冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~   作:斉宮 柴野

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少年は勝ちたかった。けれど彼が手に入れたのは、勝利ではなく隣に立つ理由だった。


ウェイバー・ベルベット

「奇跡の大逆転で超一流に昇格したケイネス先生の感動的なドラマの後は、現在見事に一流マスターの座をキープしているウェイバー君の出番よ!貴方がこの命懸けのデスゲーム、聖杯戦争に懸ける願いは何!?どんなドロドロとした欲望や、世界をひっくり返すような野望を隠し持っているのか、このファシリテーターである私に包み隠さず吐き出しなさいな!」

 

照明スタッフのアサシンさんが、すかさずウェイバー君の顔にピンスポットの光を当てる。

一流席から見下ろすスタジオの景色は、彼にとってどう映っているのかしら。

 

下を見れば、三流のパイプ椅子でやさぐれている大人たちや、底辺のゴザの上で穴の開いた軍足を履いて気絶している名門の当主がいる。

このカオス極まりない格差社会の頂点に、ただの学生である彼が座っているという事実そのものが、最高のシュールギャグを形成しているわ。

 

「僕は……自分の力を認めさせるために、この極東の儀式に参加したんだ」

 

「時計塔の連中は、いつだって伝統だの血統だの、何百年も続く家系がどうのこうのって、そんな古臭い価値観ばかりを押し付けてくる。魔術回路の歴史が浅いってだけで、僕の努力も、僕の考えた新しい理論も、最初から読む価値がないゴミみたいに扱いやがって……!だから、そんな頭の固い連中に、僕の本当の才能を見せつけてやるためだった。この聖杯戦争で最強の英霊を喚び出して、名門の連中を全員ぶちのめして、僕が一番すごいんだって、時計塔の全員に認めさせる。それが、僕の願いだった……!」

 

うんうん、典型的な「大人社会に反発する思春期のルサンチマン」ね。才能があるのに評価されない鬱屈した感情を爆発させて、危険なデスゲームに飛び込んでしまう。深夜アニメの第一話としては百点満点の完璧な動機よ。

 

「なるほどね!承認欲求のバケモノってわけね!若いって素晴らしいわ!……で?その言葉のニュアンスだと、今は違うってことかしら?」

 

「……ああ、違ったみたいだ。完全に僕の思い上がりだったよ」

 

「どんな風に思い上がりだったの?詳しく聞かせてちょうだい!」

 

「まだこの聖杯戦争が始まって、たったの三日目だけど……。この三日間で、僕は自分がまだまだ全然、圧倒的に未熟なんだってことを、骨の髄まで思い知らされたんだ」

 

「他のマスターたちの、命を懸けた覚悟の重さ。自分の信じる正義のために、どんな泥を被ってでも戦い抜こうとする執念……。それに、さっきのケイネス先生の、あの途方もない器のデカさにも、色んなことを教えられたし……」

 

つい数日前まで、彼が最も憎み、最も見返してやりたかった相手。自分の渾身の論文を、教室の全員の前で鼻で笑って破り捨てた、憎き時計塔のエリート講師。しかし、その男が先ほど見せたのは、婚約者の心変わりすらも己の魔術師としての魅力だと笑い飛ばし、不遇の英霊に新たな生を与えるという、常人には到底理解できないスケールの巨大な貴族の振る舞いだった。

 

自分は、あんなちっぽけな復讐心で、あの底知れない巨大な男に挑もうとしていたのか。

 

その事実が、ウェイバー君のちっぽけなプライドを、木端微塵に粉砕してしまったのだ。

 

「ふん……。キャンキャンと吠えるだけの小犬が、ようやく自分の足元の泥の深さに気づいたようだな」

 

ああ……!なんてエモい師弟関係なの!このバラエティ番組、いつからこんなに感動的な青春成長ストーリー路線に変更したのよ!

 

私の書いた台本からどんどん逸脱していくわ!

