冬木アクターズ・ラプソディ ~観光に来た演劇バカの女子大生、うっかり龍之介を轢いてしまったので、キャスターの「ジャンヌ役」として聖杯戦争を完遂します~ 作:斉宮 柴野
場所
巨大オペラハウス
出演者
・切嗣
・セイバー
・ケイネス
・イスカンダル
・ウェイバー
演出家
人類悪
なお
演出家は
ガンドで止まります。
「ふふふっ!無駄よ、切嗣さん!舞弥さん!」
「サーヴァントの圧倒的な身体能力に、ただの人間が敵うわけないじゃない!!銃火器でどれだけ牽制しても、結局はジリ貧よ!」
真樹は、手すりから身を乗り出して、楽しそうに足をバタバタとさせている。
「ほらほら、右からも左からも、私の可愛いエキストラたちが迫ってるわよ!頑張って避けないと、すぐに串刺しになっちゃうんだから!」
「チッ、相変わらずよく喋る演出家だ」
「舞弥!右舷の三体を頼む!僕は左を抑える!」
「了解。切嗣の死角は、私が完全にカバーします」
「あーあ、そんなに必死に抵抗しなくてもいいのに」
「大人しく、私の劇団の強制雇用のエキストラになりなさい!そうすれば、痛みも苦しみも全部忘れて、永遠にハッピーエンドの背景として平和に暮らせるのよ?そっちの方が、絶対に幸せだと思わない!?」
「……お前の言う幸せなど、ただの思考停止だ。人間を舐めるな」
「舐めてなんていないわ!私は、人類を心から愛しているからこそ、最高の舞台を用意してあげているの!」
「でも、役者が台本通りに動いてくれないと、お芝居が成り立たないでしょ?だから、ちょっとだけ強引に『演技指導』をしているだけよ!さあ、諦めて舞台の上に倒れなさい!」
アルトリアも、最前線で聖剣を振るっているが、敵の数が多すぎて、なかなか真樹のいるバルコニーへと近づけないでいる。
「キリツグ!マイヤ!敵の湧き出るスピードが異常です!このままでは、本当に押し切られてしまいますよ!」
「ええ、その通りよ!セイバーさん!」
真樹が、嬉しそうにアルトリアの言葉を肯定する。
「ここは私の大劇場!舞台袖からは、無限に黒い泥が溢れ出してくるの!倒しても倒しても、絶対に減らないわ!どんなに強い英霊でも、魔力と体力が尽きれば終わり!これが、私の考えた絶対に負けない最強の布陣よ!!」
真樹の言う通り、状況は完全に彼女のペースで進んでいるように見える。
だが、切嗣の瞳には、焦りの色は微塵も浮かんでいない。
「………どうかな?」
「え?今、なんて言ったの?」
「強がりを言っても無駄よ?もう、完全に逃げ場なんてないんだから!」
「強がりかどうか、今から証明してやる」
切嗣が、懐から、ある『特殊な弾丸』を取り出し、コンテンダーに静かに装填する。
「お前のその無限に湧き出るという最強の布陣。その根本的な『バグ』を、今から突いてやる」
「バグ?何を言ってるのよ。私のシステムは完璧よ!」
「ただの銃弾で、魔力の塊である影を完全に殺しきることなんて、絶対にできないわ!撃ってみればいいじゃない!」
「ああ、遠慮なく撃たせてもらう」
切嗣が、コンテンダーの引き金を、迷いなく引く。
放たれた銃弾が、真っ直ぐに飛翔し、斧を振り下ろそうとしていた黒い影の肩口を、いとも容易くぶち抜く。
「ほらね!肩を撃ち抜いたくらいじゃ、シャドウサーヴァントは止まらな……」
――ギギギ、ギガァァァァァッ!!!!
