冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~ 作:斉宮 柴野
※本日まで出張で更新頻度が落ちたことをお詫びいたします。
鼻を突くのは、古いイグサの匂いと、安っぽい煙草のヤニの臭い。ここは冬木市の深山町にある、古びた日本家屋の一室よ。
障子からは薄暗い光が差し込んでいて、ホコリが空気中をフワフワと舞っているのが見えるわ。床には畳が敷き詰められていて、壁には色褪せた砂壁。いかにも「昭和の文豪が逃げ込んで執筆してそうな宿」って感じの、渋すぎるロケーションね。
「ここをこんなに早く使うことになるなんて……。ホテル爆破の失敗……それに、あの女の魔術回路の増設……。これもあれも、あの自称聖女のせいだ。僕の切り札である起源弾を撃ち込んだというのに、回路を破壊するどころか、逆に化け物を覚醒させてしまった……。クソっ!計算が、全て狂っていく……!」
「切嗣……」
アイリスフィールさんが、ひどく不安げな瞳で見つめている。彼女のルビーのような赤い瞳には、夫への純粋な心配と、自分には彼を救えないという無力感が入り混じっている。良妻賢母の鑑みたいなリアクションね。
舞弥さんは音もなく畳の上を滑るように歩み寄り、切嗣さんの隣にスッと膝をつく。そして。彼女は、顔を覆っている切嗣さんの右手を、自分の両手でそっと、けれど力強く包み込むように握りしめる。
「切嗣、落ち着いてください。我々はまだ負けたわけではありません。貴方が生きている限り、戦いは続いているのですから」
おおっ!私の眼が、彼女の顔の筋肉の微細な動きと、魔力の上昇をバッチリと捉えているわ!彼女の瞳の奥で、今まで「道具」として押し殺していた自我が、炎のようにメラメラと燃え上がり始めているのがわかる。
(あの女の言う通りだ。私はただの部品じゃない。切嗣を支えることができるのは、私だけ……。今の女から彼を奪う……か。悪くない。いや、むしろ、それこそが私の本当の望みだったのかもしれない)
素晴らしいわ!私が先日、アインツベルンの森で彼女に吹き込んだ「泥棒猫のススメ」が、見事に芽吹いているじゃない!「感情のない冷徹なアシスタント」というつまらない脇役設定をかなぐり捨てて、「愛する男を正妻から奪い取る愛人」という、昼ドラの主役級のドロドロした役柄へと、見事にクラスチェンジを果たしているわ。女の情念って、本当に恐ろしくて美しいスパイスね!
「舞弥……?」
「あら。舞弥さんも心配なのね。ありがとう、切嗣を励ましてくれて」
……って、ちょっと待って!奥さん!!貴女、人が良すぎるにも程があるわよ!!目の前で、自分の旦那の手を、明らかに「女の顔」をした別の女がねっとりと握りしめているのよ!?
それを見て「心配してくれてありがとう」って、どんだけお花畑な脳内構造をしているの!?これじゃあ、略奪愛のドラマが成立しないじゃない!妻が鈍感すぎると、愛人の燃え上がるような背徳感が半減しちゃうのよ!仕方ないわね。ここは、親切な演出家が、舞台の状況を丁寧に解説してあげるしかないわ。
「そうね……。舞弥さんはすっかり『女』の顔をしてるものね」
「え?どういうこと??」
声の出所を探すよりも先に、私の言葉の意味が理解できなくてフリーズしているみたいね。本当に純粋培養のお嬢様なんだから。
「だから、舞弥さんは、アイリスフィールさんから切嗣さんを『奪う』決意をしたということですよ。単なるビジネスパートナーじゃなくて、男女の関係として、正妻の座を狙いに来ているんですよ。ほら、見てみなさいな。あの熱っぽい視線を。完全に発情期に入ったメス豹の目よ」
「え??切嗣が……浮気??」
「聖杯戦争」という命がけの殺し合いの最中に、「夫の不倫発覚」という極めて俗っぽい、しかし女性にとっては聖杯の行方よりも切実な修羅場が勃発した瞬間よ。パラダイムシフトね。
「!!いつからいた!!」
「15分くらい前からいたわよ。白熱した昼ドラ展開だったから、カットかけるの悪くて。ポップコーンでもあれば、もっと楽しめたんだけど」
(バカな……息遣いすら感じなかったぞ!魔術的な結界も、物理的なセンサーも、何一つ反応しなかった!この部屋は完全に封鎖されているはずなのに、いつの間に侵入した!?)
