冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~ 作:斉宮 柴野
だが、誇りは血を流す。
「皆様!ひな壇のマスターとサーヴァントの皆様に、究極の三択問題を選んでいただく前に!ここで、特設スタジオの最上段のVIP席におわす我らがギルガメッシュ王には、試しに全種類のグラスを飲んで、その味を確かめてもらいましょう!なんたって今回の問題の『出題者』にして、最高級の美酒の提供者ですからね!自分の蔵から出したお酒の味がわからないなんていう、大失態を演じるはずがありません!」
照明スタッフが、完璧なタイミングでピンスポットの光を最上段の席へと向ける。
眩い光の中心で、黄金のスパンコールが散りばめられた悪趣味スレスレの豪華なタキシードに身を包んだ英雄王が、ふんぞり返ったまま不敵な笑みを浮かべている。
「フン。我を味見係に使うとは……不敬極まりない小娘よ。だが、番組の尺を気にして、テンポ良く進行しようとするその殊勝な心がけだけは評価してやろうではないか。我の至高の味覚をもって、本物の酒というものを下賎な貴様らに教えてやるわ」
なんて偉そうな態度の味見係なのかしら。
普通、テレビ番組で試食や試飲をするタレントってもっとニコニコして「いただきまーす!」とか言って愛想を振りまくものよ。
でも、この天上天下唯我独尊な傲慢さこそが彼の持ち味だから仕方ないわね。
テーブルの上には、A、B、Cと書かれた札と共に、中身の見えないように細工された三つのグラスが並んでいる。どれも注がれている液体は無色透明で、見た目だけでは全く区別がつかないようになっているわ。美術さんの完璧なセッティングよ。
この『A』のグラスに入っているのは、私が日本の酒蔵から特別に取り寄せた、日本酒の最高峰『夢雀』のヴィンテージ熟成物よ。普通のサラリーマンの月給が軽く吹き飛ぶような、超絶ハイパー高級なお酒なんだから。人間が作り出せる味覚の極致の一つと言っても過言ではないわ。
さあ、どう!?人類の叡智の結晶の味は!
「……ふむ、なんだこの安酒は!水を腐らせたような泥水ではないか!この我の神聖なる舌を汚す気か、雑種!」
ええええええええ!?ちょっと待って!それ、一本ウン十万円もする超高級酒よ!?杜氏さんが何年もかけて精米して、発酵させて、熟成させた奇跡の雫に向かって、「腐った泥水」だなんて!どんだけ味覚のハードルが高いのよ!
まあ、神代の神々が飲むようなお酒を普段からガブ飲みしている彼からすれば、現代の人間が作ったお酒なんて、工業廃水みたいに薄っぺらく感じるのかもしれないわね。悔しいけれど、これが『格の違い』っていうやつなのかしら。
「やはり、現代の人間の作り出すモノなど、所詮はこの程度。我の蔵の足元にも及ばんわ」
今度は『B』の札が置かれたグラスを優雅な手つきで持ち上げる。この『B』のグラスこそが、彼自身が提供した神代の美酒『ソーマ』よ。グラスの中で液体自体が微かに発光しているような、明らかに物理法則を無視したヤバいオーラを放っているお酒。
一口飲んだら魔術回路が爆発して不老不死になるんじゃないかってくらい、濃厚な魔力の匂いがプンプンしているわ。
「……うむ。これこそ酒というものよ。口に含んだ瞬間に宇宙の真理が広がるかのような、この圧倒的な芳醇さ。我が蔵の底に眠る、神代の神々すら酔いしれた奇跡の味よ。Aの泥水とは比べるべくもないわ」
そりゃそうよね、自分の持ち物なんだから。自分で自分のお酒を褒めちぎるって、ちょっとナルシストが過ぎる気もするけれど、本当に美味しいんだろうから反論できないわ。
さあ、いよいよ最後の一杯よ。この『C』のグラスの中身。これこそが、この聖杯格付けチェックの最大のトラップであり、私の演出家としての悪意の結晶よ!
中身のレシピを特別に教えてあげるわ。私が昨日の昼間、商店街の外れにある激安ディスカウントスーパーで買ってきた、二リットルで五百円の紙パックに入った合成清酒。それに、子供向けの甘ったるい粉末ジュースを水で溶かしたものを三割ほどブレンド。さらに、色を黄金色に近づけるために、栄養ドリンクを少々混ぜ合わせてシェイカーで振っただけの、原価にして一杯あたり約十五円の、悪魔の適当カクテルよ!
普通の人間が飲んだら、悪酔いして三日は頭痛が治らないような代物。でも、ただの安酒じゃないわ。そこに、私の中の魔術回路から絞り出した、限界ギリギリの魔力を注ぎ込んであるの。私の現在のクラスは『プリテンダー』。世界すらも騙し抜く、概念の書き換えに特化した存在。私はその力を使って、この十五円の適当カクテルに、「飲んだ者が無意識下で最も求めている『至高の味覚』を脳内に直接錯覚させる」という、とんでもないデバフの概念を付与してあるのよ!
つまり、飲んだ本人の脳を直接ハッキングして、「これこそが世界で一番美味しい飲み物だ」と強制的に誤認させる、極悪非道なチート・ドリンクというわけ!
