冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~   作:斉宮 柴野

44 / 74
※この聖杯戦争は再編集されています。
・救済は罠です。
・未来は試練です。
・正義は継承されません。


体は理想で出来ている

「これは……投影魔術!?」

 

切嗣が、コンテンダーを構えたまま驚愕に目を見開く。

十代の少年が、これほど完璧に無数の宝具の模造品(贋作)を空中に創り出し、空中に固定して操るなど、常識では考えられない。

 

「いくぞ!」

 

未来の衛宮士郎が、両手に握った干将・莫耶を構え、鋭い視線で切嗣たちを捉える。

 

「装填(トレース)……補充……魔術回路、安定……。連続投影! 斉射(ファイア)!!!!」

 

少年の周囲、空中の至る所から、青白い魔力の光と共に、無数の剣、槍、斧といった武器が次々と顕現していく。

それらはただの鉄の塊ではない。一つ一つが、過去の英雄たちが振るった宝具の劣化コピーだ。

 

そして、その無数の武器群が、意志を持った軍勢のように、一斉に切嗣、舞弥、そしてアルトリアへと牙を剥き、弾丸のような速度で飛来してくる。

 

「キリツグ!マイヤ!下がって!!」

 

アルトリアが、不可視の剣(インビジブル・エア)を嵐のように振るい、凄まじい剣幕で飛来する刃を次々と叩き落とし、弾き返していく。

 

金属が激しくぶつかり合う甲高い音が、夜の衛宮邸の庭に連続して鳴り響く。

だが。

 

「くっ……! まさか、人の身でこれほどの宝具を同時に操るとは!」

 

アルトリアの顔に、焦りの色が浮かぶ。

 

彼女の剣技は超一流だが、次から次へと際限なく投影され、あらゆる角度から襲い掛かってくる剣の波に対して、完全に防戦一方へと追い込まれていく。

背後の切嗣と舞弥を守りながらの戦闘では、反撃に転じる隙すら見出せない。

 

「セイバー!!宝具を撃て!!このままでは押し切られる!!」

 

切嗣が、飛来する剣をコンテンダーで撃ち落としながら、焦燥感に満ちた声を張り上げる。

このままでは、ジリ貧だ。数の暴力の前に、いずれ防御が突破されるのは時間の問題だった。

 

「はい!!!」

 

アルトリアが、切嗣の命令に即座に呼応し、不可視の風の封印を解き放つ。

彼女の手の中で、星の光を宿した黄金の聖剣が、眩い輝きを放ち始める。

 

「風よ、開け―――!!約束された……勝利の剣(エクスカリバー)!!!」

 

それは、万物を焼き尽くし、あらゆる障害を粉砕する、星の聖剣の絶対的な一撃。

眩い光の波が、士郎の放った剣雨を紙屑のように薙ぎ払いながら、一直線に二人へと迫っていく。

 

だが。

その圧倒的な破壊の光を前にしても、未来の士郎は一切焦る様子を見せなかった。

彼は、ただ隣に立つ『愛する王』の名を、絶対の信頼を込めて呼んだ。

 

「セイバー!!!!」

 

「はい!!!」

 

未来のセイバーが、士郎の呼びかけに呼応し、彼を背後に庇うように前に出る。

そして、彼女は腰に帯びていた「見えない鞘」を、光の奔流に向けて突き出した。

 

「―――全て遠き理想郷(アヴァロン)!!!」

 

その瞬間。

未来のセイバーと士郎の周囲を、眩いばかりの妖精郷の光が包み込む。

それは、いかなる物理干渉も、魔術も、そして並行世界からの干渉すらも完全に遮断する、究極の絶対防壁。

 

アルトリアの放った星の聖剣の光の奔流は、その光の壁(次元の断層)に激突するや否や、まるで幻のように阻まれ、二人に触れることすらなく、完全に霧散してしまった。

 

「なっ……!?」

 

自分の最強の一撃が、完全に無力化されたのだ。

 

「バカな……! あの鞘は……!」

 

切嗣が、銃を構えたまま、愕然として声を漏らす。

 

「鞘は、今も僕の身体の中に……!」

 

切嗣の胸の奥で、アイリスフィールから預かり、自らの命を繋ぐために埋め込まれている最強の概念武装、『全て遠き理想郷(アヴァロン)』が、確かに脈打っているのを感じる。

 

だというのに、なぜ目の前の敵(未来のセイバー)の手にあるのか。

 

「落ち着いて、切嗣!」

 

舞弥が、アサルトライフルを構えたまま、冷静に状況を分析し、切嗣に声をかける。

 

