方は甲冑姿の怪しいおじさんだけど。
「ははは……確かに!カフェデートかもね。貴方みたいに魅力的な男性(怪優)に冗談でも言ってもらえるのは嬉しいわ。リップサービスがお上手ね、元帥」
「おおお……!!魅力……的……!この薄汚れた青髭を、貴女は……貴女は……!!」
すぐ泣くんだから。でも、彼のこの純粋さは嫌いじゃない。ジルさんほどの役者なら、大舞台へのコネとかないかしら?
いや、きっとあるに違いないわ!彼の所属事務所、絶対大手よ。だって、あの海魔のCGとか、昨夜の黒い霧のエフェクトとか、個人で用意できるレベルじゃないもの。彼と仲良くしておけば、大女優への道も見えてきたわよ。
コネクション作りも女優の仕事のうち。私は彼の腕を軽く叩いて、慰めてあげる。その時。ふっ、と日差しが遮られた。巨大な影が二人の前に落ちる。雲?いいえ、人だ。私の目の前に、壁のような男が立ちはだかっていた。
「…………」
190センチはあるわね。そして、服の上からでもわかる筋肉の鎧。分厚い胸板、丸太のような腕。着ているのは、黒い法衣……というか、神父服?
プロレスラー?それとも用心棒?にしては、顔立ちが整いすぎている。彫りの深い顔立ち、冷徹そうな瞳。そして何より、その瞳に宿る「虚無」の色。何も映していないようで、全てを見透かしているような、底知れない。
「もし……少し、よろしいですか?」
いい声だ。お腹の底に響くような、説得力のある声。ナレーターとか向いてそう。
ベンチプレス何キロ上げるのかしら。………この人、神父……ではないわね?神学生かしら?首からロザリオ下げてるし、格好はそれっぽいけど。それにしては、殺気が漏れてるけど。怪しい人には、まず笑顔で先制攻撃。これ、防犯の基本。
「どうなされました?こんなに空いているのに相席希望ですか?それとも道に迷いました?神に仕える者がナンパとは、感心しませんよ。迷える子羊を探しているなら、あっちの交番へどうぞ」
「……それは誤解をさせてしまい申し訳ない。ナンパなどという浮ついた目的ではない」
冗談が通じないタイプか。真面目すぎて面白くないわね。
「貴女は……聖処女ジャンヌ・ダルクで間違いないでしょうか?」
ズバリ。核心を突いてきた。私の芸名を知っている。うん、間違いないわ。それを知ってるってことは舞台関係者ね。一般人なら「コスプレですか?」って聞くところを、「聖処女」なんて仰々しい呼び方をするあたり、完全に「こっち側」の人だ。でも、主演には見えない。力の質が違う。ということは……助演かしら?ケイネス先生や、ウェイバーくんと同じカテゴリー。
なら、名乗りは聖女として返さなきゃ。ファンサービスの一環として。私は姿勢を正し、スッと表情を引き締める。聖なるオーラを全開にする。
「そうですね。貴方も主に仕える方のようですね。この出会いを主に感謝を。我が真名はジャンヌ・ダルク。貴方のお名前をお聞きしても?」
「言峰綺礼と申します」
言峰「綺麗」?自分で言う?あ、漢字が違うのか。でも、響きは美しいわね。
「言峰綺礼様。神父様……でしょうか?それとも、ただの求道者?」
「聖堂教会の代行者であり、今回は監督役の補佐を務めています。……ジャンヌ・ダルクよ。今日は貴女にお聞きしたいことがあって来ました。聖人と名高い貴女に」
「監督役の補佐」つまり、ADさんの上司?進行管理の人?偉い人じゃん。失礼があったらマズイわね。でも、「お聞きしたいこと」って何?スケジュールの確認?ギャラの交渉?