「……ん??うーむ」
「………ん?んんんんっ!?美味い…!!な、なんだこれは!?まさに至高!!否、至高という言葉すら生ぬるい!!酒という概念、いや、快楽という概念そのものを、直接魂で味わうかのような圧倒的な衝撃!!!甘美でありながら力強く、神々の宴すら色褪せるほどの極彩色の味わい!!これを味わえば、それ以外はすべて泥水以下だ!!素晴らしい!!素晴らしすぎるぞ!!誰だ、この奇跡の神酒を醸造した者は!!」
そんなに!?そんなに効くの!?私の適当カクテルの威力、予想以上じゃない!
最高!最高に滑稽で、最高に面白い画だわ!!これよ、これ!私がバラエティ番組に求めていたのは、この「絶対的な権威が、くだらない罠にハマって大真面目に転落する瞬間」なのよ!
笑いを堪えるのに必死で、私のお腹の筋肉が引き攣りそうになっているわ。
「さあ!デモンストレーションは終了です!ギルガメッシュ王は、今飲んだA、B、Cの三つのグラスの中で、どれがご自身の蔵から出した『神代の酒』だと思います??」
さあ、答えてちょうだい、英雄王!貴方のその無駄に高いプライドと絶対の自信を、カメラの前で思い切りへし折ってあげるわ!
「愚問だな、雑種!答えるまでもない!!この圧倒的な美味、魂を揺さぶる至高の味わい!我が蔵の奥底に眠る神代の美酒『ソーマ』は、間違いなくこの『C』だ!!AとBなど、このCの前ではただの薄汚い泥水に過ぎんわ!!フハハハハハ!!」
彼の顔には、微塵の迷いもない。「これこそが我が宝物庫の最高傑作である」と、本心から信じ切っている、清々しいほどのドヤ顔よ!
完璧な前振りね!これ以上ないほどに高く積み上げられた自尊心のジェンガを、私がたった一指しで崩壊させる快感。ああ、演出家冥利に尽きるわ!私は、深呼吸をして、最高のタイミングで、そして最高に残酷なトーンで、正解発表のファンファーレを口にする。
「ブー!!残念!!不正解です!!ギルガメッシュ王の提供した神代の美酒は『B』でしたー!」
「…………なんと!!」
すべての宝の原典を持ち、真理を見通す千里眼を持つとされる最古の王が。自分の提供した最高級の神代のお酒と、女子大生がスーパーの材料で適当に作った一杯十五円のカクテルの味を、完全に間違えたのだ。
しかも、「C以外は泥水だ」とまで言い切って、自分自身の本当のお酒を全力でディスった上で、安酒をベタ褒めするという、これ以上ないほどの完璧な自爆っぷり!放送事故よ!これは魔術協会の歴史に残る、特大の放送事故だわ!
「いや、違うな。我は間違えてなどおらん。我が神代の酒の味が落ちたわけではない。ただ、あの『C』の酒が、我が蔵の神酒を遥かに凌駕するほどに美味かったのだ。それだけのことよ。より美味なるものを『最高』と評価して何が悪い。王たる我の舌が『これが一番だ』と判断したのだから、それが世界の真理というものだ」
え?いやいや、完全に間違えてたじゃない。ブザー鳴ったでしょ?
ジャイアンも真っ青の自己中心的な論理変換よ!あまりの堂々とした開き直りっぷりに、ツッコミを入れる隙すら与えられないわ!
「神代の酒を超える代物が、この現代の泥にまみれた世界に存在したとはな……マキよ!!貴様の作ったというそのCの酒、大いに気に入ったぞ!!我が宝物庫の最奥に特別に保存してやるゆえ、至急、樽で百個ほど作っておけ!費用は我がマスターに請求して構わん!!」
樽で百個!?スーパーの五百円の合成清酒と粉末ジュースのカクテルを、樽で百個も!?それを宝物庫に大切に保管するつもりなの!?数千年後に彼が宝物庫から武器を射出する時、神造兵装とかと一緒に、紙パックの安酒カクテルが射出されるかもしれないのよ!?シュールすぎるわ!!面白すぎるから、全力で乗っかってあげる!
「はいはい、畏まりましたー!あとでスーパー『玉出』の在庫を買い占めておきますねー!ポイントカードのポイントが爆溜まりしそうで嬉しいわ!」
十五円のカクテルを樽百個分で、時臣さんに何億円って請求書を回してやろうかしら。遠坂家の財政が破綻しちゃうわね。
「さてさて皆様!出題者である王様本人が、自分の神酒と安酒カクテルを間違えて大絶賛するという、番組の根幹を揺るがすような波乱の幕開けとなりましたが、ルールはルールです!!ここからが本番よ!ひな壇のマスターとサーヴァントの皆様は、今のギルガメッシュ王の無様な……コホン、素晴らしいテイスティングを参考にしつつ、A・B・Cの三つの部屋に分かれて移動してもらいます!もちろん、正解の『ソーマ』の部屋を選べた陣営だけが一流の座を維持できるのよ!」
「もし間違えて、私の作った『アカンやつ』の部屋を選んでしまったら、その陣営は容赦なく『二流』『三流』、最悪の場合は『映す価値なし』へとランクダウンしてもらいますからね!!プライドを懸けた味覚のサバイバル、皆様は何を選ぶのでしょうか!CMのあと、いよいよ皆様のテイスティングの発表よ!!」
◇◇
さあ、CM明け!ギルガメッシュ王の「出題者が安酒カクテルを神酒だと勘違いして大絶賛する」という、テレビ史に残る伝説の放送事故を終えて、いよいよ本番の格付けチェックよ!
