冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~   作:斉宮 柴野

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※この聖杯戦争は一部仕様が変更されています。
・家族は優しいです
・兄はツンデレです
・祖父はまともです
・世界は平和です

ただし――
全部、幻です。


幸福の檻

深山町、その一角に、他の家々から隔絶されるようにして不気味にそびえ立つ洋館がある。

 

魔術の血が絶えかけ、腐敗と陰湿な空気に満ちた、間桐の屋敷。

 

その広大な庭の中央から、特異点を支える五本目の光の柱が、禍々しい魔力の波紋を描きながら真っ直ぐに夜空へと立ち上っていた。

 

「主(桜)よ。まさか、ここと(第五の柱の発生源)は……」

 

彼にとっても、ここはマスターである間桐雁夜の命をすり減らした、因縁の場所だ。

 

「ええ。私がお姉さん(真樹)でも、ここを選ぶわ」

 

「遠坂の娘としての桜が死に、間桐の道具としての桜が死に……」

 

「そして、蟲蔵で、一切の希望を奪われた絶望の底から、『私(間桐の当主としての本当の自分)』が生まれた場所。私の魂の在り方を試すつもりなら、ここが一番相応しい、最高の舞台(ステージ)だもの」

 

「……桜よ。では、お前は今は『誰』なのだ?」

 

「私は間桐臓硯。そう言ったはずです。お祖父様」

 

「いえ――」

 

「マキリ・ゾォルケン」

 

「――――」

 

桜の口から出た『マキリ』という、彼の一族の本来の名。そして、臓硯自身の真の名。

その名を聞いた瞬間、臓硯の濁った目が、わずかに大きく見開かれた。

 

「……そうであったな」

 

「この世全ての悪(アンリマユ)の廃絶を。……それが、我らマキリの、決して忘れてはならない悲願であったな」

 

かつて、人間の持つ悪性を根絶し、真の平和をもたらすために聖杯戦争のシステムを構築した若き魔術師。

 

その崇高な理想は、長すぎる年月と執着の前に腐り落ち、ただ生き長らえることだけを目的とする醜い怪物へと成り果てていた。

だが、桜は、その彼が完全に忘れ去っていた「原点」を、今ここで突きつけたのだ。

 

「ええ。これはそのための戦いです」

 

「あの演出家(お姉さん)の用意した、誰もが笑顔になるだけの、嘘っぱちで陳腐な『ハッピーエンド』になんて、私は絶対に騙されない。私の人生は、そんなに安っぽくない」

 

「参りましょう、ランスロット」

 

「はっ。我が主の御心のままに」

 

三人は、一切の迷いを見せることなく、天を突く光の柱の中へと真っ直ぐに足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

「う……ん」

 

桜が、眩しさにゆっくりと目を覚ます。

 

見慣れた天井。少しだけ殺風景だが、清潔に保たれた自室。

間桐邸にある、自分の部屋のベッドの上だった。

 

窓のカーテンの隙間から、温かい朝の光が差し込み、遠くで小鳥のさえずりが聞こえる。

少し冷たいが、どこまでも穏やかで平和な朝の空気。

 

突然、部屋の扉が乱暴な音を立てて開け放たれた。

 

「おい!いつまで寝てるんだウスノロ!」

 

「お兄様?」

 

「あ?誰が『お兄様』だ気持ち悪い」

 

「『兄さん』と呼べよ、いつも通り。なんだお前、変な夢でも見たのか?それとも熱でもあんのか?」

 

「え?あ。はい。ごめんなさい、兄さん」

 

桜は、自分の口から出た「お兄様」というよそよそしい呼び方に違和感を覚え、慌てて訂正する。

 

そうだ。自分はいつも、彼を「兄さん」と呼んでいるはずだ。

 

「さっさと着替えろ。もう衛宮のところに行く時間だろう?」

 

「アイツはバカみたいに早起きだからな、お前が早く行ってやらないと、またあいつ一人で勝手に朝飯作っちまうぞ!そうなったら、お前がわざわざ通ってる意味がないだろうが!」

 

