冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~ 作:斉宮 柴野
私は、アレクサンドロスさんの背中に隠れようとしていたウェイバー君の首根っこをガシッと掴み、そのままズルズルと商店街のメインストリートから一本外れた、薄暗い路地裏へと彼を引きずり込む。
「ひぃっ!な、なにするんだよ!」と暴れる子犬を、私はゴミ箱の横の壁にドンッと押し付ける。
いわゆる壁ドンよ。でも、ラブコメの甘い雰囲気なんてゼロ。完全に「カツアゲするヤンキー」か「説教するオカン」の構図ね。さあ、ここからが風紀委員長としての私の見せ場よ。
「ウェイバー君!何で盗みなんかしたの!?お母さんはそんな風に育てた覚えはありませんよ!」
昭和のホームドラマに出てくる「教育熱心な肝っ玉母ちゃん」の演技プランを完全インストールよ。割烹着を着ておしゃもじを持っていれば完璧だったわね。さあ、ウェイバー君。この突然の家族ごっこに、貴方はどう返すの?泣いて謝る?それとも反抗期の息子みたいに舌打ちする?
「いつから僕のお母になった!?あんたいくつだ!?僕は19だ!!大して年は変わらないだろう!」
え?ちょっと待って。今、私は完全に『出来の悪い息子を叱るお母さん』の演技のパスを出したじゃない!そこは「ごめんなさい母ちゃん!」か、百歩譲って「うるせえババア!」で返すのがお約束ってもんでしょ!なんでマジレスしてくるのよ!?設定に乗っかりなさいよ!!行間を読みなさい!!この子、アドリブ力が壊滅的ね。劇団でどんな基礎訓練を受けてきたのよ。
「19歳よ!!ウェイバー!!!そうよ、同い年よ!!私は正真正銘、花の女子大生よ!!」
そうよ、私はまだピチピチの19歳。お母さんと呼ばれるには若すぎるわ。でも、舞台の上では年齢なんて関係ないの。子役が老人を演じることもあれば、おじさんが女子高生を演じることだってある。私が「お母さん」と言ったら、貴方は「息子」になるの!それが演劇の魔法でしょうが!
「は、はひ!!」
「同い年なのになんで偉そうなんだ」ですって?決まっているじゃない。私がこの舞台の演出家であり、風紀委員長だからよ。役職の差は年齢の差を凌駕するの。社会の厳しさを教えてあげるわ。
「年はともかく……良いですか?コンプライアンスをなぜ守らねばならないか、わかりますか?劇団の備品を無断で持ち出すなんて、万引きよりもタチが悪い行為ですよ!」
窃盗。それは、他人の努力や権利を踏みにじる重罪。彼が盗んだ「アレクサンドロスさんのマントの切れ端」は、ケイネス先生が自腹を切って、どれだけのコネと資産を注ぎ込んで調達したアイテムだと思っているの。それを横取りして自分がセンターに立とうなんて、傲慢にも程があるわ。
「そ、そんなのわかってる!!でも……あいつは僕の論文を、みんなの前で鼻で笑って破り捨てたんだ!!僕の……『新世紀に問う魔導の道』を!!」
ああ、なるほど。それが彼の「犯行動機」ね。時計塔という伝統と格式を重んじる古臭い劇団において、家系が浅いというだけで才能を正当に評価されない不満。一生懸命書き上げた渾身の脚本を、大御所の演出家に皆の前でビリビリに破り捨てられた屈辱。自分の存在を否定された悲しみと怒りが、彼を「泥棒」という極端な行動に走らせたのね。
「あー、それね。ケイネス先生はちゃんと覚えていて、わざわざ書き直してくれたわよ。しかも、赤ペンで注釈と批評付きでね」
ジャーン。タイトルは『新世紀に問う魔導の道』著者の欄には、しっかりと「ウェイバー・ベルベット」という名前が記されている。
「……え?」