「まずは遠坂陣営!遠坂時臣さん!マスターを代表して、トップバッターをお願いします!」
なんとか「優雅たれ」の家訓と英国紳士の意地で持ち直したみたいね。
「…………」
彼の背後には、彼に「間違えたら殺す」と理不尽な死刑宣告を出したパワハラ上司が、腕を組んでジッと見下ろしている。さらに、自分が間違えれば「遠坂家の当主がスーパーの安酒を絶賛した」という不名誉なレッテルを一生貼られることになる。魔術師としてのプライド、命の危機、そして社会的な死。トリプルパンチのプレッシャーが、彼の細い肩にズシリとのしかかっているわ。可哀想に。胃薬のCMオファーが来そうな最高の胃痛顔ね!
公平を期すために、時臣さんにはアイマスクを着けてもらう。エレガントなスーツ姿にパンダのアイマスク。シュールすぎて、これだけでもう面白い画になっているわ。
「では、Aのグラスからどうぞ!」
(A……。美味い!!酒造技術の結晶、まさに芸術品だ!研ぎ澄まされた米の甘みと、フルーティーな香りが鼻腔を抜ける。これほどの美酒、我が家の地下セラーにあるどのワインよりも上品で繊細ではないか……!)
さすが、一流の魔術師は舌も一流ね。日本の最高級酒の価値を正しく理解できているみたい。
「続いて、Bのグラスをどうぞ!」
(B……。神!!!な、なんだこの圧倒的な力強さは!一口含んだだけで、全身の魔術回路が爆発的に活性化するほどの神秘……!喉を通る感覚が、まるで星の瞬きを直接飲み込んでいるかのようだ!これが神代の美酒……!間違いない、英雄王の蔵の品だ……!)
よしよし、順調ね。ここまでは、彼の知識と経験が正常に機能している。
「最後に、Cのグラスをどうぞ!」
(C……。い、いや、これは悪魔的ではないか!!甘美にして幻惑的、まるで魂を直接甘い蜜で撫で回されているような、強烈な快楽物質が脳を支配していく……!Aの芸術性とも、Bの圧倒的な神秘とも違う、人間の根源的な欲望にダイレクトに訴えかけてくる、抗いがたい魔力……!魂を持っていかれそうだ……!)
ふふっ、効いてる効いてる!私の概念偽装ウィルスが、彼の理性を溶かしにかかっているわ!十五円の安酒カクテルを、魂を持っていかれるほどの悪魔的美酒だと錯覚している!
さあ、時臣さん!貴方の魔術師としてのプライドは、このチープで強烈な快楽に勝てるのかしら!?
「では、アイマスクを外して!答えは!!A・B・Cのどれが『神代の酒』でしょうか!?」
「……『B』!!」
「おおー!正解!大正解よ!!」
命拾いしたわね、時臣さん。ひな壇の助演席からも、「ほう」「さすがだな」と、称賛と安堵のどよめきが起こる。
「見事!一流魔術師の面目躍如ですね!その心は?どうしてBを選んだの?正直、Cの方が美味しく感じたんじゃない?」
私は、意地悪な質問をぶつける。バラエティ番組において、回答の根拠を聞き出すのは定石だからね。時臣さんが、乱れたスーツの襟を正し、咳払いをしてから答える。
「……確かに、Cは非常に美味しかったのですが……。いえ、美味しかったという表現では足りない。あれは、人間の理性を根底から揺さぶるような、危険で甘美な魅惑に満ちていました」
やめて、時臣さん。それ、ただの果汁ジュースと安酒のミックスだから。そんな高尚なレビューをされると、こっちが恥ずかしくなってくるわ!
