冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~   作:斉宮 柴野

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剣ではなく、舌で決める夜。


王の格付け

ジャジャーン!!どう!?この見事なセット!!

 

昨日、半壊していたアインツベルン城の大広間が、たった数時間で超一流の特設スタジオへと劇的なビフォーアフターを遂げたのよ!

 

私の回路をフル稼働させて、魔力で壁のヒビを塞ぎ、崩れた瓦礫を再構築したの。

レッドカーペットはもちろん新品。天井には、どこから持ってきたかわからないくらい巨大でキラキラのシャンデリアが輝いている。

 

正面の壁には、でかでかと『一流の王は誰だ!?聖杯格付けチェック』っていう金ピカのタイトルロゴの看板まで吊り下げてあるのよ。バラエティ番組のひな壇セットとしては完璧な仕上がりね!美術スタッフ(私)の血と汗と魔力の結晶よ!

 

 

 

よし、皆集まったわね!

招待状の効果は抜群で、冬木の夜に錚々たる面々が、見事にこの特設スタジオに顔を揃えたわ。

主演席の最上段、いわゆる上座には、今回の企画の言い出しっぺであるアレクサンドロス大王。なぜか、ものすごく立派な「紋付袴」を着込んで、腕を組んでどっしりと座っている。あの巨体に和服って、相撲部屋の親方か極道の親分にしか見えないんだけど。本人は「極東の島国の正装だ」って大層気に入っているみたいだから、まあ良しとしましょう。

 

その隣には、黄金のタキシードでビシッとキメているギルガメッシュ王。相変わらず成金趣味全開だけど、顔がいいから腹立たしいくらい似合っているのよね。ホストクラブのナンバーワンみたい。

 

……あれ??何でモルガン(アルトリアちゃん)が、その王様二人と同じ最上段の席に座っているの??しかも、純白のウェディングドレスみたいな、超絶豪華なフリフリのドレスを着て。頭のアホ毛まで、ティアラに合わせて綺麗にセットされているじゃない。

 

ちょっと、ディレクターの指示、聞いてなかったの!?貴女は「給仕係」兼「その他のサーヴァント枠」だって言ったじゃない!本気で自分が「王の宴」のメインゲストだと思い込んでいるのね。その鋼のメンタル、バラエティ的にはオイシイから、今は泳がせておくわ。

 

二段目の席には、空気と同化する気配消しの達人、アサシンさんと、さっき間桐家からスカウトしてきたランスロットさん。三段目には、私の忠実な騎士ジルと、黒いタキシードを完璧に着こなしているディルムッドさん。ディルムッドさん、その泣きぼくろとタキシードの破壊力、反則級よ。客席のソラウさんが、鼻血を出しそうな勢いで興奮しているのが見えるわ。

 

それにしても、ランスロットさん。先ほどから、最上段に座っている純白ドレスのアルトリアちゃんをジッと見つめたまま、顔を真っ青にして、カタカタと小刻みに震えているわ。どうしたのかしら。もしかして、生前の浮気相手とか?

 

「円卓の騎士」って、なんかドロドロした社内恋愛が多かったって聞いたことがあるわ。まさか、王の姉と不倫した相手が彼だったりして!?もしそうなら、ドロドロの愛憎劇の予感!視聴率が爆上がりする最高のゴシップネタね!後でMCとしてガンガン突っ込んであげるから、覚悟しておきなさい!

 

そして、舞台の反対側。助演席には、スリーピースのスーツで顔面蒼白になっている時臣さんに、ヨレヨレのトレンチコートで死んだ魚の目をしている切嗣さん。ケイネス先生は、ベルベットの特注スーツでバシッと決めているけれど、その横でウェイバー君が、借り物のブカブカのスーツを着て、胃を押さえて蹲っている。

 

最前列には、和服姿で可愛らしくキメた天才子役の桜ちゃんと、私の公認彼氏である綺礼さん。綺礼さんはいつも通りの黒い法衣だけど、それが一番彼に似合っているわ。禁欲的な神父服って、色気の最高潮よね。

 

ちなみに、カメラに映らない観客席には、真っ白なドレスのアイリスフィールさんや、背中の大きく開いたセクシーなイブニングドレスで切嗣さんを悩殺しようと企んでいる舞弥さん、そして推し活に命を懸けているソラウさん達が、パイプ椅子に座ってワクワクしながら見学しているわ。女たちの静かなマウント合戦も、裏番組として同時進行中よ。

 

格を決めるなら全員で!主演も助演も、余すところなくチェックよ!!誰が本当の一流で、誰が映す価値なしの三流なのか、この私が白日の下に晒してあげるんだから!