私が使ったのは、ランスロットさんから拝借した宝具『己が栄光の為でなく』の応用テクニック。この和室の「背景」に同化していたの。
具体的に言うと、「床の間に置かれた、ちょっと趣味の悪い信楽焼のタヌキの置物」という配役を自分自身に設定して、息を潜めていたのよ。力も、心音も、体温も、すべてタヌキの置物と同じレベルに偽装しているんだから、どんなセンサーにも引っかかるわけがないわ。これが、「役になりきる」という演技の極致よ!
「あ、アルトリアちゃん。今夜、飲み会の誘いよ。王様同士で『格』を比べ合うんですって!イスカンダルさんとギルガメッシュさんが、アインツベルン城で待ってるわ」
「なんと!ジャンヌ・ダルク!ついに、ついに私をアーサー王と認めて……王たちの集いに私を招き入れてくれるのですね!!」
あー……。うん。その純粋なキラキラした目を見ると、ちょっとだけ罪悪感が湧くわね。
「切嗣さんとアイリスフィールさんと……舞弥さんもお越しくださいな。全員参加の強制イベントですからね!もちろん、ドレスコードありよ。ジャージとかミリタリー服はNGだからね!全陣営の主演と助演が集まる、大親睦会なんだから!」
「…………セイバーはモルガンだから王ではない」
「貴女はアーサー王じゃなくて、悪役のモルガンよ」という鬼畜なダメ出しを、しっかりと覚えているのね。嫌なヤツだけど、記憶力がいいプロデューサーは仕事ができる証拠よ。
「そうね。だからアルトリアちゃんは、ディルムッドさんたちと同じ『その他のサーヴァントさん達の決意表明』枠ね。主役の王様たちを引き立てるための、ひな壇芸人ポジションよ。あと、給仕をお願いね。アルトリアちゃんはお城の主なんだから、お客さんにお酒を注いで回るのがマナーでしょ?エプロン持参でよろしく!」
「……切嗣の浮気相手……」
「奥様、私は……その……」
「セイバー……」
アイリスフィールさんが涙目で舞弥さんを問い詰め、舞弥さんが珍しくしどろもどろになっているという、最高の修羅場コントが繰り広げられているけれど、セイバーちゃんは完全にそれどころではない様子ね。
「(聞いていない)よし……よし!ようやく王として振る舞えます!!私の方が王として正しくあったことを、あの暴君と覇王の面前で堂々と証明し、私の王道で彼らを完全に説き伏せてくれる!見ていてください、アイリスフィール!ふふふふ!」
……すごいわ。私の言葉の「その他のサーヴァント枠」とか「給仕」というネガティブなキーワードが、彼女の脳内のファイアウォールによって、都合よく完全にフィルタリングされている。
でも、その鋼のメンタル、嫌いじゃないわよ。逆境を跳ね除けるヒロイン力は、女優にとって必要不可欠な要素だからね。
(哀れな……。この自称聖女の悪意にされていることに、全く気づいていない……)
「セイバー、頼むぞ」
「キリツグ!ついに私を認めてくれたのですね!貴方も共に、私の王道を見届けてください!」
「……ああ」
今のセイバーちゃんの暴走状態に水を差すのは危険だと判断したのね。
「ジャンヌ・ダルク……私は……」
舞弥さんは、自分がアイリスフィールさんの前で切嗣さんの手を握ってしまったことの重大さに気づき、どう立ち回るべきか迷っているみたいね。
「もちろん、舞弥さんもドレスでお越しくださいね。パンツスーツじゃ色気がないわよ。アイリスフィールさんに負けないくらい、背中の大きく開いたセクシーなイブニングドレスを着て、いっそ切嗣さんを悩殺しちゃいなさいな!衣装の力は偉大よ!」
「はい!」
瞳に、女の闘志がゴウッ!と音を立てて燃え上がったのが見えたわ。
ああ、素晴らしいわ!これよ、これ!セイバー陣営の内包する爆弾は、もはや聖杯を巡る思想の違いとか、そういう小難しいテーマから完全に外れて、「夫を巡る妻と愛人のマウント合戦」という、極めて俗っぽく、かつ視聴率の取れる泥沼の恋愛ドラマへとすり替わったのだ!
