冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~   作:斉宮 柴野

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誰も間違ったことをしていない。
だからこそ、戦いは避けられない。



開戦条件

「ここが次の会場なの?ジル。随分と自然豊かなロケーションね。マイナスイオンが出すぎてて、お肌がトゥルトゥルになりそうだわ」

 

鬱蒼と茂る木々。足元にはフカフカの苔。木漏れ日がスポットライトのように降り注ぐ、冬木市郊外の未開の森。

 

私はハイキング気分で、軽快に森の中を進んでいく。隣を歩くのは、白銀の騎士姿にクラスチェンジしたジル。彼の輝く甲冑が、森の緑に実によく映える。

 

やっぱり、騎士は森の中にいると画になるわね。ファンタジー映画のワンシーンみたい。私の足元では、昨夜の生き残りと思われる小型の海魔が、プルプルと震えながら道案内をしてくれている。健気だわ。

 

「はい。ここにあの魔女が潜伏しているとの情報を、この海魔が教えてくれました。我が眷属の捜索網は、地下水道から樹海まで、あらゆる場所に張り巡らされておりますゆえ」

 

「あら、ありがとうね海魔君1号。ご褒美にアメちゃんあげる」

 

ポケットから取り出したのど飴を差し出すと、海魔君1号は嬉しそうに触手をくねらせ、ヌメッとした頭で私のスニーカーをスリスリしてくる。可愛い。ちょっと粘液がつくけど、これも舞台上の演出だと思えば許容範囲よ。1号という事にしておこう。

 

名前をつけると情が湧いちゃうけど、まあいいわ。さてと、この森は森林浴に良さそうね。ロケーションは最高。でも、ちょっと静かすぎるかしら。鳥の声もしないし、虫の音もしない。

 

……ん?

 

赤い警告色が、森全体を覆うように張り巡らされている。

 

結界だ。それも、かなり大規模な。術式の内容は……「人払い」、「方向感覚の喪失」、「侵入者の排除」。要するに、「立ち入り禁止」の看板を、演劇的強制力で脳内に直接叩き込んでくるようなものね。アインツベルンの森。

 

鉄壁の防衛ライン。普通の人なら、無意識のうちに「なんかこの森、入るのやめとこう」と思って引き返してしまうだろう。

 

「ねえジル?私の眼はね、本来『真似するため』のものなのよ。見たものを解析して、コピーして、自分のレパートリーにする。それが私の演技論」

 

「その通りでございますな!!神の御技を地上に写し取る鏡!!貴女の瞳こそが、万物を記録するアカシックレコード!」

 

「いや、そういう宗教的なのじゃなくて。単純な話よ。つまり、こんな『通せんぼ』の結界を分析してると、なんか違うなって思うのよね。私の劇団の方針に合わないっていうか」

 

ここに見えない「壁」がある。そう、この結界のコンセプトは「拒絶」観客を遠ざけ、舞台を隠すための装置。

 

でも、それじゃダメでしょ。演劇は、見てもらってなんぼなのよ。こんな「目立たなくなる」結界は、作れるようになっても仕方がない!!興行的にマイナスよ!誰も来ない劇場で名演技をして、何が楽しいの?

 

もっとこう、「いらっしゃいませ!」って感じにしないと!集客力を上げなきゃ!

 

「プロデューサーの権限で、仕様変更します。とりあえず、入った人は城の方に行きたくて仕方がなくなるように……書き換えて、っと」

 

結界の構成式を視覚化し、その中枢にある「拒絶」のコマンドを摘み出してっと。

 

そして、代わりに「誘引」のコマンドを埋め込む。

 

さらに、「期待感」と「購買意欲」のパラメータもちょっと上げておきましょう。

 

よし!完成よ!

