冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~   作:斉宮 柴野

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※この聖杯戦争にはいくつか仕様変更があります。

・ビーストが脚本を書いています
・王様はそれを破りに来ます
・時臣は一度壊れました
・壊れた方が面白くなりました


失われなかったウルク

冬木の夜空を、黄金の光が鋭い尾を引いて駆け抜けていく。

それは神代の空を支配した天翔る王の船、ヴィマーナである。

まばゆい輝きを放つその船が目指すのは、冬木の陸地から離れた海のど真ん中だ。

 

波打つ漆黒の海面から、まるで海そのものを真っ二つに割るようにして、巨大な光の柱が天を突いてそびえ立っている。

 

特異点を支えるその禍々しい柱は、遠く離れた上空からでもはっきりとその異常な魔力を周囲に撒き散らしているのがわかる。

 

「チッ。マキめ……我を海にまで引き回すとは……ほとほと我儘な女よ」

 

「あ奴の頭の中では、我に対する試練の舞台は『隔離された絶海の孤島』とでも設定されているらしいな。わざわざ王を呼びつけるのに辺境の海を指定するとは、演出家気取りも大概にするがいい。観客を待たせるなど、三流のやることだ」

 

不満げに鼻を鳴らすが、その口元にはどこか好戦的で、これからの余興を待ち望むような笑みが浮かんでいる。

 

その玉座のすぐ隣で、遠坂時臣が静かに傅いている。

 

「……王よ。感謝いたします」

 

「あん?何を急に殊勝なことを言い出している、時臣」

 

「一度は不甲斐ない私を見限ったにも関わらず、再びこうして私をマスターとしてお認めになり、このヴィマーナに同乗することをお許しになるとは……。私にとって、これ以上の身に余る光栄はありません」

 

彼はかつて、あの凄惨な聖杯問答の場で、自らの信じていた魔術師としての誇りや根幹を真樹によって徹底的に論破され、気絶と精神崩壊というあまりにも無様な醜態を晒した。

 

その過去の事実は、遠坂の当主としては万死に値する失態である。

 

その一度の完全な崩壊を経て、彼は「常に完璧な遠坂の当主でなければならない」という強迫観念のような重圧から、少しだけ解放されている。

 

肩の荷が下りた今の彼は、一人の魔術師として、そして一人の人間としての本来の冷静さを確実に取り戻しつつあるのだ。

 

「フン。そのような恩着せがましいことを言った覚えはないぞ」

 

「我はただ、あの不遜な演出家のふざけた舞台を力ずくでぶち壊しに行くついでに、道端に転がっていた貴様を拾ってやっただけだ。勘違いするなよ。貴様が再び我を楽しませるというのなら、一番近くの席に置いてやるというだけの話に過ぎん」

 

「それでも、です。貴方様が私を見捨てず、再び共に戦う機会を与えてくださったこと。その事実に変わりはありません」

 

「ほう。ずいぶんと顔つきが変わったではないか、時臣。あの劇場で無様に泡を吹いて倒れていた男と同一人物とは思えんな」

 

「一度完全に叩き割られた器が、再びどうやってその形を保つのか。無理やり取り繕うのか、それとも全く新しい器として焼き直されるのか。……貴様のその顔を見るに、どうやら後者のようだな。実に興味深い」

 

「お恥ずかしい限りです。私は今まで、遠坂という家名と、魔術師としての使命に縛られるあまり、一番身近で、一番大切なものから目を背けておりました。あのビーストの言葉は、劇薬ではありましたが……私の目を覚まさせるには十分すぎるものでした」

 

「それに、貴様には貴様の『責任(宿題)』があるようだからな」

 

「責任……ですか」

 

「そうだ。あ奴(ビースト)は、特異点を作るにあたって、貴様の妻と娘の未来にまで干渉しようとしていたのだろう?誰もが幸せになるなどという、吐き気のするような偽りの幸福を押し付け、貴様の誇りを泥で塗り固めようとな」

 

真樹の提示した「誰も悲しまないハッピーエンド」。

それは一見すると美しいが、時臣がこれまで魔術師として積み上げてきた決断や、家族が背負ってきた痛みを、すべて無意味なものとして否定する残酷な救済だ。

 

妻である葵の悲しみも、凛に託した重い責任も、そして何より、桜を間桐へと送り出した自らの血を吐くような決断も。

 

すべてを「無かったこと」にして幸せな夢を見せるなど、時臣の魂が絶対に許容できるものではない。

 

「……!はい。承知致しました」

 

「遠坂の誇りにかけて。我が家族の未来を、汚させるわけにはいきません。魔術師としての決断も、その結果生じる地獄も、すべては私がこの背で負うべきもの。あのような小娘の書いた台本に、運命を委ねるなど、絶対にあり得ない」

 

「私は私の手で、妻や凛、そして……桜の明日を、切り拓かねばならないのです。たとえその道がどれほど険しくとも、偽りの夢に逃げることだけは、遠坂の当主として、そして彼女たちの父親として、決して選んではならない道なのです」

 

「ふはは!ふははははははは!!」

 

「その意気や良し!!やはり貴様は、壊れてからの方が数倍面白い男になる!!」

 