 

「聞け、この領域に集いし一騎当千、万夫不倒の英霊たちよ!」

 

「本来相容れぬ敵同士、本来交わらぬ時代の者であっても、今は互いに武器を納めよ!我が真名はジャンヌ・ダルク!主の御名のもとに、貴公らの盾となろう!」

 

この瞬間だけは、私は完全に「ジャンヌ・ダルク」というキャラクターに憑依しているわ。清廉潔白で、公平無私。誰もが私の言葉に耳を傾けたくなるような、奇跡のカリスマ性を。

 

「マスター達の戦いは、血で血を洗う凄惨な殺し合い。……ですが、悲観する事はありません!貴方達には無数の可能性がある!聖杯はまだ、誰の手にも渡っていないのだから!」

 

「さあ───戦いを始めましょう、マスター、サーヴァント。これは武器によらない戦い!誇りと、教養と、そして運命を懸けた、血の流れない知的な闘争!」

 

「聖杯問答!『サーヴァント&マスター格付けチェック』の開催をここに宣言する!!」

 

ドカーーーン!!私の宣言と同時に、天井から金と銀の紙吹雪が盛大に舞い降りる。

 

 

「おおおおおおお!!!!!!」

 

パチパチパチパチ!!!

 

カメラの裏側に控えているアサシン一同が、一斉に熱烈な拍手と歓声を上げる。サクラの観客としては、これ以上ない完璧な盛り上げ方よ!

 

髑髏の仮面を被った暗殺者たちが、「ヒューヒュー!」とか「いよっ、聖上総監督!」とか合いの手を入れている図は、シュールすぎてちょっと笑いそうになるけれど、そこは女優魂でグッと堪えるわ。

 

 

 

………決まった…。私の最高の開会宣言が、これ以上ないくらいに完璧に決まりまくって怖い!

 

滑舌、声のトーン、ポージング。すべてがアカデミー賞の授賞式レベルの完成度よ!

 

ああ、自分が天才すぎて、もう自分がキマりまくって怖いわ!あーハッハッハ!!!

 

 

 

「………キャスターよ。あのジャンヌ殿は、大丈夫なのか??頭の具合というか……その、精神状態が」

 

…騎士道に生きる真面目な彼には、この「バラエティ番組のノリ」が全く理解できないみたいね。

 

「ええ……まあ……平常運転です」

 

「平常運転」ですって?ちょっと、ジル。それって私が普段からこんな狂ったテンションだって言ってるの?

 

「むしろ絶好調です。あの御方は、舞台に立つと水を得た魚のように輝かれるのです。我々はただ、あの御方の演出に身を委ね、最高の演技で応えるのみ。それが、忠臣としての務めというもの」

 

やっぱりさすが私の筆頭ファンクラブ会員ね!私の狂気を、誰よりも正しく理解してくれているわ。

 

「そうか……。聖女というのも、なかなか難儀な生き物なのだな。……苦労するな貴公も」

 

ちょっと!そこのイケメン!私語は慎みなさい!カメラ回ってるのよ!緊張感を持ちなさい!

 

 

 

◇◇

 

 

 

「では、早速参りましょう!第一のチェックです!!」

 

ゴクリ……。誰かが生唾を飲み込む音が、静かな空間に響き渡る。

 

これはただのバラエティ番組じゃない。英霊としてのプライド、名門魔術師としてのメンツ、そして何より「一流」としての格を懸けた、血で血を洗う戦いの火蓋が切られたのだから!

 

「ズバリ!!『舌』よ!!」

 

「舌???」

 

「一流のサーヴァントであり、一流の魔術師であるならば、わかって当然!お酒の味を比べてもらう、利き酒対決です!A・B・Cの3つのグラスから、本物の『一流の味』を当ててもらう、シンプルな3択クイズよ!」

 

アシスタントのアサシンさんが運んできたワゴンを指差す。そこには、中身の見えないワイングラスが三つ、うやうやしく並べられている。

 

「今回ご用意したのは、こちら!まず一つ目は、我らがギルガメッシュ王の黄金の蔵から特別に提供していただいた、神代の美酒『ソーマ』!飲めば不老不死になるとかならないとか言われている、伝説の超高級酒よ!」

 

「ほう、我のコレクションから出題とはな。妥当な判断だ。だが、一流の王ならば、舌に触れた瞬間にその価値を理解できて当然の代物よ」

 

ギルガメッシュさんの発する黄金のオーラが、スタジオの照明を凌駕するほど眩しいわ。

 

「そして2つ目は、我が日本の誇る最高級日本酒『夢雀』の、なんとヴィンテージよ!これ、普通に買ったらウン十万円は下らない、幻の銘酒なんだから!味わって飲んでよね!」

 

「ほう!それは美味そうだな!」

 

「そんな高級品、どこから経費が出てるんだよ……」

 

ふふっ、経費?そんなの、私の『模倣』で概念だけ錬成したイミテーションに決まってるじゃない。味覚の再現度は完璧だけど、原価はゼロよ!