「私に……問い、ですか?」
「いかにも。私は……迷っているのです」
物理的な距離以上に、精神的な圧迫感がある。彼は真剣だ。その瞳には、深い深い苦悩の色が見える。
「貴女は神の声を聞いたという。神のために戦い、神のために死んだという。その生涯に、一片の悔いも迷いもなかったのか。……『信仰』とは何か。『救い』とは何か。それを貴女に問いたい」
……へー。なるほど。「問答系」の演出か……。アクションだけじゃなく、こういう哲学的なシーンも入れてくるのね。
「聖女vs神父」の対話劇。『カラマーゾフの兄弟』の大審問官みたいな?渋い。渋すぎるわ。冬木アクターズ・ラプソディ、エンタメだけじゃなくて、文学性も追求してるのね。
脚本家の腕が問われるところだけど、即興劇で仕掛けてきたってことは、私に「聖女としての解釈」を求めているのね!試されてる。私の演技力が。私の教養が。腕が鳴る!私を甘く見てもらっては困るわ!ただのアクション女優だと思ったら大間違いよ。この舞台のために、聖書もニーチェも、キルケゴールも全部暗記済みよ!!
大学の一般教養のレポートで「実存主義における演劇的アプローチ」について書いた私の知識、ここでお見せしましょう。
「よろしいでしょう。迷える子羊……にしては随分と育ちすぎた羊ですが、その問い、受けましょう」
◇◇
「もしも……もしもですが……」
隣に控えるジルが、「この男、危険な匂いがしますぞ……!」と小声で警戒しているけれど。大丈夫よ、ジル。これは「対話劇」のシーン。役者が最もその魂を削り出し、演技力をぶつけ合う神聖な時間。アクションシーンの箸休めだと思って気を抜いたら、食われるわよ。
「美しいものを美しいと感じることができない者がいるとしたら……。それを糺すためにどれ程苦行を積んでも、糺せない者がいるとしたら……それは『悪』なのでしょうか?」
……んん??善悪の判断??いきなり哲学的なボールを投げてきたわね。「美しいものを美しいと感じない」そりゃあ「悪」っていうより……ただ単に「趣味が悪い」だけでしょうよ!
あるいは、美的センスが独特すぎるだけ。世の中には、便器を美術館に置いて「泉」と名付けるアーティストだっているし、真っ白なキャンバスを「傑作」と呼ぶ評論家だっている。前衛芸術が好きな人なんてごまんといるわ。この神父様、もしかしてサブカル拗らせちゃったタイプ?「みんなが『モナリザ』を褒めるけど、俺にはおばさんの絵にしか見えないんだ……俺は罪人なのか?」みたいな?
可愛い悩みね。中二病の初期症状よ、それ。
「審美眼の話……ではないようですね。芸術論を戦わせるつもりなら受けて立ちますが、貴方の目はもっと切実だ」
相手の悩みを否定せず、まずは受け入れる。カウンセリングの基本テクニックであり、即興劇で相手のセリフを殺さないためのマナーだ。
「ではまず……前提を確認しましょう。『皆が美しいと思うものが美しいと思えない』……。そういう自覚がある時点で、貴方は皆の言うところの『美しさ』を理解しているではありませんか?定義を知らなければ、比較などできませんもの」
「は?」
あら、意外だった?図星でしょ?