 

その瞬間、森の空気が変わる。重苦しい拒絶の圧力が消え、代わりに爽やかな風が吹き抜ける。

 

森全体を覆っていた『人払い』の術式が反転し、『千客万来』の暗示へと変質する。

 

ディズニーランドのエントランスみたいな、ワクワクする空気感。これでよし。これなら、迷い込んだハイカーも、散歩中のお年寄りも、みんな吸い込まれるように「魔女の城」へと向かうはずよ。満員御礼間違いなしね。

 

「おお!ジャンヌ!!まさに奇跡!閉ざされた扉を開く聖女の福音!貴女が歩けば荒野に道ができ、森は歌い出す!なんというカリスマ!」

 

ジルが感動して震えている。相変わらずオーバーリアクションだこと。

 

「いや……大げさね。看板を上書きするくらい、裏方の仕事よ。ペンキを塗り替えただけ」

 

アインツベルンの出資者さんたち、今頃パニックになってるかしら。

 

「あれ?結界が……逆に客引きしてる!?」って。ざまあみろ、閉鎖的な業界体質に風穴を開けてやるわ。

 

……でも、待って。はっ!もしかしてジルさん、私に惚れていて自分の劇団にスカウトする気じゃ……。「君のために劇場を用意したよ。さあ、思う存分演じてくれたまえ」的な?パトロン気取り?

 

あるいは、もっと直接的に……。……ちょっと真面目に枕営業になっちゃう??「役をあげるから、ホテルに来ないか」っていう、昭和の芸能界の闇!?

 

昨日のホテルの件も、実は彼の高度な駆け引きだったのかもしれない。油断させておいて、森の奥深くに連れ込んで……。

 

キャーッ!ダメダメ!私は実力で大女優になるのよ〜。そういう近道はプライドが許さないわ。それに、ジルさんは良い人だけど、恋愛対象としてはちょっと目が大きすぎるし。

 

「ジル……言っておくけど。奇跡は安売りしてませんよ。勘違いしないでね」

 

「はっ!肝に銘じます!貴女の奇跡は、万金積んでも買えぬ至高の輝き!私ごときが独占しようなどと、思い上がりも甚だしい!私はただ、その輝きの余波を浴びるだけで満足です!」

 

……うん。この反応を見る限り、下心はなさそうね。むしろ崇拝心が強すぎて、逆に手を出せないタイプか。安心したような、ちょっと物足りないような。いや、物足りなくはないわ。健全なお付き合いが一番よ。

 

「よろしい。では、行きましょうか。この森の奥に、主役が待っているわ。観客が押し寄せる前に、最後のリハーサルをしてあげなきゃ」

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

「……なっ!?結界が……反転した!?」

 

彼の声が裏返る。無理もない。アインツベルンが数百年かけて構築してきた、鉄壁の防衛結界。「人を遠ざける」ための複雑怪奇な術式が、たった指パッチン一つで、あろうことか「人を呼び寄せる」術式へと書き換えられたのだ。セキュリティシステムが、ハッキングされたどころか、勝手に「ウェルカムモード」に設定変更されたようなものだ。

 

「大変よ切嗣!結界が書き換えられて、周りの人をひたすら集める効果になっているわ!入らなくても、森の周りを歩いているだけの人まで呼び寄せるくらい強力に!!」

 

森全体が、甘い蜜を垂らした食虫植物のように、冬木市民を誘惑し始めている。

 

「悪辣な!!一般人を巻き込んで何をするつもりだ!騎士道にもとる行為だぞ!」

 

セイバーの碧眼が怒りに燃えている。だが、切嗣の思考はもっと冷たく、もっと絶望的な結論へと達していた。

 

「……………『生贄』だろう」

 

「キャスターの海魔は、魔力を使って召喚・維持する。あの規模の結界を一瞬で反転させる魔力……そして人を集める意図。答えは一つだ。奴らはこの森を屠殺場に変え、大量の魂を喰らって、さらなる大魔術を行使する気に違いない」

 

魔力リソースの確保。魔術戦争においては定石だが、あまりにも規模が大きすぎる。森一つを祭壇にする気か。

 

「!!なんと!切嗣!!それは見過ごせません!!今すぐ出撃を!市民が森に入る前に、あの元凶を叩かねば!」

 

「待て。……アイリ、セイバーに言ってくれないか。『一般人が集まるまで待って、キャスターたちが生贄に気を取られ油断したところを、宝具でジャンヌ・ダルクごと薙ぎ払え』と」