 

「そして3つ目は……これは絶対に選んではいけない『アカンやつ』です!そこら辺のディスカウントスーパーで買ってきた、一本500円のやっすい合成清酒と果実酒を、『私』が適当にシェイカーで振って作った、名付けて『真樹特製・悪夢のカクテル』よ!」

 

「な……!!」

 

「出題者のギルガメッシュ王は、ご自分のお酒がわかって当然なので、解答権はありませーん。というわけで、遠坂陣営の代表解答者は、マスターの時臣さんにお願いしまーす!」

 

「な……!!貴様、時臣!!マキの手作りカクテルを、この我が飲む機会を奪うとは!万死に値するぞ!許せん!」

 

えええええええ!?そっち!?「俺の酒と安酒を間違えるなよ!」って怒るのかと思ったら、「なんで俺が真樹の手作りカクテルを飲めないんだ!」ってキレてるの!?

 

私の適当カクテルをそんなに飲みたかったの!?面倒くさい男ナンバーワンの称号は揺るぎないわね!

 

「もし間違えたら……貴様の命はないものと思え!!串刺しにして冬木大橋から吊るしてやる!!」

 

「王よ……!!」

 

時臣さんの端正な額から、滝のような冷や汗がナイアガラの瀑布のごとく流れ落ちている。

 

可哀想に。しかも、正解しても「マキの手作りを飲んだ罪」で殺されそうだし、不正解でも「神代の酒を見抜けない罪」で殺されそう。詰んでるわね。

 

完全なるデッドエンドよ。時臣さんの胃に、特大の穴が開く音が聞こえた気がするわ。

 

「はいはい、時臣さんはプレッシャーに負けないように頑張ってね!つぎ、ライダー陣営の代表は、アレクサンドロス大王!」

 

「おお!飲むのは任せておけ!どんな酒でも、余の胃袋が全てを飲み干してやろうぞ!ガッハッハ!」

 

頼もしいわね!でも、これ早飲み競争じゃなくて、利き酒だからね?ガブ飲みして味がわからなくなったら意味ないわよ。

 

「僕は未成年だから、日本ではお酒は飲めないからな!法律違反で番組が打ち切られたら困るだろ!」

 

あら、真面目ね。確かに、十九歳の彼にお酒を飲ませたら、放送倫理的にアウトしちゃうわね。「魔術師の世界に法律なんて関係ない」って言い張りそうなものなのに、意外と常識人なのね。

 

「次!セイバー陣営からは、モルガン様!」

 

「だから!私はモルガンではない!アーサー王だ!!なぜ誰も信じないのだ!この王の宴で、私の王道を語り、私が真のアーサー王であると証明を……!!」

 

「私はアーサー王だ!」って、もう何度目の自己申告かしら。でも、悲しいかな。彼女が必死になればなるほど、周囲からは「ああ、またあの狂女がアーサー王のフリをして痛々しい妄想を語っている」という、哀れみの目で見られてしまうのよね。

 

「はいはい、貴女の自己紹介タイムは後で設けてあげるから!番組の尺が足りなくなっちゃうので、今は急いで下さい!!巻きでお願いしまーす!」

 

「次!バーサーカー陣営からは、ランスロットさん!」

 

「主はまだ幼い子供ゆえ……アルコールを摂取させるわけにはいきません。私がマスターの代理として受けるのは、騎士として当然の義務ですな」

 

「ランスロット!貴公!貴公ならばわかるはずだ!私がアーサー王だと、皆に証言してくれ!!貴公は私の第一の騎士であった男!貴公ならば、私の顔を、私の剣を、そして私の魂を知っているはずだ!!頼む、ランスロット!私の無実を晴らしてくれ!!」

 

「おお……!!お許し下さい……!!」

 

ランスロットさんは、アルトリアちゃんの姿を見るなり、その場にガクンと両膝をつき、大理石の床に額をこすりつけるような勢いで深く頭を垂れた。

 

「えっ?」

 

(ああ、王よ……!アーサー王よ……!!私は貴方に合わせる顔がない……!貴方の妃と不義の罪を犯し、円卓を崩壊に導いたこの大罪人たる私が、どうして貴方の御前に顔を向けられようか……!否、断じて否!いっそこの場で私を裁いて、その聖剣で私の首を刎ね、罰していただきたい……!)

