冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~   作:斉宮 柴野

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※この聖杯戦争は再編集されています。
・理想は利用されます。
・ヒーローは作られます。
・そして魔術師殺しは、それを拒否します。


正義の味方にならなかった男

「固有時制御(Time alter)――二倍速(Double accel)!!」

 

切嗣の低い詠唱が、炎と歯車の軋む音に満ちた剣の丘に響き渡る。

魔術回路を通して術者の肉体の時間を外界から切り離し、時間の流れを操作する、衛宮家の秘術。

切嗣の心拍数が跳ね上がり、血液が沸騰するような感覚と共に、彼の肉体は常人の二倍の速度で赤茶けた荒野を駆け抜ける。

 

「なっ!速い!!」

 

士郎が、突然加速した切嗣の動きに驚愕の声を上げる。

 

「だけど!!いくら速くても、この数の前じゃ!!」

 

士郎は両手を高く掲げ、魔力回路を全開にする。

空を埋め尽くすように展開された無数の剣が、一斉に切嗣を目指して雨あられと降り注ぐ。

それは、ギルガメッシュの『王の財宝』に匹敵する、圧倒的な面制圧の弾幕だった。

 

「切嗣!!」

 

後方から、舞弥がアサルトライフルの引き金を引き、切嗣を援護すべく牽制の銃弾を放つ。

だが、士郎の展開する宝具の壁の前には、現代の兵器など何の意味も持たず、空中で虚しく弾き返されてしまう。

 

「三倍速(Triple accel)!!!」

 

切嗣は、飛来する剣の雨を掻い潜りながら、さらなる加速の呪文を唱えた。

 

「ガハッ……!」

 

彼の心臓が悲鳴を上げ、全身の毛細血管が破裂し、皮膚から赤い血が吹き出す。

本来ならば、肉体が崩壊し、即死してもおかしくないほどの、自傷を前提とした破滅的な加速。

 

だが、彼の体内に眠る最強の概念武装、『全て遠き理想郷(アヴァロン)』の治癒能力が、破壊される端から細胞を繋ぎ止め、彼の命をギリギリのところで維持し続ける。

 

「シロウ!!」

 

未来のセイバーが、士郎のピンチを察知し、彼を庇おうと地を強く蹴る。

 

だが、彼女のその行動を予測していたかのように、現在(過去)の彼女自身であるアルトリアが、その眼前に立ちはだかった。

 

「貴女の相手は……私だ!!」

 

アルトリアが、不可視の剣を構え、自らの未来の可能性へと鋭く踏み込む。

 

「邪魔だ!!どけぇ!!私はシロウを守る!!」

 

未来のセイバーが、黄金の聖剣を振りかざし、アルトリアの剣を激しく弾き返す。

 

二人のアーサー王による、一切の容赦のない、本気の聖剣の斬り合いが火花を散らす。

 

「貴女のその盲目的な愛など、王としての責務を放棄したただの逃避に過ぎない!!」

 

「違う!私はシロウを愛し、彼と共に生きることで、初めて人間としての幸せを知ったのだ!!過去の亡霊である貴女に、今の私の思いは理解できまい!!」

 

二人のセイバーが、己の存在意義を懸けて、互いの剣を激しくぶつけ合う。

 

 

 

 

 

 

(僕は……この少年をまだ、何も知らない)

 

切嗣は、血反吐を吐きながら、三倍速の世界で剣の雨を掻き分け、士郎へと肉薄していく。

 

(この子が、僕とアイリの間に生まれた実の子なのか、それともどこかで拾った養子なのか。それすらも分からない。……そして、この子をこんな異常な心象風景に追い込み、苦しめた元凶が何なのかを、僕ははっきりと知らない)

 

切嗣の脳裏に、先ほど真樹が見せた「縁側での未来の光景」がフラッシュバックする。

あの時、自分が死の淵で、安らかな顔で少年に言い放ったあの無責任な言葉。

 

(親である僕の――あの呪いの言葉こそが、この子の地獄の始まりなのかもしれない。僕が、この子をこんな怪物にしてしまったんだ)

 

自分の未来の選択が、未来にどれほどの悲劇を生むのか。それを突きつけられるのは、魔術師殺しとして生きる上で最も恐れていたことだった。

 

(だが……僕は、未来を悔いる術を知らない)

 

(未来の悲劇に絶望して立ち止まることなんて、僕には許されない。ならば僕は『現在』にこそ立ち、この『今』という瞬間に、親として、この子に全力でぶつかり、伝えよう。あの悪趣味な演出家(真樹)に押し付けられた、嘘っぱちのハッピーエンドなんていらない。本当の幸せは、自分の手で、泥臭く掴み取ってこそ価値がある。……だからこそ、僕は!!)