「え……?」
シャドウサーヴァントは、ただの魔力の塊のはずだ。痛みを感じることも、苦しむこともない。
だが、その黒い影は、まるで人間が激痛にのたうち回るように、舞台の上で激しく身をよじらせている。
そして、その全身から、異常な魔力のスパークが、バチバチと火花を立てて撒き散らされ始める。
「な、何が起きてるの……!?」
「私の可愛いエキストラが……魔術回路が、切断されて、暴走してる……!?」
暴走した魔力が、影の輪郭を内部からズタズタに引き裂いていく。
黒い泥が沸騰し、コントロールを失った魔力が周囲に危険な電撃を放ちながら、シャドウサーヴァントは無惨に自壊していく。
「嘘でしょ……ただの物理攻撃じゃ、こんなことにはならないはず……!」
「魔力で編み上げた疑似的な回路を、直接物理的に破壊して、しかもそれをショートさせて自壊に追い込むなんて……!そんな非常識なことができる弾丸なんて、この世に一つしかないじゃない!!」
「まさか……それ、『起源弾』!?」
「……ご名答だ」
「シャドウサーヴァントは魔力で動いてるんだから、回路を破壊されたらひとたまりもないじゃない!!」
「だから、バグだと言っただろう」
「お前は、舞台の上の駒を、ただの自律兵器として放り込んでいるわけじゃない。この無数のシャドウサーヴァントたちに、ビーストであるお前自身が、特異点の魔力を直接パスで繋いで、リアルタイムで操っている。……違うか?」
「っ……!衛宮……切嗣!!」
起源弾は、撃たれた対象の回路を破壊するだけではない。
対象が他の魔術師と魔力供給のパスで繋がっていた場合、パスを逆流して、供給元(マスター)の魔術回路にまで直接的なダメージを与えるのだ。
「このままパスを繋いだままでいれば、お前の本体の霊核(魔術回路)まで、この起源弾のショートが逆流していくぞ」
「どうする?自分の身を犠牲にしてでも、この駒を動かし続けるか?」
「ふざけないでよ!!」
あと一秒、いや、コンマ数秒でもパスの切断が遅れていれば、起源弾の破壊効果が真樹の本体に直撃したところだった。
「はぁ、はぁ……っ!あっぶない……!!」
「もう少しで、私の完璧なビーストの霊核が、修復不可能なダメージを受けるところだったじゃない!!本当に容赦ないわね、切嗣さん!!」
「どうやら貴様は違うらしいな」
「な、なにを…」
切嗣が、コンテンダーに新しい起源弾を装填しながら、淡々と言う。
「聖上真樹は起源弾を受けても自分の回路を自分でつなぎなおした。ならば本来ならば効かないはず…。なら言えることはただ一つ。貴様は聖上真樹ではもはやないということだ」
「くっ……!」
「永遠に安全圏から、他人の脚本を書き続けるか……」
「ずいぶんと退屈で『つまらない役』だな、演出家。そう思わないか?」
「つまらない役ですって!?」
「私は、みんなのハッピーエンドを見届けるために、この特等席にいるのよ!決して、自分が傷つくのが怖いから隠れてるわけじゃないわ!!」
「なら、やはりお前はもう役者じゃないよ」
「安全な場所から駒を動かすだけの臆病者に、僕たちの舞台の結末を決める資格はない」
「……セイバー」
「はい!キリツグ!」
「僕たちのことはいい。アレ(シャドウサーヴァント)の相手は、僕と、舞弥の援護射撃で十分に捌ける。奴も、おいそれとパスを繋いだまま大群を突っ込ませることはできないはずだ」
起源弾というカウンターの存在が明らかになった以上、真樹は迂闊にシャドウサーヴァントを操ることができなくなる。
「お前は先に行け」
「あのバルコニーの特等席でふんぞり返っている、あの口の減らない演出家を、お前の剣で直接黙らせろ。舞台の主役の座を、奴の手から奪い取ってやるんだ」
「承知!!」
「安全圏からの支配など、騎士の戦いにはふさわしくありません。私が、あの演出家を直接舞台の上に引きずり下ろしてみせましょう!」
一直線に真樹のいるバルコニーへと向かって、力強く地を蹴った。
「行かせないわよ!!」
真樹が、バルコニーから身を乗り出し、必死の形相で手をかざす。
「私の特等席に、役者が勝手に上がってくるなんて、絶対にルール違反なんだから!!」
真樹が魔力を解放すると、アルトリアの突進の軌道上に、舞台の奈落から新たな三体のシャドウサーヴァントが、猛烈なスピードで湧き上がってきた。
それぞれが、完璧な連携(三人一組の陣形)を組み、アルトリアの前に鉄壁の壁として立ち塞がる。
「邪魔です!!そこをどきなさい!!」
アルトリアが、聖剣を大きく振りかぶり、前衛の剣の影に強烈な一撃を見舞う。
ガキィィィンッ!!