 

「ガッハッハ!良い面構えになったではないか、坊主!だが、ここで一つの疑問が浮かぶぞ!」

 

「貴様の最初の戦う理由は、今や完全に消え失せたということだな?時計塔の連中を見返すという目的がなくなったのならば、坊主は一体、何のためにこの血で血を洗う戦場に立ち続けるのだ?聖杯への渇望がないのなら、今すぐここで令呪を放棄し、戦場を降りるか??」

 

目的を失った兵士に、戦場に立つ資格はない。願いを持たない魔術師が、万能の願望機を巡る殺し合いの席に座り続けることは、ただの死を意味する。

 

王は、己のマスターである少年の「魂の在り処」を、今この瞬間に確定させようとしているのだ。

 

「いや、降りない。僕は、この戦いから絶対に逃げない」

 

その声には、もう迷いはない。ただの虚勢でも、見栄でもない、心の底から湧き上がる強固な意志の響きだ。

 

「ほう?何故だ?最初の理由がないのなら、戦う意味などなかろうに」

 

「僕は……自分の力を証明したいって気持ち自体は、今も変わっていないんだ。僕だって魔術師の端くれだ。いつか必ず、誰もが認めるような偉大な魔術師になってみせる」

 

「だけど……。それを『聖杯』には頼らない。絶対に頼りたくないんだ」

 

万能の願望機である聖杯を、真っ向から否定する言葉。

 

「僕が魔術師として大成するための近道を、万能の願望機なんかに用意してもらったって、そんなのはただの不正だ。他人の力で下駄を履かせてもらったって、そんなものに何の価値がある?だから、僕自身の聖杯に懸ける願いなんてものは……もう、ないんだ」

 

己の弱さを認め、その上で、安易な奇跡にすがることを拒絶する。それは、魔術師としては致命的なまでに非効率で、愚かな選択かもしれない。でも、一人の人間として、これほどまでに気高く、誇り高い決断があるだろうか。

 

おお……!おおーっ!!私、脳内でスタンディングオベーションが止まらないわ!!あの、最初に会った時はアレクサンドロスさんの背中に隠れてブルブル震えていた、泣き虫でコンプレックスの塊だった少年が。たった数日で、こんなにも立派に、自分の足で立つ決意を固めるなんて!

 

安易なチートアイテムを拒絶して、自力での成長を誓う。これぞまさに、少年漫画のド王道を行く、完璧な青春成長ストーリーじゃない!!

 

もうこのまま最終回のエンディングテーマを流して、スタッフロールを流してもいいレベルの完成度よ!クランクアップが近いわね、これは!

 

「そうなの!?聖杯に願いがないなんて、この番組の根幹を揺るがす大問題発言ね!じゃあ、ウェイバー君は一体、何のためにこの過酷な聖杯戦争で戦い続けるっていうの?ただの参加賞狙い?」

 

ここが一番のハイライトよ。さあ、最高のパンチラインを叩き出してみせなさい!

 

「こいつが、自分の肉体を持ってこの世界で受肉したいって言うなら。そして、この世界の果てにあるっていうオケアノスを目指したいって言うなら……僕は、そのために戦う」

 

「あいつは……大雑把で、乱暴で、人の話を聞かなくて、いつも僕を振り回してばかりで、本当に最悪のサーヴァントだけど。……でも、悔しいけど、誰よりも偉大な王だ。あいつの背中を見ていると、僕みたいなちっぽけな人間でも、もしかしたら何かすごいことができるんじゃないかって、そんな錯覚を起こしてしまうくらいに」

 

「あいつが本気で、この世界を征服したいって願うなら。その無茶苦茶な覇道に、僕も最後まで付き合ってやる。それが、あいつをこの世界に喚び出した、マスターとしての僕の責任だからだ。だから僕は、こいつのマスターとして、最後の最後まで、あいつの隣に立って、その戦いを見届けなくちゃいけないんだ!」

 

「…………」

 

「ガァッハッハッハッハッハ!!!」

 

特設スタジオのシャンデリアが粉々に砕け散るのではないかというほどの、凄まじい大爆笑が、征服王の口から爆発した。

 

「聞いたか金ピカ!見たか魔女!そしてそこの高慢ちきな魔術師ども!!これが、我がマスターの面構えよ!己の矮小さを認め、その上でなお、この余の果てなき覇道に付き合うと吠えおったわ!!なんという傲慢、なんという大物か!小さい体によくぞそこまでの度胸を詰め込んだものだ!」