「しかし……どこか『人間の情念』を感じました。計算し尽くされた、人工的な快楽の味。誰かが意図して作り上げた、極めて高度な『悪意』のようなものを。故に、大自然の理を超越した神代の神秘である、Bを選びました。あのような俗悪にして至高の魔薬は、神々には生み出せまい」
「見事!完璧なロジックね!さすが遠坂の当主、舌だけでなく、分析力も超一流だわ!」
「ふん。当然だ。我がマスターたるもの、これくらいの審美眼を持っておらねば、我が臣下としては使い物にならんからな。まあ、良しとしてやろう」
時臣さんは、主君の言葉に深く頭を下げて感謝しているけれど、顔は引き攣っているわ。本当に、この主従関係は見ていて飽きないわね。
◇◇
「さあ!遠坂陣営が一流の座を守り抜いたところで!次のチャレンジャー!代表、アレクサンドロス大王!」
「おう!待たせたな!酒の席とあらば、この征服王イスカンダルが遅れをとるわけにはいかんからな!」
彼にはアイマスクは必要ないわね。目隠しをしたところで、彼の豪快な性格なら、匂いと雰囲気だけで全部飲み干してしまいそうだから。
「僕は未成年だから日本では飲めないからな!コンプライアンス的に!法律を守らないと、魔術協会じゃなくて警察が来るんだぞ!」
ウェイバー君、わかった、わかったから。貴方はそこで大人しく、大王の保護者として控えていなさい。
「……しかし、この征服王にこのような美酒の味を覚えさせるのはまずかったな!余の舌が肥えてしまって、元の時代の酒が飲めなくなるかもしれんぞ!ガッハッハ!」
まずは『A』のグラスを手に取る。彼は、上品に香りを嗅ぐようなことはせず、グラスをグイッと傾けて、中身を一気に口に流し込んだ。
「むほう!これは美味い!なんという澄み切った味わいか!このような美味い酒、生前のマケドニアでは飲んだことがないわ!略奪する価値があるな!」
うんうん、いいリアクションね。素直でよろしい。でも、略奪はやめてね。平和にお金を払って買ってください。続いて、彼は『B』のグラスを手にする。これもまた、一息に飲み干す。
「これまた美味い!体の奥底から力が湧いてくるような、荒々しくも気高い味!これを飲んで戦場を駆け抜ければ、千の軍勢にも負ける気がせんわ!余の軍勢の兵士たちにも振る舞ってやりたいものだ!」
神代の酒の魔力を、完全に自分の闘気として吸収しているみたいね。さすが、規格外の豪傑よ。
そして、彼が最後の一杯、『C』のグラスを手にする。豪放磊落な征服王には、どう作用するのかしら?
「…………」
彼の見開かれた目から、ハラハラと一筋の涙がこぼれ落ちるのが見えた。え?涙?そんなに感動する味だったの!?私の適当カクテル、どうなってるの!?
「……なんという……なんという酒だ。これは……。余がかつて夢見た『最果ての海』の味がする……。果てしなく広く、甘美で、すべての欲望を飲み込むような、果てなき海の味……」
ちょっと待って。最果ての海の味って。それ、ただのブドウ味の粉末ジュースの味なんだけど!しかも、ちょっと安っぽい合成甘味料の甘さよ!それを『すべての欲望を飲み込む果てなき海の味』って!
大王様、想像力が豊かすぎるわ!私の幻術が、彼のロマンチシズムと完全に化学反応を起こして、とんでもないポエムを生み出してしまっている!
「いや、違うな。全部美味い!!AもBもCも、すべてが余の覇道に相応しい至高の美酒だ!ガッハッハッハ!」
「ちょっと!食レポになってないわよ!『全部美味い』じゃ、テレビ番組のコメントとして使えないじゃない!違いを語りなさいよ!」
豪快なのはいいけど、バラエティの文法を守ってくれないと、編集が大変なのよ!
「細かいことは気にするな、小娘!どれも美味かった、それで十分だろうが!」
「で、ではアレクサンドロス大王!!最終的な答えをお願いします!A・B・Cのどれが『神代の酒』でしょうか!?」
私は、気を取り直して彼に解答を促す。
「うむ!Bだ!!」
「おおー!これまた正解!!大正解よ!!」
「素晴らしいわ!迷いがなかったわね!さっきあんなにCのグラスに感動して涙まで流していたのに、どうしてBを選べたの?」
時臣さんのような理詰めの分析とは違う、彼なりのロジックがあるはずだわ。
「すべて略奪するに相応しい美酒であったが……『神代の酒』の格、つまり、歴史の重みと神秘の深さで言えば、あの荒々しい魔力を持つBであろうと踏んだのだ。あの『C』の酒は……そうだな。あまりにも甘く、あまりにも夢のようすぎた。あれは神々が飲むものではない。人間の、果てなき欲望の結晶のような味がしたからな!だが、『最高に美味い』と言われると、Cであろうな!余はBを神代の酒として選ぶが、個人的な好みで言えばCの勝利だ!」
王様たち、私の手作りカクテルを高く評価しすぎじゃない!?ギルガメッシュ王に続いて、アレクサンドロスさんまで「Cの方が美味い」って言っちゃうの!?
騙されつつも、本質は見失わない。それが、彼らが歴史に名を残した「一流の王」であり、「一流の魔術師」である証明ということなのかしら。私の悪意が、逆に彼らの格の高さを引き立ててしまっている。なんて悔しい……けど、最高に面白い展開じゃない!!
「見事です、アレクサンドロス大王!ライダー陣営も、一流の座をキープよ!」
◇◇
「はい!ここからは複数人でのテイスティングです!王様チームは、今回特別枠としてお一人でのご案内でした!!」
スポットライトが最上段の席と二段目の席を同時に照らし出す。そこには、純白のフリフリなウェディングドレスに身を包み、アホ毛を逆立てているアルトリアちゃんと、その斜め下で漆黒のスーツを着たまま、ガタガタと小刻みに震えているランスロットさんがいる。
「だから!私は魔女モルガンではない!アーサー王だと何度言えばわかるのだ!この王の宴で、私の高潔なる王道と、ブリテンの誇りを皆に証明しにきたというのに!!なぜ私が『チーム・円卓』として扱われねばならないのだ!!」
バラエティ番組のひな壇に響く「キレ芸」としては百点満点よ!