「その上で、貴方は『好みではない』と言っているだけでしょう?世の中には、清流よりもドブ川の淀みに美しさを見出す人間だっている。廃墟の寂れ具合に興奮する人もいれば、カビの生えたパンの色彩に宇宙を見る人もいる。多様性の時代ですよ」
「……多様性、ですか」
「ええ。それを持って総スカンを食らうような世の中ではなくなったのでしょう?良い時代ですよ、現代は。私の生前なら、人と違うことを言えばすぐに火刑!魔女!異端審問!ですからね。それに比べれば、貴方の悩みなんて『個性的』の一言で済みます」
15世紀のフランスに比べれば、現代日本なんて天国よ。SNSでちょっと炎上するくらいで、実際に火あぶりにはならないんだから。
「おお……ジャンヌの御心、海よりも深く……!時代を超越したその達観、まさに聖人の境地!」
相変わらずリアクションが良い。
「しかし!私は……私は言峰璃正神父の子として生まれ……幼き頃より、正しくあれと教えられてきました。その私が、美醜すら正しく好めないなどと……」
言峰璃正。誰それ。ああ、お父さんのことか。
つまり、教育パパに反発できなくて、イケない趣味を我慢して鬱屈していると……。ヤバいわね。この人、真面目すぎて拗らせてるタイプだ。「良い子」を演じすぎて、本当の自分を見失っちゃった「優等生の悲劇」
きっと結婚できないわ!いや、できたとしても家庭内で爆発するタイプよ。
「なるほど……真面目なんですね。貴方。不器用なほどに」
「!……、……どうしてそう思われます?」
「だってそうでしょう?普通の人なら、適当に周りに合わせて『わあ、綺麗ですねー』って嘘をついてやり過ごしますよ。でも貴方は、それができない。自分の感性に嘘をつくことを、誠実さが許さない」
「出された食事が不味くても、貴方は『不味い』と言わず、かといって『美味しい』と嘘もつかず、ただ黙って我慢して食べている。そういう人でしょう?自分に足りないものは自覚してもなお、貴方は自分を正しくあれと思い続ける『克己心』を持っている。それは人生に正しく向き合っている証拠ですよ。たとえ自らの嗜好が、どの方向に向いていたとしても……それを実行に移さず、悩み続けている時点で、貴方は理性の人です」
どうだ。全肯定。自己肯定感が底辺まで下がっている彼には、まず「貴方は頑張っている」と認めてあげることが特効薬になる。
「ですが、私は……。その『我慢』すらも、どこかで……」
「貴方は『正しくありたい』のではありません」
「貴方は、『正しくあることを苦痛に思わない自分』が欲しいのでしょう?努力して正しくあるのではなく、自然体で正しくありたい。息をするように善を行いたい。でも、現実はそうではない。そのギャップに苦しんでいる」
「!!!」
当たり。脚本分析完了。彼は「聖人」になりたいんじゃない。「聖人として生まれてこなかった自分」を呪っているのだ。
「正しいことは、本来辛く苦しいものです。正道を歩む者に生きにくいように、この世界はできている。だからこそ、主の御言葉こそ救いとなり、信仰を捧げるのですよ。もし善行が楽なものなら、宗教なんていりません。貴方は今、誰よりも『信仰』を実践しているではありませんか。胸を張りなさい」
完璧な説法だわ。私、教祖の才能あるかも。ジルが「アーメン……!」と十字を切っている。
「聖処女よ!!私は……私は妻を愛することもできなかったのです!」
……は?唐突なカミングアウト。妻?え、この人奥さんいたの!!?っていうか、このストイックな雰囲気で既婚者!?しかも「愛することもできなかった」って……この口ぶりだとバツイチ!?
「妻は……私を愛してくれました。不完全な私を、献身的に支えてくれた。娘も……生まれたのです」
子持ち!?情報量が多いわよ、神父さん。パパだったの?こんな殺し屋みたいな顔して?
「しかし……私にあったのは、妻への愛ではなかった。彼女が病に伏し、死にゆく姿を見て……私が感じたのは悲しみではなかった。妻の苦しみや嘆きをもっと見たいという、歪んだ欲求でしかなかったのです……」
……うわぁ。引くわー。正直、ドン引きだわー。奥さんが死にかけてるのに「もっと苦しめ」って?サディストの極みじゃない。
失礼ながら、私の思った通りだったような……いや、想像以上だったわ。アングラ趣味ってレベルじゃない。猟奇の域に達してる。
「ああ………私は……なぜ忘れていたのか……こんなにも罪深い……。彼女が自害したあの時、私が思ったのは『なぜ自分の手で殺せなかったのか』という後悔だけだった……!」
自害。重っ!!!めちゃくちゃ重いわ!!初対面の女子大生にそんなこと言うなよ!ドSか!!ああ、ドSだわこの人!
人が困った顔をするのが大好きに違いないわ!!今、私が「えぇ……」って困惑してるのを見て、心のどこかで興奮してるんでしょ?変態!