信じられないものを見るような顔ね。それもそのはず。彼が「破り捨てられた」と信じて疑わなかったその論文は、今、テープで綺麗に補修され、さらに透明なクリアファイルに丁寧に収められているのだから。
昨夜、ケイネス先生と世間話をした時に、彼が「全く、最近の若い者は」と愚痴りながら、私に見せてくれたのよ。「捨てたはずのものを、なぜか復元して持ち歩いている」という時点で、先生の隠しきれないツンデレ属性が爆発しているわよね。
私はそれを「教育指導の小道具として使いますから」と言って、無理やり借りてきたの。
「ケイネス先生曰くね。ちょっと代読してあげるわ。『魔力の効率的運用や刻印によらない魔術発動の理論については、見るものはある……。着眼点自体は、一時の流行としては面白い』」
「見るものはある」と評価されたことに、隠しきれない喜びが顔に出ているわね。素直な子。
「『だが結局のところ、魔術は今の者たちが言うところのブラッド・スポーツだ。この論文の言うようなショートカットを、代を重ねた名門の者たちも同時に行うのだぞ?代が浅い者たちが、名門に追いつく風にはならん』……と、厳しい現実を突きつけているわ」
そう。ウェイバー君の理論は、「才能がなくても努力と工夫でカバーできる」という画期的なものだった。
でも、ケイネス先生はそこをバッサリと切り捨てる。「才能のある天才が、その努力と工夫を同じように実践したら、結局勝てないだろ?」という、身も蓋もない正論。
残酷だけど、これが競争社会の真実よ。ショートカットの裏技を見つけても、トップランナーがその裏技を使い始めたら、結局差は縮まらない。
「うっ……」
可哀想に。でも、ここで終わったら、ただのバッドエンドの悲劇よ。私の演出は、そんな後味の悪いものでは終わらない。
「でも、続きがあるわ。一番最後のページを見てごらんなさい」
「『それよりも、そのノウハウを他者に伝えやすく論理的にまとめている構成力の方を評価しよう。自分自身で実践するよりも、他者を伸ばす方が向いているかもしれんな』……とのことよ」
「…………!!!」
「『自分にできることは、才能ある相手ならもっと上手くできるかもしれない』と言う、当たり前の観点が抜けていたわけね。貴方は、自分がプレイヤーとしてトップに立つことばかり考えていた。でも、ケイネス先生は、貴方の本当の才能を見抜いていたのよ。プレイヤーではなく、他者を導く指導者としての類まれなる才能をね」
そう。ケイネス先生は、彼の論文を「魔術の理論」としては否定した。でも、「教材」としての完成度の高さ、他人に物事をわかりやすく説明する「構成力」については、手放しで絶賛していたのだ。あんなにプライドの高いエリート講師が、生徒のレポートをわざわざ復元して、ここまでびっしりと添削してくれるなんて。それは、彼がウェイバー君を見下していたからじゃない。「見込みがある」と認めていたからこそ、厳しく指導したのよ。ただ、その伝え方が絶望的に不器用だっただけ。
「ガッハッハ!坊主!これは一本取られたな!!」
彼もまた、私たちの会話を聞いていたのね。手にはなぜか、チョコバナナとか綿菓子とか、お祭りの屋台みたいなジャンクフードを抱え込んでいる。買い出しはどうしたのよ。
「あの不機嫌そうな魔術師、なかなか真っ当な教育者ではないか!己の器を知り、他者を導く。それもまた一つの王道よ!坊主、お前は良い師を持ったな!」
「うう……っ、ぐすっ……」
よし、ミッションコンプリートね!これで彼の「ルサンチマン」というドロドロの動機は、綺麗さっぱり浄化されたわ。「大御所に認められなくて宝を盗んだ泥棒」から、「自分の進むべき道を見つけた若者」へ。悲劇の復讐劇から、爽やかな青春成長ストーリーへの見事な路線変更よ!