だが、その隙を突いて、中衛の槍の影がアルトリアの死角から鋭い刺突を放ち、さらに後衛の弓の影が、正確な射撃でアルトリアの足を止めにかかる。
「くっ……!この連携、ただの操り人形とは思えない精密さです!」
三位一体の波状攻撃が、騎士王の足を完全に縫い止めてしまう。
「ふふっ!残念だったわね、セイバーさん!」
「いくら切嗣さんの起源弾が厄介でも!その弾丸の数には、絶対に限りがあるでしょう!?」
「起源弾は、貴方の骨の粉から作られた、貴重な限定品の弾丸!何十発も何百発も撃てるものじゃないわ!だから、数が尽きるまでエキストラをぶつけ続ければ、私の勝ちよ!」
「……よく観察しているな」
「エキストラは、この特異点に魔力がある限り、無限に湧き続けるわ!」
◇◇
「貴方たちの攻撃は、私のところまでは絶対に届かない!!」
無限に湧き出すシャドウサーヴァントの壁は、確かに切嗣たちの行く手を完全に阻んでいるように見えた。
だが、その絶対の自信は。
突如として、劇場の暗い舞台袖から、一直線に飛来した「真紅の閃光」によって、物理的に打ち砕かれた。
「なら、俺が助太刀をしよう!」
凛とした、誇り高き騎士の澄んだ声が響き渡る。
「破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)!!!」
ズドォォォォンッ!!
アルトリアの足を完全に縫い止めていた、剣、槍、弓を持った三体の強力なシャドウサーヴァント。
その黒い影たちを、横凪に振るわれた一本の真紅の長槍が、凄まじい風圧と共に薙ぎ払った。
魔力そのものを断ち切り、無効化する能力を持つゲイ・ジャルグの一撃。
触れた瞬間、三体のシャドウサーヴァントの魔力構成は完全に打ち消され、断末魔を上げる暇もなく、一瞬にしてただの霧となって霧散した。
「沸き立て、我が血潮(Fervor,meiSanguis)!!」
舞台の床を、まるで意志を持った生き物のように這い進んできた巨大な水銀の塊。
それが、瞬時に無数の鋭い刃や鞭へと形状を変化させ、周囲から切嗣と舞弥に迫っていた残りのシャドウサーヴァントたちを、次々と両断していく。
「その槍……!ディルムッド!!」
「衛宮切嗣」
水銀の塊――『月髄霊液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』を自身の周囲に悠然と従えながら。
堂々たる足取りで、赤い絨毯の舞台に姿を現したのは、時計塔の君主(ロード)、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ。
「這いつくばって、泥水(影)の相手をさせられている姿が、実に貴様にはよく似合っている」
「……が。こうしてかつての敵同士が、同じ舞台で背中を預け合うことになるとはな。なかなかどうして、面白い状況ではないか」
「チッ……。お前のその減らず口を聞いて、これほど安堵したことはないよ」
「待たせた、セイバー」
「ケイネス・エルメロイ……!ディルムッド・オディナ!!」
「おや……?どうしたのかね、人類悪(演出家)とやら?」
「ずいぶんと顔色が悪いようだが……それに、自慢のその禍々しい角はどうした?なにか一本、右側にあるべき大事なものが、ポッキリと『欠けた(折れた)』のではないかな?」
「っ!!」
「何を言ってるの!!この角を折ったのは、他でもないあなた達でしょうが!!私の幻影の世界の中で、バカ騒ぎに紛れて私に槍を投げつけたのは誰よ!!ボケたの!?」
