冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~ 作:斉宮 柴野
善意によって照らされたのだ。
「……………で、貴方は何時まで私を見ているつもりですか??」
さっきからずっと感じていた視線。最初の一人だけじゃない。もっとたくさん。森の木陰、枝の上、草むらの中。無数の目が、私を観察している。
影が滲み出し、実体化する。一人、二人……。最終的に五人ほどの、黒装束に身を包んだ男たちが、私とジルを包囲するように姿を現した。全員、白い髑髏の仮面をつけている。
「……フッ。我ら群にして個───個にして群───。我が隠形を見破ったことは見事……。だが、これだけの数を同時に相手取れるかな?」
わあ、笑われた。しかも何これ、演出?影分身?それとも、3Dホログラムによる分身の術?ワラワラと五人くらい髑髏仮面がやって来たわ!
みんな同じ顔で、同じ格好。体型は違うけど量産型?……なるほど!!ピンと来たわ。
彼らは主演だと思っていたけど、違ったのね!この揃いのドクロ仮面……。没個性な黒タイツ……。そして、神出鬼没な動き……。彼らは「冬木スタッフ」なのね!!つまり、舞台の設営や撤収、エキストラの誘導なんかを行う、裏方のプロフェッショナル集団!
顔を隠しているのは、舞台上で目立たないようにするための「黒子」の作法。劇団四季とかでも見たことあるわ。「私たちは背景ですよー」っていうアピールなのね!
「あなたのお名前は??私が知らない席の方……アサシンさんですよね!ぜひ自己紹介を!」
「……名は無い。我らは影。誰でもあり、誰でもない」
「かっこいい!職人気質ですね!あらあらあら……そうとは知らずすいません!!いつも後始末、本当にありがとうございます!!」
スタッフへの感謝は、座長の基本中の基本。彼らがいなければ、私たちは輝けないのだから。
「??……いや、ええ……」
困惑しているみたいだけど、照れているのかしら。
「貴方方のお仕事にはプロ意識が感じられますね。特に、昨夜のアレです!」
「アレ……?」
「あの埠頭ですよ!今日のお昼にちょっと通ったんですけど、もう元通りでしたし!あんなにコンテナをボコボコにしたのに、仕事が早いわ!」
そう。昨夜、私とランサーさんとセイバーちゃんが暴れ回って、めちゃくちゃにした埠頭。アスファルトはめくれ上がり、コンテナはひしゃげ、街灯はなぎ倒されていた。あれを修復するのは、並大抵の労力じゃないはずだ。重機を入れて、何日もかかる工事になると思っていたのに。
今日の昼間、遠目に見たら、何事もなかったかのように綺麗になっていたのだ。っていうか、彼らが徹夜で直したんでしょ?すごいわ。日本の土木建築技術の粋を集めたような早業ね。
「……っ!!」
彼の太い腕が、小刻みに震えている。筋肉痛ね。かわいそうに。小柄なアサシンも、もじもじしている。徹夜明けの充血した目が、仮面の奥から私を見ている気がする。
「貴方たちの『現場復帰力』、感動しました。見えないところでの努力、ちゃんと私は見ていましたよ!」
「……わかってくれますか……!!」
殺伐とした聖杯戦争の裏で、誰にも感謝されることなく、「神秘の隠蔽」という地味で過酷な作業に従事してきた彼ら。
「暗殺者」として恐れられることはあっても、「清掃員」として褒められたことなど一度もなかった彼らの心。舞台の成功はチーム次第!こんな優秀な裏方集団、滅多にいないわ!ぜひお近づきにならないと。私の劇団にも引き抜きたいくらいだわ。
◇◇
「わかりますとも。貴方方がそれぞれ専門知識を活かして、現場を回しているのですね。そちらの大柄な方は大道具係、そちらの小柄な方は小道具や配線係、そして……。そちらの方、やたらと目利きの良さそうな目をしていますね。美術品の鑑定とか得意そう」
「見抜かれますか!!」
アサシンAが驚愕する。
「そちらの方は……爆発物の扱いに長けていそう。特攻担当ですね?」
「おい、監視対象に手の内を出しすぎでは……?」
「いや、主も今朝『ジャンヌは本当の聖女だ』と言っておられた。これほど我らの苦労を汲み取ってくれる御方だ、問題あるまい。我々の正体がバレたところで、彼女は敵対するつもりはないようだ」
……ん?今、なんて言った?「今朝」……「聖女」?今朝、私の「演技」を直接見て、そんな評価をしてくれたのは……。一人しかいない。
「もしかして、貴方方の助演は綺礼さんですか?言峰綺礼さん」
「……えーと。……左様。我らは言峰綺礼がサーヴァント、アサシン」
やっぱり!綺礼さんですね!点が線で繋がったわ。彼が「監督役の補佐」だと言っていた意味がわかった。彼はこの聖杯戦争という巨大プロジェクトの、実質的な現場監督であり、この優秀なスタッフたちを束ねるプロデューサーだったのね!だから、あんなに悩み多き顔をしていたのかしら。中間管理職のストレス、半端ないものね。
「カッコいいですよね〜。さっきカフェで会いましたけど、覚悟を決めてくれましたし。背負っているものの大きさが違いますよ」
「……審美眼としては、まあ『イケメン』というやつかもしれませんが……あの方は、少々……難儀な性分でして……」
「あら、貴女もそう思います?頑固で、真面目で、不器用。でもなあ〜。綺礼さんは私に惚れているからな〜」
カフェでの別れ際。彼のあの、吹っ切れたような笑顔。そして、私に向けられた熱い視線。
「…………は??そうなのか???」
そうよね。流石にプロデューサーも、自分の現場スタッフにはプライベートなことは教えないか。上司の恋愛事情なんて、部下にとっては一番聞きたくないゴシップかもしれないし。でもでも!言っちゃう!だって、自慢したいんだもん!あんな渋いイケメンに口説かれた事実を!