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

「衛宮士郎!!」

 

「お前のその異常な心象風景!お前の掲げるその『正義』は!お前自身のものではない!!お前の理想は、僕から押し付けられただけの、ただの借り物だ!!そんな空っぽの理想のために、自分の人生を捨てるような真似は、絶対にあってはならない!!」

 

それは、かつての自分が抱えていた狂気を、他ならぬ未来の息子に向けて完全に否定する言葉だ。

 

「じいさん!!」

 

士郎が、干将・莫耶を交差させて切嗣のキャリコの銃撃を防ぎながら、負けじと叫び返す。

 

「爺さんが俺に夢を託してくれたのは事実だ!だけど、それでも、あの火災の中で俺が誰かを助けたいと心から憧れたのは、俺自身の本物の感情だ!!俺のこの生き方は、誰かの借り物なんかじゃない!!間違いなんかじゃないんだ!!」

 

少年の、純粋すぎるが故に歪んでしまった、狂気の信念。

 

(ああ、人類悪(ビースト)が、この光景を見て歓喜しているのを感じる)

 

空の向こうで、自分たちのこの泥臭い親子の衝突を、真樹が特等席でポップコーンでも食べながら面白おかしく見下ろしているのが、痛いほどに想像できる。

 

(僕たちがここで過去を否定し、未来とぶつかり合い、どんな悲劇を演じようと、あるいは喜劇で終わろうと。全てはあの女の用意した舞台の上の演者でしかない。僕たちがここで何を悩み、何を選んで叫ぼうと、結局はあの女の掌の上なのかもしれない。……それでも!!!!)

 

「その願いは!!お前のその『誰かを助けたい』というエゴは!!たった一人で、自分自身を犠牲にして叶えられるような、安いものじゃない!!!」

 

切嗣が、かつての自分自身を殴りつけるように、吼える。

 

「顔も知らない大勢の誰か『しか』救おうとしない、自分自身を天秤にかけるような奴は……自分のすぐそばにいる、顔を知る本当に大切なものを、絶対に守り切れない!!最後に残るのは、空っぽの自分と、守れなかった者への後悔だけだ!!」

 

「!!」

 

士郎が、切嗣の言葉の重さに、一瞬だけ動きを止める。

 

「いいか、衛宮士郎!!僕たちは!!絶対に一人じゃないんだ!!」

 

切嗣は、自らの血で赤く染まった顔で、少年に向かって叫び続けた。

 

冷徹な魔術師殺しとして感情を殺し、機械のように効率だけで生きてきた男が。

 

今、血反吐を吐き、無様に取り乱しながら、生身の感情をむき出しにして、未来の息子にぶつかっている。

 

(王道?そんな恥ずかしい綺麗事、僕の口から出るなんて思わなかった。……でも、ふざけるな!!)

 

(これこそが、僕がかつて憧れ、そして諦めた『正義の味方』の姿だろう!だが!だけど!!今の僕が目指すのは、世界を救うような大層なヒーローじゃない。僕が目指すのは、ただの『誰かの味方』だ!!自分の手の届く範囲の大切な人を守り、そして、その延長線上で皆を救う。……あの言峰綺礼が言っていた、子供向けの、日曜朝のヒーロー番組みたいな、分かりやすくて、泥臭いハッピーエンドだ!!)

 

切嗣の脳裏に、アイリスフィールの優しい笑顔と、舞弥の静かな決意の表情が浮かぶ。

 

(あの、狂気に満ちたイカれた代行者(綺礼)にだって、一人の少女を愛して世界を敵に回す覚悟ができたんだ。だったら、僕にだってできないはずがない!!)