「フン。我がエルメロイの名誉を安っぽい幻影で汚そうとした罪は万死に値する」
「誅伐の時間だ。他人の人生を弄ぶ、これ以上のくだらん演劇(面倒)は、ごめん被るぞ」
◇◇
「っ……!舐めないで!!」
「まだよ!まだこの舞台の主導権も、特異点の莫大な魔力も、全部私にある!!役者がいくら集まったところで、演出家の私には逆らえないってことを教えてあげるわ!!エキストラがダメなら、私が直接……!」
真樹が、両手を高く天に掲げる。
それは、ビーストの権能を直接叩きつける、防ぐことの不可能な強大な魔力砲の術式の展開だった。
「来るぞ!総員、防御態勢を!!」
切嗣が叫び、舞弥を庇うように動く。
アルトリアも聖剣を構え、ケイネスも月髄霊液のバリアを最大出力で展開しようとする。
圧倒的なエネルギーが極限まで圧縮され、今まさに、その破滅の光が舞台に向けて放たれようとした――。
その時である。
「…………え?」
真樹の、術式を展開しようとしていた両手が、ピタリと止まった。
彼女の額の、ど真ん中。
どこから飛んできたのか分からない、本当に小さな、黒い『魔力弾』が。
ポスッ、と、なんとも間抜けな音を立てて、当たったのだ。
「……っ!?」
「痛えーーーーー!!!!!???」
「いった!いったーい!!なにこれ!?地味にめちゃくちゃ痛いんだけど!!」
しゃがみ込んで額をさする。
彼女の集中力が完全に途切れたことで、頭上で圧縮されていた強大な魔力砲の術式が虚空に霧散していく。
「な、なに?これ……。ただの、魔力弾……?」
「私の周囲には、どんな宝具でも防ぐ『絶対防壁』が張ってあるはずなのに……なんで、こんなものがすり抜けて、私の額に……!?」
しかし。
今飛んできた魔力弾は、魔術師の基礎中の基礎である『呪弾(ガンド)』
しかも、放った術者の魔力があまりにも弱すぎたため、殺意や威力といったものが微弱すぎて。
防壁のシステムが、それを「攻撃」としてではなく、「ただの風に乗って飛んできた石ころのようなもの(無害なノイズ)」として脅威判定から漏らし、そのまま素通りさせてしまったのだ。
「ハァ、ハァ……っ!!」
「当たった!!やったぞ!!僕の呪弾(ガンド)が、あの怪物のど真ん中に当たった!!!」
「おお、坊主!!」
「まさか、敵の大将のど真ん中に、お前自身の魔術で手傷を負わせるとはな!見事な一撃だ!!お前も立派な戦士よ!!」
「さあ、坊主!!あの隙だらけで涙目になっている顔面めがけて、もう一回、その魔力弾をぶち込んでやれ!!!!」
「無理言うな!!今ので僕のなけなしの魔力は、もう本当にすっからかんだよ!!」
「そもそも、あんな遠距離からガンドが当たるなんて、完全に奇跡みたいなもんだぞ!!」
「カッハッハッハ!ならば、次は余の剣の出番だな!!」
ここに。
衛宮切嗣陣営。
ケイネス陣営。
そして、ウェイバー・イスカンダル陣営。
ビーストの用意した試練を自らの手で打ち破り、かつての陣営の垣根を越えて、この最終決戦の舞台へと、次々と集結を果たしつつあった。
反逆の役者たちは、ついに演出家を追い詰めようとしている。
特に
ウェイバーのガンドが当たるシーンは
個人的に気に入っている部分です。
もし
・戦闘が好き
・Zeroキャラの掛け合いが好き
・この展開が熱かった
などありましたら
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