「そうですよ〜。初対面なのに、あんなに情熱的に『告白』されたら、私もちょっとメンタル削られました。『君の言葉で、私の空虚な器が満たされた』とか言われちゃって」
彼らにとって、言峰綺礼という男は「冷徹な処刑マシーン」であり、「虚無の権化」だ。そんな男が、愛を語る?天変地異の前触れか、あるいは世界崩壊の予兆か。
「でもまだ、死別した奥さんのことが忘れられないみたい。奥さんを愛しすぎて、殺したかったとか何とか……。拗らせてますよねぇ」
「私はそんなこと気にしませんけどね!陰がある演技ができるようになりますから、むしろプラスよ!重い過去を背負った男って、セクシーじゃないですか。私が全部受け止めて、芸の肥やしにしてあげます!」
ドンと来い、超常現象。ドンと来い、サイコパス。私の「聖女フィルター」にかかれば、どんな猟奇的なエピソードも「美しい悲劇」に変換されるのよ。
「……怖い」
彼らは本能で悟ったのだ。この少女に関わってはいけない。彼女は、彼らの理解を超えた「何か」だと。
◇◇
「また会おうと言っていたけど……直接お招きしようかしら。私の部屋に、彼を。そう、言峰綺礼プロデューサーを!」
そうよ。向こうから来るのを待つだけじゃ、受け身すぎるわ。積極的なアプローチこそが、チャンスを掴む鍵だもの。それに、ホテルのスイートルームという密室なら、誰にも邪魔されずに深い話ができるじゃない?
「ねえアサ子さん!そこの女性スタッフの!」
「は、はい!私ですか!?突然ご指名いただき光栄ですが……!」
アサ子さんがビクッと肩を震わせる。仮面の下で目が泳いでいるのがわかる。緊張してるのね。可愛いわ。
「そうそう。綺礼さんに伝えて下さいな。私は冬木ハイアットホテルのスイートに泊まってるから、ぜひ来て下さいって。部屋番号は808号室。あ、ルームサービス頼んでおきますから、手ぶらでいいですよ」
アサシンたちが、「マジかよ……」「大胆すぎる……」「聖女とは一体……」とざわめいている。
あら、やっぱりちょっと唐突すぎたかしら?でも、業界人ならこれくらいのフットワークの軽さは常識よね?
「それは……我々も忙しくて中々……。主も多忙を極めておりまして……」
そうよね!あんなにセット設営や後始末、今日みたいに撮影班や、この感じだと編集も彼らがやっているみたいだし。一人何役やってるのよ。ブラック企業並みの労働環境ね。労基署に駆け込んだほうがいいレベルよ。
「ジャンヌ!!聖処女たる貴女が、何たる破廉恥な!!男を、それもあのような不気味な男を、夜の自室に招くなど!!断じて許されませんぞ!!」
「もー。いつも『冒涜、冒涜』言ってるじゃない。頭が固いわね、元帥。別に夜のお誘いではありません。打ち合わせよ、打ち合わせ!クリエイティブな会議よ!」
「しかし……!!密室で男女が二人きり……何が起こるか……!あの男の目つき、ただならぬ獣の光を秘めておりましたぞ!貴女を襲うかもしれません!」
「大丈夫よ。襲われたら返り討ちにするから。それに、貴方も同席すればいいじゃない。ボディガード兼、証人として。可愛いジル。私の心は、貴方の元にもありますのよ?貴方は私の一番の騎士なんだから、自信を持って」
「おおお……!!!ああ、ジャンヌ……!そのお言葉だけで、このジル、天にも昇る心地でございます!!」
ジルがふにゃふにゃになる。ちょろい。いや、純粋な愛ね。彼を手懐けるのは、簡単かもしれない。
「とりあえず、今日は疲れちゃったしホテルに戻りましょうか。アサシンさんたち、お仕事頑張ってね!差し入れできなくてごめんね!今度あったら栄養ドリンク奢るわ!」
しめしめ。これで彼らも私の味方ね。アサシンたちは、私の笑顔に見送られながら、困惑と感動を胸に、影の中へと溶けるように消えていった。お疲れ様です。明日の現場もよろしくね。
彼らは気づいた。
この聖女は、敵より危険だと。
この物語の行きつく先、ZEROのあとは
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stay nightは見たいよね。
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hollow ataraxiaが良いな
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