 

「切嗣!それは……あまりにも……!」

 

「外道な!!それは騎士にあるまじきことだ!!断じて容認できん!!貴様はそれでも人の心があるのか!」

 

しかし、切嗣はモニターから目を離さない。画面の中では、ジャンヌ・ダルクとキャスターが、死のトラップが張り巡らされた森を悠々と歩いている。

 

「……英雄サマは綺麗事を言っているようだ。だが、相手は規格外だ。まともにやり合えば勝ち目はない」

 

「無視するな!!切嗣!!」

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

さて、リニューアルオープンした森を進む私たち。空気も美味しいし、結界も「いらっしゃいませ状態」に書き換えたし、これでいつお客様が来ても大丈夫。

 

あとは、この森に仕掛けられた「小道具」のチェックね。安全管理は座長の責任だもの。……ん?足元の枯れ葉の下。何か違和感がある。

 

私の「眼」が、地面に埋設された無機物を捉える。プラスチック爆弾と、クレイモア地雷だ。

 

うわぁ。物騒なもの置いてるわねぇ。これ、特効用の火薬よね?爆発シーンを撮るための。でも、配線がちょっと雑じゃない?これじゃあ、演者さんが躓いて転んじゃうわよ。

 

「あ、ここ配線が出てるわよ。またぐから気をつけてね、ジル」

 

「はっ!承知いたしました!……なんと、地中に埋められた死の罠を、目視せずとも感知するとは……!」

 

次は、頭上。木々の枝に仕掛けられた、ワイヤートラップ。引っかかると、鋭利な刃物が飛んでくる仕組みみたい。忍者屋敷かな?アトラクションとしては面白いけど、ちょっと殺意が高すぎるわ。子供が怪我したらどうするの。

 

「ここの床抜けてるわ。避けるね」

 

ワイヤーの張力を一点だけ指で弾く。その振動で、トラップ全体のバランスが崩れ、刃物が誤作動を起こして地面に落ちる。カシャン!

 

「おお……!罠が……勝手に自壊していく……!ジャンヌが通るだけで、死の森が平穏な遊歩道へと変わっていく!」

 

これくらい、現場監督なら当たり前よ。セットの不備を見つけるのも仕事のうち。

 

『……もう来たのか!!さっきまで森の真ん中くらいだったのに!あの女、罠を全て『視て』避けたのか……!?クレイモアの信管を、魔力干渉だけで無効化しやがった……!』

 

そうこうしているうちに、目の前に巨大な城が現れた。石造りの、重厚な城壁。ツタが絡まる塔。雰囲気あるわぁ。予算かけてるわぁ。

 

ここが、今回のメインステージ「アインツベルン城」ね。インターホンは……ないわね。古風な造りだこと。

 

「ごめんくださーい。冬木アクターズ・ラプソディです〜。返事がないので入ります〜。お邪魔しま~す!!」

 

礼儀は大事だもの。でも、返事はない。居留守?それとも、リハーサル中?

 

「うーん、とりあえず走ってきちゃったけど、誰も出てこないわね。歓迎されてないのかしら。でも、ここに来るまで定点カメラが16個もあったから、演出は始まってると見たほうがいいわね。『夜にしかやらない』というのはブラフ……?実は『突撃!隣の晩ごはん』みたいな、アポなしロケ企画だったのかしら」

 

そこかしこに「視線」を感じる。

 

城壁の隙間、像の口の中、窓の陰。あるわあるわ。超小型の隠しカメラが、合計27個。全部こっちを向いている。なるほど。だとしたら、私たちのリアクションが撮られているってこと?やだ、メイク直しておけばよかった。

 

「セイバーちゃん!いるんでしょ?出てきなさいよ!先輩が指導に来てあげたわよ!」

 

その時。ギギギギギ……!!重々しい音を立てて、正門が開く。

 

そして、そこから一陣の風と共に、青いドレスに銀の甲冑を纏った少女が飛び出してくる。今日はもう隠していない。黄金の聖剣が、太陽の光を受けて眩く輝いている。

 