「他人の用意したぬるま湯など蹴り飛ばし、己の足で地獄を歩むと決めたか!ならば、その道行き、この我が見届けてやろうではないか!!」

 

ギルガメッシュが、両腕を大きく広げる。

 

「では行くぞ時臣!くだらん幻影ごと、この海を真っ二つに割ってやろう!!演出家気取りのあの小娘に、真の王の輝きというものを教えてやるのだ!!」

 

「はい!!お供いたします、英雄王!!」

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

ヴィマーナが光の柱の分厚い壁を突き破り、魔力の圧でヴィマーナの装甲が軋むが無事に特異点の内部へと突入する。

強烈な閃光が視界を白く染め上げ、ギルガメッシュと時臣の意識を一瞬だけ奪う。

 

だが、次に彼らが目を開けた時、そこは太平洋の荒れ狂う海の上でも、暗雲立ち込める冬木の空でもなかった。

 

「……ほう」

 

そこは、見渡す限りの広大な荒野だった。

 

赤茶けた大地が地平線まで続き、その遥か彼方には、巨大な城壁に囲まれた古代都市の威容が見える。

 

煙突から立ち上る生活の煙。人々の活気に満ちたざわめき。

 

「なるほどな」

 

「間違いなく我が統治した最盛期のウルク。……そして、この空気の緩さから推測するに。ここには、不老不死の霊薬を蛇に奪われるというあの間抜けな結末も存在せず、何より……我が唯一の友が、神の呪いによって命を落としていない、という設定か」

 

「過去の悲劇をすべて無かったことにし、何も失わなかった、完璧で永遠の平和な世界……とな?あの演出家気取りの女、ずいぶんとこの我を侮ってくれるではないか」

 

悲しみのない世界?

そんなものは王の歩みを否定するだけのぬるま湯だ。

 

彼がすべてを見通す賢王として完成したのは、親友の死という痛みを経験し、それを自らの足で乗り越え、不老不死の探求の末に「人間の限界」を肯定したからに他ならない。

 

「どうせ、このぬるま湯のような世界で、泥でこねた安っぽい幻の友(エルキドゥ)でも我の前にけしかけて、我の心を揺さぶろうという魂胆だろうが。……くだらん。そのような安い三文芝居で、この我の歩みが止まるはずも――」

 

ギルガメッシュが、ヴィマーナから飛び降り、この幻のウルクを跡形もなく破壊してやろうと、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の鍵を開きかけた、その時だった。

 

「それはどうかな?ギル」

 

「――――」

 

展開しかけていた黄金の波紋が、ピタリと止まる。

 

「王よ……?いかがなさいましたか」

 

彼の全神経は、背後から聞こえたその「声」だけに集中していた。

 

(幻影(ニセモノ)ではない……?)

 

千里眼が、そして何より、彼自身の魂が、背後に立つ存在が、安っぽい幻影や泥人形などではなく、紛れもない『本物』であると、強烈に告げているのだ。

 

「……当然、あの悪趣味な女のことだ。我を試すために、お前の姿かたちを模したモノをここに出してくるとは思っていたが。……いや、まさか」

 

「……お前、本当に……本物なのか……!?」

 

そこには。

荒野の風に、美しい緑色の長い髪を揺らす、中性的な美貌の友。

 

天の鎖、エルキドゥが、かつてウルクの草原で並び立った時と全く同じ、穏やかで、しかし力強さを秘めた微笑みを浮かべて立っていたのだ。

 

「どうしたんだい?ギル。そんなに驚いた顔をして」

 

「あのビーストが、僕の偽物(幻影)を作り上げて、君を騙そうとでもすると思ったのかい?さすがに彼女も、君の目は誤魔化せないと分かっていたんじゃないかな」

 

「エルキドゥ……。なぜ、お前がここにいる」

 

「ここは、あのビーストの権能によって作られた、外界から隔離された檻の中だぞ。通常の聖杯戦争のシステムはすでに崩壊している。今のお前を、正規の英霊としてこの特異点の中に喚び出せるようなマスターなど、どこにも存在しないはずだ」

 

いくらエルキドゥが規格外の力を持っていようと、サーヴァントである以上、現界するためにはマスターからの魔力供給と、現世に繋ぎ止めるための縁(アンカー)が絶対に必要になる。

 

だが、この完全に真樹に支配された特異点の中で、そんな離れ業をやってのける魔術師など。

 

「マスター、だってさ」

 

「どうやらそのようだよ。彼、状況が飲み込めなくて、すごく混乱してるみたいだ。君からちゃんと説明してあげたらどうだい?」

 

エルキドゥが視線を向けた、その背後。

 

そこから、エルキドゥの細い背中に隠れるようにして、ひょっこりと顔を出したのは。

 

「やっほー!王様、時臣さん、奇遇ね!こんな海の上で会うなんて!」

 

頭に生えていた二本の角は、どこにもない。

ただの、少し着古したジーパンと、大きめのパーカーを着ただけの、普通の女子大生の姿をした、真樹だった。

 

「「は?」」

 

 

 




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【超重要・展開が変わります】真樹は聖杯にかける願いを…。

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