今夜の王の宴、これは波乱の予感しかないわね。王様たちのマウント合戦の裏で、正妻と愛人の静かなるドレス対決が繰り広げられる。
「それじゃあ、今夜アインツベルン城で待ってるわね!遅刻厳禁よ!」
◇◇
今から私が挑むのは、古今東西のあらゆるドラマや映画で擦られ続けてきた王道のシチュエーションだからよ。
そう、「彼氏の実家へのご挨拶」という名の一大イベント!今朝、ホテルのスイートルームのベッドで全裸で目覚めるという、女優としてあるまじきスキャンダラスな朝を迎えた私だけれど、そんなハプニングはすでに脳内ハードディスクからアーカイブ領域へと移行済みよ。
過去のNGシーンに囚われている暇はないの。今はただ、この胸の高鳴りと、絶好調のコンディションを楽しむだけ。私の現在のクラスは『プリテンダー』。世界すらも騙し抜く、最強の詐称者。
ならば、どんなにカオスな状況でも、完璧な「彼氏の家に初めて遊びに来た、礼儀正しくてちょっとお茶目な彼女」という役柄を演じ切ってみせるわ。
さあ、カメラ回して!最高のファーストシーンの撮影開始よ!
「ごめんくださーい。聖女ですが!」
「聖女ですと!?」
「ジャンヌ・ダルクと申します。此度の聖杯戦争でルーラーのクラスで現界しました。本日はご挨拶に。……ご子息の綺礼さんとは、お付き合いをさせてもらっています!!」
「な?あ??え????」
「む、息子は……アサシンを失って、現在ここに匿っておりますので……その、聖杯戦争からは離脱しており……」
「良いのです。父上。そのような欺瞞、やはり良くはありません。隠密、奇襲は致し方ありませんが、監督役が一方に入れ込むなど、やはり『正義』にもとります」
「綺礼……!お前」
彼の登場シーン、照明の当たり方といい、足運びの滑らかさといい、完全に大物俳優の風格よ。
その理由が「正義にもとるから」なんていう、彼自身が一番信じていなさそうな道徳的なキーワードを使っているところが、最高に皮肉が効いていてブラックジョークとしての完成度が高い。
璃正さんは、自分が手塩にかけて育てた、従順で真面目息子が、突然敵のサーヴァントの前で自分たちの不正を嬉々として暴露し始めたことに、完全にキャパシティをオーバーしてしまったようだわ。
「綺礼……!お前」と声を絞り出すのがやっとで、その場に崩れ落ちそうになっている。ショックで心臓発作でも起こさないか、ちょっと心配になるレベルの青ざめ方よ。
「この聖女との語らいが、私に本当の『信仰』というものを思い出させてくれました。正しいこと。美しいこと。それをこそ、私は良しとしたいのです」
おおおおお……っ!ブラボー!ブラビッシモ!!なんて見事なセリフ回し!なんて完璧な声のトーン!綺礼さん、貴方、もしかして天才舞台俳優の生まれ変わりなんじゃないの!?
でもね、私は知っているのよ。彼の内面にある本質、その魂の形が、どれほどドロドロとした黒い泥で満たされているかを。
彼は、他人の不幸や苦しみ、そして傷口をえぐることにしか喜びを見出せない、根っからの破綻者だ。その彼が言う「本当の信仰」や「美しいこと」という言葉の裏には、とてつもなくねじ曲がった、変態的な意味が隠されているに違いないわ。つまり……こういうことよね?
彼は自分の内にある「他者を痛めつけたい」という邪悪なサディズムの欲望を、私という「聖女」の圧倒的な存在感によって、無理やり抑え込まれている。悪事を働きたい。他人の泣き顔が見たい。でも必死にその黒い欲望に蓋をして、「正しいこと」を演じ続けるという、極限の苦行を自分に強いているのだわ!