「ジャンヌ・ダルク!!白昼堂々討ち入りに来るとは!貴様、正気か!!」

 

いいね、その気迫。昨日のメソメソしていた姿とは大違いだわ。

 

「あ!アルトリアちゃん!こんにちは。元気そうね!」

 

「……は?」

 

「モルガン役の読み込みがちゃんと出来ているか、確かめに来たよ!昨日、宿題出したでしょ?『魔女としての深みを出せ』って」

 

「モ、モルガン……!?まだその話を……!!」

 

「モルガン!……じゃなかったセイバー!油断しないで行きましょう!相手は結界を反転させる大魔女よ!」

 

「アイリスフィールううううう……」

 

また泣いてる……。アイリスフィールさん、わざと言い間違えたでしょ今。あの人も意外とSっ気があるのかしら。やっぱりモルガン役は重圧なのね……。「弟を憎む姉」というヒール役、清廉潔白な彼女には荷が重いのかも。真面目な子ほど、悪役を演じる時に葛藤するものよ。

 

「私はこんなに性格悪くないもん!」って。でも、そこを乗り越えてこそ、一皮剥けるのよ。仕方ないわね!ここは先輩として、私が見本を見せてあげましょう!!悪役とはどう振る舞うべきか。その美学を、実演指導してあげる!

 

「アルトリアちゃん。泣いてる場合じゃないわよ。見てなさい、私の『悪女演技』を!」

 

瞳の奥のスイッチを切り替える。聖女モードから、悪女モードへ。さあ、授業の時間よ!

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

「よし!アルトリアちゃん、貴女のその煮え切らない態度、見ていてイライラするわ!悪役を演じる覚悟が決まらないなら、私が手本を見せてあげる!モルガンがどういうものか、私が演じて教えてあげるわ!」

 

これよ。これこそが座長である私の仕事。伸び悩む新人女優に、背中で語る。

 

いや、全身全霊の演技で語るのよ。

 

先日、あのADさん――もとい、狂戦士ランスロットさんからコピーした宝具、『己が栄光の為でなく』

 

私の解釈にかかれば、これは最強の「変装セット」になる。イメージするのは、アーサー王伝説に登場する稀代の悪女。妖艶で、残酷で、そして誰よりも深くブリテンを愛し、憎んだ女。

 

「変身!」

 

シュウウウウウ……ッ!!

 

形成されるのは、夜の闇を織り込んだような漆黒のドレス。頭には妖艶なベール。冷酷かつ蠱惑的な「魔女の相貌」へと変貌する。

 

「じゃあアルトリアちゃんは、アーサー役をちょっとやってね!稽古よ!」

 

「なっ……!?」

 

いいリアクションね。それくらい怯えてくれないと、悪役の演じ甲斐がないというものよ。

 

「…………忌まわしい赤い竜──アルトリアがいるのか。父ウーサーとマーリンの謀……。人の情など解さぬ夢魔と、それに踊らされた愚かな父。その結果生まれたのが、貴様という悲しき人形だ。貴様自身に罪はないとしても、私は決して許さぬ。王位も、ブリテンも、そして私の人生も……全てを奪った貴様を、私は決して認めぬ。踏み潰してやろう……!」

 

一歩、踏み出す。ヒールの音が、石畳ではなく、彼女の心臓を直接踏みつけるように響く。セイバーちゃんを見下ろす。侮蔑と、憐憫と、そしてどうしようもない憎悪を混ぜ込んだ視線で。

 

「!!!モ、モルガン……!!」

 

「なんて魔力!!あれがモルガンの姿??セイバーそっくり……。いえ、瓜二つだけど、雰囲気がまるで違う……!まるで鏡に映った『影』のような……。はっ!まさかセイバー、本当に貴女はモルガンだったの!?普段は猫を被っていて、あれが本性なの!?」

 

彼女もまた、私の演技の完成度に度肝を抜かれているようだ。

 

「違います!!そっくりなのは当然です!姉妹なんですから!!血が繋がっているんですよ!!」

 

混乱しているわね。でも、そこがいいのよ。さらに追い詰める。役になりきって。

 

「アルトリア……貴様、軽々しく姉などと……分際というものを弁えよ。貴様はただの『失敗作』だ。理想の王などという妄想に囚われた、哀れな道化だ」

 

「貴様……ッ!」

 

「口答えするな。食らえ、『モルゴース』!!」

 

イメージするのは、コピーした「雷」の魔術。それを、モルガン風にアレンジする。黒く、ドロドロとした、呪いの雷。バリバリバリバリッ!!