 

切嗣は、コンテンダーの引き金に指をかける。

 

(一度でいい!たった一度だけ……いや、このふざけた特異点をぶっ壊して、アインツベルン城にいるイリヤを助け出す、そのもう一度だけ!僕は、僕の大切な家族のための、本物の正義の味方になろう!)

 

「俺は……俺は……」

 

士郎が、干将・莫耶を握りしめ、切嗣を睨み返す。

 

「自分を犠牲にしてでも、全員を助けるのが、本物の正義の味方だろ!!それが俺を救ってくれた爺さんの夢で、俺が受け継いだ生き様なんだ!!」

 

「その『助ける全員』の中に!!お前自身が入っていないだろうが、この大馬鹿野郎!!!」

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

極限まで圧縮された時間の流れの中で、切嗣の意識は、過去から現在へと繋がる己の人生のすべてを走馬灯のように駆け巡っていた。

 

(ああ、シャーレイ、ナタリア。……力を貸してくれ)

 

切嗣は、心の中で、かつて自分がその手で奪い、救えなかった二人の女性の幻影に語りかける。

 

(そして、アイリ、舞弥)

 

彼が世界平和という理想の天秤を保つために、今まで『不要な感情』だと思い込み、無理やり自分の中から切り捨ててきた、数え切れないほどの人々の想い、想い、想い。

 

それは、かつての彼にとっては、自分の判断を鈍らせる重たくて痛い『呪い』のようなものだった。

 

だが。

 

(その呪いこそが……今、あらゆる力の源泉だ!!)

 

過去の罪悪感も、現在の愛する者への執着も、すべてを燃料にして。

 

切嗣は、三倍速の限界を超えた肉体で、さらに言葉を絞り出す。

 

「一人じゃない! 人間は、どんな時でも、絶対に一人ではいられないんだ!!」

 

切嗣の叫びが、剣の丘に響き渡る。

 

「お前がどれだけ自分を犠牲にしようと、お前を大切に想う女(セイバー)が、少なくともすぐそこにいるだろうが!!」

 

未来のセイバーが、ハッとして切嗣を見る。

 

「誰かを自分の背中に庇っているから、人は傷つきながらでも戦わなくちゃいけないんだ!」

 

切嗣は、コンテンダーの銃口を士郎に向けたまま、さらに距離を詰める。

 

「そして、誰かが自分の背中を命懸けで護ってくれていると信じられるから、人はどんな地獄でも戦い抜くことができるんだ!!」

 

彼自身が、舞弥に背中を預け、アイリスフィールの愛に支えられながら、この過酷な聖杯戦争を生き抜いてきた、確かな実感だった。

 

「お前の背中には今、誰がいる!!お前は誰の想いを背負って、そこで無様に立ち塞がっている!!はっきりと口に出して言ってみせろ、衛宮士郎!!!!」

 

切嗣の怒号が、少年の心象風景にヒビを入れる。

 

自らを剣と同一化し、感情を殺そうとしていた少年の心に、人間としての生々しい感情が揺さぶりをかける。

 

「この!うわああああああああああああああああああ!!!!」

 

士郎が、切嗣の言葉への反発か、あるいは己の内側から湧き上がるどうしようもない感情の爆発か。

 

彼の魔力に呼応して、空の歯車が高速で回転し、剣の雨がさらに激しさを増して切嗣へと襲い掛かる。

 

「四倍速(Square accel)!!!!」

 

切嗣は、飛来する無数の剣を躱すため、ついに肉体が千切れる寸前の禁断の加速へと踏み切る。

 

筋肉が断裂し、骨が軋む。アヴァロンの治癒すらも追いつかないほどの、絶対的な自壊。

だが、それでも彼は止まらない。

 

(届け!届け!!僕のこの不器用な思いが!!)