 

「良いだろう坊主!お前がその気なら、余も全霊をもって応えようぞ!このアレクサンドロスの覇道、お前のその目で、最後の最後まで特等席で見届けるが良い!!そして共に、あの世界の果てを目指そうぞ!!」

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

「いつか、僕も本物の栄誉を得たい。誰もが認めるような、確かなものを」

 

「それが、さっきケイネス先生が言ってくれたような、人に教えを説く『教師』としての道かどうかは、今の僕にはまだわからないけど……」

 

「でも、どんな道を選ぶにしても、その道行きの苦しみも、その果てにある栄誉も、すべて僕自身が、自分の手と足で掴み取るものだから。ほかの誰でもない、僕の……ウェイバー・ベルベットの戦場で」

 

完璧よ。完璧なスピーチだわ。原稿用紙に書いて用意してきたような綺麗な言葉じゃなくて、魂の底から絞り出した、生々しくて荒削りな本音。だからこそ、聴く者の心をここまで強く打つのよ。

 

少し……いや、随分と顔つきが変わったわね、ウェイバー君。

今の彼は、あの大きすぎる王様の隣に座っていても、もう絶対に見劣りしないわ。借り物のスーツを着たひ弱な少年が、自分の足で立つ覚悟を決めた瞬間、とてつもなく巨大な存在感を放ち始めている。

 

立派な『助演男優』に成長したじゃない!私の番組のキャスティングに、狂いはなかったわね!

 

「ふむ……」

 

アレクサンドロスさんの丸太のような巨大な右腕が、ウェイバー君の細い背中を、容赦なく、そして力いっぱい叩きつけたのだ。

 

「ぐはあっ!!?」

 

なんて乱暴なスキンシップなの!骨が数本折れていてもおかしくないわよ!

 

「ガァッハッハッハッハ!!良いぞ坊主!!」

 

「他人の力に頼らず、己の手で栄誉を掴み取ると吠えおったか!その気高さ、その傲慢さ!やはり、貴様は我がマスターに相応しい、見事な器の持ち主よ!余の目に狂いはなかったわ!」

 

「ならば!その言葉通りに見せてみよ!貴様のその気概を!最後の最後まで足掻き抜くという決意をな!!」

 

「そして、そのすべての戦いを見事に見届けた暁には!貴様を、余の栄光ある『臣下』の一人として、改めて我が軍門に迎え入れようではないか!光栄に思え、ウェイバー・ベルベットよ!」

 

これぞ、征服王アレクサンドロスからの、最大の賛辞であり、最高の褒美の提示よ!聖杯なんかよりもずっと価値のある、王の軍勢へのスカウト!感動のフィナーレに向かって、BGMのボリュームを最大に引き上げたい気分だわ!

 

「う、うるさいっ!痛いな!!叩く加減ってもんを知らないのか、この筋肉ダルマ!!」

 

「それに、誰が臣下だ!!僕は貴方を喚び出したマスターだぞ!!雇用主だ!!王様だろうがなんだろうが、今のこの世界では僕と貴方は対等なんだからな!!勝手に部下扱いするな!!」

 

「臣下にしてやる」という最高の栄誉を、「対等だ」と言い返して堂々と突っぱねる。これこそが、彼が手に入れた「自分の足で立つ」という自信の現れなのね!どんなに偉大な王様が相手でも、絶対に媚びへつらわない。自分の立場を主張して、対等な相棒として隣に立つ。

 

「ガッハッハ!減らず口を叩くようになったではないか!良いぞ良いぞ、その意気だ!ならば、対等なマスターとして、この余を存分に使いこなしてみせよ!」

 

背中をさすりながらプンプン怒っている小さな少年と、それを大笑いしながら見守る巨大な王様。

 

まったく噛み合っていないようでいて、実はこれ以上ないほどに深く理解し合っている、完璧な主従のコントラスト。

 

ゴザの上のアルトリアちゃんなんて、二人のやり取りを眩しそうに見つめながら、「マスターと対等……そのような関係性が、あり得るというのか……」と、自分の陣営とのあまりの差に、完全に遠い目をして現実逃避に入っているわ。