でも。ここで私が引いてしまったら、聖女の面目が丸つぶれだ。彼のこの重すぎる告白を、真正面から受け止めて、さらに上を行く解釈で打ち返さなければならない。それが座長としてのプライド。彼のドス黒いヘドロのような告白を、聖なる光で浄化してみせる。
「では私からも問います。貴方は……奥様にもっと苦しんで欲しかったと?嘆き壊れていく様を見たかったと?」
「………そうです。否定しません。それが私の本性なのですから。死ぬのなら……私の手で……」
「であれば、大丈夫です」
「貴方は奥様を愛していますよ。間違いなく」
「え?」
ギャップ萌え……はないわね。怖いし。
「どういう……ことですか?私は彼女を殺したかったのですよ?」
「ええ、そうでしょう。でも、その根底にあるのは『共感』です」
論理の飛躍?関係ないわ。説得力こそが真実なのよ。
「自分が嘆き悲しみ、苦しんでいるのですから……愛する人にも、共に分かち合い、苦しんで欲しかった。なぜなら、愛する妻には自分と同じ道を歩んで欲しいから。美味しいものを食べたら『これ美味しいね』って共有したいでしょう?それと同じです。貴方にとって『苦痛』や『絶望』が美味しい食事のようなものなら、それを妻にも味わわせてあげたいと思うのは、愛以外の何物でもありません」
「な……」
「夫婦とは、喜びも悲しみも分かち合うもの。貴方の場合、その『喜び』の定義が、一般人とは真逆だっただけ。ベクトルが逆なだけで、熱量は愛そのものです」
「うう……」
「それでも苦しむなら、自分の手で終わらせてあげるのも、もしかしたら救済なのかもしれませんね。愛する人の苦しむ顔を、一番近くで、一番長く見ていたい……。それは究極の独占欲。愛の極致です」
私は彼の手を取る。氷のように冷たい手。
「貴方は冷血漢ではありません。愛が深すぎて、表現方法がねじれてしまっただけの、不器用なロマンチストです。奥様もきっと、貴方のその歪んだ愛を理解して、受け入れてくれたんじゃないですか?だからこそ、貴方の手にかかる前に、自ら命を絶って『貴方に殺される喜び』すら与えずに逝った……。それもまた、彼女なりの貴方への愛だったのかもしれませんよ?」
「クラウディアが……私への愛ゆえに……?」
「自分は異常者だ」という自己否定から、「自分は愛に生きる男だ」という自己肯定へのパラダイムシフト。危険な思想だけど、演劇的には面白いキャラクターになったわ。
「……ああ、私が人の死を肯定したわけではないですからね。教会に言ってはダメですよ?コンプライアンス的に問題ありますから」
あくまで演技指導の一環だから。殺人教唆とかで訴えられたらたまらないもの。
◇◇
「私は……悪なのでしょうか??」
重い。質問の質量が重すぎる。普通の女子大生なら「そんなことないよ☆」って流すところだけど、私は座長。彼が納得するだけの、重厚かつ切れ味鋭い「解釈」を提供しなければならない。
「主は全てを許します。そして……主は平等ですよ」
「では、私の生まれた意味は!!なぜ、このような歪んだ魂を持って生を受けたのですか!神は何を私に求めているのですか!」
迷惑防止条例ギリギリね。
「主は平等に……なにもしてはくれません」
「は?」
そろそろ学習してほしいわね。神様なんて、脚本家以上に気まぐれで、プロデューサー以上に無責任な存在なんだから。
「貴方は生まれたところの水を飲み、何を食べても満たされない。それでも生きていくしかないのです。生まれた意味も、生きていく意味も、誰かに問いを投げるのはお止めなさい。それを他者に求めた時……人はそれを『奴隷』というのです」
これくらいの「上から目線」が、今の彼には必要なのよ。
「では、私はどうすれば……。この空虚な穴を、どう埋めれば……」
「貴方はもう答えを知っているでしょう?わからないフリをするのはおやめなさい」
彼はただ、自分を許すための「理由」を探しているだけ。
「貴方は世が言うところの悪徳を好む人間だ。他人の不幸が蜜の味。破滅の音が心地よい子守唄。結構なことじゃありませんか。それでも貴方は、これまで善行を成してきた。苦しくても辛くても……それが貴方が尊敬する父や、愛した奥様の望みなのでしょう?」