「はい、ありがとうございます。すぐに用意します」

 

「ふん」

 

「なんで僕が、アイツ(士郎)のために、わざわざ自分の妹を毎朝起こしてやって、『通い妻』みたいに世話焼かせてやってるんだか……。」

 

「か、通い妻なんて!!そんなんじゃないです!!」

 

「うるさい、照れるな気持ち悪い!早く行け!!僕はもう少し寝る!!」

 

慎二は、そう言い残すと、乱暴に扉を閉めて自室へと戻っていった。

桜は、閉まった扉を見つめながら、小さく息を吐く。

 

その兄の態度は、確かに粗暴で口は悪い。

だが、ただの『妹の恋路を少し面白くなく思いながらも、結局は世話を焼いてしまう、不器用で口の悪い兄』の姿、そのものだった。

 

「はい!行ってきます!」

 

階段の踊り場に、和装の老人が立っていた。

 

「桜よ。衛宮の小僧のところに行くのか?」

 

「はい、お祖父様!今から朝ごはんを作りに行きます」

 

「カカッ!若いというものはよいものじゃ。精々楽しんでくるがいい」

 

「そうじゃ、桜。今夜の魔術の鍛錬は、少しばかり趣向を変えて、もう少し先へ進むとしよう。お主の生まれ持った、その稀有で素晴らしい『虚数魔術』の属性も、間桐の術式に上手く取り入れて伸ばしてやらねばな」

 

「え?」

 

 

(魔術の鍛錬……?虚数魔術を伸ばす……?)

 

桜の脳裏に、ひどくおぞましい、暗くて痛い光景がフラッシュバックしかける。

 

(間桐の鍛錬って……あの地下室での、蟲の調教じゃ、ないの……?)

 

「何を驚いておる?」

 

「お主が間桐の魔術を継ぐために、日々血の滲むような努力をしておることは、このワシが一番よく分かっておる。お主の才能は、遠坂の血筋というだけでなく、間桐の歴史においても稀に見る逸材じゃ」

 

臓硯の言葉は、純粋な魔術師としての後継者への期待と、愛情に満ちていた。

 

「……間桐の血が絶えるのは困るから、将来は慎二と子は作ってもらうがな」

 

「だが、それ以外の私生活は、小僧(士郎)と遊ぼうが、青春を謳歌しようが、お主の好きにすればよい。お主は間桐の最高傑作だ。魔術師としては、このワシが責任を持って必ず大成させてやる。頼むぞ、桜。間桐の新しい母となる、誇り高き女よ」

 

「わかりました。……行ってきます」

 

桜は、臓硯の言葉に深く一礼し、屋敷の玄関を出た。

 

(なんだろう?私、何かすごく大切なことを……忘れているような……?)

 

兄さんは、先輩と弓道部のことで少し喧嘩しているらしい。

あんなに先輩のことが心配で気にかけているなら、素直に仲直りすればいいのに……。

 

(まるで、遠坂の姉さんみたいなツンデレね。ふふっ)

 

お祖父様(臓硯)は、魔術の鍛錬に関してはとても厳しい人だ。

でも、その厳しさの裏には、間桐の魔術を絶やさないという強い使命感と、後継者である孫娘への確かな『優しさ』と『期待』が伝わってくる。

 

(『この世全ての悪の廃絶』……か)

 

桜は、お祖父様が昔から語っている、間桐家の悲願を思い出す。

 

(とても立派な理想だけど……でも、私には、それよりも先輩の毎日のお弁当の献立を考えることの方が、ずっと大切だわ)

 

桜は、今日の朝ごはんのメニューを思い浮かべながら、足取りも軽く、衛宮邸への道を急いだ。

そこにあるのは、魔術師としての過酷な宿命を背負いながらも、家族からの確かな愛情を受け、愛する人との平穏な日常を両立させている、一人の少女の完璧なハッピーエンド。

 

真樹が、桜の深層心理の最も深い部分からすくい上げ、完璧な形に再構築した「誰も傷つかない都合の良すぎる日常」という名の、猛毒の幻影だった。

 