貴女のその必死さが、逆に「魔女が無理やり正当性を主張している」ようにしか見えないのよね。悲劇のヒロインというより、完全にコントのツッコミ役に定着しつつあるわ。
「ランスロット!貴公!貴公からも何とか言ってくれ!!皆に説明を!私が誰であるか、その口で証言してくれれば、この理不尽な誤解も解けるはずだ!!頼む、我が第一の騎士よ!!」
しかし。その希望は、あまりにも残酷な形で打ち砕かれることになるのだ。
「ううう……ギネヴィア……。私は……許してくれ……。ああ、何という罰だ……。王の御前で、罪深き私の前に、あの日の幻影が現れるとは……」
今、彼はアルトリアちゃんのことを「ギネヴィア」って呼んだ!?ギネヴィアって、アーサー王のお妃様で、ランスロットさんと不倫して円卓の騎士を崩壊させたっていう、あの超有名な歴史的スキャンダルのヒロインよね!?
なんで、アルトリアちゃんを見て、不倫相手の名前を叫んでるの!?
そうか……そういうことだったのね!歴史の教科書には書かれていない、円卓の騎士の真実が、今ここでパズルのピースのようにカチリとハマったわ!!
「おっと!!皆様!!何とここで、歴史を揺るがす衝撃の事実が発覚いたしました!!」
私は、マイクを持った手を高く掲げ、カメラに向かって、これ以上ないほどの大げさなトーンで絶叫する。特設スタジオの空気が、一瞬にしてピンと張り詰める。ひな壇のマスターとサーヴァントたちが、ゴクリと生唾を飲み込んで私の次の言葉を待っている。
「アーサー王の妻とされた絶世の美女、王妃ギネヴィア!!彼女の正体は、なんと、アーサー王の姉であり宿敵である、魔女モルガン様ご本人の変装であったことが、今ここで判明いたしましたー!!」
「「「「ええええええええっ!?」」」」
ひな壇のマスター陣から、一斉に驚愕の声が上がる。ウェイバー君なんて、あまりのショックで持っていたジュースのグラスを取り落そうになっているわ。時臣さんも、信じられないものを見る目でアルトリアちゃんを見つめている。
「つまりこういうことです!魔女モルガン様は、アーサー王を陥れるために、自ら王妃ギネヴィアに変装して王宮に潜入!そして、王の最も信頼する第一の騎士ランスロットを誘惑し、不倫関係に陥らせることで、円卓の騎士の内部崩壊を計画したという、恐るべきハニートラップの黒幕だったのです!!」
「違う!!断じて違う!!!!私はアーサーだ!ギネヴィアでもモルガンでもない!!ランスロット!目を覚ませ!私は貴公の王だぞ!!」
アルトリアちゃんが、顔を真っ赤にして、涙目で必死に否定する。彼女のアホ毛が、プロペラのように回転しそうな勢いで振り乱されている。しかし、私の捏造シナリオの「信憑性」を、他でもないランスロットさん自身が、完璧なリアクションで裏付けてしまうのだ。
「お許しを…………。ああ、私は、あの日の過ちを、貴女のその白きドレスを見るたびに……。私は、王を裏切り、貴女という魔女の甘い罠に落ちた愚か者……。」
ランスロットさんが、アルトリアちゃんの足元に深々とひれ伏し、大理石の床に額をこすりつける。完璧なまでの「不倫相手への懺悔」のポーズよ!!
「えっ?」
(ああ、王よ……!アーサー王よ……!!私は貴方に合わせる顔がない……!貴方の妃と不義の罪を犯し、円卓を崩壊に導いたこの大罪人たる私が、どうして貴方の御前に顔を向けられようか……!否、断じて否!いっそこの場で私を裁いて、その聖剣で私の首を刎ね、罰していただきたい……!)
「なんと高潔な……。騙された相手とはいえ、波風を立てぬよう、あえて頭を下げてやり過ごすとは……。あれこそが騎士の鑑だな」
時臣さんが、感極まったようにハンカチで目頭を押さえる。
「やはりモルガン……恐ろしい女だ。あの高潔な円卓の騎士を、ひと睨みであそこまで怯えさせ、平伏させるとは……魔女の業は深い。我々も気を引き締めねばな」
ディルムッドさんが、真剣な顔でジルに耳打ちする。彼の中では完全に、「アルトリア=恐ろしい魔女モルガン」という図式が完成されてしまっている。
「違う!!そうじゃない!!何でそうなる!!ランスロット、顔を上げて私の目を見ろ!!私は呪いなどかけていない!!なぜ皆、私を魔女だと思い込むのだ!!」
可哀想に。彼女の懸命な弁明は、周りの人間には「魔女が必死に無実を装って、さらに相手を追い詰めている」という、サイコパスな悪役にしか見えていないのよ。
完全にアリ地獄に落ちているわ。でも、その報われないヒロインのポジション、視聴者の同情を誘うから、意外と人気出るかもしれないわよ?頑張って耐えなさい、アルトリアちゃん!
「はいはい、身内のスキャンダルの清算は、番組が終わってから楽屋でゆっくりやってくださいね!時間が押しているので、テイスティングに行きまーす!!」
「では、チーム・円卓のテイスティング!!アイマスク装着!!」
純白のウェディングドレスに、黒いアイマスク。これ、完全に「捕らわれのお姫様」か「怪盗」のビジュアルじゃない!