 

「なんと高潔な……。騙された相手とはいえ、波風を立てぬよう、あえて頭を下げてやり過ごすとは……。あれこそが騎士の鑑だな」

 

「やはりモルガン……恐ろしい女だ。あの高潔な円卓の騎士を、ひと睨みであそこまで怯えさせ、平伏させるとは……魔女の業は深い。我々も気を引き締めねばな」

 

彼の中では完全に、「アルトリア=恐ろしい魔女モルガン」という図式が完成されてしまっている。

 

「違う!!そうじゃない!!何でそうなる!!ランスロット、顔を上げて私の目を見ろ!!私は呪いなどかけていない!!なぜ皆、私を魔女だと思い込むのだ!!」

 

彼女の懸命な弁明は、周りの人間には「魔女が必死に無実を装って、さらに相手を追い詰めている」という、サイコパスな悪役にしか見えていないのよ。

 

ドツボね。完全にアリ地獄に落ちているわ。でも、その報われないヒロインのポジション、視聴者の同情を誘うから、意外と人気出るかもしれないわよ?頑張って耐えなさい、アルトリアちゃん!

 

「んん??そこ、内輪揉めはしないで!泣きたいなら楽屋に帰って泣きなさい!今はカメラが回ってるのよ!」

 

「次!アサシン陣営からは、綺礼さん!」

 

「我々のなかに酒に通じた者はいなかった……」

 

暗殺者って、お酒飲まないのね。まあ、酔っ払って手元が狂ったら、仕事にならないものね。真面目な職業病だわ。

 

「ということで、マスターである綺礼さんが挑戦よ!綺礼は『お酒集め』が趣味だもんね!テイスティングの腕の見せ所よ!頑張って!」

 

「ああ、ありがとう。真樹」

 

「綺礼……」

 

「真樹……」

 

見つめ合う二人。過酷な聖杯戦争の合間に咲いた、禁断のロマンス。ああ、なんて美しい画なのかしら!

 

「不正だ!!審判が完全に一人の参加者に籠絡されているぞ!!公平性がない!!あの二人だけ、明らかにイチャイチャしてるじゃないか!!BPOに訴えてやる!!」

 

ウェイバー君が必死に指を差して抗議する。

 

「るさい!MCの特権よ!文句があるなら、貴方も可愛い彼女でも連れてきなさい!」

 

番組のルールは私が決めるの。私が法よ!

 

「次!キャスター陣営の代表、ジル!」

 

「ジャンヌ!!見事当てて見せますぞ!!貴女の愛したフランスのワインの味、我が舌に深く刻まれておりますゆえ!我が魂にかけて、神代の酒とやらをテイスティングしてみせましょう!」

 

うんうん、その気合は買うけど、今回フランスのワインは出題されていないからね?

 

彼の舌の基準が、神代の酒や日本の酒に通用するのか、ちょっと怪しいところだけど、まあお手並み拝見ね。

 

「そして最後!ランサー陣営からは、ケイネス先生!」

 

「主よ!頑張って!!貴方のその高貴なる舌で、我ら陣営の誇りを見せてください!!絶対に一流の味を見抜けます!!」

 

その純粋さが、時に人をどれほど追い詰めるか、彼はわかっていないのよね。

 

「酒は……わからないのだ……。私は、魔術の研究に人生を捧げてきたのだぞ……。なぜこのような、俗物極まりない見世物小屋で、ピエロの真似事をさせられねばならんのだ……」

 

英国紳士たるもの、高級なワインや年代物のスコッチ・ウイスキーの知識やたしなみはもちろんある。社交界でのマナーも完璧に身につけている。

 

しかし。「神代の酒」と「日本の最高級酒」、そして「女子大生の適当カクテル」の利き酒などという、あまりにも難易度の高い三択問題は、時計塔のどのカリキュラムにも存在しないのだ。もしここで「女子大生の適当カクテル」を選んでしまったら、彼の「一流魔術師」としての名声は地に落ち、時計塔での地位も危うくなるだろう。

 

教え子の目の前で大恥をかくという、プライドの高い彼にとっては死よりも辛い屈辱が待っている。

 

「先生!時計塔の天才の意地を見せてくださいね!もし間違えたら、明日の『冬木魔術・スポーツ新聞』の一面に『エルメロイ卿、スーパーの安酒を絶賛!舌は三流だった!』ってデカデカと載せますからね!」

 

さあ、役者は揃った!グラスは用意された!彼らのプライドと、名誉と、そして命を懸けた、究極の味覚テスト。果たして、誰が「一流」の座を守り抜き、誰が「映す価値なし」の三流以下へと転落するのか!?

 

「それでは皆様、A・B・Cのグラスのテイスティングを、始めてください!!」




一流とは何か。
それを決めるのは、杯か、それとも覚悟か。

【超重要・展開が変わります】真樹は聖杯にかける願いを…。

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