桜は、自分が今、光の柱の試練の中にいることすら完全に忘れ、その甘い毒の中に、自ら進んで微睡み始めていた。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「おはようございます!先輩」

 

「桜……おはよう。ごめん、今日はちょっと寝坊しちゃって、今起きたところなんだ」

 

頭の後ろの寝癖をいじりながら、バツが悪そうに苦笑いを浮かべて居間に現れたのは、彼女の慕う衛宮士郎だ。

 

いつもなら誰よりも早く起きて朝食の準備をしている彼が、パジャマ姿のまま目をこすっている。その少し気の抜けた姿が、桜にはたまらなく愛おしく感じられる。

 

「じゃあ、今日は一緒にご飯作っちゃいましょう!もたもたしてると、弓道部の朝練に遅れちゃいますよ」

 

「お!そうだった、今日は大会前の大事な朝練だったな!急ごう」

 

士郎は慌ててエプロンを身につけ、桜と並んで台所に立つ。

二人は、言葉を交わさずとも息の合った手際で、まな板でネギを刻み、フライパンでシャケを焼き、あっという間に純和風の朝食を完成させていく。

 

「いただきます」と手を合わせた時、桜はふと、士郎の右手の甲に浮かび上がっている「赤い文様」に気がついた。

 

「先輩……その右手の模様……」

 

「あ?ああ、これか。令呪だよ。ついにやっと俺にも出たみたいなんだ」

 

「そういえば、今回の第五次聖杯戦争、間桐の家からは誰がマスターとして出るんだ?やっぱり当主の臓硯さんか?それとも慎二?」

 

「まだはっきりと決まっていなくて……。でも、実は令呪の兆しは、私にあるんですけど……」

 

魔術師としての戦いに巻き込まれる不安。それを察した士郎は、箸を置き、桜の顔を真っ直ぐに見つめ返した。

 

「そっか。……でもさ、たとえ間桐から誰が戦いに出てきても、もしお前に何か危ないことがあったら、すぐに俺に言えよ?」

 

「俺は、お前を絶対に死なせたりはしないから。俺が、必ず守る」

 

その不器用な誓いに、桜は頬をポッと赤く染め、胸の奥底から込み上げてくる熱い感情に包まれる。

 

「……それにしても、遠坂のやつも困ったもんだぜ」

 

「わざわざ昨日の夜に俺のところに電話してきて、『桜のことはアンタに頼んだわよ。もし泣かせたら、ガンド撃ち込むからね!』って、ものすごい剣幕で念押ししてくるしさ」

 

「姉さんが?!ふふっ、わざわざそんな電話を……。やっぱり姉さんは、どこまでいってもツンデレですね」

 

実の姉である遠坂凛。彼女もまた、この世界では桜のことを心から気にかけ、表向きはツンツンしながらも、裏では妹の恋路を全力で応援してくれているのだ。

 

「そうそう。それに、イリヤなんてもうとっくにバーサーカーを召喚しちゃって城で『私が一番強いんだから!』って息巻いてるらしいんだよな」

 

「……まあ、聖杯戦争の本格的な開催は、できれば俺たちの弓道部の大会が終わった後だといいんだけどなあ」

 

まるで、町内会のイベントでも語るかのような、緊迫感のない口調。

 

「ええ、そうですね。今回の第五次聖杯戦争……これを最後として、私たちは聖杯というシステムそのものを完全に解体して、この冬木の地を本当の意味で平和にするんです」

 

「それが、遠坂の姉さんや、衛宮さんたち……みんなの共通の願いですから」

 

「ああ。じいさん(切嗣)たちも、その聖杯解体の準備のために、昨日は夜通し起きて作業してたみたいでさ。今はまだ、奥の部屋でぐっすり寝てるよ」

 

「……でもさ、親父とはいえ、同じ屋根の下にアイリさんと舞弥さんって、奥さんが二人もいる状態なのは、倫理的にもちょっと問題があると思うんだけどなあ」

 

「ふふっ。先輩は、そんな風にならないように気をつけてくださいね?奥さんは『一人まで』にしてください」

 