 

コンテンダーの冷たい銃口が、ついに少年の胸のすぐ目前にまで迫る。

 

「いいか士郎!!よく聞け!僕の世界の正義はこうだ!!!」

 

切嗣が、血走った目で士郎を睨み据える。

 

「五倍速(Fifth accel)――――!!!!」

 

限界のさらに先。もはや人間の動きではない神速の踏み込みで、切嗣は士郎の双剣の防御を完全に突破する。

 

「光さす世界に!涙を救わぬ正義なし!!!!」

 

切嗣が、最高に熱く、最高にヒロイックな叫び声を上げる。

 

そして、彼の指が、標的の魔術回路を完全に破壊する『起源弾』の引き金に、今まさに深くかかり。

 

(……届いた。これで終わりだ)

 

切嗣の心の中で、確かな勝利の予感が弾ける。

 

(この起源弾で、彼の魔術回路ごと、その歪んだ理想を粉々に撃ち砕く……。そしてそれこそが、あの女(真樹)が用意した『未来のハッピーエンドを自らの手で壊す』という試練を、完璧に乗り越える証明になる……)

 

切嗣の思考が、そこまで到達した。

その。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那の、本当にコンマ数秒にも満たない思考の海の中で。

切嗣は、全身の血が凍りつくような、強烈な違和感に襲われた。

 

(……本当に??これで、それで本当にいいのか????)

 

引き金にかかった指が、ピタリと止まる。

 

(僕は、こんなにも熱い言葉を叫ぶような、熱血漢のヒーローだったか????)

 

切嗣は、自分自身の直前の言動を、冷静なもう一人の自分が強烈に客観視しているのを感じた。

 

「光さす世界に」?「涙を救わぬ正義なし」?

 

まるで、日曜朝の子供向けアニメの主人公が、クライマックスで悪役に向かって叫ぶような、完璧に計算され尽くした、あまりにも熱い決め台詞。

 

自分の口から自然に出たはずのその言葉が、今思い返すと、ひどく嘘くさく、他人の書いた台詞を読まされているように感じられたのだ。

 

(これは……)

 

切嗣の脳裏に、上空の大劇場で恍惚と笑っていた、角の生えた少女の顔が浮かぶ。

 

(これは……あの女の権能によって強制された『役割(スクリプト)』ではないのか????)

 

彼が過去を反省し、家族のために泥臭く戦う決意をしたこと。

それは確かに彼自身の本心だったはずだ。

 

だが、その本心すらも利用し、彼を「過去の過ちを正す、熱血でカッコいい父親ヒーロー」という役柄に仕立て上げ、この場を最高にドラマチックな感動のクライマックスとして演出するための。

 

あいつ(真樹)が書いた台本に、自分は知らず知らずのうちに踊らされていたのではないか。

 

(自分が未来の息子を撃つ。そして、息子は親の愛を知って浄化される。……なんて綺麗で吐き気のするほど完璧なハッピーエンドの構図だ)

 

ここで士郎を撃てば、真樹の書いた「台本通りの勝利」であり、結局は彼女の演出の枠(支配)から一歩も抜け出せていないということの証明になってしまう。

 

(ならば、僕の取るべき行動は……ただ一つだ)

 

次の瞬間。

 

衛宮切嗣は、誰もが予想しなかった、いや、演出家である真樹ですら絶対に台本に書いていなかったであろう行動に出た。

 

彼は、士郎の心臓に向けられていたコンテンダーの銃口を、思い切り横へと逸らしたのだ。

 

「え……?」

 

目の前で殺される覚悟を決めていた士郎が、虚を突かれたように間抜けな声を漏らす。

 

そして――。

切嗣は、逸らしたその銃口を、迷うことなく、自分自身の腹部へと真っ直ぐに向けた。

 

「なっ!キリツグ!!何を!!」

 

後方で見ていたアルトリアが、悲鳴を上げる。

 

「これが、僕の答えだ!!演出家!!」

 

ズドンッ!!!!