やっぱり、キャラクターの深掘りはこうでなくちゃ。誤解が解けて、お互いの本当の気持ちを知る。ベタだけど、こういう王道の展開が一番視聴者の涙を誘うのよ。
「さあ、泣くのはおしまい!反省したら、次に会った時にケイネス先生にちゃんと謝るのよ!『マント盗んでごめんなさい、添削ありがとうございました』ってね!」
「……う、うん……。わかったよ……。あいつに会ったら……ちゃんと、謝る……」
これなら、立派な指導者になれるわ。十年後くらいに、時計塔で一番人気の名物教授になっている彼の姿が、私の眼にははっきりと視えるような気がする。
◇◇
「というわけで、今晩は盛大にしましょう!大王!英雄王!」
本当に君たち、聖杯を奪い合う殺し合いの真っ最中だっていう自覚はあるの?完全にオフの日のパパ友同士の買い出しじゃない。
「大王!先ほど『王の格を問う問答』とおっしゃっていましたが、この聖杯戦争は王様ばかりではありません!むしろ、王様以外のキャストの方が圧倒的に多いんですよ!考えてもみてください!誇り高き双槍の騎士や、愛に狂った魔女、求道者の神父に、深窓の奥様!巻き込まれ型の一般人だって参加しています!聖杯という名のトロフィーを得るための『格』を競うというのなら、一部の権力者だけで集まって密室でコソコソやるのはナンセンスです!全員を誘うべきです!」
そうよ。王様たちのサシ飲みも絵にはなるけれど、それだけじゃ視聴率は取れない。絵面がむさ苦しいのよ。赤い巨漢と金ピカの成金趣味の男が二人で酒を飲んでいる映像なんて、深夜のディープなトーク番組くらいでしか需要がないわ。
もっと華が必要なの。多様性が求められる時代なのよ。
全員参加のオールスター感謝祭。それこそが、視聴者が一番求めている特番の形よ。主役級の役者たちが一堂に会し、酒を飲み交わし、本音をぶつけ合い、時にテーブルをひっくりして乱闘する。そんなカオスな空間から生まれる奇跡の化学反応こそが、最高のエンターテインメントを生み出すのだから。身分も、職業も、生きた時代も違う者たちが、同じテーブルにつく。これぞまさに、究極のクロスオーバー企画よ。
「むうう………確かに。覇を競う場に、王以外を締め出すのは度量が狭いというものか。王とは、あまねく民を導き、その声を聞く者。ならば、異なる道を歩む者たちの言葉に耳を傾けるのも、また一興。よかろう!皆を招こうではないか!」
話がわかるわね、大王様!度量っていうか、単にお祭り騒ぎの規模が大きくなるのが嬉しいだけのような気もするけれど、結果オーライよ。これで、ただの飲み会が「聖杯戦争中間発表スペシャル・全員集合生放送」にグレードアップしたわ。幹事の腕の見せ所ね。
「おい、聖女」
ああ、面倒くさい。本当にこの人は、常に自分が世界の中心にいないと気が済まないのね。幼児性の塊よ。
「何かご不満でも?英雄王」
「最初に我を誘うのは当然だろうな!」
その圧倒的な自己肯定感、少し分けてほしいくらいだわ。
「え??ギルガメッシュ王はもうさっき誘ったではありませんか?『至高のお酒を下賜してやる』って、ご自身でノリノリで了承してくださったじゃないですか。記憶力、大丈夫ですか?」
数分前の自分の発言を忘れるなんて、お酒を飲む前から酔っ払っているのかしら。
それとも、正式な「招待状」の授与儀式がないと納得しないタイプ?結婚式の招待状みたいに、金箔押しの豪華なカードをうやうやしく両手で差し出さないとダメなの?面倒くさいわね、本当に。
「ふん、あれは我がお前たちの下賎な宴に酒を恵んでやっただけのこと。我自身が足を運ぶかどうかは別の話だ。だが、お前がそこまで我の威光を乞い願うというのなら、特別に同席してやってもよい」
はいはい、ツンデレ乙。行きたいなら行きたいって、素直に言えばいいのに。「酒は出すけど俺は行かない」なんて言って、本当は誰よりも目立ちたいくせに。わかりやすい性格ね。
「はいはい、ありがとうございます。英雄王様のご臨席を賜り、大変光栄でございますー」
これで金ピカの参加は確定。
「そして、我がマスターも同行させよ。我がマスター、遠坂時臣。あのように地下室で穴熊を決め込むのは、王の臣下として許せん。聖杯を求めるのであれば、自ら戦場に立ち、血と汗を流すのが筋というもの。安全な後方から指示を出すだけの腑抜けなど、我のマスターとして恥ずかしいわ!」
彼の口から「マスター」という言葉が出たことに、私は少し驚く。彼のような天上天下唯我独尊の王様が、誰かの下についているなんて、全く想像できないからだ。
なるほど。彼のマスターである遠坂時臣さん。御三家の一つ、遠坂家の当主であり、この冬木の地を管理する魔術師のトップ。ケイネス先生から聞いた情報によると、常に「優雅たれ」という家訓を重んじ、泥臭い戦いを嫌う完璧主義の魔術師らしいわ。
「でも、プロデューサーさんを引っ張り出すのは大賛成です!わっかりましたー!あの引きこもりプロデューサーを、無理やり宴会の席に引っ張り出して、一発芸でもやらせましょう!『優雅たれ』って言いながら、ドジョウすくいでも踊らせたら最高にシュールな絵面になりますよ!」
そうよ。キャストだけが体を張って、プロデューサーが安全圏で高みの見物をしているなんて、フェアじゃない。番組の忘年会なんだから、責任者であるプロデューサーも参加して、キャスト陣から日頃の不満を浴びるべきよ。
「というわけで大王、タクシーを出してください!私も一緒に誘いにいきます!!」
「おお!よかろう!余の戦車をタクシー代わりにするとは、相変わらず豪胆な小娘よ!乗るが良い!」
バリバリバリッ!!