桜が、少しだけ上目遣いで、冗談めかして士郎をからかう。

 

「なッ!あ、当たり前だろ!?俺は親父みたいな器用な真似はできないし、するつもりもないぞ!」

 

「そうですかぁ?弓道部の後輩とかにも優しいし、けっこう危ない気がしますけど」

 

「私が正妻のポジションに入るのは当然確定として。もしかして、遠坂の姉さんとか、イリヤスフィールさんとか……あと、藤村先生とかも、お嫁さん候補に入ってたりするんですか??」

 

「お、俺はそんなに節操なしじゃなーい!!だいたい藤ねえはお姉ちゃんみたいなもんだし!!」

 

誰も傷つかない。誰も泣かない。

みんなが笑って、明日を信じて生きている世界。

桜の魂は、その甘い蜜のような幸福の中に、どっぷりと浸かりきっている。

 

『ねえ、桜ちゃん?』

 

その、完璧な幸せの絶頂の中で。

特異点の空の上から、あるいは桜の心の最も柔らかい部分から、真樹の甘く、溶けるような悪魔の囁きが響いてくる。

 

『あの頭の固いお祖父様は、この世全ての悪の廃絶だの、人類の救済だのって、難しいことを言っているけれど。別に、人類がみんな神様みたいな立派な存在になんかならなくても……『貴女自身』は、今のこの生活で十分幸せなんじゃない?』

 

『大聖杯の膨大な魔力を使って、この幸せな日常という世界線を、完全に固定しちゃえばいいのよ。そうすれば、もう悪いことは何も起きない。痛いことも、悲しいことも、全部サヨナラよ』

 

『……間桐の悲願なんていう、重たくて面倒くさい使命は全部捨てて。士郎くんとの、自分たちだけの幸せを優先しても……誰にも文句は言われないわ。良いんじゃない?このまま、この素敵な夢の中で、ずっと彼と笑い合っていれば』

 

葛藤すらも奪い去るような、その圧倒的な肯定の言葉が、桜の耳元で、子守唄のように心地よく響き続けている。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

吹き荒れる熱風。空を焦がす赤い炎。

 

「ギネヴィアは……王妃は、絶対に殺させはしない!!」

 

黒き鎧に身を包んだランスロットが、血走った目で絶叫しながら、処刑台へと向かって己の剣を無我夢中で振るう。

 

王妃の不義の恋。その相手は、他ならぬ自分自身。

自らの罪によって処刑されようとしている愛する女性を救い出すため、彼は我を忘れて群がる兵士たちを斬り捨てていく。

 

だが、その無慈悲な刃が切り裂くのは、ただの兵士だけではない。

かつて円卓を囲み、共に杯を交わし、背中を預け合って笑い合った、大切な同胞たちをも、次々と血祭りにあげていく。

 

「ランスロット様!?ああっ!!」

 

悲痛な叫び声と共に、彼の剣が、円卓の末妹であるガレスの無防備な胸を貫く。

 

無手であった彼女は、尊敬するランスロットが刃を向けてくるなどと信じられず、全く抵抗すらできないまま、崩れ落ちる。

 

「なぜだ、ランスロット卿……!!我が兄弟を!!」

 

続くガヘリスも、怒りと悲しみに顔を歪めながら、ランスロットの圧倒的な剣技の前に斬り伏せられ、血の海に沈む。

 

ガレスを斬った。ガヘリスも斬った。

愛するたった一人の女性を救い出すためだけに、己の手は、最も守るべきだった同胞たちの温かい血で、べっとりと赤く染まっていく。

 

「ランスロット卿!!!!」

 

炎の向こうから、太陽の騎士、ガウェインが、目を血走らせ、怒髪天を突く勢いで姿を現す。

彼の愛剣ガラティーンが、怒りの炎を纏って激しく燃え盛っている。

 

「貴方だけは……!我が愛する妹弟を無惨に手にかけた貴様だけは、このガウェインが、必ずこの手で討ち果たす!!!」

 

(太陽の騎士よ……。卿のその激しい怒りも、私への憎しみも、すべて当然のことだ)

 

(私がすべての元凶。私がすべての罪の始まり。卿の剣でこの首を刎ねられ、地獄に落ちるのが私の当然の報い。……だが、それでも……私は、あの王妃を見捨てて、自分だけ死ぬわけには行かないのだ!!)