 

「ぐうううう!!」

 

(重い……!生前より強い!?この現代で、なぜこれほどの神秘を!?魔力の密度が違う!これは魔法の領域だ!)

 

ふふん。現代の女子大生の想像力を舐めないでよね。私の演技リソースは無限大なんだから。

 

「オークニーの雲よ!嵐を呼べ!この愚かな妹に、現実の冷たさを教えてやれ!」

 

アインツベルン城の前庭が、一瞬にして暴風雨の荒野へと変わる。これも演出よ。大掛かりなセット転換ね。

 

「ジャンヌ!!!素晴らしい!!魔術すら自在に操るとは!!まさに万能の聖女!悪役すら完璧にこなすとは!その妖艶なるお姿、このジルの心臓を鷲掴みにしておりますぞ!!」

 

邪魔しないでね、今いいところなんだから。

 

「………いや、この程度で囀るな。耳障りだ」

 

ジルが「ひぃっ!ゾクゾクします!」と喜んでいる。Mっ気があるのかしら。

 

ふぅ、モルガン役、結構難しいかも!!この繊細な魔力コントロールと、ドロドロした感情の出力は、私でないとできないかもね!ただ怒ればいいってもんじゃないのよ。そこには「愛憎」がなくちゃ。「愛していたのに、裏切られた」という絶望が、攻撃の重みになるの。

 

「アルトリア……王に取り憑かれた、哀れで愚かな妹よ……。死することもできず、未だに彷徨うか……ブリテンなどもうないのに……どこまでも……。もういい加減……その痛ましい夢から覚めよ。お前が救おうとしている国は、歴史の彼方に消えた。それは確定した事実だ。それをお前は、聖杯などという怪しげな願望器で覆そうとしている。……死者の眠りを妨げることこそ、最大の冒涜だとは思わないか?」

 

囁くように。諭すように。

 

「何を言う!ブリテンは蘇る!聖杯が真に万能ならば!!故国の救済を……!!私は……やり直すチャンスを!!」

 

だからこそ、残酷な真実を突きつけなきゃいけない。それが、ヒール役の務め。

 

「ブリテンの運命を変える。あの最後の神代を継続させる。誰も裏切らなかったことにする……。そんなことは不可能だ。歴史への反逆だ。世界に膝を折り、奴隷に成り下がった時点でな。お前は『英霊』という名の守護者になったつもりかもしれないが、所詮は世界というシステムに組み込まれた歯車に過ぎない。過去を変える?笑わせるな。……舐めているのだ。世界を」

 

「ッ……!!」

 

……よし。ここまでね。これ以上やると、本当に心が折れちゃう。

 

シュウウウウ……。黒い霧が晴れる。ドレスが消え、ベールが消え、嵐も止み、爽やかな昼下がりの陽射しが戻ってくる。

 

「こんなところね!さあ!やってみなさい!モルガン!!貴女の言いたいことは代弁してあげたわ。今のニュアンスで!憎しみの中に、ほんの少しの哀れみを混ぜるのがコツよ!」

 

「…………は?だから違うって!!私はアーサー王です!!でも……確かに……確かにモルガンならそう言うかもですけど!!なぜ貴女は、モルガンの心情をそこまで理解しているのですか!?」

 

「やっぱりわかってるじゃない。『そう言うかも』って同意した!ちゃんと読み込んで来たのね!可愛いわ!」

 

彼女は否定しながらも、私の解釈を受け入れた。それはつまり、彼女自身も「モルガンならこう考えるだろう」というシミュレーションができている証拠。役作りは順調ね!