「これが『未来の可能性』なら……あの赤毛の少年が、貴方からあの鞘を受け継いだ存在という事です! 彼は、貴方の後継者として、あの鞘を持ち、そして未来のセイバーにそれを返還したのです!」

 

舞弥の言葉に、切嗣はハッとして士郎を見る。

 

「僕の後継者……? あの少年が……?」

 

切嗣の心に、言いようのない動揺が走る。

自分が正義の味方を諦めた後、彼に何を託し、彼がどんな地獄を歩むことになったのか。その未来の姿が、目の前の少年だというのか。

 

 

 

◇◇

 

 

「行くぞセイバー!お返しだ!」

 

士郎が、アヴァロンの光が収まると同時に、未来のセイバーに合図を送る。

 

「応!」

 

未来のセイバーが、士郎の言葉に頷き、今度は自ら黄金の聖剣を高く掲げる。

 

「束ねるは星の息吹。輝ける命の奔流。勝利は我が手に!」

 

未来のセイバーの剣に、先ほどのアルトリア以上の、圧倒的で、そして一切の迷いがない、純度の高い光が収束していく。

 

「『かくて、約束された勝利の剣(エクスカリバー・エクセルスス)』!!」

 

真の光の柱を、切嗣たち三人に向けて一直線に放つ。

 

「くっ!防げない、かわすしか……!!」

 

アルトリアが、迫り来る光の奔流の威力に戦慄し、即座に回避の判断を下す。

 

「キリツグ!マイヤ!!散開してください!!」

 

アルトリアの声に、切嗣と舞弥は咄嗟に左右に飛び退き、アルトリア自身も大きく後方へと跳躍する。

 

間一髪で、その致命的な光の一撃は彼らの間をすり抜け、後方の武家屋敷の塀を消し飛ばして夜空へと消えていった。

 

「ふぅ……」

 

「………躱しましたか」

 

光の残滓の向こう側から、未来のセイバーの、どこか冷酷な、しかし戦術を完遂した騎士の顔が覗く。

 

「だが……そこはすでに、シロウの間合いだ!!」

 

「なッ――!」

 

アルトリアが、ハッとして足元を見る。

彼女たち三人が回避のために着地したその場所は、いつの間にか、士郎が密かに展開していた、複雑な魔力陣の中心だったのだ。

 

「しまった……! 誘い込まれたのか!」

 

切嗣が、コンテンダーを構え直そうとするが、すでに遅い。

 

赤毛の少年は、彼らを魔力陣の中心に捉えたまま、世界そのものを書き換えるための、重く、絶対的な呪文を紡ぎ終えていたのだ。

 

体は剣で出来ている

(I am the bone of my sword.)

 

少年の言葉と共に、周囲の空気が一気に熱を帯びる。

 

血潮は鉄で心は硝子

(Steel is my body, and fire is my blood.)

 

魔力陣から、青白い炎が上がり、周囲の武家屋敷の景色を歪ませていく。

 

幾たびの戦場を越えて不敗

(I have created over a thousand blades.)

ただ一度の敗走もなく、

(Unaware of loss.)

ただ一度の勝利のみ

(Nor aware of gain.)

 

少年の瞳には、無数の戦場を駆け抜け、ただ一人で剣を作り続けた、揺るぎない信念が宿っている。

 

担い手はここに独り、剣の丘で鉄を鍛つ。

(Withstood pain to create weapons, waiting for one's arrival.)

ならば、我が生涯に意味は唯一、

(I have no regrets. This is the only path.)

 

「この体は――」

 

「無限の剣で出来ていた(My whole life was "unlimited blade works")」

 

その瞬間。

炎が燃え広がり、空には巨大な歯車がゆっくりと回り始める。

 

周囲の衛宮邸の景色、冬木の夜空、すべてが完全に吹き飛び。

 

彼らの視界に広がったのは、見渡す限りの草原と、無数の剣が整然と騎士団のように突き刺さる、圧倒的な心象風景。

 

固有結界『無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)』が、過去の彼らを完全に飲み込んだのだ。

 

 

 

◇◇

 

 

 

それは、現実ではない。

一人の魔術師の心象風景が、現実の世界を完全に塗り潰して侵食した、異界の空間そのもの。

 

「これは………固有、結界……」

 

固有結界。それは、魔術の奥義とも言える大魔術。自らの内面の世界を具現化し、現実の法則を一時的に書き換えるという、奇跡に近い御業だ。

 

それを、目の前に立つ十代半ばの赤毛の少年が、たった一人で展開して見せる。

 