これが、アレクサンドロスさんの宝具。『神威の車輪』。古代マケドニアの王が乗るにふさわしい、ド派手なオープンカーね。燃費は悪そうだけど、インパクトは抜群よ。レッドカーペットに乗り付けるリムジンとしては、これ以上のものはないわ。
「さあ、乗るが良い!」
「それじゃあ、遠坂邸に向かって、出発進行ー!!」
「蹂躙せよ!ゴルディアス・ホイール!!」
ブオンッ!!バリバリバリバリッ!!!
凄まじい轟音と共に、戦車が宙に浮き上がる。
す、すごい加速!!ジェットコースターの比じゃないわ。商店街のアーケードが、あっという間に足元のはるか下へと遠ざかっていく。街の人たちが、口を開けて空を見上げているのが、豆粒のように小さく見える。
「きゃっほー!!風が気持ちいいー!!」
風圧がものすごい。髪の毛がオールバック状態になって、顔面の皮膚が引っ張られる。でも、これが最高に爽快なのよ!空を飛ぶオープンカー。遊園地の最新アトラクションを貸し切っている気分だわ。
私が支配する、この巨大な舞台。その頂点から世界を見下ろす快感。ああ、王様たちが上から目線になる気持ちが、少しわかった気がするわ。
「目立つ!目立つってば!!真昼間から空飛ぶ戦車なんて、魔術協会の隠蔽工作が追いつかないよ!!僕、絶対に時計塔から破門されるぅぅぅ!!」
彼は高所恐怖症なのかしら。それとも、魔術世界の掟を破っていることへの恐怖?そんな小さなことにこだわっているから、大物になれないのよ。
堂々と飛べば、一般人は「UFOかな?」とか「映画の撮影かな?」って勝手に解釈してくれるものなの。現代人は意外と都合よく現実をスルーするスキルを持っているんだから。
◇◇
――数分後。
冬木市・深山町。新都の近代的なビル群とは打って変わって、緑豊かで閑静な住宅街が広がるエリア。その中でもひときわ小高く、見晴らしの良い一等地に、そのお屋敷はあった。
「ここが遠坂さんの家ね。普通にいい古いお屋敷じゃない」
レンガ造りの外壁、鋭角な屋根、そして見事なステンドグラスの窓。歴史を感じさせる、古き良き洋館だ。
門から玄関までのアプローチも長く、手入れの行き届いた庭には色とりどりの花が咲いている。
完全に、ドラマに出てくる「お金持ちの家」のセットね。これ、維持費だけでも相当かかるわよ。さすが、冬木の管理者を務める名門魔術師の家だわ。プロデューサーとしては、かなり羽振りがいいみたいね。
ピンポーン!!