 

特異点の空間に、鼓膜を破るような轟音が響き渡る。

切嗣自身の放った起源弾が、火を噴き、彼自身の腹部を容赦なく撃ち抜いた。

 

『あーあ。熱血ヒーロー再誕!!っていう、最高にエモくて視聴率の稼げる感動の名シーンだったはずなのに……』

 

上空の暗雲の向こうから、真樹の、ひどく呆れたような、計画を台無しにされて拗ねたような声が響いてくる。

 

『自ら主役の座を放り出して、舞台をぶち壊すなんて。本当に、可愛げのない役者ね。切嗣さん』

 

真樹のその言葉が終わった直後。

 

冬木の夜空、特異点の空を貫いていた七本の「巨大な光の柱」のうちの一本が、粉々に砕け散り、光の粒子となって完全に焼失した。

 

同時に。

彼らを囲んでいた固有結界『無限の剣製』の草原も、空を回る歯車も。

そして、目の前で呆然としていた未来の士郎も、未来のセイバーも。

 

「じいさん……あんた、本当に……」という士郎の戸惑いの声を最後に、まるで蜃気楼が消えるように、空間に溶けて跡形もなく消え去ってしまった。

 

「・・・・がはっ!! はぁ、はぁ……っ」

 

元の、見慣れた武家屋敷の庭の景色へと戻った瞬間。

切嗣は、全身の力が抜け、芝生の上にドサリと膝をついた。

 

五倍速という無茶な加速の反動と、極度の緊張から解放されたことで、息も絶え絶えになっている。

 

「切嗣!!」

 

舞弥が、アサルトライフルを放り捨て、血相を変えて切嗣の元へと駆け寄る。

 

「キリツグ、無事ですか! 一体なぜ、敵を前にして自分自身を撃つような真似を……!?」

 

アルトリアも、慌てて剣を収め、彼を覗き込む。

 

切嗣は、激しく咳き込みながらも、ゆっくりと自分の腹部を手で探った。

 

「……無傷……か」

 

切嗣が、安堵の混じった声で呟く。

彼の腹部には、服に穴こそ開いているものの、撃ち抜いたはずの起源弾による致命的な傷跡は、どこにも存在しなかった。肉体的なダメージも、五倍速の反動による筋肉の断裂は、急速にアヴァロンの力で治癒されつつある。

 

これは、真樹の仕掛けた試練のカラクリだ。

 

彼が自らの完璧な脚本(熱血ヒーローによる未来の打倒というハッピーエンド)を、土壇場での「自己否定(自害)」という全く想定外のアドリブによって強引にぶち壊したことで。

 

真樹の作り上げた舞台装置(特異点のルール)が一時的な機能不全(エラー)を起こし、幻影によってもたらされた結果(ダメージ)ごと、すべてが強制的にリセットされたのだ。

 

「……いや。なんでもない」

 

切嗣は、心配する二人の女性に向かって、血だらけの顔で、少しだけ自嘲気味に笑ってみせた。

 

「ただ、あの悪趣味な女の書いた三文芝居の『主演男優』の座を、自分からクビになりたくてね。危うく、気持ちよく洗脳されて、あいつの思い通りのヒーローを演じさせられるところだったよ」

 

切嗣は、舞弥の肩を借りてよろけながら立ち上がると、懐からくしゃくしゃになったタバコの箱を取り出し、一本くわえて火をつけた。

 

深く煙を吸い込み、夜空に向けて紫煙を吐き出す。

 

真樹の望んだような、誰もが感動して涙を流すような、綺麗で完璧な熱血ヒーローには、結局なれなかった。

 

だが、他人の書いた台本を拒絶し、自分自身を撃ち抜くという、最高に泥臭くて、最高にひねくれた「魔術師殺し」のやり方で。

 

衛宮切嗣は、見事に自らの運命の楔である、第一の光の柱をへし折ってみせたのだ。

 

「さあ、舞弥、セイバー」

 

切嗣が、コンテンダーの空薬莢をチャキッと音を立てて排莢し、新しい弾丸を込める。

 

「僕たちの仕事は終わった。あとは、他の連中が残りの柱を折ってくれるのを信じて、アイツのいる中央の劇場へと向かおう。あのイカれた演出家に、この弾丸をもう一度直接叩き込むためにね」

 

彼の目には、かつてないほどの鋭い光と、一人の父親としての確かな闘志が宿っていた。




もしあなたが完璧な感動のクライマックスに立たされたら、
そのままヒーローになりますか?

それとも、舞台ごと壊しますか?

ご感想、お待ちしています。

【超重要・展開が変わります】真樹は聖杯にかける願いを…。

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