「キリツグ! 警戒を怠らないでください!」

 

アルトリアが、不可視の剣を構え直しながら、周囲の剣の丘を鋭い視線で見渡す。

 

「ここは、彼の心の中そのもの。突き刺さる無数の剣は、すべて彼が投影し、ストックしている宝具の贋作です。この空間にいる限り、彼は呼吸をするのと同じ速さで、無限の剣を私たちに放ち続けることができます!」

 

「チッ……。なんという規格外の魔術だ」

 

切嗣は、舌打ちをしながら、少年――未来の衛宮士郎へと銃口を向ける。

 

舞弥もまた、一切の感情を交えずにアサルトライフルの照準を少年の急所に合わせ、引き金を引くタイミングを推し量る。

 

だが、士郎は彼らの殺気を受けても、全く動じる様子を見せない。

両手に握った陰陽の双剣、干将・莫耶を静かに構え、ただ真っ直ぐに、過去の養父である切嗣を見据えている。

 

その少年の瞳の奥にあるのは、狂気ではない。殺意ですらない。

 

ただ、自らの信じるもののために、立ち塞がる敵を排除するという、機械のように純粋で、透明なまでの『覚悟』の光だ。

 

切嗣が、その少年の異質な瞳の光に、何とも言えない胸のざわつきを覚えた、その時だった。

 

「がっ……!?」

 

炎の照り返しが空間を揺らす中、切嗣の脳裏に、突然「強烈なノイズ」が走る。

 

それは、彼自身の記憶ではない。

上空の大劇場に君臨する人類悪、ビーストとなった真樹が、特異点の空間法則を通して、彼の脳の奥底へと強制的に送り込んできた『映像』だ。

 

『さあ、見てごらんなさい、切嗣さん』

 

真樹の、甘く、そしてどこまでも残酷な声が、切嗣の頭の中に直接響き渡る。

 

『これが、貴方が選び取るはずだった未来。貴方の魂が最も安らぎを得る、貴方個人の、最高のハッピーエンドの形よ』

 

ノイズが晴れる。

切嗣の意識は、目の前の剣の丘から一時的に切り離され、強制的に「ある光景」の只中へと放り込まれる。

 

それは、静かな夏の夜の光景だ。

涼やかな風が吹き抜ける、縁側の風景。

空には、ぽっかりと丸い月が浮かんでいる。

虫の音が、どこか物悲しく、けれど穏やかに響いている。

 

その縁側に、二人の人物が並んで座っている。

一人は、ひどく疲労し、生命力をすり減らしたような顔をした男。

 

もう一人は、まだ幼さの残る、無垢な瞳を持った赤毛の少年。

それは間違いなく、数年後の未来の切嗣自身と、幼い日の衛宮士郎の姿だ。

 

未来の切嗣は、月を見上げながら、ポツリと、昔話を語るように口を開く。

 

「僕はね、正義の味方になりたかったんだ」

 

その声は、驚くほど穏やかで、そして、どうしようもなく弱々しい。

かつて「魔術師殺し」として裏社会を震え上がらせ、世界を救うという血塗られた理想にすべてを捧げた男の、その強迫観念のような殺気は、そこには微塵も存在しない。

 

ただ、自らの人生の失敗を悟り、夢を諦めた、一人の哀れな男の独白だ。

 

「誰かを助けるという事は、誰かを助けないという事。正義の味方っていうのは、とんでもないエゴイストなんだ」

 

未来の切嗣は、自嘲するように笑う。

自分が過去に犯してきた罪。切り捨ててきた命。天秤にかけてきた愛する者たち。

 

そのすべてを思い返し、正義の残酷さを、隣に座る少年に語って聞かせる。

それは、自らの人生の総括であり、同時に、どうしようもない後悔の吐露だ。

 

その言葉を聞いた幼い士郎は、少しだけ不思議そうな顔をして、しかし、これ以上ないほどに真っ直ぐな瞳で、切嗣を見つめ返す。

 

「うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ」

 

少年の口から飛び出したのは、呪いの引き金となる言葉だ。

 

「爺さんはオトナだからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。まかせろって、爺さんの夢は───俺が、ちゃんと形にしてやるから」

 

少年は、純粋な善意だけで、何の悪気もなく、切嗣が捨てきれなかった「正義の味方」という理想のバトンを、その小さな両手で受け取る。

 

その少年の言葉を聞いた瞬間。

未来の切嗣の顔に、信じられないほどの救済の光が広がる。

 

「ああ……安心、した」

 

