冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~ 作:斉宮 柴野
ただし
・脚本は破壊されます
・演出家はバグります
・英雄王は爆笑します
そして今回、
世界を壊す二人が再会しました。
ご愉快ください。
「えっと……いやー、実はね。ちょっと色々ありまして」
真樹は、ギルガメッシュの殺気立った視線と、時臣の不審げな視線を一身に浴びながら、ポリポリと頭を掻く。
「さっきね、ディルムッドさんに、私の角を片方、見事にへし折られちゃったんだ」
「あの時、ゲイ・ボウの呪いのダメージの衝撃で、ビーストとしての本体のシステムがちょっとバグっちゃって。私の精神の中にあるただの人間の部分が、切り離されちゃったのよ」
「……切り離された、だと?」
「そう!で、このままだと本体に飲み込まれて完全に消滅しちゃう!て思って、咄嗟にこっそりと分体として、本体から逃げ出させてもらったのよ」
真樹(分体)が、胸を張ってドヤ顔をする。
「でもね、逃げ出したはいいものの……」
急にションボリと肩を落とし、ウルウルとした上目遣いでギルガメッシュを見つめる。
「運悪く、逃げた先が『自分の本体』がちょうど作ろうとしていた、この海のド真ん中の光の柱の領域内でね。完全に巻き込まれちゃって、出られなくなっちゃったの」
「ほう……」
「で、このままだと、私もこの幻影のウルクの中で永遠に退屈して死んじゃう!って大ピンチだったから。咄嗟に、自分の残ってた魔力回路を全開にして、マスターとしてエルキドゥさんを召喚して、助けてもらったっていうわけ!」
「……ほう。それで?」
彼の背後に、再び黄金の波紋が数個、不気味な光を放ちながら展開し始める。
「そんな些末で、穴だらけの自作自演(デタラメ)の作り話で、この我を騙し、油断させようという魂胆か?我が友の姿を借りてまで、我を謀ろうとするその不敬、万死に値するぞ」
隣で控えている時臣も、いつでも魔術を行使できるよう、杖を強く握り直している。
「違う違う!!全然違うの!!騙そうとか、そんな高度なこと考えてないから!!」
彼女はエルキドゥの背中から飛び出すと、そのまま砂埃の舞う荒野の地面に、勢いよくスライディング土下座を決めたのだ。
「実は…………私も、自分の本体が作ったこのビーストの光の柱のシステムに、完全に囚われちゃってて、自分じゃどうにもできないの!!」
「このままだと、ずーっとこの何もない荒野で、永遠に退屈な平和な世界を見せられ続けて、干からびて死んじゃうの!!だから、王様!ここから私を助けてください!この柱をぶっ壊して、私を外に出してください!お願いします!!」
「……………………」
「あはは。こんな感じでさ」
「彼女、すごく人間くさくて、本当に必死だったからね。こんなところで消えちゃうのは可哀想で放っておけなくて……つい、彼女の召喚に応じちゃったよ」
ギルガメッシュは自分の予想を遥かに斜め上に超えていく光景を前に、しばらく沈黙し……。
やがて。
「ククク……クククククク……!!」
「アーハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」
「傑作だ!!本当に傑作だぞ、マキ!!」
「自らの本体が作った檻に、自らの分体がバグとして閉じ込められ、抜け出せなくなる!あまつさえ、我を殺すために用意した舞台で、我が友を盾にして、この我に命乞いをするとはな!!」
「誠、愉快な女よ!最初から最後まで、我の予測の斜め上を行きおって!貴様のような極上の娯楽を、あの言峰なんぞにくれてやるのが、本当にもったいないわ!!」
「え?ちょっと待って」
「王様も、もしかして私のこと狙ってたの??ダメよ!いくら顔が良くてお金持ちでも、私の正ヒロインの枠はもう完全に埋まってるの!私の濡れ場は、綺礼さんとしか絶対に演じないって決めてるんだからね!!」
謎のヒロインとしてのプライドをのぞかせ、腕でバツ印を作る。
「ここに至って、まだ演劇バカを貫くか……。ククク、本当にお前は、どこまでいっても…」
「………王よ。確かに、今の彼女からは、先ほどまで発せられていたような、あの圧倒的な威圧感は一切感じられません。ただの、魔力を持った人間の少女のようです……」
「ですが……魔術師としての力も、あまりないようですね。これほどの英霊を召喚し、使役するには、あまりにも貧弱すぎる魔力回路です」
「そりゃあね〜」