「………似合うな……。どこか、禁欲的でありながら、背徳的な色気を感じさせる……」
助演席の切嗣さんが、ポツリと呟く。彼の死んだ魚のような目に、わずかにマニアックな光が宿っているわ。切嗣さん、貴方そういう性癖があったのね。客席にいるアイリスフィールさんと舞弥さんが、揃って冷ややかな視線を彼に送っているのが怖いんだけど。後で夫婦喧嘩にならないように気をつけてね。
「うん。全く違和感ない。むしろ、普段からその格好で剣を振るっていると言われても信じるレベルだ」
ウェイバー君、君もどういう目で彼女を見ているのよ。
「マスター!?切嗣!?貴方まで何を言っているのですか!!?私は見世物ではないぞ!!目隠しなどという屈辱的な……!!早く外せ!!」
アルトリアちゃんが、視界を奪われてパニックになりながら、両手をバタバタと振り回す。でも、アサシンさんがしっかりとアイマスクを固定しているので、外れないわよ。フフッ、目隠しされて怒るお姫様。絵になるわねー。
「さあさあ、文句を言ってないで、テイスティングを開始してください!ランスロットさんも、土下座をやめてグラスを持って!」
数分後。
「さて、テイスティング終了です!では、聞いていきましょう!A・B・Cのどれが、ギルガメッシュ王の提供した神代の美酒『ソーマ』でしょうか!?」
「C!!!」
え?C?それって、私がスーパーで買ってきた五百円の合成清酒と粉末ジュースで作った、十五円の適当カクテルのことよね?ギルガメッシュ王に続いて、貴女までそれに引っかかるの!?
「ほう?Cを選んだのね。その理由は?AやBの味はどうだったの?」
「Aはですね、実に美味しいものでした。飲んだ瞬間に、なぜか活力が湧いてくるような……そう、日本で食べた、あの白くてふっくらとした『お米』の幻影が見えそうなほど、実直で嘘偽りのない、誠実な味でした」
うんうん、日本酒はお米からできているからね。お米大好き少女の彼女には、その本質がストレートに伝わったみたいね。食レポとしては百点満点よ!
「続いてBですが……。確かに、これもかなり美味しかったです。並の酒ではない、強大な力を感じました。しかし……!!どこか無機質と言いますか、飲む相手のことを全く考えていない感じで、ただ自分の存在を自慢するような『圧倒的な主張』の塊のような味がしました!あんな傲慢な味は、神代の神々には相応しくない!才能があっても、他者を顧みない傲慢な者が、己の権力を誇示するためだけに作った、俗悪な成金趣味の酒でしょう!!」
「飲む相手のことを考えていない」「自慢するような主張」「成金趣味」。それ、お酒の味の感想じゃなくて、提供者であるギルガメッシュ王の性格に対する悪口じゃない!
「その点、Cは素晴らしい」
「飲んだ瞬間に、私は垣間見たのです。私の魂の奥底に眠る、あの光景を……。あのブリテンが大いに栄え、緑豊かな大地で、皆が笑顔で暮らしている……。ガウェインが笑い、ランスロットが剣を振り、ケイ兄上が小言を言い、パーシヴァルが駆け回る……。ああ、マーリンは端のほうで相変わらず胡散臭く笑っていましたが。そんな、失われた『理想郷』の光景を、この一杯の酒が私に味わわせてくれました!」
彼女が一番求めていたもの。それは、崩壊してしまった祖国の平和と、かつての仲間たちとの幸せな日々の幻影だったのね。スーパーの安酒と粉末ジュースのミックス液で、そこまでの壮大な走馬灯を見ちゃうなんて!感受性が豊かすぎるっていうか、心が病みすぎているんじゃないかしら、この子。
なんだか、騙しているこっちがちょっと申し訳なくなってくるレベルの純粋さよ。
「だから私はCを選びます!!このように、人の心に寄り添い、希望を見せてくれる酒こそが、神代の奇跡に相応しい!私は、常に理想を掲げ、民を導く一流の王です!私のこの舌と心に、間違いはありません!!」
「私は一流の王です!」って、自分で言っちゃうあたりが、すでに三流の匂いがプンプンしているんだけど。
「……なるほど。素晴らしい熱弁をありがとう、モルガン様。では、ランスロットさんは?どれが正解だと思いますか?」
「……私はAですかね。単純に、全部飲んだことないので判断できません。ただ、Aが一番、水のようにスッキリしていて飲みやすかったので。完全に私の個人的な好みです」
幻術もウンチクも関係ない、ただの「飲みやすさ」で選ぶ。ある意味、一番ブレない男ね。
「……ということで!チーム・円卓の代表、モルガン様はCを選択!そしてランスロットさんはAを選択!見事に意見が割れましたが……残念ながら、どちらも不正解です!!正解の神代の酒は、Bでしたー!!」
「な、なにいいいいい!?不正解だと!?なぜだ!!あんなに素晴らしいブリテンの光景が、理想郷の味がしたというのに!!あれが安酒だと言うのか!!私の見た幻影は嘘だったというのか!!」
ええ、嘘よ。私の魔術で作ったチープな幻覚だもの。
「ということで、モルガン様は『一流の魔女』から『二流の魔女』へのランクダウン決定でーす!!次間違えたら、『三流のコスプレイヤー』になっちゃいますから、気をつけてくださいねー!」
アシスタントのアサシンさんが、アルトリアちゃんの座っていた豪華な椅子を撤去し、代わりにちょっとパイプ椅子みたいな安っぽい椅子を差し出す。
「くっ……!!屈辱だ!!私の王道が、私の舌が否定されただと……!!」
ギリギリと歯を食いしばりながら、ランクダウンした安っぽい椅子に座り直す。その姿が、バラエティ番組の敗者として完璧すぎて、私は腹筋の崩壊を堪えるのに必死よ!