未来の切嗣は、深く息を吐き出し、まるで長年の重荷からようやく解放されたように、安らかな顔でゆっくりと目を閉じる。

 

彼の意識は、そこで途切れる。

自分が生涯をかけても叶えられなかった、その血塗られた重すぎる理想を、血の繋がりもない無垢な少年に押し付けることで。

 

衛宮切嗣という男は、己の人生の失敗を肯定し、完全に救われたのだ。

 

ノイズが弾ける。

映像が唐突に途切れ、切嗣の意識は、再び燃え盛る剣の丘、固有結界『無限の剣製』の現実へと引き戻される。

 

「――――――――」

 

現在の切嗣は、呼吸を忘れたようにその場に立ち尽くす。

 

切嗣は、痛いほどに理解する。

真樹の言う通りだ。あの光景は、間違いなく衛宮切嗣という男が辿り着く、彼個人の『ハッピーエンド』に違いない。

 

自分の理想を誰かが継いでくれる。自分の人生は無駄ではなかったと錯覚できる。

死の淵で、あれほどの安らぎを得て眠りにつけるのなら、それは魔術師殺しの人生の終着点として、出来過ぎているほどの幸福だ。

 

だが。

 

「……それは……」

 

切嗣の口から、掠れた声が漏れる。

今の切嗣には、あの光景が、全く別の、ひどくおぞましいものにしか見えないのだ。

 

つい数時間前の彼ならば、あの光景を肯定できたかもしれない。

 

だが、彼はあの聖杯問答の場で、真樹による冷酷な「演出指導(トラウマの再生)」を受け、己の理想の矛盾を完全に暴き出された。

 

アイリスフィールと舞弥という二人の女性の、海より深い愛情と包容力に触れ、自分がどれほど彼女たちを傷つけ、独りよがりな正義に溺れていたのかを自覚した。

 

世界を救うという妄想を捨て去り、ただ手の届く範囲の家族だけを守る、ただの一人の人間として生きることを、裸足になって誓い合ったばかりなのだ。

 

その、価値観が完全に反転した今の彼の目から見る、あの「縁側の光景」

 

それは、救済などではない。

ただの、究極の「責任転嫁」だ。

 

切嗣は、ゆっくりと顔を上げ、目の前で無数の剣を背負って立ちはだかる「未来の息子」の姿を見る。

 

『体は剣で出来ている』

 

先ほど少年が紡いだ、世界を書き換える呪文の言葉が、切嗣の脳裏にリフレインする。

 

己の身体が血肉ではなく剣でできていると自嘲し、敗走もなくただ一度の勝利だけを求め、他者のために戦うことだけに生涯を駆ける少年の、この草原。

 

見渡す限りの剣の騎士団。

空を覆う、寂しいほどの青空。

 

「……狂っている」

 

この心象風景は、異常だ。一人の人間の心の中が、武器庫と美しさが混在していいはずがない。

こんな世界を心の中に抱えて生きる人間が、まともな幸福など掴めるはずがない。

 

そこにあるのは、かつての自分と同じ、いや、それ以上に純化された、他者のために己を犠牲にすることを何とも思わない、完全に壊れた精神の光だ。

 

「それは………」

 

切嗣は、銃を下ろし、自分の両手を見る。

かつて数え切れないほどの命を奪い、血に染まった自分の手。

 

「この子には……ただの『呪い』だろう」

 

あの縁側の夜。自分が死の淵で、自己の救済のために、無垢な少年に押し付けてしまった、血塗られた理想。

 

その呪いが、この少年の人生を縛り付け、この少年を、このような心象風景(剣の丘)へと追い込んでしまったのだと。

 

「……僕よ」

 

切嗣は、未来の自分自身に対して、抑えきれない怒りと嫌悪を吐き出す。

 

「なんて最低な逃げ方をしているんだ、僕(おまえ)は。自分が背負いきれなかった地獄を、何も知らない子供に押し付けて、自分だけ安らかな顔で死んでいくなんて……。そんなもの、ハッピーエンドでもなんでもない。ただの悪魔の所業じゃないか」

 

切嗣の言葉に、隣で銃を構えていた舞弥が、心配そうに彼の顔を覗き込む。

 

「切嗣……? どうかしましたか。何か、精神干渉の魔術を……?」

 

「いいや、マイヤ。何でもない」

 

切嗣は、深く息を吸い込み、再びコンテンダーを真っ直ぐに構え直す。

その顔には、先ほどまでの迷いや動揺は、完全に消え去っている。

 

「……おい。未来の僕の息子」

 