 

◇◇

 

 

 

さて、セイバーちゃんへの指導は一段落。次はこの「舞台」を作っている裏方さんたちへの挨拶ね。

 

「で、そこのプロデューサーの娘さん??」

 

「えっ……私?」

 

「やっぱりモルガンの助演にも会いたいんですけど……。貴女じゃないですよね?」

 

「マ、マスターは私よ?私がセイバーのマスター、アイリスフィール・フォン・アインツベルンよ」

 

でも、無理よ。私の目は誤魔化せない。

 

「私の眼の前で嘘偽りは通用しません」

 

アイリスフィールさんとセイバーちゃんの間には、力の繋がりがない。供給ラインは、もっと奥。この城の内部へと繋がっている。

 

「彼女との間に繋がりはないでしょう?本当のマスターは、この城の中にあるようですが……。引きこもりですか?」

 

「っ……!」

 

「あのカメラの向こうですかね?」

 

「ええと、確かにこのカメラ、ミルスペックは満たしますけど……映像の正確性や追従性はイマイチですよ。フレームレートが足りてないんじゃないですか?さっきのアクション、ちゃんと撮れてました?私の黒い雷のエフェクト、白飛びしてませんでした?あ、解像度が甘いわねえ。予算ケチりました?」

 

 

【モニター室】

 

「……何でもありか!!化け物め!」

 

切嗣がコンソールを叩く。彼は戦慄していた。隠しカメラの位置を特定されただけではない。レンズ越しに、こちらの機材のスペックまで見抜かれたのだ。「解像度が甘い」だと?これは最新鋭の暗視機能付き軍用カメラだぞ。それを「予算ケチった」呼ばわりとは……。

 

「舞弥!撃て!」

 

これ以上、あの女に喋らせてはいけない。こちらの情報が全て筒抜けになる前に、物理的に口を塞ぐしかない。

 

【城外】

 

「撃ちます」

 

バォン!!

 

乾いた破裂音。別の塔の屋上から、久宇舞弥による大口径ライフルの狙撃。使用弾薬は.300ウィンチェスター・マグナム。初速900メートル毎秒を超える死の礫が、私の眉間めがけて飛来する。

 

 

……遅い。いや、弾丸は速い。でも、殺気が早すぎるのよ。「撃つぞー、はい撃ったー」っていう意思が、弾丸よりも先に届いちゃってる。

 

「ふむ……一歩前へ」

 

何気なく一歩踏み出す。ヒュンッ!私の背後を、弾丸が通過していく。

 

「あら、危ない」

 

このアルトリアちゃん陣営は、近代兵器のスペシャリストの設定ね!魔法だけじゃなく、こういう実弾兵器も使ってくるなんて、ハリウッド映画みたい。狙撃される演出はなかなか面白いわ。緊張感がある。

 

でも、主演がやられるわけにはいかないし、この豪華なセットを壊すわけにもいかない……。ここで私が反撃して、城を吹き飛ばしちゃったら、撮影中止になっちゃうものね。

 

「ジル……アルトリアちゃんの相手は任せます。貴方が指導して差し上げなさい。騎士とは何か、剣とは何かを。フランス元帥の剣技、ブリテンの騎士王に見せつけてあげなさい!」

 

 

「はっ!!仰せのままに!!我が聖女の『演技指導』、このジル・ド・レが剣を以て代行いたします!!」

 

 

「さあ来い、騎士王!!我が聖女の敵対者よ!!この元帥が、貴様のその甘ったれた根性を叩き直してくれるわ!!」

 

「くっ……!キャスターごときが、剣で私に挑むか!!侮るな!!」

 

さあ、見せてもらいましょうか。私の自慢の騎士の実力を。




彼女は舞台を整えただけだった。
だが戦場において、それは開戦と同義である。

この物語の行きつく先、ZEROのあとは

  • stay nightは見たいよね。
  • hollow ataraxiaが良いな
  • Apocrypha世界へ出張
  • Grand Order発令‼
  • Samurai Remnantは演技
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