 

罪悪感に魂をすり潰されそうになりながらも、ランスロットはガウェインの剣を弾き返し、火刑台へと突き進む。

そして、彼が王妃を奪還したその瞬間。

 

幻影の場面は、無慈悲に、そして唐突に先の時間へと飛び、あの血塗られたカムランの丘へと至る。

 

「カムランで、我が王が、モードレッドの率いる反乱軍と激突しただと……?」

 

荒野を駆ける馬上で、ランスロットは伝令からの報告を聞き、血の気が引くのを感じる。

 

「いかん!直ちに援軍を!!全軍、死に物狂いで馬を走らせろ!!我が王を、あの清廉なる光を、何としても救うのだ!!」

 

ランスロットは、馬の腹を蹴り破るほどの勢いで鞭を入れ、必死にカムランの丘を目指してひた走る。

 

自分が国を割ったせいで、王を孤立させてしまった。その取り返しのつかない罪を雪ぐためには、王の盾となって死ぬことしか残されていない。

 

しかし。

彼が血を吐くような思いでカムランの丘に辿り着いた時。

 

戦いは、すでに完全に終わっていた。

見渡す限りの死体の山。

折れた剣、砕けた鎧。

そこには、彼が命を懸けて守りたかった、光り輝く騎士たちの姿はもうない。

 

(……アーサー王は、死んだ)

 

(国は滅びた。円卓は砕け散った。私は、最も救いたかった我が王のために、結局、何一つできなかった。ただ遠くから、彼女が死にゆくのを眺めていることしかできなかった)

 

どうしようもない、底なしの絶望。

自らの不義が引き金となり、すべてを壊してしまったという、逃れようのない絶対的な罪悪感。

 

『ねえ、ランスロット。もう一度、最初からやり直せたらって……そう思わない?』

 

『なんで貴方は、自分の記憶の中で、何度繰り返しても、同じように同胞を殺して、王を裏切るっていう『最悪の道』を選び続けるの??バカみたいじゃない。聖杯の力で、この過去を全部無かったことにしなさいよ。そうすれば、ガレスも死なないし、王様も救われるわよ?』

 

それは、過去に囚われた英霊にとって、最も抗いがたい「奇跡(やり直し)」の誘惑。

だが。

 

「知れたことよ……」

 

「栄光も、後悔も、すべては私が、私自身の意志で一度選び取ったものだ」

 

「ならば、それがどれほど血塗られた悲劇であろうとも……それは、私という騎士の魂の形、そのものだ。己の生き様を否定し、過去を無かったことにして逃げるなど、騎士の誇りが許さない。私は何度やり直そうとも……必ずこの道を選ぶ!!」

 

『そう……。本当に可愛くない騎士ね』

 

『過去を肯定するっていうのなら。貴方はその罪の重さを、永遠に味わい続けるしかないわ。なら、永遠の悪夢(後悔のループ)の中に囚われて、心が壊れるまで苦しむと良いわ』

 

そして、彼が次に目を開けた時。

 

そこはまたしても、燃え盛るキャメロットの広場。

目の前には、無防備なガレスが立っている。

 

「ランスロット様!?」

 

再び、彼の剣がガレスの胸を貫く。

何度やっても王を救えず、同胞を殺し続け、そして最後にはカムランの丘で王の死を見届ける。

 

真樹は、強靭な精神を持ち、誘惑に乗らないこの騎士の心を、絶望的な「無限の再演」によって物理的にすり潰し、発狂させようとしていたのだ。




慎二が優しい世界。

臓硯がまともな世界。

士郎が普通に幸せな世界。

……これ、実は一番怖いかもしれません。

【超重要・展開が変わります】真樹は聖杯にかける願いを…。

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