自らの本性を否定し、内側から自分自身を拷問にかけながら、表面上は涼しい顔をして聖職者を演じ続ける。ああ……!なんて……なんて健気で、そして究極のドMなの!!
普通なら、自分の欲求に素直に従って悪の道に堕ちる方がずっと楽なのに。彼はあえて、自分を一番苦しめる「善人としての道」を、私のために選んでくれたというのね!自分の精神をギリギリまで削りながら、禁欲という名の鎖で自分を縛り上げている。
その禁断の果実を前にして「おあずけ」を食らっている忠犬のようなプレッシャーが、今の彼の色気を限界まで引き上げているのよ!素敵!!最高にクールでホットだわ!!今すぐその厚い法衣を引き剥がして、力いっぱい抱きしめてあげたい衝動に駆られるけれど、ここは神聖な礼拝堂だし、お義父様の目もあるから、グッと堪えるわ。
「…………わかった。我が息子は、ここまで清廉な修道士となっておったか。空っぽだったお前が……。神父の座を渡すのも近いかもしれんな」
「はい。時期が来れば神父として、代行者として、信仰を貫きたく思います」
でもね、お義父様。貴方の息子さん、神父の座に就いたら、懺悔室に来た信者の悩みを嬉々としてえぐり出して、余計に絶望に突き落すような悪魔になっちゃう可能性が極めて高いですよ?
「綺礼よ。彼女を……好いておるのか?」
直球ね!お爺ちゃん、意外とミーハーなところがあるじゃない!それに対する綺礼さんの答えは、「私の人生を最後まで見届けてもらえるよう頼んだだけです」という、極めてポエミックで、かつ意味深な回避のテクニック。
「私は……彼女に、私の人生を『最後まで見届けてもらえるよう』頼んだだけです」
「分かった……。ジャンヌ・ダルク殿、息子のこと。よろしくお願いします」
キターーーーー!!ドラマで絶対に見るやつ!親公認のカップル成立の瞬間よ!!
「はい!彼が楽しまないように、しっかり節制させますね!」
私のこのセリフ、璃正さんの耳には「彼が世俗の享楽に流されず、清貧な聖職者としての道を歩めるよう支えます」という、聖女らしい健気な誓いの言葉として変換されて届いたに違いないわ。
彼がうんうんと涙ながらに頷いているのが、その証拠よ。
「真樹、私もついていこう!アサシン!頼むぞ!」
「さあ、行きましょうか、綺礼さん!私たちの新しい舞台へ!」
「ああ。貴女の導くままに」
◇◇
「ねえ、綺礼さん。ランスロットさんのところだけ、誰が助演なのか知らないのよね」
「間桐の家が残りの御三家と言われるが、誰が参加を表明しているのかは教会にも情報がない」
御三家って何かしら。徳川家康の血筋みたいな、由緒正しい家柄のこと? それとも、アイドル業界でいうところのトップ3プロダクションみたいなものかしら。
遠坂家、アインツベルン家、そして間桐家。
なるほど、名門の劇団(プロダクション)が三つ巴でこの冬木の覇権を争っているという基本設定(プロット)なのね。そういうバックボーンを聞くと、俄然やる気が湧いてくるわ。
でも、その間桐とやらの陣営だけ、まだ挨拶(顔合わせ)を済ませていない。ランスロットさん(黒い甲冑の狂戦士)は昨日の夜に大暴れしていたけれど、彼の担当マネージャー(マスター)の顔を誰も見ていないのだ。
これは幹事として、そして風紀委員長として、直接お宅に乗り込んで招待状を叩きつけるしかないわね。
深山町の入り組んだ坂道を登り切った先に、その異様な洋館は建っている。
門の表札には、擦れかけた文字で『間桐』と刻まれている。
見事なまでの「お化け屋敷」ね。
蔦が絡まりまくった石造りの門柱。手入れのされていない、鬱蒼と茂る庭の木々。そして、日の光を一切拒絶するかのように重苦しく佇む、暗い灰色の洋館。
美術さん、いい仕事をしているわ。これ、ホラー映画の撮影セットとしては百点満点よ。
でも、玄関周りの掃除くらいは定期的にやった方がいいわ。枯れ葉が溜まりすぎていて、風水的に最悪よ。これじゃあ良い役者も育たないわ。
「ごめんくださーい!」
暗がりの中から姿を現したのは、一人の老人だ。