さあ、引きこもりプロデューサーさん。貴方はどんな顔をして出てくるのかしら。
「……はい、遠坂です。どちら様で?」
落ち着き払っていて、教養と自信に満ち溢れた声。いかにも「名門の当主です」というオーラが、インターホン越しでも伝わってくるわ。声優の速水さんをキャスティングしたのかと思うくらい、完璧な発声ね。
「『冬木アクターズラプソディ』の聖上です。遠坂時臣さんにお届け物です!サインかハンコ、お願いしまーす!」
「冬木……アクターズ……?どこの団体だ??私はそのような……」
「はい……。どちらの団体で……なっ!?」
見事な顔芸ね!バラエティ番組のワイプで抜きたいくらい、完璧な驚き顔よ。
「ジャ、ジャンヌ・ダルク!!?」
彼は思わず、手に持っていたルビーの杖を私に向けて構えようとする。咄嗟の防御態勢。魔術師としての防衛本能が、私を「極めて危険な存在」として認識している証拠ね。
「ストップストップ!杖を下ろして!今日は戦をしに来たわけじゃありませんよ。営業活動です。ええと……お誘いです。今夜、アインツベルン城でキャストの親睦会をします。主催者はそこの戦車に乗っているアレクサンドロスさん。もちろん、全員参加の強制イベントです」
「当日はドレスコードでお願いしますね。王様たちの集まりですから、ジャージやスウェットはNGですよ。時臣さんはそのスーツでバッチリです。それと、武器の持ち込みはご遠慮ください。入り口で手荷物検査をしますから、そのステッキとか、隠し持っている宝石の爆弾とかは置いてきてくださいね」
「何を馬鹿なことを……。キャストの親睦会だと……?王の宴だと……?聖杯戦争中に、敵対するマスターやサーヴァントが一堂に会するだと……?そのような無防備な真似、常軌を逸している。罠に決まっている。誰がそんな馬鹿げた誘いに乗るものか。……お引き取り願おう。これ以上結界に踏み入るなら、容赦はせん」
私の言っている言葉の半分も理解できていないみたいね。頭の固い魔術師には、「敵対陣営と飲み会をする」という概念そのものが存在しないのだろう。
優雅たれ。その家訓に従い、パニックになりながらも体裁を保とうとする姿は、いじらしいほどだわ。でも、その拒絶は、私には通用しても、彼の上司には通用しないのよ。
「時臣よ……」
黄金の粒子が集束し、時臣さんの隣の空間に、一人の男が実体化する。腕を組み、不機嫌そうに目を細めている、ギルガメッシュさんだ。
「!!英雄王!?」
「王が饗する宴に、よもや欠席するなど……臣下としてあるまじきことだぞ!!引きこもってばかりの貴様の顔など、我もとうに忘れたわ!常に我が傍に控え、王の威光をその目に焼き付けるのが臣下の務めであろうが!それを、このような地下のネズミ穴に閉じこもって、モニター越しに我を監視するなど……万死に値する不敬であると知れ!!」
ギルガメッシュさんの説教が止まらない。日頃の不満がマグマのように噴出しているわね。「現場に来い」「俺の活躍を一番近くで見ろ」という、構ってちゃんの極致。
でも、時臣さんからしたら、サーヴァントの戦いに生身でついていくなんて、自殺行為以外の何物でもないのよね。
「し……承知いたしました、王よ……。貴方様がそこまで仰るのなら、臣たる私に異存はございません……」
(なぜ英雄王が、イレギュラーであるルーラーと行動を共にしているのだ……!?それに、あの戦車に乗っているのはライダーではないか!なぜ三人が揃って、私の家を訪問してくる!?聖杯戦争のルールはどうなっている!?私の完璧な計画が……計算が狂いすぎる!)
可哀想に。真面目な人ほど、想定外の事態に弱いのよね。でも、これが現実よ、プロデューサーさん。貴方の書いた堅苦しい台本は、もうとっくに私がシュレッダーにかけて燃やしてしまったの。
「よし!それじゃあ時臣さん、今夜はよろしくお願いしますね!アインツベルン城でお待ちしていますから!逃げたら、戦車でこのお屋敷ごと吹き飛ばしにきますからね!」
◇◇
「いやー、空の旅はやっぱり最高ね!排気ガスも渋滞も関係ないし、何よりこの『私が冬木の空を制圧している』っていう全能感がたまらないわ!」
遠坂邸での「引きこもりプロデューサー引きずり出し作戦」を成功させた私は、そのままの勢いで次のターゲットを確保しに来たの。
「ケイネス先生!ソラウさん!こんにちは!飲み会のお誘いに来ましたよ!ついでにランサーさんもどうぞ!」
そこには、ティーカップを片手に足を組む、オールバックの貴公子・ケイネス先生。その隣で、退屈そうに窓の外を眺めている赤い髪の美女・ソラウさん。そして、彼らの後ろに影のように控える、泣く子も黙る超絶イケメン・ランサー。絵になるわねえ。ファッション雑誌の「秋の魔術師コーディネート特集」から抜け出してきたみたい。
「何?聖上真樹か。相変わらず騒々しい娘だ。私がそのような、野卑な者たちが集まる凡俗な場に足を運ぶと思っているのかね?私の時間は、君たちが思っている以上に高価なのだよ」
でもね、先生。貴方のその「高価な時間」を、もっと有効活用するために私が来ているのよ。
「……む?真樹、君の後ろに隠れている、その情けない小動物のような気配は……もしや、ウェイバー・ベルベット君ではないか!」
「ひいっ!!け、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト卿!!」
完全に、抜き打ちテストを忘れた学生が教卓の前に立たされた時の顔ね。それもそのはず。彼は先生の大事な聖遺物を盗んで逃走中なんだから。今ここで、被害者と加害者の感動の再会よ!