「ガハハハハ!!傑作だな!!おい、そこの魔女!貴様、なかなか見どころがあるではないか!我が至高だと認めた『C』の酒を、貴様も選んだというわけだな!どうやら我と好みが似ているようだな!味覚が合う女は嫌いではないぞ!」
「俺の酒をディスりやがって!」って怒るのかと思ったら、「俺と同じでCを選んだから気が合う」って喜んでるの!?どんだけあの安酒カクテルが気に入っちゃったのよ!王様の味覚、完全にバグってるじゃない!
「それに、先ほどの目隠しをされて顔を真っ赤にして怒るその顔……実に我好みだ。強情な女が屈辱に震える姿は、見ていて飽きん。ますます気に入ったぞ、魔女よ!我の妃の末席に加えてやってもよいぞ!」
「不愉快だ英雄王!!私は魔女ではないし、貴様の妃になるなど断じてお断りだ!!二度とその汚らわしい口で私を侮辱するな!!」
でも、その必死な抵抗が、ギルガメッシュ王のサディスティックな心をさらにくすぐっているみたいで、彼は「フハハハ!良い面構えだ!」とますます楽しそうに笑っている。
ああ、最高にカオスなひな壇の完成ね!ドロドロの不倫疑惑、安酒に騙される王様たち、そして公開セクハラと拒絶のコント。これぞまさに、私が求めていた『聖杯格付けチェック』の真髄よ!
◇◇
「最後は、助演とキャスター陣営の皆様!ケイネス先生、綺礼さん、ジル!」
時計塔の若き天才にして、プライドの塊であるケイネス先生。私の公認彼氏であり、常に己の欲求と戦い続けるストイックな求道者、言峰綺礼さん。そして、私への愛と忠誠心だけで生きている、白銀の騎士ジル・ド・レ。三者三様の「濃すぎる」男たちが、この悪魔の三択にどう立ち向かうのか、見ものだわ。
「ふん。私がこのような俗悪なゲームに付き合わされるいわれはないが……時計塔のロードとしての矜持を示すためだ。答えは『B』だ」
「おおー!正解!さすがエルメロイ卿!一流の魔術師なら間違えん、ということかしら?」
「当然だ。魔力濃度の違いは明白。Aの酒は確かに上質だが、神秘の欠片もない。そしてあのC……あれは論外だ。あれほどまでに人工的で、直接脳に作用するような幻覚作用を伴う液体など、神代の神々が口にするはずがない。私ほどの魔術師の眼を誤魔化せると思ったか?」
うんうん、そのプライドの高さと分析力は評価するわ。でも、貴方のその額に滲んでいる大量の冷や汗は、一体何なのかしら?
「………味は正直、Cの方が圧倒的に美味しいと感じたがな……。くそっ、私の英国貴族としての味覚が、あのような下品な甘味料と安酒のミックスに魂を揺さぶられるとは……。味だけで判別するルールでなくて本当に良かった。もし『一番美味しいものを選べ』と言われていたら、私の魔術師としての尊厳は崩壊していただろう……」
あはははは!やっぱり彼も、私の適当カクテルの虜になっていたのね!「美味い」と感じた自分の舌を、魔術師としてのプライドで必死にねじ伏せて、論理的に正解を導き出した。その葛藤、お見事よ!英国紳士のプライドが、スーパーの安酒に敗北するギリギリのライン。これもまた、彼なりの「一流」の守り方ね。
「見事!魔術師としてのプライドが、悪魔の誘惑に勝ったわね!正解!ケイネス先生は一流をキープよ!」
「次、綺礼さん!」
彼はワイン収集が趣味だっていうから、舌には自信があるはず。でも、彼が普通の正解を選んで「流石だ」なんて褒め称えるだけじゃ、バラエティ的にはちょっと物足りないわよね。私の彼氏なら、もっと斜め上の回答を残してほしいところだわ。
「私は……『C』だ」
「えっ」
代行者としての厳しい修行を積んだ彼が、あんなジャンクな味覚に屈するはずがないのに。
「ブ、ブー!不正解よ?正解はBのソーマだったのに……。どうしてCを選んだの?もしかして、私の幻術が効きすぎちゃった?」
彼に理由を尋ねる。彼が安酒に騙された「残念な三流」として笑い者にされるのは、私としても少し心外だからね。
「構わん」
綺礼さんが、微塵も動揺することなく、むしろ極めて清々しい顔で言い放つ。
「私は、味の優劣や、神代の神秘などという些末な基準で選んだわけではない。ただ、あのCのグラスから放たれる、底知れぬ悪意と、人をたぶらかそうとする甘美で強烈な虚飾の匂い。……あれは、『真樹が作ったもの』に違いないと確信した。これ以外に考えられんのだ」
綺礼さんが、一歩私に近づき、私の目を深く覗き込みながら言葉を続ける。
「番組の正解がどうであれ、神代の酒が何であれ、私にとっての正解は、貴女がその手で作ったものだけだ。故に、私は迷うことなくCを選んだ。それ以外にない」
な、何よこれ!!特設スタジオの中心で、カメラが回っている真っ最中に!バラエティ番組の「味覚テスト」というおふざけのルールを根底からガン無視して、完全なる「愛の告白」みたいなこと言ってきた!!