異様に小柄で、腰が大きく曲がっている。髪の毛は一本もなく、頭蓋骨に直接薄い皮を貼り付けたような、不気味なハゲ頭。深く窪んだ眼窩の奥底で、濁った瞳がこちらをギョロリと見据えている。
特殊メイクのクオリティが高すぎるわ! これ、メイクに何時間かかっているのかしら。シリコンのシワの質感とか、シミの描き込みとか、ハリウッドのメイクアップアーティストを雇っているとしか思えないわ。
「……何の用じゃ。聖堂教会の跡取りと……サーヴァント!!」
その声のトーン、完璧な「悪の黒幕(黒老中)」の演技ね! 腹の底から響くような不気味さが、ホラーのセットと相まって最高の雰囲気を醸し出しているわ。
「こんにちは! ランスロットさんと助演さん(マスター)いますか!?? 今夜、アインツベルン城でキャストの親睦会(王の宴)をやるので、そのお誘いに来ました!」
「……助演??? 我が家に俳優などおらんぞ??」
「またまたぁ。とぼけちゃって」
隠蔽工作(シークレット・キャスト)のつもりかしら。でも、私には通用しないわよ。
このお爺さんが、ランスロットさんのマネージャー(マスター)なのかしら??
いや、違うわね。
マスターとサーヴァントを繋ぐ、魔力供給のライン(パス)が可視化されて映るはず。でも、このお爺さんからは、そんな線は一本も伸びていない。
つまり、彼は直接の参加者(マスター)ではない。プロダクションの社長(当主)といったところかしら。
でも……この人??
なんだか、すごくおかしい。
……え?
嘘でしょ?
私の視界に映し出された老人の「中身」は、人間のそれとは全く異なっていた。
骨がない。
筋肉がない。
内臓がない。血液すら流れていない。
そこに人間の肉体は、一切存在していなかった。
あるのは……無数の、蠢く、醜悪な蟲の群れ。
何千、何万という、節足や粘液を持ったグロテスクな羽虫や芋虫の集合体。それが、ギュッと高密度に集まって、互いに絡み合い、蠢き合いながら、ギリギリ「老人」という人間の形を成しているだけなのだ。
皮膚に見えるものは、蟲たちの外殻の集合。
声帯の代わりに、蟲たちが羽を擦り合わせて音を出している。
眼球の代わりに、大きな蟲がその複眼でこちらを見ている。
うわあああああああああ!!!!
何これ!!!!
CG!? CGなの!?
「貴方……」
「随分と『面白い体(特殊メイク)』をされているんですね。これ、どういう仕組みなんですか? 中身、全部『虫』でできてるんですか?」
だって、すごい技術じゃない!
人間を辞めて、蟲の集合体として生きる。
そんなSFホラーのクリーチャーみたいな設定(役作り)を、CGなしのフル・アニマトロニクス(実体)で実現しているなんて!
このお爺さん、どれだけ演劇に魂を売っているの!? クローネンバーグ監督の映画にそのまま出られるわよ!
「なッ……!!?」
「すごいわ! 俳優の鑑ね! 自分の肉体すらも小道具(プロップ)に改造して、役作りのために人外の領域に踏み込むなんて! ハリウッドの大物俳優も真っ青の過酷な肉体改造よ! 尊敬します、大先輩!」
「き、貴様……何者じゃ……その眼は……」
「何者かって? だから、ジャンヌ・ダルクですってば。今は世界を騙る詐称者(プリテンダー)のクラスですけど。それより、その虫の体、維持するの大変じゃないですか? 乾燥肌対策とかどうしてるんですか? 化粧水とか浸透するんですか?」
「真樹……。間桐の魔術が蟲を操るものだという知識はあったが、まさか当主自らが蟲の群れに成り果てていたとは……。それを瞬時に見抜く貴女の眼は、もはや教会の秘蹟すら凌駕している……」
彼女は恐怖を理解しない。
それが、最も恐ろしい。
【超重要・展開が変わります】真樹は聖杯にかける願いを…。
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言う
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言わない