 

「はいっ!ウェイバー君、そしてアレクサンドロスさん!素晴らしいスピーチと、最高のコンビネーションでした!」

 

「自らの弱さを認め、聖杯に頼らず自分の力で未来を切り開く決意!そしてそれを全面肯定する王の度量!文句なしの大正解よ!ライダー陣営は、そのまま『一流マスター』の座を継続でーーす!!おめでとう!!」

 

「ふう……」

 

「……なんか、すっごく疲れた……。魔術の戦闘より、あいつの相手をして、大勢の前で喋る方が、よっぽど体力を消耗するぞ……」

 

お疲れ様、ウェイバー君。貴方のその頑張りは、絶対にテレビの前の視聴者の心に届いているはずよ!

 

「……聖杯に頼らず、己の力で成し遂げる、だと……?」

 

さっき、ケイネス先生の圧倒的な論理の前に完全に論破され、白目を剥いて気絶していた時臣さん。その顔は、土気色を通り越して、もはやアスファルトのような灰色に染まっているわね。

 

「魔術師の……究極の到達点である根源を……己の歩みだけで、時間をかけて目指すというのか……?万能の願望機の奇跡を、自ら放棄して……?」

 

彼は、ウェイバー君の「聖杯というチートに頼らず、自分の足で大成する」という気高い決意の言葉を、気絶から目覚める狭間でしっかりと聞いてしまっていたのね。

 

何百年もかけて、他人のシステムにタダ乗りしてでも、どんな手段を使ってでも根源に到達しようと必死になっていた時臣さんにとって。十九歳の、名門でもなんでもない、歴史の浅い家系の未熟な少年が放ったその「自立宣言」は、ケイネス先生の学術的なダメ出し以上に、彼の魔術師としての存在意義を根底から否定する、とてつもなく残酷な刃となって彼の胸を深くえぐっているのよ。

 

(私よりも……あのような血統の浅い小僧の方が、魔術師として正しい道を歩んでいるというのか……?私は、遠坂の悲願のために、娘を虫の館に売り、王に媚びへつらい、すべてを犠牲にしてきたというのに……!私の人生は……一体何だったのだ……!)

 

彼のプライドのライフは、もう完全にゼロよ。オーバーキルもいいところだわ。

 

「聞いたか、時臣」

 

ケイネス先生が、ベルベットのスーツの袖を優雅に払いながら、静かに、しかしスタジオ中に響き渡る声で語りかける。

 

「血統ばかりを誇り、伝統という名のシステムにタダ乗りすることしか考えていない貴様より、あのような歴史の浅い未熟な小僧の方が、よほど魔術師としての『本質』を正しく理解しているではないか。自らの足で歩み、自らの手で真理を掴み取ろうとするその野心こそが、我々魔術師の原点なのだからな」

 

「……ふん」

 

しかし、その口元には、先ほどウェイバー君に見せた時と同じ、かすかな、本当に微かな、誇らしげな笑みが浮かんでいる。

 

「これほど見込みのある若者が育っているのなら……時計塔の未来も、少しは明るいかもしれんな。まあ、私の足元にも及ばんがな」

 

それは、時計塔の最高峰に君臨するロード・エルメロイから、かつて出来の悪いと見下していた元・弟子に対する、完全なる「実力の承認」の瞬間だった。

 

「お前は正しい魔術師の道を歩んでいる。その調子で上がってこい」という、ツンデレ全開の、しかしどこまでも熱いエール。

 

顔を真っ赤にして、ポロポロと、今度こそ本当に嬉しそうな涙をこぼし始める。アレクサンドロスさんが「ガッハッハ!褒められたな坊主!」とさらに背中を叩くから、ウェイバー君は泣きながら「痛いってば!!」と怒っている。

 

ああ、なんて美しいエンディングなのかしら!バラエティ番組の企画が、一人の少年の人生を肯定し、師弟の絆を修復する奇跡のドラマにすり替わってしまったわ!




王の覇道は遠い。だからこそ、隣に立つ足元だけは自分で固める。

【超重要・展開が変わります】真樹は聖杯にかける願いを…。

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