「あとは……天秤にかけるだけです。『その人たちへの思いや生きた価値』を、『貴方が自分の欲求を不健全な方法で満たすこと』と、どちらが上か?と言う話ですよ。損得勘定です」
「苦しみながら善を成すか、愉しみながら悪を成すか……」
究極の二択。ハムレットも真っ青の悩みだわ。普通なら「自分らしく生きなさい」と言うのが、最近の流行りの自己啓発かもしれない。でも、私は違う。私はあえて、逆を勧める。
「でも……私は『善を成す』方をお勧めしますよ」
「な……ぜ……?貴女は先ほど、私の歪みを肯定したではないですか」
「ええ、肯定しました。貴方は変態です。それは揺るぎない事実。でも、だからといって欲望のままに生きることを勧めるわけじゃありません。別に道徳がどうというわけではないです。だって……」
意地悪く。挑発的に。
「嫌じゃないですか。『負けた』みたいで」
「え?」
「だってそうでしょう?今までこんなに頑張ったんですよ?お父さんにも隠して、奥様にも手伝ってもらって……。何年も、必死に『善人』の仮面を被り続けてきた。その努力は並大抵のものじゃなかったはずです」
「ここで裏切って欲望に身を任せたら、確かに楽しいかもしれない。楽になれるかもしれない。でも、それって結局、自分を苦しめてきたものに屈服して負けるってことでしょう?」
綺礼の目が泳ぐ。「負け」 その単語が、彼のプライドを刺激したようだ。
「自分の中の『悪魔』に、『はい、参りました』って白旗をあげる。……ダサくないですか?(役者として)三流の結末だと思いません?」
「…………!!」
そう、こいつは絶対、ゲームとかで負けそうになったらリセットボタンを押すタイプじゃなくて、徹夜してでもクリアするタイプだわ。
「はは…………そうですね。負けるのは……癪、ですね」
「でしょう?なら、勝ち続けなさい。激辛の麻婆豆腐を顔色一つ変えずに完食するように、その苦悩を飲み込みなさい。汗一つかかずに、涼しい顔で『美味しいですね』って言ってやりなさいよ」
「激辛……麻婆豆腐……?」
「例え話ですよ。貴方、好きそうでしょ?刺激物が」
あ、ビンゴ?やっぱり辛党なんだ。ストレス溜まってる人は味覚がおかしくなるって言うしね。
「それが貴方の『演技』です。世界を騙し、自分をも騙し、最後まで『聖人』を演じきって、拍手喝采の中で幕を引く。……最高にクールで、ロックな人生じゃないですか」
「……演じきる……。死ぬまで、仮面を被り続けていることが……私の戦い……」
彼は「善人」になりたいんじゃない。「自分の欲望ごときに屈しない最強の自分」になりたいのだ。一種のマゾヒズムであり、究極のナルシシズム。面倒くさい男だわ。
「……感謝します。ジャンヌ・ダルク。迷いは晴れました。私は……私の道を、耐え抜きましょう。この身が朽ちるまで、欲望という名の敵と戦い続けることを誓います」
「おお……!!まさに聖女の導き!迷える子羊を、茨の道へといざなう愛!!苦難こそが魂を磨く砥石であると!なんと厳しく、なんと温かい教え!!」
まあ、結果オーライか。
要は「ムラムラしても我慢するのが男の美学よ!我慢してる俺カッコいい!って思い込めば快感に変わるわ!」って言っただけなんだけど。……ま、本人がスッキリしたならいいか!自己満足こそが、人生を豊かにする最高のスパイスだもの。
聖女は彼を善人にしたのではない。
悪人であり続けることを、誇れるようにしただけだ。
この物語の行きつく先、ZEROのあとは
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stay nightは見たいよね。
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hollow ataraxiaが良いな
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Apocrypha世界へ出張
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Grand Order発令‼
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Samurai Remnantは演技