「お前の作った毒なら、喜んで飲み干す」っていう、究極のドM発言でありながら、これ以上ないほどに情熱的で、一途な愛の証明!!彼のその顔には、一切のブレがない「真の求道者」のオーラが漂っているわ!
き、綺礼さん……!!私、顔が真っ赤になっているのが自分でもわかるわ。あんなに鉄仮面で、感情の起伏が乏しかった彼が、私のために、番組の進行をぶち壊してまで、自分の信念を貫いてみせた。キュンとしちゃう!!いや、キュンを通り越して、もうギュンッ!て感じよ!!
「不正解で二流に落ちる」という屈辱すらも、私への愛の証として受け入れる。その歪みきった愛情表現、最高にセクシーで、最高にクレージーだわ!!
「ふおおおおおっ……!!何という尊き主従の絆……!己の地位を捨ててまで、愛する者の手作りを選ぶとは!これぞまさに騎士道の極み!感動いたしましたぞ、言峰殿!!」
ジルが、涙をハンカチで拭いながら、一人で大感動して拍手を送っている。貴方もそっちの解釈で受け取っちゃうのね!
客席のアイリスフィールさんも、「まあ!素敵!」と両手を頬に当ててうっとりしているし、ソラウさんに至っては、「私もランサーの手作りカクテルなら、毒が入っていても飲むわ!」と鼻息を荒くしている。番組の趣旨が完全に迷子になっているわ!
「……と、とりあえず次!最後の挑戦者、ジル!!」
これ以上彼と見つめ合っていたら、MCとしての冷静さを失って、生放送中に彼に抱きついてしまいそうだもの!
「私は『B』ですぞ!!迷うことはありませんでした!」
「おお!正解!でも、さっき綺礼さんの行動をあんなに感動して褒め称えていたのに、どうして貴方はCを選ばなかったの?」
私への愛と忠誠心なら、彼も綺礼さんに負けていないはずなのに。
「当然です!私は、愛するジャンヌのために、常に『一流のサーヴァント』であり続けなくてはならないのです!貴女の隣に立つ資格を維持するためならば、たとえ貴女の作ってくださった愛の手作りカクテルが飲めずとも、私は血の涙を流して『正解』を選びます!それが、私なりの愛の証明なのです!!」
「愛する人のために、あえて手作りを避けて一流の地位を守る」。これもまた、一種の歪んだ愛の形ね。綺礼さんが「一緒に堕ちる愛」なら、ジルは「貴女のために輝き続ける愛」というわけね。どっちも重たすぎて、ちょっと胃もたれしそうだけど、役者としては素晴らしい解釈だわ!
「よーし!これで、波乱に満ちた第一のチェック『味覚』は終了よ!!」
「結果発表ー!!一流をキープしたのは、アーチャー陣営、ライダー陣営、ランサー陣営そしてキャスター陣営の四組!見事なテイスティングでした!」
「そして!残念ながら不正解だった、バーサーカー陣営は『一流』から『普通』のランクにダウンよ!!そしてあかん奴を選んだセイバー陣営のアルトリアちゃんと、アサシン陣営の綺礼さんは、『一流』から『二流』のランクにダウンよ!!バラエティの洗礼、たっぷりと味わってもらうわ!」
「くっ……!王たる私が、なぜこのような屈辱を……!ブリテンを統べるこの足に、このような下品な履物を強要するのか!!」
純白の豪華なウェディングドレスに、百均の便所スリッパ。これ以上ないほどにミスマッチで、最高に滑稽なビジュアルよ!カメラさん!今のアルトリアちゃんの悔しそうな顔と、足元のスリッパのアップ、絶対に抜いておいてね!後でスローモーションにしてリプレイ放送するから!
「フッ……」
「真樹が望む罠に落ちた結果のランクダウンだ。この薄っぺらいスリッパの感触も、そして他者からの嘲笑という屈辱も……貴女が私に与えてくれたものだと思えば、また甘露。喜んで受け入れよう」
「屈辱すらも甘露」って……。この人、本当に私の仕掛けたバラエティの罰ゲームを、完全に「愛のプレイ」の一環として楽しんでいるじゃない!どんなバッドステータスを与えても、全部「ご褒美」に変換してしまうなんて、ある意味最強のメンタルね。
私、彼を『映す価値なし』まで落とす自信がなくなってきたわ。
「次は第二のチェックよ!皆様、便所スリッパの履き心地には慣れたかしら!?さあ、地獄の格付けサバイバル、まだまだ続くわよーー!!」
一流とは、正解を選ぶことではない。
間違えた時に、何を選び続けるかだ。
【超重要・展開が変わります】真樹は聖杯にかける願いを…。
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言う
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言わない