切嗣が、静かに、しかしよく通る声で、士郎に向かって語りかける。

 

「なんだよ。じいさんの偽物が、いきなり親父面するな」

 

士郎が、不快そうに眉をひそめ、双剣の構えをさらに低くする。

 

「俺は、俺の守りたい日常のために、お前たちをここで倒す。お前たちを倒せば俺たちのハッピーエンドが完成するなら、俺は迷わない」

 

「そのハッピーエンドとやらを守るために、君はまた、その剣の丘で一人きりで戦い続けるつもりか?」

 

「君の心の中は、空っぽだ。他人の理想を詰め込んだだけの、ただの剣の贋作(ガラクタ)の山だ。そんなものを抱え込んで生きる人生の、一体どこが幸福だと言うんだ」

 

「……っ」

 

士郎が、切嗣の指摘に一瞬だけ言葉を詰まらせる。

だが、彼はすぐに強く首を振り、切嗣を睨み返す。

 

「空っぽでもいい。贋作でもいい。俺の願いが、誰かの受け売りだったとしても!」

 

士郎の言葉には、一切の迷いがない。

 

「俺が『誰かを助けたい』と願ったその思い自体は、決して間違いじゃない! 爺さんが俺に託してくれた夢は、決して間違ったものなんかじゃないんだ! だから俺は、この生き方を絶対に後悔しない!」

 

それは、自らの人生を他者のために使い潰すことを完全に肯定する、狂気の正義だ。

 

その士郎の叫びを聞いて。

切嗣の背後で剣を構えていたアルトリアが息を呑む。

 

(彼の、あの姿は……)

 

自らの人生を犠牲にし、ただ国のために、他者のためにと剣を振るい続け、最後は血塗られた丘で絶望して死んでいった、かつての自分自身の生き様。

 

それと全く同じ、破滅へと向かう自己犠牲の姿が、目の前の少年の上に完全に重なって見えたのだ。

 

(これが……私の愛した者の、本当の心の中……?)

 

未来の自分が、なぜこの少年に惹かれ、この少年を守ると誓ったのか。

それは、彼がかつての自分と同じように、誰かのためにボロボロになって戦い続ける、あまりにも不器用で放っておけない存在だったからに他ならない。

 

「……馬鹿な子供だ」

 

切嗣は、吐き捨てるように言い放つ。

 

「誰かのために生きるなんて、そんな綺麗事で人間は救われない。その道の果てにあるのは、完全な孤立と、すべてを失う絶望だけだ。僕がそうだったように、な」

 

切嗣は、コンテンダーの撃鉄を起こす。

 

「君がそれを認めないというなら。僕がここで、君のそのふざけた偽物の理想(呪い)ごと、物理的にへし折ってやる。それが、君に呪いをかけてしまった過去の父親としての、せめてもの責任の取り方だ」

 

切嗣の目には、明らかな殺意とは違う、冷徹な『救済』の意思が宿っている。

 

未来の自分が押し付けた呪縛から、この少年を解放する。

それが、真樹の用意した「未来のハッピーエンド」を破壊し、特異点の楔を打ち砕くための、彼なりの戦いの理由だった。

 

「来るなら来い!俺の剣は、お前の理屈なんかに絶対に負けない!!」

 

士郎が、咆哮と共に大地を蹴り、干将・莫耶を振りかざして切嗣へと肉薄する。

 

「行かせません!シロウの夢は、私が守る!!」

 

未来のセイバーが、黄金の聖剣を構え、士郎を援護すべく風を纏って突進してくる。

 

「キリツグ、マイヤ!あの少年は頼みます!私は、あの未来の私を!」

 

アルトリアが、不可視の剣を構え、自らの未来の可能性との真っ向勝負へと飛び出していく。

 

「了解だ。マイヤ、援護を!」

 

「はい、切嗣」

 

過去の魔術師殺しと、未来の正義の味方。

そして、己の運命に迷う王と、愛を知り愛に生きる未来の王。

 

真樹の用意した、甘く残酷な「未来という名のハッピーエンド(幻影)」を完全に打ち砕くための、激しい剣戟と銃声が、固有結界の世界に響き渡る。

 

それぞれが自らの存在証明を懸けた、血と鉄の死闘の幕が、今ここに切って落とされた。




理想は継ぐべきでしょうか。
それとも、断ち切るべきでしょうか。

切嗣は間違っていますか。
士郎は間違っていますか。

あなたの答えを、ぜひ聞かせてください。

【超重要・展開が変わります】真樹は聖杯にかける願いを…。

  • 言う
  • 言わない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。