「さっきも言ったけど、本体から見れば、今の私はただの『予備電源』以下の、スッカラカンのスペックなんだから!魔術回路なんて、本体から切り離される時に、初期状態の3本しか引っ張ってこれなかったわ!ブイ!」
「初期状態の3本……だと?」
一流の魔術師であれば、数十の魔術回路を持つのが普通だ。たった3本の魔術回路で、英霊の中でも最高クラスであるエルキドゥを召喚するなど、絶対に不可能なはずなのだ。
「3本で僕を喚び出して、しかもこの現世に受肉させるなんて、本当に大変だったよ」
「僕が自分で周りのマナを吸収して調整しなかったら、彼女、召喚の瞬間に魔力枯渇で干からびてたと思う。……でもね」
「彼女が僕を喚び出した時の、『死にたくない、生きたい』っていう悲鳴がね。すごく綺麗な音だったからね。僕は、そういう声が好きだから、応えちゃったんだ」
◇◇
「愉快愉快!さて、演劇バカの分体よ」
「で、どうやってお前自身の本体が作った、この退屈な檻(舞台)を打ち破るつもりだ?」
「我の記憶にあるあの時代のウルクは、もっと神々と人間の欲望が渦巻く、生きるか死ぬかの修羅場であったぞ。このような、何事も起こらないぬるま湯のような世界を、ただただ眺めて過ごすなど、我にとっては欠伸が出るだけだ」
「よくぞ聞いてくれました!王様!」
「この六本目の柱のテーマは、ズバリ『平和なウルク』!ここには、親友の死という悲劇も、神々との葛藤も、不老不死を求める絶望もない!ただの都合のいい、ぬるま湯の幸せな世界!」
自分の本体が書いたであろう台本の意図を、自分自身で得意げに解説していく。
「たぶん本体の狙いは、この平和な世界で王様が退屈に心を殺されて、平和ボケして自ら国を滅ぼす〜!みたいな、そういう自己矛盾を突いたシナリオだと思うの」
「……ほう?それが分かって、どうする気だ?」
「なら……答えは簡単!戦いましょう!!」
「戦う、だと?」
「そう!ぬるま湯で平和ボケするのを待ってるんだったら、こっちから熱湯をぶちまけてやればいいのよ!」
「だから!せっかくエルキドゥさんっていう最高のカードがいるんだから!ここで王様とエルキドゥさんで、手加減なしの『全開バトル』をやっちゃって!その余波で、この退屈なシナリオごと、力付くで物理的にここを壊しちゃいましょう!!」
「アッハッハッハ!」
「この娘、本当に最高に面白いよね。ギル。僕たちの力で、自分の本体の作った世界をぶっ壊してくれなんて、なかなか言えることじゃないよ」
「……フッ。まったく、情緒もへったくれもない奴よ」
「過去との対峙だの、内面的な葛藤の克服だの、そういった繊細なプロセスをすべてすっ飛ばして、ただの力技の暴力で解決しようとはな」
だが。
「だが!確かに面白い!その荒唐無稽な発想、この我の退屈しのぎには十分すぎるほどだ!!」
ギルガメッシュが、虚空に手を伸ばす。
「エルキドゥよ!世界の理を丸ごと壊すほどの戯れだ、この特異点の中ならば遠慮はいらんな!仕方あるまい!久々の再会だ、一度きりだぞ!!我が天の理、貴様に見せてやろう!!」
ギルガメッシュの手に、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の最奥に眠る、至高の神造兵装が握られる。
三つの円柱状の刀身が、互いに逆回転しながら空間そのものを断層ごと削り取る、乖離剣『エア』
「ふふふ……僕も、星の息吹を全力で感じさせてあげるよ!!ギル!!」
彼の身体から、星の力を束ねた無数の『天の鎖』が、光の軌跡を描きながら、全方位に向かって展開していく。
神を縛り、星を縫い止める絶対の鎖が、エアの風圧と真っ向から衝突し、空間に激しい火花を散らす。
「お、王よ!?」
「ここで二人の本気の宝具を、それも最大出力で衝突させれば、この特異点の柱だけでなく、我々ごと跡形もなく消し飛びます!!いくらなんでも無茶が過ぎます!!」
「真樹君!私たちは早くヴィマーナの陰で避難を……!!」
「ひいいぃぃっ!エルキドゥさん!あとはよろしくぅ!!」
二人の人間が退避したのを、視界の隅で確認した直後。
「行くぞ、我が友よ!!」
「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!!」
それに応えるように、エルキドゥが、無数の光の鎖を一つの巨大な槍へと収束させ、それを大地から天に向かって撃ち放つ。
星の息吹そのものを魔力に変換した、絶対的な一撃。
「人よ、神を繋ぎ止めよう(エヌマ・エリシュ)!!!」
――ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!!!!