「……気が変わった。その誘い、受けようではないか。私の大事な備品を盗み出し、あまつさえその力で勝手に舞台に上がった愚図が、どのようなツラをして酒を飲むのか……興味がある。ベルベット君、君には魔術師としての矜持、そして『他人のものを盗んではいけない』という幼稚園レベルの道徳について、じっくりと講義してやろう。実戦で君を叩き潰す前にな!!」
教育熱心ね!「実戦前にお説教」なんて、なんて面倒見がいいのかしら。ウェイバー君は、もはや胃を押さえて蹲っている。「ううう……」という呻き声が、可哀想だけどちょっと面白い。青春の苦悩ね。頑張れ、子役。
「ありがとうございます!先生が来ると場が引き締まります!あ、ランサーさんもですよ!ドレスコードはタキシードですからね!武器の槍の代わりに、シャンパングラスを持ってきてください!」
「うむ……聖杯に懸ける願いを語る場か。王たちが集うというのなら、武人としての礼を失するわけにはいかんな。俺個人には聖杯への願いはないのだが……主の命とあらば、護衛として随伴しよう。タキシードか……馴染みのない装束だが、善処する」
「願いがない」なんて、なんてストイックなの。貴方のその騎士道精神そのものが、もう最高の酒の肴になるわ。
タキシード姿のディルムッドさん……。想像しただけで、このホテルの全女性客が卒倒しそう。視覚暴力もいいところだわ。
「ハァハァ……タキシードを着た……正装したランサーが……間近で見られるのね……!黒いネクタイに、白シャツ、そしてあの泣きぼくろ……!嗚呼、神様、仏様、聖上様、生きててよかった……!」
お、お姉様……?キャラが崩壊していますよ。昨夜までの「冷徹な政略結婚の被害者」というクールな設定はどこへ行ったの。完全に、推しの限定衣装を確定演出で引いたオタクの反応じゃない。
「ソラウさん……。貴女、昨夜あんなに『私はランサーを愛してしまった、これが呪いでも構わない』って悲劇のヒロイン演じてたのに……」
「……わ、わかってるわよ。これはただの火遊びよ!真樹、変な目で見ないで頂戴!魅了の呪いは、もう自力でレジストしたわ。精神修養の一環よ。今の私は、純粋に『イケメンを目の保養にしている』だけだから!推し活よ!健全な趣味の一環として、彼の美貌を網膜に焼き付けているだけ!呪いのせいじゃない、私の美意識のせいなのよ!」
でも、耳まで真っ赤よ。「推し活」って、ワードチョイスが現代的ね。でも、その言い訳、嫌いじゃないわ。愛とか呪いとかいう重苦しい概念を「推し活」という軽やかなポップ・カルチャーに昇華させる。これぞまさに、悲劇をコメディに変える私の魔法よ。
「ふふっ。分かればよろしい。推しを愛でるのは、観客の立派な権利ですからね!ソラウさん、今夜は特等席を用意しますから、カメラの準備を忘れないでくださいね!」
ソラウさんは、小さく「……礼を言うわ」と呟いて、再びランサーを熱い視線で見つめ始めた。よし、ケイネス陣営も確保!
(あとは切嗣さんたちときれいさんたちと・・・ランスロットさんは誰が助演なの??あの狂戦士、誰がマネージャーやってるのかしら。まあいいわ、その辺に落ちてる不発弾でも投げておけば寄ってくるわよね)
王も魔術師も、皆ただの人間だ。
だからこそ、酒を飲む。
【超重要・展開が変わります】真樹は聖杯にかける願いを…。
-
言う
-
言わない