天を裂く、赤い断層の風。
星を縫い止める、巨大な光の槍。
二つの神域の宝具が、ウルクの荒野のド真ん中で、一切の小細工なしに、真正面から真っ向から激突した。
その瞬間、発生したエネルギーの奔流は、言葉通り「世界を壊す」レベルのものだった。
真樹の本体が、対象の内面を抉るために精巧に作り上げた「平和なウルクの幻影」も。
そして、その特異点という巨大な檻のシステムを支えていた、海から天に向かって立ち上る強固な「六本目の光の柱」も。
文字通り一瞬で、粉微塵に崩壊したのだ。
◇
「どーなってるのよ!!」
その頃。
特異点の中枢である、巨大な大劇場。
彼女の目の前に浮かぶ、特異点の状況を映し出すスクリーンの映像が、激しいノイズと共に次々とブラックアウトしていく。
「海上に設置した柱が、私の書いたシナリオの進行とか、葛藤とか、そういう美しいプロセスを全部すっ飛ばして!ただの純粋な力技で、物理的に消し飛んだわよ!!?」
「それに、なんでエルキドゥさんが、あの特異点の中にいるのよ!!」
彼女が、消えゆくスクリーンの最後の映像に映った、緑色の髪の英霊の姿を見て、目をひん剥く。
「私が用意した完璧な脚本の登場人物の中に、あんなシステムをぶっ壊すようなチートキャラ、絶対に入ってないんだけど!?私が召喚したわけじゃないわよ!?誰がどうやって、あんな規格外の英霊を、私の結界の中に呼び出したの!?」
真樹の本体は、その強大なビーストとしての演算能力をもってしても、今、自分の舞台で何が起きているのか、全く理解できていなかった。
「あーもう!!切嗣さんから始まって、どいつもこいつも、私の書いた台本通りに素直に動いてくれないんだから!!」
◇
一方、太平洋上。
「いやー!マジで死ぬかと思ったわ!!」
轟音と光の奔流が収まった後。
冬木の夜空を飛ぶヴィマーナの甲板で、真樹(分体)が、腰を抜かしたままへたり込み、ゼェゼェと荒い息を吐いていた。
「あはは。僕の上にいれば、絶対の安全は保障するって言っただろう?マスター」
崩壊する空間から見事に脱出し、元の太平洋の上空へと帰還した彼ら。
眼下にあった巨大な光の柱は、跡形もなく消え去っている。
「愉快よな!実に愉快だ!!」
ギルガメッシュが、ヴィマーナの船首で、海風を全身に受けながら高らかに笑う。
その顔は、久々に本気を出した満足感と、友との再会による喜びに満ちていた。
「さあ、これで目障りな柱も片付いた。残る柱は、あと2つか」
ギルガメッシュが、冬木市街の方角、深山町で白く光り輝く五本目の柱(桜の領域)とアインツベルン城の柱(アイリとジル)を一瞥する。
「他の雑兵どもの戦況など、この我の知ったことではない。あの愚かな本体を笑い飛ばし、我の退屈を紛らわせた礼(ご褒美)を叩き込むため、一足先に中央(大劇場)へと向かうぞ!」
「はっ!御意のままに」
「……しかし、なるほど。どうやら、あちらの中央にいる『本体』は、こちらの『分体』が独立して勝手に動いていることを、全く認識できていないようですね」
「これだけの規模の魔力行使(エルキドゥの召喚や宝具の激突)が行われたにも関わらず、本体からの干渉や妨害が一切ありませんでした。おそらく、本体と分体の間の魔力的なパスが、完全に切断されている状態なのでしょう」
「んー。まあ、そうなるわよね」
「本体は、大聖杯の力を使って、完璧な『人類悪(ビースト)』っていう別の生き物に転職(クラスチェンジ)しちゃったからね〜。ただの人間の私とは、もうシステムの互換性がないのよ。アップデートされすぎて、古いバージョンの私のデータ(存在)を、向こうは認識できないんだと思う」
「さてと。それじゃあ、いっちょ自分の本体に、最高のアドリブ(クレーム)をかましに行きましょうか!!」
「私の台本(人生)を、勝手に演出家で終わらせようとするなんて、絶対に許さないんだから!!」
高笑いする英雄王と、親友との久々の再会を楽しむ最強の兵器。
そして、己の本体を止めるために奔走する、ただの人間の真樹(分体)と、彼女を保護し、家族の未来を守るために戦う時臣。
この特異点において、最も予測不能なパーティーが人類悪が待ち構える、最後の決戦の地(大劇場)へと、黄金の軌跡を描きながら、全速力で舵を切った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
結果として
エヌマ・エリシュで脚本ごと粉砕
という、だいぶ身も蓋もない展開になりました。
もし
・このシーン好き
・ギルとエルキドゥの再会よかった
・真樹の土下座が面白かった
などありましたら、ぜひ感想で教えていただけると嬉しいです。
【超重要・展開が変わります】真樹は聖杯にかける願いを…。
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言わない